義姉の身代わりだった私

雨雲レーダー

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名を継ぐ者 2

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 カツ、カツとヒールの音が響く。

 その瞬間、場の空気がすっと引き締まったのを感じた。全員の視線が、こちらへ向かう。

 セリーナ夫人がすぐに立ち上がる。

「今日は、わたくしたちノルステッド家の新しい家族を皆さまにご紹介いたします」

 彼女はエレナの手を取り、はっきりと告げる。

「ノルステッド家の新たな娘、エレナです」

 沈黙が一瞬だけ流れた。

 だがそれはほんの一拍のこと。すぐに微笑を浮かべて席を立つ者が現れた。

「まあ……それはおめでとうございますわ、公爵夫人。なんてお綺麗なお嬢様かしら」

「前に王宮でお見かけしたような……気品がありますのね」

 一人、また一人と言葉が続く。やがて、視線の中にあった探るような警戒心が、緩やかにほどけていくのがわかった。

 エレナは一歩前へ出て、床を滑るような所作でカーテシーを深く取った。動きに一切の無駄がなく、王宮で叩き込まれた礼儀がその身に刻まれていることが、一目でわかる。

「このたびはお目にかかれて光栄に存じます。皆さまのお時間をいただけたことに、心より感謝申し上げます。まだまだ未熟者ではございますが、どうぞよろしくお願いいたします」

 その声は凛と澄み、その場の空気すら一瞬静まり返った。
 ふと、目の前にいた夫人の一人が、低く笑った。

「未熟者、などと謙遜なさらないで。挨拶ひとつ取っても、見事なものですわ」

 夫人の一人が、紅茶を手にしながら笑みを浮かべた。

「ご挨拶も立ち居振る舞いも、とてもお見事ですわね。まるで何年も社交界にいた方のよう。こういった場に慣れていらっしゃるのかしら?」

 エレナは微笑みを返した。

「以前はグリセリア家の者として、王宮に上がる機会をいただいておりました。多少はそのときに学んだことが、今に役立っているのかもしれません」

 その言葉に、別の夫人が頷いた。

「まあ、それで納得しましたわ。やはり立ち姿からして違うもの」

「お若いのに、とても落ち着いていらして。将来が楽しみですわね、公爵夫人」

 セリーナ夫人は柔らかく笑いながらカップを置き、言った。

「ええ、本当にそう思いますの」

 笑いが生まれた。軽やかな空気。
 どこかで何かが動き出す音がしたような気がして、エレナは自分でも気づかぬまま、そっと息を吐いた。

 お茶会が終わる頃には、エレナはすっかり会話の輪の中心にいた。

 セリーナ夫人は終始エレナを見守るようにしながら、場を穏やかに仕切っていく。
 そして客が全員帰った後、夫人は静かに言った。

「上出来だったわ、エレナさん。あなたの立ち居振る舞い、誰もが驚いていたわ。これでもう、あなたがどこから来たかなんて誰も気にしないわ」

 エレナはソファに腰を下ろしながら、小さく笑った。

「失敗しないようにって、それだけ考えてました。でも……楽しかったです」

「そう、それなら良かった」

 セリーナ夫人は椅子に腰かけ、自分のカップに紅茶を注いだ。

「これが、あなたの新しい始まりよ。次は、もっと多くの人の前で、あなたの名前を知らせていくことになるわ」

「……それが、私の役目ですか」

「そう。そして誇りでもあるのよ」

 広間の静けさの中で、紅茶の香りだけがふんわりと漂った。
 エレナは、湯気の向こうに揺らめく覚悟をひとつ胸に刻んでセリーナ夫人に笑顔を返した。
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