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09 最終決戦!!
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「浅賀さんっ!」
十数メートルほど走ったところで、また拓けた空間になっていた。
呼びながら辿り着いた昇は足をその中程で足を止める。ほのかな明かりがこの中の視界を保っていた。
空間の一面がほのかに白く光っていた。その足下から昇から見て左手に水面が広がっていて、水音はそこからのもののようだ。
くるみ――アルブム・スクミィは、その水の中にいた。片手に杖を持った両手を広げ、光っている岩壁に向かって昇には白い水着の背を向けている。
光が、波打っていた。水面からも岩からもうねうねと波を描く光はくるみを中心に集まってきていて、その様は昇の午前中のものに似ていた。
「浅賀さん!」
数歩進んで昇が叫ぶ。
くるみが、ゆっくりと振り返った。
虚ろな目で昇を見つめて首を傾げ、杖を持った手をゆるゆると昇に向ける。
「やめて、正気に戻って!」
呼びかける昇の声に反応せず、くるみは掲げた杖をくるりと回した。
くるみの胸元あたりまである水面が唸りを上げて巻き上がり、螺旋を描いて昇に疾る。
昇は右に跳んで水の槍を回避する。
「敵――」
くるみの口から細い声が漏れた。「みんな――敵なの」
「違うよ! 浅賀さん、目を覚まして!」
昇が走り、地底湖に入ってくるみに飛びつこうとする。
「排除……せねば」
くるみの杖が光った。
水面が盛り上がって昇を下腹から打ち上げ、昇は湖から弾き出されて洞窟の天井と地面に叩きつけられる。
昇の口から空気の塊が吐き出される。
「浅賀……さん、っ」
跳ね起きた昇はまたくるみに接近する。
くるみは感情のない瞳で杖を左右に振る。くるみの左右から水が帯状に伸びて昇を襲う。
昇は片方を杖で、反対側をマントで受けるが、杖を抜けた一部が腰に刺さって昇は膝をつく。
くるみは更に同じ水槍で追い打ちをかけ、露出している太腿を打った。
「っか……はっ」
昇の目に涙が浮かんでいた。
「浅賀さん――、ごめんっ!」
昇が膝立ちで杖をまっすぐに突き出すと、腰の後ろ――マントの間から拳大の丸いものが連なった黄色い筋が現れて、がらがらと音を立ててくるみに向かって伸びる。
プールにある、コースロープによく似ているそれはくるみの左頬を掠めて石壁に刺さる。
くるみは表情を変えずに杖で水面を叩いた。
跳ねた水飛沫が高く広がり、くるみの手の動きに合わせて昇へと向きを変えた。
「邪魔――消えて」
ぼそりと、くるみが言う。
愕然と瞼を震わせて動きの止まった昇に薄い水刃が襲いかかり、昇の水着も手袋もニーソックスも破れて血がしぶく。
コースロープが消えた。
「うそ……だよね、浅賀さん……操られてるんだよね」
昇が這うようにくるみとの距離を詰めようとする。
くるみが杖を振って生み出す水流が昇を流し、昇はまた壁に打ち付けられる。
昇は杖を頼りに立ち上がり、くるみの背後で光る壁に視線を移す。
「あれが、たぶんポイント……」
昇が足下をふらつかせながらも杖に力を込めると、杖の蒼白い光が輝きを増す。
くるみがまた水弾を放ち、昇の下腹部を叩く。
「……ぁっ、く……」
昇は膝を落としそうになるが、踏み止まる。
「あれを……っ」
昇は指先を白くして杖を握ると、水環が流れる速度を強めた。
「あれをぉぉぉっ!」
昇が杖を振り上げて回した。
ふたたび現れたコースロープと水環が産み出した水塊が飛び、くるみを避けてその後ろの鈍い光を放ち続けている岩に命中した。
「ぉ……あああああっっっ!!!」
昇は絶叫しながら泣いていた。喉から搾り出すような声で呼び続ける。
「浅賀……さぁぁぁんっっっ!」
杖からとめどなく溢れる水流とコースロープが光る岩を覆う。
くるみの瞳が小刻みに揺れていた。
ばきり、と何かの割れるような音が響いた。
昇は声にならない声を捻り出す。
岩壁に、昇から放った水が膜のように張り付いていた。岩の光が弱くなる。
「浅賀さんっ! 目を覚ましてっ!」
くるみが、崩れ落ちた。水しぶきを上げて水中に沈む。
「浅賀さん!」
昇がふらふらと覚束ない足取りで湖面に向かう。
「そうだ――服」
水面に入ろうとしたところで昇は杖を構えて、目を閉じて数秒黙ってから唱えた。
「変身、解除……っ」
昇は昨夜着ていた、明里に脱がされた服装――Tシャツとハーフパンツの姿になってから湖に入り、掻き進むようにのろのろと進む。
「浅賀……さんっ」
手探りでくるみを抱き上げ、水面に引き上げた。
「浅賀さんっ!」
何度も掠れた声で呼ぶ。
くるみが瞼を震わせて上げた。
「……比嘉…………くん……?」
