魔法少女まじかる★スクミィ

あきらつかさ

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09 最終決戦!!

9-2

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 蒼と黄の光が二人の石から溢れ出す。
 昇と明里の服が消え、魔力で構成された衣装がそれぞれを包み、数秒後、スクミィとチアリィに変身して光が収まる。
「昇くん――その衣装」
 明里が驚いた声を上げる。
 昇の、スクミィの衣装が変化していた。水着そのものに大きな違いはないが、これまでただ白かった名札に『スクミィ』と記され、ゴーグルの下に鉢巻きのような細い帯が頭に巻きつき、長い尾を伸ばしている。
 そして、腰あたりまで覆う短いマント状の布地が新たに増えていた。首元を彩るように紺色のリボンがマントを留めている。
「これ、タオル地だ――可愛いっ」
 明里がそのマントに触れていた。「水着にちなんだもの、ってことなのかな。へぇ~」と感心した調子で言い、ヒューを見る。
「昇くんがパワーアップした、ってこと?」
「――そのようだな」
 ヒューの声色は、芳しくない空気を醸していた。
「じゃあエリー、ヒューは任せるわよ」
 エリーは苦笑して、眉をひそめるヒューを抱きかかえる。
 昇は表情を引き締めて前方の小島を見つめていたが、声だけでエリーに訊く。
「エリー」
「ん?」
「本当に、浅賀さんを助けられるんだよね?」
「そうね。勝てば彼女の被支配を解ける可能性は高いわ。その後のことは予測できないけど」
 ただし気をつけて、とエリーは脅すように続ける。
「傷つけないように気にしすぎていたら昇、勝てないわよ。かといって無制限にやりすぎたら彼女へのダメージがどうなるか」
「あーもう、面倒くさいなあ、宇宙人は」
 明里が口を挟む。
「う!?――ちょっ、明里あなたっ!」
「こんなのはシンプルでいいのよ。
 昇くんが好きな女の子を助け出してハッピーエンド、それでいいじゃない」
 ね、と明里は昇の肩を叩く。
 昇は頬を赤らめつつも、決意を強めた瞳で頷いた。
「エリー……もう一つ」
「なによ」
 エリーの声は不機嫌を含んでいた。
「僕の魔力? が上がったみたいな気はするんだけど、魔法にも影響する――よね?」
「――勿論、ね」
 エリーは小さな溜息をこぼしてから、続ける。
「装備にも現れるとは意外だったけど、そのスーツは水と水泳に関連した術の発揮に長けるよう調整してあるわ。まさか昇が泳げないなんて思ってもいなかったけどね」
「昇くん泳げないのかぁ。夏休み特訓する? ビキニでもワンピでも、のぞみ用の水着買ってあげるからさ」
「それって女物じゃないですか」
 明里はあくまで明るく笑う。
「浅賀さんとプールデートできないよ? 彼女、水泳部ってことは泳ぎ上手いんじゃない?」
 はっ、と息を呑む昇の頭を撫でて、明里は切り替えた。
「じゃあ、行こっか、昇くん」
「――は、はいっ」

 小島には裏山のものと同様の小さな祠があったようだが、祠は残骸が散乱しているばかりで、祀っているものがあったのであろう場所には直径一メートル強の穴が空いていた。
 湖を飛び越えてきた昇たちはその穴を覗き込んで、顔を見合わせる。
 しかしすぐに昇は唇を強く結んで、真っ先に飛び込んだ。
「昇くん!?」
 明里が追い、エリーはヒューと目を合わせた。
「――どうする?」
「彼はお前の『協力者』だろう? 私は手出しする気はない。さっき、移送空間を結ぶのに協力しただけでも感謝してもらいたいくらいだ」
 穴を降りるなら任せる、とヒューの態度は渋いままだった。
「どうしよう――かしらね」
 エリーは肩をすくめて。そううそぶく。
「あなたにとっても、この段階でのノウェム卿の排除は今後にとっての好材料じゃないの?」
「どうとでもなるさ――明里の素質はそれだけ高い」
「あら、そう」
 懐のどこからかエリーが取り出した端末を操作すると、空中に情報が投影される。
「この距離なら、モニタリング可能、か……」
 それを覗き込んで、ヒューが言う。
「――いる、な」
「そうね。だから行って、話をするのもいいかも知れないけど――」
 エリーはそう言って、穴から少し離れた所にある木にもたれて座った。
「ま、いいわ。この惑星の生命体に任せましょう」

