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アレンディナの婚約解消宣言
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「きさま! さっきからなんだ! それが婚約者に対する態度か!」
ヴァカロ様が会場中に響く大きな声で私をどなりつけました。
「酔っ払いか」
兄がその様子を見てボソッとつぶやきました。
会場中の注目が集まりましたことですし、そろそろ頃合いですね。
「ヴァカロ・ド・エストゥード! そなたは属州エストゥード王の後継でありながらその治世に心を砕かず、婚約者のいる身でありながら他の女性をそばにはべらかし、帝都が決めた『婚約』いうことさえ何かわかってない模様。そのような輩が皇位継承権第四位の私の夫にふさわしいわけがない! よって婚約解消を宣言する!」
ほっ、噛まずに一気に言えましたわよ。
あらあら、ヴァカロ様ったらぽかんとしたお顔をなさって。
何を驚いてらっしゃるのかしら?
そもそも婚約解消の意志は、数か月前にヴァカロ様自身もエストゥードにてお示しあそばされたではありませんか。
「なにか、私の言うことに間違いがございますか?」
反論する言葉が見つからず、ヴァカロ様は無言で私をにらみつけております。
「それはエストゥードでの仕返しか?」
いまいましげにヴァカロ様がつぶやきます。
「まあ、低次元な発想ですこと。考えることの次元の低い方は他人の行動も自分と同レベルと解釈されるのですね、失礼ですわ」
「なんだと!」
「言っておきますが、あなたが私の配偶者にふさわしくない証拠を集めて皇帝陛下に提出し、すでに婚約解消の願いは聞き届けられております。先ほどの宣言はそれを公にしたまでのこと。あなた様のように、何の準備もせず、ただ相手を辱めたいという感情的な理由だけで、こんな衆目の集まるところで宣言するわけないでしょう」
「……っ!」
「帝都からの距離や貴族の情報網の質によって、情報の伝わる速さというのはそれぞれ違います。でも、私はいつまでもヴァカロ様の婚約者のままであるかのような誤解はこれ以上されたくありません。だから、帝都中の皆様が集まるこのパーティは都合がよかったというわけですわ。たしか、エストゥード王家にも数日前に皇帝陛下の名のもとにそのお知らせがきたはずですが?」
そう、ヴァカロ様の御父君にはひそかにお知らせいたしました。
ついでに、この宣言を大々的に行うことも許可をいただきました。
帝国公女の私に収穫祭で恥をかかせたことの意味を、ヴァカロ様の父君はちゃんとわかっておられたようです。
そしてそれをどうとりつくろえばいいのか頭を悩ませてもいたようです。
だから目には目を、恥には恥を。
ヴァカロ様が私に恥をかかせたのなら、それを上書きするほどに大きな恥をヴァカロ様にかかせれば、帝国のメンツにこだわっている方々の溜飲も下がるだろうということで、このやり方をひそかに提案し了承をいただいたのです。
「そういうことですから、二度と婚約者面してなれなれしく私に話しかけないでくださいませね」
再び扇で頭をペチっと。
「今後は名前ではなく『ノヴィリエナ嬢』と呼んでくださいませ。本来ならばたかが属州の王子が私と対等に口が利けるはずないのですから」
さらに二回、扇でペチペチと。
「きさまぁーっ!」
あらあら、ヴァカロ様は煽り耐性のないお方だったのですね。
立ち上がり私につかみかかろうとしたところ、なんとか衛兵が取り押さえてくれました。
兄がさすがに激怒しかけているので、私はそれを制止して言いました。
「楽しいパーティですもの、お酒が過ぎる方もいらっしゃいますわ。衛兵の方々はお役目ご苦労様。悪酔いした方を医務室までお願いいたしますね」
私はにっこり笑って、衛兵の皆様の労をねぎらいました。
エストゥード国王は私に何度も礼をしてヴァカロ様を連れて行った衛兵の後を追われました。
やれやれ、これで、ヴァカロ様のしでかしたことで軍事行動なんて過激な手段を取る必要もなくなったでしょう。
ようやく胸をなでおろすことが来たことですし、私も純粋にパーティを楽しみましょう。
そう思ったのですが、騒動の熱がまだ冷めきってないときに皇帝陛下が衝撃の宣言を行いました。
「皆の者聞いてほしい。わが跡継ぎは長らく息子イスマイルとなっておったが、この度その地位を降りることとなった。何度も説得を試みたがその意志は固く、息子の願いを聞き届けることにし臣籍降下を許すことにした。私の新たな後継者はノヴィリエナ家のエルナンドとする」
場内に驚きの声が広がりました。
お兄様が後継者、次の皇帝!
