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第2章 精霊たちの世界
第57話 虹の橋のたもと
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その後、ロゼラインは精霊ティナからクロを連れての使いを頼まれた。
大木に囲まれた狭い道をしばらく行くと、人ひとりが通れるくらいの扉がありそこを入ると広々とした草原にでた。
「よく来たの!まあまあ、疲れただろう。」
クロを抱いたロゼラインを迎えたのは、人間の子どもくらいの背丈の二足歩行をしている猫であった。しゃべっていることには今更驚かないが、人が猫の着ぐるみを着ていると言われればそのまま信じただろう。
「お前さん、変わった『道』からやって来たのう。しかもなかなかうちに来たがらなかったヤツまで連れて」
どっちに向かって言ってるんですか?
『変わった道』って?
『来たがらなかったヤツ』って?
ロゼラインは大きな猫の言葉に首を傾げた。
周囲を見回すと草原にはかなり多数の動物たち、主に犬や猫が自由気ままに走り回っていた。小高い丘の上の大樹の下の影で昼寝しているものもいる。
「ナナシがにんげんをつれてくるとはなあ」
二足猫が笑いながら(猫の笑い顔ってロゼラインには具体的にわからないがそう見える)言った。
「ナナシじゃないわ、クロよ」
クロが言い返した。
「そうか、そうか。まあゆっくりしていけ。この人間は若いのに心はずいぶん傷んでおるようじゃ。ここでは何をしても、何をしなくてもかまわんから、好きなようにのんびり過ごせばいいよ。」
二足猫は柔らかい口調でロゼラインに促した。
「えっと、私は精霊王の使いできたんだけど……」
「で、何をするためにつかわされたんじゃ?」
言われてみれば……。
行けと言われただけで、そこで何をするかとか具体的には指示されなかった。
自分も疑問に思わずここまで来てしまった……。
ロゼラインはクロとともに比較的猫が集まっている場所に腰をかけた。
そのあたりは「ナナシ」と呼ばれるものたちが多くたむろっているところだった。
クロはロゼラインの腕から飛び出して他の猫と追いかけ合いじゃれ合った。
ひとしきり遊び倒すと、
「ふう、猫らしく遊んだのってひさしぶり」
と、ロゼラインのところに帰ってきてまたロゼラインの脚を枕にして寝始めた。
ロゼラインは落ち着いて広く周囲を見渡した。
この草原は犬や猫などの動物が多くあちこちで戯れている。
人間もいるが数えるほどだ。
この場所では人間の方が「珍客」なのだろう。
人間は子供が多い気がする。
その子供らを見ているとロゼラインは心の一番柔らかいところがずたずたに切り裂かれた時の痛みを思い出した。
そう、ここにやってくる子供はどこかさみしげだったり、おびえていたりと、子どもに普通に見られる朗らかさが乏しい。大人がそんな風に追い詰めておきながら、そんな子たちの性格を傷口に塩を塗り込むようにさらにひどい言葉で貶める様をロゼラインはよく知っている。
ロゼライン自身の両親がそうだった。
弟はその尻馬に乗ってロゼラインを見下していた。
その前の北山美華の母親もそうだった。
見ているとつらいのにロゼラインは目が離せなかった。
時間が流れるのを忘れたかのような草原。
いつ帰ってこいとも言われていないので、ロゼラインはずっと子どもたちを観察していた。
注意してみていないとわからないことなのだが、子供の入れ替わりはけっこう激しかった。
子供を連れてくる「案内役」というのがいて、頻繁に子どもは連れてこられるのだが、いつの間にか去って行ってしまっている。
そしてこれも注意してみなければわからないのだが、犬や猫も一緒に消えていってしまっていた。
子どもたちを見ているとロゼラインは嫌でもかつての家族や婚約者からされた非情な言動を思い出してしまう。
精霊王に聞いた話だが、通常人間の経験は「魄はく」という部分に記憶として貯められ、それに伴うエネルギーが感情体に流れ出す。
しかしあまりにもつらい体験をしてしまうと「魄」だけでなく、魂核という魂の一番中心の部分にも傷が残るのだそうだ。
大木に囲まれた狭い道をしばらく行くと、人ひとりが通れるくらいの扉がありそこを入ると広々とした草原にでた。
「よく来たの!まあまあ、疲れただろう。」
クロを抱いたロゼラインを迎えたのは、人間の子どもくらいの背丈の二足歩行をしている猫であった。しゃべっていることには今更驚かないが、人が猫の着ぐるみを着ていると言われればそのまま信じただろう。
「お前さん、変わった『道』からやって来たのう。しかもなかなかうちに来たがらなかったヤツまで連れて」
どっちに向かって言ってるんですか?
