274 / 305
第8章 のろのろ帰還と運命の再会?
第016話 香り高い者達!?
しおりを挟むアイリスの治療を受けた少女は自身がもう生きてこの迷宮から帰る事は無いだろうと理解していた。下位貴族、男爵家の次女でとある伯爵家の爺の妾にされそうな所をエミリアーナ姫に救い上げられたのだ。
この様な結末になってしまったのは残念だが、それまでの色々な冒険は辛くもあったが何よりも自由があって楽しかった。
自分を救ってくれた姫様と共に逝くのであれば、諦めも付く。未練は多くあるが体の不調が自身の状況を受け入れさせた。
そんな中、仲間達が私を担架に乗せ表に連れ出したのだ。そこで聞いたのは回復魔法の使い手が救出に来たと言う事だ。
だが今の私の状態はかなり悪い。余程の高位の使い手でも難しいだろう。私は無理だと判断されるだろうが何人かは麻痺は兎も角、怪我は治して貰えるかも知れない。
麻痺で上手く話せないが、無駄に魔力を使わせるよりもエミリアーナ姫の治療を優先してくれと言いたかった。
そう考えていたら私の前に来たのは10歳かそこらの幼く美しい少女だった。
桃色の大きな瞳と腰まである艶やかな長い髪、光を反射するかの様な白い肌。幼いながらも整った顔立ちに体全体から神秘的な雰囲気を醸し出していて、近寄り難くすら感じる。
その雰囲気に圧され、何も言えずにいると治療が始まってしまった。そして先ず麻痺毒による体の痺れが取り祓われていき驚愕した。それから傷付いたお腹が暖かく感じたと思ったらどんどん痛みが小さくなっていき傷と共に消えてしまった。
その間僅か数分、もう腹の治療が終わったのかと余りの早さに、いやそもそも治療出来てしまった事に驚いていた。しかし更に突然骨折していた腕が何かで固定されたかの様に動かなくなり、パキパキと音をたてながら腕の痛みも消えていくのを感じた。……ちょっと怖かった。
麻痺毒や骨折は回復魔法でも時間が掛かるモノ、重症なお腹の傷なんて普通は治療すら出来ないのだ。私も唖然としていたが周囲の仲間も同じであった。
そのまま唖然として、考えも纏まらない内に何故か白いお湯にくるまれてしまった。ちょっと慌てたがデイジー副隊長が大丈夫と言うのでされるがままにしている。
茶色くなったりまた白くなったりしているのは汚れを取っているのかな? ちょっと恥ずかしいんだけど? けど抗えないのよね。だって長い事お風呂になんて入れなかったのもあってお湯がとっても気持ち良いんだもん!
最後に顔と髪まで洗ってもらってスッキリとした所で皆が私の回復を喜び抱き付いて来た。
気持ちは分かる。
私も皆んなのその気持ちが嬉しい。
――けど臭い! 臭過ぎる!! 助けてデイジー副隊長ぉーーっ!!!
アイリスによって治療を受けた少女メルティナはデイジーに呼ばれて急いで集団から抜け出して来た。
「あっ! 此処は匂わない??」
「それは良いが、先ず言う事があるだろう」
「ああっ! そうでしたっ!! 治療ありがとうございますお嬢様!! 私もう駄目かと、分かってはいたのですがっ、諦め切れずにっ、……ひっく、ごわがったんでず~~!」
そう言ってアイリスの前にしゃがみこんでわんわん泣くメルティナに、アイリスはちょっと引きながらも取り敢えず頭を撫でてあげていた。そしてそれを見て一緒に慰めようとしてくる仲間達をデイジーが制してメルティナに優しく語りかけた。
(お嬢様って、俺おじさんだし女装もしてないんだけどな。……あれ? してないよね??)
