20kHz

べいかー

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20kHz 一

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 「もしもし、こっちは聴こえます。応答どうぞ。」
「やった、うまくいったぞ!」
亜美子の応答に、相手の声の主の方は、喜んでいる様子である。
 「あの…、状況が、全く飲み込めないんですが、あなたは一体、誰ですか?」
「あっ、申し遅れました、僕は『トシ』って言います。一応、ラジオネームということで。あなたの名前は、何ですか?」
亜美子は「トシ」と名乗る人物から、名前を訊かれ、咄嗟に、
「私…ですか?私は『アミ』って言います。私も、その、ラジオネームということで。」
と答えた。
 「なるほど。アミさんですね。はじめまして!」
「…はじめまして。」
亜美子は、なおも不信感が拭えない。
「すみません。質問があるんですが、どうして私のヘッドホンから、その、トシさんの声が聴こえるんですか?」
「そうですね。びっくりしますよね。
 その質問に答えるのも兼ねて、軽く自己紹介しておきます。
 さっきも言いましたが、僕は、『トシ』って言います。本名は…今は内緒です。それで、僕はとある大学の2年生で、大学では、フランス文学を専攻しています。」
一瞬、亜美子は、私と専攻が同じだ、と思ったが、すぐに気を取り直した。また、大学2年生ということは、私と同い年か、少なくとも同世代だ、亜美子はそうも思ったが、途中で口を挟むことなく、トシの話を聴いた。
 「それで、ここからが肝心な話なのですが、僕は、趣味でアマチュア無線をやっています。ちなみに、ご存知かもしれませんが、アマチュア無線は、それを運用するための国家資格と、電波法に基づき許可を受けた無線設備が必要なんですよ。
それで、少し自慢になるかもしれないのですが、僕の無線の腕はなかなかのものだと、自分では思っています。もちろん、資格は持っていますし、無線技術の方も、同じくアマチュア無線をやっている友達からも、
『お前、やっぱりすげえな!』
と、よく言われたりもします。アミさんは、無線に興味はお持ちですか?」
「いえ、無線はよく知らないです。あの、私の質問に、答えて頂けませんか?」
亜美子は冷静に、そう答えた。
 「おっと、そうでしたね。すみません、僕、すぐに話を脱線させてしまう癖があるんです。
 それでなんですが、僕、友達に自慢したいのと、純粋な無線に対する向上心とから、無線の、新規開拓をしようとしていたんです。それは、現在アマチュア無線で使われている
周波数とは、全く異なるタイプの周波数を、開拓する、という行為です。
 そして、その新規開拓をしている時に、たまたま、いい周波数を見つけました。それが、この、アミさんとの通話につながったわけです。どうです、これでヘッドホンから僕の声が聴こえてくる理由、お分かりになって頂けましたか?
 もちろん、このやり方は、少し複雑な所もあって、全部を説明していたら、専門知識がないと、理解できないかと思います。でも、一応、説明しておいた方がいいですかね。えっと、まず周波数の合わせ方ですが…」
「いえ、結構です。ありがとうございます。」
亜美子は、ついさっき、トシが話を脱線する癖がある、と言っていたのを思い出し、トシの話を遮ろうとした。そして、まだよく分からないこともあるが、とりあえず、トシは無線が得意で、その無線による通話がこれである、という所まで理解した。
 「おっとすみません。また、いつもの癖が出てしまいそうでした。
 ちなみに、アミさんは、今は何をされていますか?」
「私も、トシさんと同じ、大学2年生です。」
「なるほど。ちなみに、失礼ですが、アミさんの通う大学は、どこの大学ですか?ちなみに、僕は、○○大学に通っています。」
 ここまでトシの話を聞いた瞬間、亜美子は、はっとした。
「…どういうつもりか知りませんが、それは嘘ですね。なぜなら、私もその、○○大学の学生だからです。あなたさっき、『大学での専攻はフランス文学だ。』って、仰ってましたよね?私も、その○○大学で、フランス文学を専攻しています。それで、同じ専攻の同級生、大学2年生は、私を含めて6人ですが、今の2年生は、全員が女子学生です。だから、あなたみたいな大学2年生の男子は、今、うちの大学にはいません。
