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恋敵 二
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2016年1月12日。この日、亜美子は大学の、フランス文学専攻の講義に出席していた。成人式の日の夜、無理矢理自分の心に決着をつけた亜美子であったが、その心の中からは、モヤモヤしたものが、浮かんでは消えていた。
その日は、亜美子の心とは対照的に、晴れわたった快晴の空で、空気もカラッと乾燥していた。この空は、私の今の状態とは全然違う―。亜美子は、そう思っても良さそうなものであったが、今の亜美子には、外の天気を気にする余裕すら、なかった。
「では次中田さん、ここのフランス語、訳してもらえますか?」
「…え、あ、はい、…すみません。どこでしたっけ?」
「聴いてなかったのですか?いつもの中田さんらしくありませんね。具合でも、悪いのですか?」
「いえ、そういうわけじゃ…。すみません、気をつけます。もう1度、言って頂けませんか?」
亜美子は、河北教授の怪訝な表情に、申し訳なく思いながら、確認の質問をした。
そして、講義は終了した。亜美子は、体調が悪いわけではなかったが、こんな状態で講義に出ても身に入らない、と思い、この日は残りの講義を欠席し、自宅に帰ることにした。
「私は、お父さんと話をすることができた。だから、私の願いは叶った。だから、私は、…満足していいんだ。」
大学のキャンパスを、家路へと向かって歩いている間、亜美子はそう、自分自身に言い聞かせていた。
しかし…、
一方で、トシのことを忘れられない、亜美子がいた。
「私は、トシさんに、恋をした。それが、お父さんなんて…。
お父さんには悪いかもしれない。でも、私、ヘッドホンの向こうの、トシさんのことが好きだ。それがお父さんだって分かった所で、私の気持ちは、もう止められない。
…でも、トシさんがお父さんなら、もう、トシさんに逢うことはできない。お父さんは、もうこの世にはいない。
それは、とっても悲しいことだ。自分が小さい時から、
『会いたい。会いたい。』
と思っていたお父さんに、もう会うことができないなんて…。
でも、ごめんなさい、お父さん。今はそれよりも…、
トシさんと逢えないことの方が、悲しい。」
亜美子の頭の中は、長時間使い続けたパソコンが熱くなるように、熱を帯びていた。もちろん、本当に熱くなっているわけではないが、体感温度は100℃を超え、今にも沸騰してしまいそうな勢いであった。
「亜美子、ちょっと、どうしたんだよ?」
そうこうして歩いていくうちに、亜美子はたまたま、浩一とぶつかった。亜美子はぶつかるまで、そこに浩一がいることにも、気づかなかった。
「あ、浩一、ごめん、ちょっとぼんやりしちゃって。何でもないから、大丈夫だよ。」
「何でもないわけねえだろ?俺、さっきからずっと、亜美子にあいさつしてたんだけど。
…亜美子、成人式の時も思ったんだけどさ、最近、何か、おかしいよ。悩んでることがあるんだったら、話してみなよ。
俺、この後、時間あるからさ。」
亜美子は、浩一の言葉に、助けられた思いがした。
『やっぱり、持つべきものは友達だな。』
亜美子はそう思い、また、自分の気持ちを整理するため、浩一に、トシと通話を始めたこと、また一方的にさよならを言われたこと、また父親のことを、一気に話した。
その日は、亜美子の心とは対照的に、晴れわたった快晴の空で、空気もカラッと乾燥していた。この空は、私の今の状態とは全然違う―。亜美子は、そう思っても良さそうなものであったが、今の亜美子には、外の天気を気にする余裕すら、なかった。
「では次中田さん、ここのフランス語、訳してもらえますか?」
「…え、あ、はい、…すみません。どこでしたっけ?」
「聴いてなかったのですか?いつもの中田さんらしくありませんね。具合でも、悪いのですか?」
「いえ、そういうわけじゃ…。すみません、気をつけます。もう1度、言って頂けませんか?」
亜美子は、河北教授の怪訝な表情に、申し訳なく思いながら、確認の質問をした。
そして、講義は終了した。亜美子は、体調が悪いわけではなかったが、こんな状態で講義に出ても身に入らない、と思い、この日は残りの講義を欠席し、自宅に帰ることにした。
「私は、お父さんと話をすることができた。だから、私の願いは叶った。だから、私は、…満足していいんだ。」
大学のキャンパスを、家路へと向かって歩いている間、亜美子はそう、自分自身に言い聞かせていた。
しかし…、
一方で、トシのことを忘れられない、亜美子がいた。
「私は、トシさんに、恋をした。それが、お父さんなんて…。
お父さんには悪いかもしれない。でも、私、ヘッドホンの向こうの、トシさんのことが好きだ。それがお父さんだって分かった所で、私の気持ちは、もう止められない。
…でも、トシさんがお父さんなら、もう、トシさんに逢うことはできない。お父さんは、もうこの世にはいない。
それは、とっても悲しいことだ。自分が小さい時から、
『会いたい。会いたい。』
と思っていたお父さんに、もう会うことができないなんて…。
でも、ごめんなさい、お父さん。今はそれよりも…、
トシさんと逢えないことの方が、悲しい。」
亜美子の頭の中は、長時間使い続けたパソコンが熱くなるように、熱を帯びていた。もちろん、本当に熱くなっているわけではないが、体感温度は100℃を超え、今にも沸騰してしまいそうな勢いであった。
「亜美子、ちょっと、どうしたんだよ?」
そうこうして歩いていくうちに、亜美子はたまたま、浩一とぶつかった。亜美子はぶつかるまで、そこに浩一がいることにも、気づかなかった。
「あ、浩一、ごめん、ちょっとぼんやりしちゃって。何でもないから、大丈夫だよ。」
「何でもないわけねえだろ?俺、さっきからずっと、亜美子にあいさつしてたんだけど。
…亜美子、成人式の時も思ったんだけどさ、最近、何か、おかしいよ。悩んでることがあるんだったら、話してみなよ。
俺、この後、時間あるからさ。」
亜美子は、浩一の言葉に、助けられた思いがした。
『やっぱり、持つべきものは友達だな。』
亜美子はそう思い、また、自分の気持ちを整理するため、浩一に、トシと通話を始めたこと、また一方的にさよならを言われたこと、また父親のことを、一気に話した。
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