くるみが呟きのような疑問符と焦点の合った瞳で、昇を見た。
十数メートルほど走ったところで、また拓けた空間になっていた。
呼びながら辿り着いた昇は足をその中程で足を止める。ほのかな明かりがこの中の視界を保っていた。
空間の一面がほのかに白く光っていた。その足下から昇から見て左手に水面が広がっていて、水音はそこからのもののようだ。
くるみ――アルブム・スクミィは、その水の中にいた。片手に杖を持った両手を広げ、光っている岩壁に向かって昇には白い水着の背を向けている。
光が、波打っていた。水面からも岩からもうねうねと波を描く光はくるみを中心に集まってきていて、その様は昇の午前中のものに似ていた。
「浅賀さん!」
数歩進んで昇が叫ぶ。
くるみが、ゆっくりと振り返った。
虚ろな目で昇を見つめて首を傾げ、杖を持った手をゆるゆると昇に向ける。
「やめて、正気に戻って!」
呼びかける昇の声に反応せず、くるみは掲げた杖をくるりと回した。
くるみの胸元あたりまである水面が唸りを上げて巻き上がり、螺旋を描いて昇に疾る。
昇は右に跳んで水の槍を回避する。
「敵――」
くるみの口から細い声が漏れた。「みんな――敵なの」
「違うよ! 浅賀さん、目を覚まして!」
昇が走り、地底湖に入ってくるみに飛びつこうとする。
「排除……せねば」
くるみの杖が光った。
水面が盛り上がって昇を下腹から打ち上げ、昇は湖から弾き出されて洞窟の天井と地面に叩きつけられる。
昇の口から空気の塊が吐き出される。
「浅賀……さん、っ」
跳ね起きた昇はまたくるみに接近する。
くるみは感情のない瞳で杖を左右に振る。くるみの左右から水が帯状に伸びて昇を襲う。
昇は片方を杖で、反対側をマントで受けるが、杖を抜けた一部が腰に刺さって昇は膝をつく。
くるみは更に同じ水槍で追い打ちをかけ、露出している太腿を打った。
「っか……はっ」
昇の目に涙が浮かんでいた。
「浅賀さん――、ごめんっ!」
昇が膝立ちで杖をまっすぐに突き出すと、腰の後ろ――マントの間から拳大の丸いものが連なった黄色い筋が現れて、がらがらと音を立ててくるみに向かって伸びる。
プールにある、コースロープによく似ているそれはくるみの左頬を掠めて石壁に刺さる。
くるみは表情を変えずに杖で水面を叩いた。
跳ねた水飛沫が高く広がり、くるみの手の動きに合わせて昇へと向きを変えた。
「邪魔――消えて」
ぼそりと、くるみが言う。
愕然と瞼を震わせて動きの止まった昇に薄い水刃が襲いかかり、昇の水着も手袋もニーソックスも破れて血がしぶく。
コースロープが消えた。
「うそ……だよね、浅賀さん……操られてるんだよね」
昇が這うようにくるみとの距離を詰めようとする。
くるみが杖を振って生み出す水流が昇を流し、昇はまた壁に打ち付けられる。
昇は杖を頼りに立ち上がり、くるみの背後で光る壁に視線を移す。
「あれが、たぶんポイント……」
昇が足下をふらつかせながらも杖に力を込めると、杖の蒼白い光が輝きを増す。
くるみがまた水弾を放ち、昇の下腹部を叩く。
「……ぁっ、く……」
昇は膝を落としそうになるが、踏み止まる。
「あれを……っ」
昇は指先を白くして杖を握ると、水環が流れる速度を強めた。
「あれをぉぉぉっ!」
昇が杖を振り上げて回した。
ふたたび現れたコースロープと水環が産み出した水塊が飛び、くるみを避けてその後ろの鈍い光を放ち続けている岩に命中した。
「ぉ……あああああっっっ!!!」
昇は絶叫しながら泣いていた。喉から搾り出すような声で呼び続ける。
「浅賀……さぁぁぁんっっっ!」
杖からとめどなく溢れる水流とコースロープが光る岩を覆う。
くるみの瞳が小刻みに揺れていた。
ばきり、と何かの割れるような音が響いた。
昇は声にならない声を捻り出す。
岩壁に、昇から放った水が膜のように張り付いていた。岩の光が弱くなる。
「浅賀さんっ! 目を覚ましてっ!」
くるみが、崩れ落ちた。水しぶきを上げて水中に沈む。
「浅賀さん!」
昇がふらふらと覚束ない足取りで湖面に向かう。
「そうだ――服」
水面に入ろうとしたところで昇は杖を構えて、目を閉じて数秒黙ってから唱えた。
「変身、解除……っ」
昇は昨夜着ていた、明里に脱がされた服装――Tシャツとハーフパンツの姿になってから湖に入り、掻き進むようにのろのろと進む。
「浅賀……さんっ」
手探りでくるみを抱き上げ、水面に引き上げた。
「浅賀さんっ!」
何度も掠れた声で呼ぶ。
くるみが瞼を震わせて上げた。
「……比嘉…………くん……?」
くるみが呟きのような疑問符と焦点の合った瞳で、昇を見た。
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