『変わった道』って?
『来たがらなかったヤツ』って?
ロゼラインは大きな猫の言葉に首を傾げた。
周囲を見回すと草原にはかなり多数の動物たち、主に犬や猫が自由気ままに走り回っていた。小高い丘の上の大樹の下の影で昼寝しているものもいる。
「ナナシがにんげんをつれてくるとはなあ」
二足猫が笑いながら(猫の笑い顔ってロゼラインには具体的にわからないがそう見える)言った。
「ナナシじゃないわ、クロよ」
クロが言い返した。
「そうか、そうか。まあゆっくりしていけ。この人間は若いのに心はずいぶん傷んでおるようじゃ。ここでは何をしても、何をしなくてもかまわんから、好きなようにのんびり過ごせばいいよ。」
二足猫は柔らかい口調でロゼラインに促した。
「えっと、私は精霊王の使いできたんだけど……」
「で、何をするためにつかわされたんじゃ?」
言われてみれば……。
行けと言われただけで、そこで何をするかとか具体的には指示されなかった。
自分も疑問に思わずここまで来てしまった……。
ロゼラインはクロとともに比較的猫が集まっている場所に腰をかけた。
そのあたりは「ナナシ」と呼ばれるものたちが多くたむろっているところだった。
クロはロゼラインの腕から飛び出して他の猫と追いかけ合いじゃれ合った。
ひとしきり遊び倒すと、
「ふう、猫らしく遊んだのってひさしぶり」
と、ロゼラインのところに帰ってきてまたロゼラインの脚を枕にして寝始めた。
ロゼラインは落ち着いて広く周囲を見渡した。
この草原は犬や猫などの動物が多くあちこちで戯れている。
人間もいるが数えるほどだ。
この場所では人間の方が「珍客」なのだろう。
人間は子供が多い気がする。
その子供らを見ているとロゼラインは心の一番柔らかいところがずたずたに切り裂かれた時の痛みを思い出した。
そう、ここにやってくる子供はどこかさみしげだったり、おびえていたりと、子どもに普通に見られる朗らかさが乏しい。大人がそんな風に追い詰めておきながら、そんな子たちの性格を傷口に塩を塗り込むようにさらにひどい言葉で貶める様をロゼラインはよく知っている。
ロゼライン自身の両親がそうだった。
弟はその尻馬に乗ってロゼラインを見下していた。
その前の北山美華の母親もそうだった。
見ているとつらいのにロゼラインは目が離せなかった。
時間が流れるのを忘れたかのような草原。
いつ帰ってこいとも言われていないので、ロゼラインはずっと子どもたちを観察していた。
注意してみていないとわからないことなのだが、子供の入れ替わりはけっこう激しかった。
子供を連れてくる「案内役」というのがいて、頻繁に子どもは連れてこられるのだが、いつの間にか去って行ってしまっている。
そしてこれも注意してみなければわからないのだが、犬や猫も一緒に消えていってしまっていた。
子どもたちを見ているとロゼラインは嫌でもかつての家族や婚約者からされた非情な言動を思い出してしまう。
精霊王に聞いた話だが、通常人間の経験は「魄はく」という部分に記憶として貯められ、それに伴うエネルギーが感情体に流れ出す。
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