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10 告白敢行…
10-2
しおりを挟む明里が立ち上がって怒鳴った。
「甘えるなっ!」
うねうねと動き、明里にも迫る脚を殴り飛ばす。
「この子がどんだけあなたのことを思って頑張ってきてるか知らないでしょ! 昇の気持ちも知らないで無責任なコト言うなっ! この子の想いを無駄にさせるなんて、あたしが許さないよ――」
昇が、明里を手で制した。
しかし明里はその昇の手を払って、なおもくるみに怒気を吐く。
「魔力でその姿になったんなら、魔力捨ててみろ! 今まで押さえたエリア全部放棄しなさいよ! 何もしないで現実から逃げるなっ!」
「明里さんっ!」
昇が、明里を制する。
「いいんです、っ」
「昇……」
くるみは明里の言葉に衝撃を受けた様子で、再び泣き出していた。
「浅賀さん」
昇は『魔力石』を手にしていた。
「スクミィ――マナ・チャーム・アレイング」
静かに唱え、女子用のスクール水着と、マントに長い杖を持ったスクミィに変身する。
「昇くん、いいのっ!?」
「明里さん、ありがとうございます」
昇は明里に礼を言ってから、くるみを見上げた。
「比嘉くん……なの?」
昇は照れ混じりの苦笑を浮かべ、湖水を呼び寄せてくるみと目線の高さを合わせる。
「ひとつ、わかったんだ。
僕は、浅賀さんがどんな姿でも、気持ち変わらないよ」
マントを留めているリボンを外し、そのタオル地の布をくるみの肩に回して包む。
「比嘉、くん……」
「浅賀さん――僕は浅賀さんのことが、好きなんだ」
こんな格好で言うのは余計に恥ずかしいけど、と自虐的に笑う昇に、くるみは泣き笑いを浮かべる。
マントから静かに水音が響きはじめ、薄蒼い靄がくるみの肩から下に流れはじめた。
「ありがとう、比嘉くん……。嬉しいけど、私こんな……」
「関係ないよ。どんな姿でも浅賀さんが浅賀さんなら、僕はそれだけで――」
くるみの涙と笑顔がいっそう深まる。
もう一度昇にありがとうと呟いて、くるみは天を――洞窟の天井を仰いだ。
「私、いらない――取ったものも、力も、何もかも全部」
くるみの手から杖が落ちた。先端の石が鋭い音を立てて割れる。
くるみの全身が、うっすらと白く光っていた。光は次第に強くなり、くるみから溢れ出して――弾けるように消えた。
くるみの下半身が戻り、中学の制服姿になっていた。数十センチの高さを落下するのを、昇が抱えて下になる。
「浅賀さん……」
昇がくるみを横たえて、変身を解く――意識しなかったためか、女装姿になっていた。
くるみは目を閉じ、動かない。
「浅賀さん!?」
同じく変身を解いていた明里も、異変に気付いて近付く。
くるみは、息をしていなかった。
「なんでっ!?」
明里の声に、昇ははっ、と目を見開く。
「前にエリーが言ってた……『力を一気に失ってショック死するかも』って」
「んなっ!? 何よそれっ!」
明里がまた怒気を露わにする。
昇は『魔力石』とくるみを見比べ、石をくるみの胸元に置いた。
「のぞ――昇?」
「魔力が原因なら、もしかしたら――」
昇は涙と傷と感情とで赤くなった顔を引き締め、くるみの横に跪いた。
眼鏡を外し、石の――くるみの真上で手を組んで祈るように目を閉じる。
「お願いだから……どうか、どうか、っ」
昇の石が蒼白い、微かな光を発しはじめた。昇の手にも同じ光が生まれる。
石が変形をはじめる。ぐぐっ、と伸びて杖の形になり、先端の石から水流が環を作る。
「昇、変身せずにそれ起動させるなんて……」
明里が驚きを隠せない声を口にする。
水環から流れ出す液体が、くるみの全身を包んだ。
「浅賀さん……浅賀さん、浅賀さん――っ」
昇の喉から、悲痛な声が滲み出る。
膜のようにくるみを覆った液体が、とくんと揺れた。
昇が長い息を吐く。
もう一度、とくんと液体が揺れ震える。
次第に揺れは感覚を短くしてゆき、それに反比例してくるみにまとった液体は少なく、薄くなってゆく。
その液体内から、気泡が浮かび上がった。
「浅賀さんっ!」
ごぽっ、と大きめの泡が弾けた。
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