 何でそんな嘘をつくんですか?って、訊いても仕方ありませんね。あなたが、無線が得意だっていうことは、今日の一件でよく分かりました。でも、これからは私に、話しかけないでください。
 では、さようなら。」
亜美子は、「トシ」と名乗る人物は、もしかしたらストーカーかもしれない、と思い、ヘッドホンを外そうとした。
 「ちょっと待ってくださいよ!僕は本当に、○○大学の、フランス文学専攻の学生ですよ。ちゃんと、学生証も持ってますし…
 って言っても無線じゃ見えないですよね。とりあえず、僕は1984年入学の、○○大学の学生です。」
「…は?」
亜美子はそれを聞き、あきれて物も言えなくなりそうになったが、とりあえず一言、トシに言ってやることにした。
 「何わけの分かんないこと言ってるんですか?今は、2015年の12月16日、水曜日です。あなた、大学2年生なわけないじゃないですか。
 それとも、卒業生の方ですか?…どっちにしろ、私に関わるのは、もう止めてください。
 では、失礼します。」
そう言った亜美子を、トシはもう1度、引きとめた。
 「ちょっと待ってくださいね。なるほど。僕の実験は成功したわけか。」
「はい?」
「僕の話、もう少し聞いてください。
 ちなみに今は、僕のカレンダーでは、1985年12月16日、月曜日です。さっき言いそびれたことがあるんですが、実は僕は、未来へ通話できる周波数を、探していたんです。」
「…未来?」
 「はい。未来です。ちなみにそのやり方は…」
「あの、話逸らすなら、ヘッドホン外しますよ。」
「すみません、またいつもの癖が。
 実は、アマチュア無線をずっとやっていくうちに、僕、気づいたことがあるんです。
『もしかしたら、未来の人間と、話をすることができる周波数が、あるんじゃないか?』
ってね。
 それで僕は、実験に実験を重ねました。そして、ある方法を編み出しました。その方法、聞きたいですか?」
「いえ、結構です。」
「ですよね。それで、30年後、2015年の12月16日に照準を合わせて、無線を開始したんです。あと、その相手は、やっぱり同じ大学の、同じ専攻で、今の僕と同い年の人がいいかな、と思いまして…、まあ、正式には、僕のだいぶん下の後輩に当たる人、ということになりますが…。」
亜美子は、予想外の話の成り行きに驚いたが、冷静になるように努め、こう切り返した。
「その話、はっきり言って信じられないです。あなたが無線が得意なのは分かりましたが、まさか過去から未来へ、無線ができるなんて。
でも、どうしても信じて欲しいって言うなら…、そうですね。あなたが1985年の人だっていう、証拠を見せてください。私にもはっきり分かる、動かぬ証拠をです。
それがないなら、やっぱり私は失礼します。」
「分かりました。一応証拠は、残してありますよ。
うちの大学の文学部には、専門の図書館がありますよね?」
「はい。あります。」
 亜美子は、この人は学部の建物内を、よく把握しているなと思った。だとすると、これは卒業生のいたずらだろうか。
 「良かった。まだ建物は、変わっていないみたいですね。その図書館の、フランス文学の所に、サルトル全集があるはずです。その第1巻に、1985年の日付入りの朝刊と、僕のサインとが入った、写真を挟んでおきました。一応、現像に時間がかかったので、今日、12月16日の日付ではなく、1ヶ月前の11月16日の日付ですが…。
 確か、あの本棚は、滅多に人は触らないので、今でも写真はあるはずです。多少古くなってはいると思いますが、確認してみてください。
 あと、規約が変わっていなければ、あの図書館には卒業生も含めた部外者は入れないことになっていますので、僕が卒業生、という線は消えると思います。それでも、大学の教授がいたずらをした、という線は残りますが…。でも、そんな手の込んだいたずら、普通はしないと思います。
 とりあえず、明日でいいので、図書館に、確認しに行ってください。それでもしその写真がなければ、僕の負けです。僕との通話、止めてもらって結構です。でも、もし写真が残っていれば…、僕との通話、これからも続けて頂けませんか?未来の話、いろいろ聞かせてください。」
 「写真がなければ、通話をしなくていいんですね。約束ですよ。分かりました。」
亜美子はそう言い残し、その日の通話を終えた。
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