『一応、……してないのじゃ』
『(男物着てても女の子にしか見えないから)気にしても無駄なのー』
「プルルン(女装は分かんないけどリリちゃんは良い匂いだよー)」
アイリスはちょっと混乱しかけたけどリリィ達の言葉を信じて落ち着いた。
「ああ、良かったなメルティナ。私も嬉しいぞ。さあエミリアーナ姫様に完治の報告に行ってくれ」
「っはい! ……えっ!?」
「――頼んだぞ? 姫様もお喜びになられるだろう」
がっしりとメルティナの肩を掴んで笑顔で凄むデイジーに色々と察した。
「……デイジー副隊長も、行かれるのですよね?」
「私は必要無いだろう」
メルティナはデイジーも巻き込もうとしたがバッサリと断られた。
そうして匂いの下へ、もといエミリアーナ姫の下へ足取り鈍く戻って行くのだった。
一番の重傷者が瞬く間に癒されたと聞き第3王女エミリアーナは驚き、実際に元気になったメルティナを見て喜びに震えた。
回復は絶望的で、仮に助かるとしたら大人数で高位のクランに地上まで運ばれて長期の治療を受ける位しか無いだろうと考えていたのだ。そしてそんなクランが此処には存在しない事も知っていたからこそ、その喜びは計り知れない程大きかった。
「何と言う……僥倖、……魔物の、麻痺毒すらも……癒してしまうとは……、それが、件の……聖女とは……」
「はっ、姫様の徳が為せる業かと」
「重傷者から……、癒させなさい」
「――はっ」
メルティナと共に付いて来た騎士達がエミリアーナの言葉を聞き動き出す。本当はエミリアーナ姫自身を優先させて欲しい所だが、こう言う事で引かない事は分かっている。
今のエミリアーナ姫にはその問答すらも辛いだろうとすぐに行動に移して行く。
自由奔放なだけでなく、そうした高潔さを持ち合わせているからこそ自分達はエミリアーナ姫を尊敬し付いて来たのだ。
「ではっ、私も失礼します!」
「あっ……」
そう言うとメルティナも敬礼して走り去ってしまった。エミリアーナは聖女の話しを聞きたかったのだが仕方がないと諦めた。
――ただ先ほど涙を流しながら喜んでいるメルティナが、若干顔をひきつらせている様に見えたのだけが引っ掛かっていた。
その後1人1人重傷者から治療していくのだが、アイリスはまずバブルクリーンで身綺麗にしてから治療していく事にした。
(だって臭いんだもん)
麻痺毒以外はそれ程重症の者は居らず、魔物の邪素特効の聖素の魔力を持つアイリスにとっては簡単な作業であった。
しかし当然20以上の怪我人を癒し、更に魔力を使って綺麗にしていけば魔力が足りずリリィとネネェに魔力の供給を受ける事になる。
――ああ、また……。お馴染みの聖素たっぷり神聖な魔力を注ぎ込まれ、自身の魔力が精神と共に創り変えられていく感覚に侵されていく。
『バブルクリーン等使わなければ、此処まで早く魔力も枯渇せんで済んだのじゃがの』
『ネネェの風魔法もなのー』
分かってはいたけど匂いに耐えられなかったのだから仕方がない。もう一度同じ状況に陥ったとしてもアイリスは同じ事をしているだろう。
――だって臭いんだもん。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】元ゼネコンなおっさん大賢者の、スローなもふもふ秘密基地ライフ(神獣付き)~異世界の大賢者になったのになぜか土方ばかりしてるんだがぁ?
嘉神かろ
ファンタジー
【Hotランキング3位】
ゼネコンで働くアラフォーのおっさん、多田野雄三は、ある日気がつくと、異世界にいた。
見覚えのあるその世界は、雄三が大学時代にやり込んだVR型MMOアクションRPGの世界で、当時のキャラの能力をそのまま使えるらしい。
大賢者という最高位職にある彼のやりたいことは、ただ一つ。スローライフ!
神獣たちや気がついたらできていた弟子たちと共に、おっさんは異世界で好き勝手に暮らす。
「なんだか妙に忙しい気もするねぇ。まあ、楽しいからいいんだけど」
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
俺の好きな人は勇者の母で俺の姉さん! パーティ追放から始まる新しい生活
石のやっさん
ファンタジー
主人公のリヒトは勇者パーティを追放されるが別に気にも留めていなかった。
ハーレムパーティ状態だったので元から時期が来たら自分から出て行く予定だったし、三人の幼馴染は確かに可愛いが、リヒトにとって恋愛対象にどうしても見られなかったからだ。
だから、ただ見せつけられても困るだけだった。
何故ならリヒトの好きなタイプの女性は…大人の女性だったから。
この作品の主人公は転生者ですが、精神的に大人なだけでチートは知識も含んでありません。
勿論ヒロインもチートはありません。
他のライトノベルや漫画じゃ主人公にはなれない、背景に居るような主人公やヒロインが、楽しく暮すような話です。
1~2話は何時もの使いまわし。
亀更新になるかも知れません。
他の作品を書く段階で、考えてついたヒロインをメインに純愛で書いていこうと思います。
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
魚夢ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
パーティーを追放されるどころか殺されかけたので、俺はあらゆる物をスキルに変える能力でやり返す
名無し
ファンタジー
パーティー内で逆境に立たされていたセクトは、固有能力取得による逆転劇を信じていたが、信頼していた仲間に裏切られた上に崖から突き落とされてしまう。近隣で活動していたパーティーのおかげで奇跡的に一命をとりとめたセクトは、かつての仲間たちへの復讐とともに、助けてくれた者たちへの恩返しを誓うのだった。
転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜
ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。
アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった
騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。
今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。
しかし、この賭けは罠であった。
アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。
賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。
アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。
小説家になろうにも投稿しています。
なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
30年待たされた異世界転移
明之 想
ファンタジー
気づけば異世界にいた10歳のぼく。
「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」
こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。
右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。
でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。
あの日見た夢の続きを信じて。
ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!
くじけそうになっても努力を続け。
そうして、30年が経過。
ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。
しかも、20歳も若返った姿で。
異世界と日本の2つの世界で、
20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる