ヴァカロ王太子のおもてなし ~目には目を、婚約破棄には婚約破棄を~

玄未マオ

文字の大きさ
8 / 12

アレンディナの大立ち回り

しおりを挟む
 帝国中の王侯貴族が集う新年の宴。

 今年は例年にも増して贅を凝らした衣装を身に着けて出席することにしました。

 私はデザインもシンプルで飾りも最小限にした衣装の方が好きなのですが、今回はこれから行う大立ち回りの演出を考えても、誰よりも豪奢な見た目でいなければならないのです。

 ノヴィリエナ公爵家揃っての入場は出席している人々の注目を集めます。

 私のことは兄がエスコートしてくださいました。

 私のドレスの裾に小粒のダイヤモンドがいくつもちりばめられているのですが、それに合わせて兄の衣装の上着にも、今まで以上にダイヤを縫い込んでおります。

「いつにもましてブティックのマネキンになった気分だ」

 衣装を身に着けた兄が言います。

 ふふ、そうですわね。
 私たち高位貴族、特に筆頭公爵家の者は帝都のトレンドをリードする存在ですから。

 ああ、さっそくたくさんの人、特に私たちと同じくらいの若い令嬢や令息が集まってまいりました。 
 久しぶりに帝都のお友達とおしゃべりする機会ができましたわ。

 私や兄を中心に談笑の輪が広まっていたところ、無粋にもその中に割って入り、これ見よがしに大声で楽しい空気をぶち壊すものが現れました。

「おい、アレンディナ!」

 ヴァカロ様です。

「どういうつもりだ、年末も今も夫となる俺のところに挨拶にも来ず、こんなところで……」

 ぶしつけにも私の目の前に立っていた令嬢たちの背中を押しのけて近づいてきました。

「衛兵! ろうぜき者だ、取り押さえよ!」

 兄が大きな声で衛兵を呼び、衛兵は直ちにヴァカロ様を組み伏せました。

「ぐっ、何をする! 俺はエストゥード王太子……、貴様ら、俺にこんなことをして……」

 じたばたとまだ抵抗の様子を見せるヴァカロ様。

 私は腕を払って衛兵たちにひくように命じました。

「ヴァカロ様、あなたは先ほど、ご令嬢たちの背後から不用意に近づいてそのお身体に触れましたね。見てください、彼女たちはすっかり脅えて。若い未婚の女性へのそのような振る舞い、帝国紳士としてふさわしくありませんわ」

 衛兵から解放されて立ち上がったヴァカロ様に私は注意しました。

「うっ、それは……。いや、しかし、そもそもそなたが悪いのであろう。婚約者たる我が帝都に赴いたというのに、挨拶もなしで。本来ならエストゥードでの償いに、われとわが姉や両親を招き歓待をせねばならぬところではないのか!」

 ヴァカロ様の言いたいことは要するに、俺たち家族をもてなせ、と、言うことですね。

「どこまでも厚かましいな」

 兄が私に耳打ちしました。

「償いとは何ですの? そもそもそこから理解できませんわ?」

「なんだと! 貴様、婚約者としてその態度は何だ! エストゥードに世話になっておきながら……」

 大きな声で下品にがなる様といい、見るに堪えなかったので、私は扇でヴァカロ様の顔をはたきました。

「痛っ、何をする!」

「歓待しろとおっしゃるので、そうさせていただいたまでですわ。エストゥードでは帝都では考えられない歓待を受けましたので、それがその土地のやり方だと理解いたしました」

「はあ?」

 私は再び扇で彼の顔をはたきました。

「エストゥードの王女ホアナさまはいきなり私の顔を扇ではたきました。最初はびっくり致しましたが、あれはホアナ様なりの親しみの表現だったのですね。ですから私もそのやり方に倣ったまでのことでございます」

「そんなやり方がエストゥード風なわけがない!」

「これは異なことを? 帝国貴族の序列は降嫁しようと変わらないので、私はどこへ行っても序列第四位の公女です。生家は皇位継承権一位。それが第五位の家に嫁がれ、序列のうえでは、ええ、第何位かは数えるのも面倒なくらいですが、そのような方が私に対して『叱責』を意味する行為をされるなんて、そうとでも理解せねば納得できないじゃありませんか」

「ええい、二言目には序列序列と! そなたが至らぬところを義姉の立場で叱責しただけであろうが!」

「それがわからぬと申し上げているのです。ヴァカロ様が本来ならやるべき視察を私は代わりに行っていたのです。その間ヴァカロ様は王宮におられ手が空いていたのに何もせず、それでホアナ様の歓待が行き届かないと私を責められた。いくら私でも体が二つあるわけじゃなし、怠けておられたヴァカロ様の尻拭いをしなかったことを責められましても」

 ふたたび、えいっ、えいっ、と、二回扇ではたきました。

 さらにくるっとターンをして一回。

 踊りの動作の中に扇ではたく動作を混じらせるやり方、なんだか癖になりそうですわ。

 あらあら、会場のそこかしこからくすくす笑う声が漏れ聞こえてまいりましたわね。



【作者メモ】

 アレンディナのやっていることがなんだかハリセンで相手をどつく漫才みたいになってきました。
 もちろん帝都育ちの彼女が、ハリセンやどつき漫才を知っているは思えませんが。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。 アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。 アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。 市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。

あなたのことなんて、もうどうでもいいです

もるだ
恋愛
舞踏会でレオニーに突きつけられたのは婚約破棄だった。婚約者の相手にぶつかられて派手に転んだせいで、大騒ぎになったのに……。日々の業務を押しつけられ怒鳴りつけられいいように扱われていたレオニーは限界を迎える。そして、気がつくと魔法が使えるようになっていた。 元婚約者にこき使われていたレオニーは復讐を始める。

乙女ゲームの悪役令嬢、ですか

碧井 汐桜香
ファンタジー
王子様って、本当に平民のヒロインに惚れるのだろうか?

悪役令嬢に相応しいエンディング

無色
恋愛
 月の光のように美しく気高い、公爵令嬢ルナティア=ミューラー。  ある日彼女は卒業パーティーで、王子アイベックに国外追放を告げられる。  さらには平民上がりの令嬢ナージャと婚約を宣言した。  ナージャはルナティアの悪い評判をアイベックに吹聴し、彼女を貶めたのだ。  だが彼らは愚かにも知らなかった。  ルナティアには、ミューラー家には、貴族の令嬢たちしか知らない裏の顔があるということを。  そして、待ち受けるエンディングを。

処理中です...