エメラルド TSUTSUJI

壱(いち)

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はぁ。ため息まではいかないけど息を吐いてなんとかリバース回避できた俺は風紀室のある階で立ち止まる。

「どうした」

いまだにシャツのボタンをとめず、ネクタイも首にかけているだけの会長が振り返ったので鞄を置きっぱなしだと話すと進む方向を変えてくれた。
まだ一緒に歩くのか。
気持ち悪さで気付かなかったけど、いつの間にやら手を繋いで歩いている。そのお陰でここまで来れたから断るのもな。正直、フラフラだ。先導してくれるのは有り難い。

ここからだと奥の方にある風紀室。まだ誰かいるだろうか。

「鍵は?」
「開けます」

やっと風紀室の前に来て取り付けられたセキュリティーを解除していく。見られても大丈夫な鍵は血管認証のため登録者以外の者が解除しようとしてもドアは開かない。
少し震える手に自嘲するも体調の悪さ故。

「幸村?」

ドアを開ければ、まだ残っていた委員長がいた。今日に限ってどうしたんだか。出来れば会いたくなかった。

「顔色が悪い。大丈夫か?」
「楢木。悪いが入るぞ」
「神楽坂?なんつー恰好してんだお前。おい、幸村になにかしたんじゃ」
「お前の話は後だ。幸村、取りに行けるか?」
「えぇ」

なんとかね。机の上にパソコンが置かれたスペースへ近付いて自分の鞄を手にする。あぁ、結構神経がすり減ってるかも。

「画像付きの方が話は早い」
「はぁ?って、なんだこれ。お前あの千春とやったのか!」
「薬を盛られてな。コレが証拠だ」
「へぇ、結構セコイなあいつ」

画像というか動画か?携帯から声が僅かだが聞こえてくる。いつの間に撮ったんだそんなの。
委員長はかなり鮮明な証拠画像を風紀に送れと言ったあと、なんだ?固まったように動かなくなった。

「うっわ、キツイなこれ。つーか、なんで幸村の声が聞こえるんだよ!」
「幸村のエロ顔でマス掻いてんだ」
「お前馬鹿だろ!なんてことしてんだっ。俺に見せろ幸村!」
「なんですかエロ顔って。そんなのした覚えありません。書類は会長に渡しましたから、俺はこれで失礼します」

思い出させるな気色悪いものを。寒気がしてくる。
漸く一人で歩けそうだ。委員長と会長に軽く会釈して退室しようと歩き出せば両側から腕を掴まれた。勘弁してほしい。
先輩を無碍に扱えば後々面倒に巻き込まれそうだし、もうため息混じりに委員長と会長を見る。

「なにか?」
「送る」
「いえ、会長にはここまで連れてきて貰って有り難いんですが、一人で寮に帰ります」
「俺ももう帰るし待ってろよ、幸村」
「委員長はまだ今日の仕事終わってないじゃないですか」

なんだこれ。会長や委員長から一緒に帰ろうって言われても人の注目を集めるだけだ。あんまり関わりたくない。

「俺に関わってないで転校生をどーにかしたらどうです。好みのタイプでつき纏ってるんじゃないんですか」
「なんだ、妬いてんのか」
「そうじゃありません。会長や委員長たちって転校生にイレあげてるって専らの噂ですから」
「そんなもん信じたのか」
「とりあえず手を離してください、二人とも」

痣になったらどうしてくれる。
遠目から見ているこっちとしては二人とも転校生をからかったり、仲睦まじい感じだったんだけど違うのか?
二人から腕を離されて安堵する。

「俺があんな奴口説くと思ってんのか」

会長は額に手をあてて目を閉じたあと、前髪を掻き上げてため息。委員長は赤茶けた髪の頭を振って俯き加減だ。

「まさか本人に伝わってねえとか盲点だ」
「結構あからさまにアプローチしてるのになんで分かんねえかな。あいつ天然?」

そんな訳ないかって話してる会長と委員長を見て、これはチャンスじゃないかと思う。いきなり二人とも親密に話しだしたし俺が帰っても支障はないだろう。試しに一歩後退してみる。
ここのドアはオートロックだから部屋から出るのにそう時間はかからない。歩く音もさせず、少しずつドアに近付く。

「まぁ、天然だろうが小悪魔だろうが構やしないが、おい、幸村っ」
「あ?お前いつの間に」
「俺は先に帰ります」

お先に失礼します。
うっすらと笑みを二人に向けてドアを開けたところで、させるか!って二人の声に一瞬びっくりした俺は廊下に出たあと走り出す。捕まらず脱出出来たことにホッとしながら腕時計を見る。委員会と生徒会室に行ったせいで結構な時間が経っていた。最悪。ああ、さっきの気持ち悪さが嘘のように腹が減ってきたな。

晩飯は盛り蕎麦にしとくか。









000-004
20101019.
20150716.
20160215.アルファ投稿




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