あれほど一生懸命立ち回った私の宣言は……。
この衝撃の発表の前座みたいになってしまいましたわね。
ヴァカロ様が会場中に響く大きな声で私をどなりつけました。
「酔っ払いか」
兄がその様子を見てボソッとつぶやきました。
会場中の注目が集まりましたことですし、そろそろ頃合いですね。
「ヴァカロ・ド・エストゥード! そなたは属州エストゥード王の後継でありながらその治世に心を砕かず、婚約者のいる身でありながら他の女性をそばにはべらかし、帝都が決めた『婚約』いうことさえ何かわかってない模様。そのような輩が皇位継承権第四位の私の夫にふさわしいわけがない! よって婚約解消を宣言する!」
ほっ、噛まずに一気に言えましたわよ。
あらあら、ヴァカロ様ったらぽかんとしたお顔をなさって。
何を驚いてらっしゃるのかしら?
そもそも婚約解消の意志は、数か月前にヴァカロ様自身もエストゥードにてお示しあそばされたではありませんか。
「なにか、私の言うことに間違いがございますか?」
反論する言葉が見つからず、ヴァカロ様は無言で私をにらみつけております。
「それはエストゥードでの仕返しか?」
いまいましげにヴァカロ様がつぶやきます。
「まあ、低次元な発想ですこと。考えることの次元の低い方は他人の行動も自分と同レベルと解釈されるのですね、失礼ですわ」
「なんだと!」
「言っておきますが、あなたが私の配偶者にふさわしくない証拠を集めて皇帝陛下に提出し、すでに婚約解消の願いは聞き届けられております。先ほどの宣言はそれを公にしたまでのこと。あなた様のように、何の準備もせず、ただ相手を辱めたいという感情的な理由だけで、こんな衆目の集まるところで宣言するわけないでしょう」
「……っ!」
「帝都からの距離や貴族の情報網の質によって、情報の伝わる速さというのはそれぞれ違います。でも、私はいつまでもヴァカロ様の婚約者のままであるかのような誤解はこれ以上されたくありません。だから、帝都中の皆様が集まるこのパーティは都合がよかったというわけですわ。たしか、エストゥード王家にも数日前に皇帝陛下の名のもとにそのお知らせがきたはずですが?」
そう、ヴァカロ様の御父君にはひそかにお知らせいたしました。
ついでに、この宣言を大々的に行うことも許可をいただきました。
帝国公女の私に収穫祭で恥をかかせたことの意味を、ヴァカロ様の父君はちゃんとわかっておられたようです。
そしてそれをどうとりつくろえばいいのか頭を悩ませてもいたようです。
だから目には目を、恥には恥を。
ヴァカロ様が私に恥をかかせたのなら、それを上書きするほどに大きな恥をヴァカロ様にかかせれば、帝国のメンツにこだわっている方々の溜飲も下がるだろうということで、このやり方をひそかに提案し了承をいただいたのです。
「そういうことですから、二度と婚約者面してなれなれしく私に話しかけないでくださいませね」
再び扇で頭をペチっと。
「今後は名前ではなく『ノヴィリエナ嬢』と呼んでくださいませ。本来ならばたかが属州の王子が私と対等に口が利けるはずないのですから」
さらに二回、扇でペチペチと。
「きさまぁーっ!」
あらあら、ヴァカロ様は煽り耐性のないお方だったのですね。
立ち上がり私につかみかかろうとしたところ、なんとか衛兵が取り押さえてくれました。
兄がさすがに激怒しかけているので、私はそれを制止して言いました。
「楽しいパーティですもの、お酒が過ぎる方もいらっしゃいますわ。衛兵の方々はお役目ご苦労様。悪酔いした方を医務室までお願いいたしますね」
私はにっこり笑って、衛兵の皆様の労をねぎらいました。
エストゥード国王は私に何度も礼をしてヴァカロ様を連れて行った衛兵の後を追われました。
やれやれ、これで、ヴァカロ様のしでかしたことで軍事行動なんて過激な手段を取る必要もなくなったでしょう。
ようやく胸をなでおろすことが来たことですし、私も純粋にパーティを楽しみましょう。
そう思ったのですが、騒動の熱がまだ冷めきってないときに皇帝陛下が衝撃の宣言を行いました。
「皆の者聞いてほしい。わが跡継ぎは長らく息子イスマイルとなっておったが、この度その地位を降りることとなった。何度も説得を試みたがその意志は固く、息子の願いを聞き届けることにし臣籍降下を許すことにした。私の新たな後継者はノヴィリエナ家のエルナンドとする」
場内に驚きの声が広がりました。
お兄様が後継者、次の皇帝!
あれほど一生懸命立ち回った私の宣言は……。
この衝撃の発表の前座みたいになってしまいましたわね。
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