☆★☆★☆★

 穴は数メートルの深さがあり、ぽかりと空いた空間に二人は下り着いた。
 昇は下りてきた穴を見上げてから、周囲を見回す。
 穴の他に光源はなく、薄暗い。
「エリー……来ないのかな」
「放っとけば?」
 明里が右手を数度回して、持っていたポンポンを上に向かって投げた。多弁の花のような塊は弧を描いて明里の手に戻り、軌跡が作り出した明かりがその空間を照らした。
 いかにも洞窟らしい岩肌が二人を囲んでいる。水音がどこからか届いていた。
「案外、広いね」
 空間全体を見回したあと、明里は昇の股間を見ていた。
「なっ、何ですか」
「昇くんって、股どうしてるの? 目立たないけど、ホントに女の子だったりしない?」
「ち、違いますよぉ……その、後ろに回して、それでこの衣装に押さえつけられてるから……」
「正直だね、可愛い」
 明里は小声で笑ってから、一方向を指した。
「――昇くん、あっち」
 明里が指した壁が、通路のように空いていた。
「見るからに奥が怪しい、って言ってるよね」
 そう言いながら明里は軽い足取りで、その方向に向かう。
 ――が、
「やれやれ……」
 涼しげな声を反響させて、その通路から長身の人影がゆっくりと現れる。
 昇と明里が身構えて、明里は「ビンゴじゃない」と不敵な呟きをもらす。
 明里が作った光の届く範囲に出てきたのは、ノウェム卿、ことウィルゴー・メリトゥム・ナワリスだった。昨日と同じく長いローブにその身を包んでいる。
「彼女はいま、少々立て込んでいます」
「関係ない、戦わせてもらうわ! スクミィ!」
 明里が昇を呼び、二人そろって通路に向かって走る。
「お引き取りを」
 ナワリスのローブから何かが伸びて二人を打った。
 吹き飛ばされて、昇を下にして固い地面に叩きつけられる。
「スクミィ、ごめんっ」
 明里が起きあがる。
 ナワリスは通路の入り口を塞ぐ格好で立ち、薄い笑みを浮かべていた。
 明里は昇を助け起こして、頭を寄せて耳元で囁く。
「スクミィ――あたしが開けるから、その隙に奥に行きなさい」
「あか――チアリィさん?」
「いいから。
 ――協力する、って言った時からこういう役割になる気はしてたんだ」
 ね、とウインクして見せて、明里は立ち上がる。
「ちゃんと助け出すんだよ、いいね」
「ん――はいっ」
 昇も立ち上がり、杖を構えた。
「あたしさ、今日の戦いが終わったら、夏休みに食い倒れ巡りをするんだ」
 昇にそう残して、明里は地を蹴った。
「ちょっ、明里さんそれっ」
 昇が手を伸ばそうとして、届かない。
「食っらえぇぇっっっ!!!」
 一瞬でナワリスに詰め寄った明里は低い姿勢から両手を突き出す。薄笑いの表情を変えずにそれをかわすナワリスの横に回り込んだ明里がさらに腕を回すと、ポンポンが音を立てて倍ほどの大きさになる。
「チアリィさん!」
 昇の声に応えるように左腕を挙げて回しながら明里はバックステップでナワリスとの距離を取る。
 回す左手からポンポンの一片のような平たいものが連続して撃ち出される。
 地面から壁にかけて岩肌を削る弾を回避してわずかに動いたナワリスに明里は再度駆け寄り、その腰に抱きついた。
「スクミィ!」
 明里が叫び、ナワリスを更に数十センチ動かす。
 昇は下唇を噛んで、駆けだした。
「チアリィさん……すみません!」
「いいから! 来週新作コスメ一緒に見に行こうね!」
 ナワリスから昇に向かって伸びたものを振り投げた片方のポンポンで軌道を変える。
「チアリィさんそれは……」
 昇は目を大きくして明里を見ながらも、隙間をすり抜けて通路に飛び込んだ。
 その背に明里が割り込み、ナワリスの追撃を防ごうとする。
「さあ、あたしと遊んでもらうわよ……っ」
 明里は右手のポンポンをまっすぐナワリスに向けて言った。

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