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10 告白敢行…
10-1
しおりを挟む「浅賀さんっ!」
昇は、水上に上げたくるみの、まったく事情の見えていない瞳をまっすぐ見つめ、歓喜に溢れる声で呼びかけた。
「比嘉くん? あれ、私どうして……?」
「よかった……浅賀さん、本当によかった」
昇は潤んだ目でくるみに頷きながら、後ろ足で進んで、くるみを湖から上げようと引っ張る。
「比嘉くん、ここはどこ? 私、何してたの? それに比嘉くんそんな傷だらけで……」
「いいんだ、大丈夫」
昇は笑顔になっていた。
「僕は大丈夫だから。浅賀さんが何ともなかったら、それでいいんだ」
昇は先に水から上がって、岸からくるみの、杖を持っていない左手を引いた。
くるみは、昇を見上げて「比嘉くん……」と小さく呟いていた。
明里は、肩で息をしていた。
チアリィの衣装も所々が破れ、打ち身の痣や血の滲む傷を方々に作っている。
それに対してナワリスはローブ姿のままでいる。
「――ふう」
ナワリスはそんな明里の様子を、薄笑いを絶やすことなく見下ろしていたが、ふと顔を上げて洞窟の奥へ視線を送った。
「これは意外な……」
明里が息を呑み込んだ。
「食っらえぇぇっっっ!」
明里のポンポンが地面を叩いた。
「ローブの下くらい見せろこの野郎っ!」
明里は全身でナワリスに突進するが、何度目か数えられない反撃で弾き飛ばされ、叩きつけられる。
「――いいでしょう、チアリィ。向こうの状況も少々意外な展開になったようですから、余興もここまでです」
ナワリスはゆっくりと、転がっている明里に近寄る。
足音はない。
「――え?」
明里は横たわったまま、ナワリスの足下を見つめる。
「あの娘は捨てて、別の手段を講じましょう。
――ですが、ただ手放しても面白くありません」
ナワリスが明里のすぐ傍で止まった。
「さようなら、チアリィ。後に残る絶望をどうぞ――」
それでは、とナワリスがローブをはだけた。
その奥にあった姿があまりに予想外だったか、明里は言葉を失った。
くるみが、昇の手を振り払った。
「浅賀さん?」
くるみは自分の両肩を抱き、身を震わせる。
「比嘉くん、ダメ。来ないで。私のことはいいから、もう行って……」
「!? どうして?」
くるみは涙を浮かべるが、次の瞬間には手を伸ばしていた昇を水中に引き込んだ。
「ダメなの、比嘉くん――私はもう」
涙混じりの声と、剣呑な響きを両方持った声だった。
「ぅわあああっ!?」
昇は突然水中から何かに持ち上げられ、空中に浮く。腰に巻き付いているものを見て昇は息を呑み、くるみを見た。
蛸か烏賊か蛇か、ぬめぬめとした軟体の触手が昇を縛っていた。
「ダメなの……」
くるみが、顔を両手で覆っていた。
ナワリスの腰から下は、十本以上の蛸や烏賊などの、軟体の触手になっていた。
明里は座り込んだままうねうねと動くそれを見つめ、音もなく移動するのを目で追うばかりだった。
ナワリスが、洞窟から消えた。
後に残った明里はしばらくそのままの姿勢で動けずにいたが、
「絶望、って――まさか!」
と跳ね起きて、奥へと走った。
くるみの啜り泣く声が響く。
「少し、思い出したの……何か取り合いをしてるってこと、私は彼にそれをさせられてたこと、そして、この体――」
水音もなく、くるみが岸に向かって動いていた。それに合わせて触手に捕まれた昇も移動する。
「私は他の人に酷いことをして、何かを奪い取っていってたらしいの――そう、そう、そうなのよ、っは――あははははっ!」
くるみが笑い出した。
「アタシは、スクミィを、倒す――ッ!」
くるみが湖から出る。
「っ!? あ、浅賀……さん?」
くるみの腰から下は、十数本の軟体動物の脚になっていた。
「え、だって、昨日は――」
「魔力を蓄エてナワリス様と同ジ姿を得るコとがでキタのよっ。すくみぃヲ倒し他も倒しアタシがこノげーむの勝者になってナワリス様を喜ばせ――あははハっ!」
くるみの口から、濁ってイントネーションのずれた声が溢れ出す。
「浅賀さん!」
昇はくるみに呼びかけるが、くるみは開ききった瞳孔で昇を見ていた。
その目から、涙がこぼれ落ちる。
「浅賀さんっ!!!」
「スク――昇くんっ!?」
明里が駆け込んで、状況を見て絶句する。
「彼を放しなさいっ!」
明里が、ポンポンを撃った。狙い違わず昇を掴んだ触手を打ち据え、拘束の弛んだそこから昇が落ちる。明里が駆け寄って助け起こした。
「昇くん――これって」
「明里さん……どうしたらいいの?」
昇の目にも、涙が浮かんでいた。
「う……うぅ」
明里の攻撃を受けたくるみが、呻いていた。二人そろって見上げると、徐々にくるみの瞳に光が宿りつつあった。
「比嘉くん……私こんな…………こと」
嗚咽する中、くるみがぼそりと、昇に言った。
「お願い……ころして」
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