アリス☆ランチ

三森まり

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ぽじしょんシンドローム 

ぽじしょんシンドローム 03

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今は家ではなく寮生活中なので早々に帰宅した祠堂が直ぐ様ジャージ姿に着替え資料とノートを持って風祭の部屋にやって来た。

狭い部屋は座る場所が無く二人で勉強する時は談話室に行くのだが1組用に特別に作られた資料を他の者に見られるは不味いだろうと風祭の部屋を訪れた祠堂はベッドに座りこむと直ぐ様勉強に集中し始める。
もともと、祠堂は頭が悪いわけではない
成績は確かに「低い」と断言できる点数しかこれまでとってきてないが、彼の中でテスト勉強の優先順位が低かったため最低限の時間しか割り振りしなかったしなかった為の結果に過ぎない。
私立の名門中学に入る時と、高校の課題で基礎をみっちりと叩き込まれている祠堂は少しのアドバイスで佐野達の作成した資料内容を確実に自分の中に消化していく
帰ってからの3時間、食事を終えての3時間…、いっそ怖い程の集中力に水をささないよう風祭は聞かれた箇所を丁重に教える以外の口は挟まない。
ペンを走らせる音と、時折理解できない所を聞く祠堂の声とそれに答える風祭の声だけが響く部屋
ふいにペンを止めた風祭が祠堂に話かけた。

「社会は覚えるのが中心だから、俺席を外して良いかな?」

机に座って自分のぶんの勉強をしていた風祭をプリントから顔を上げた祠堂が何事かと見上げる。

「お茶と、小腹が空いたろ?何か甘いものを作ってきてやるよ」

それに祠堂の声ではなく腹の虫が答えたのに、二人で笑う。

「リクエストして良いか?」

一頻り笑いあった後、祠堂が風祭に問うのに風祭がまだ笑いを残したふんわりした笑顔で頷いてくれる。

「おにぎりと、ウインナーと、甘いだし巻き卵が良い」

それはもう、小腹を満たすどころではないんじゃないと目を丸くする風祭がちょっと小首を傾げた後「わかったよ」と祠堂に承諾の意思を伝えた。

「少し時間かかるかもしれないけど…」

「勉強怠けず待ってる!」

胸を張る祠堂に、ゆるやかに椅子から立ち上がる風祭が寮の台所に向かったのだった。






「風祭、湯が沸騰しているぞ」

ふいに声をかけられ振り返った風祭はそこに訝しげに黒い瞳を眇自分を伺う人を見つける。

「あ、うん、ありがとう、一宮」

答え慌ててガスのスイッチを切ろうとする風祭は、家のキッチンとは違う高さのガス台に目測を誤った。

「危ない!」

危うく素手でケルトに触る羽目になる所だった風祭の腕を速く掴み一宮が引き止める。
勢い良く引かれた力に風祭は思わずバランスを崩した。
そのまま自分を受け止めてくれる一宮の胸の中で、風祭が赤くなって謝る。

「す…まない」

「嫌、それより何か心配事でもあるのか、心ここに在らざるっといった感じだったが」

心配して聞いてくる一宮の胸から体制を立て直した風祭がその長いまつ毛を1.2度と瞬かせ後今度は気をつけてゆっくりとコンロのスイッチを消した。

「どこから話せば良いのかちょっと困るんだが…祠堂が自分…俺の事、疑ってるのかって思って…」

「まさか、そんな事はありえない、何か引っかかる事があれば本人に聞け、自分の中で考えるだけでは正しい答えは出せないぞ」

即座に答える一宮に、風祭が大きな瞳を見開いた。
少しの戸惑いを見せた後、風祭がそっと頷く。

「…あの時と同じだな…間違いを又繰り返してる…、懲りてないわけじゃないのに…性格を変えるのは難しいな…
迷惑をかけて、本当に済まない」

苦い記憶を思い出しているんだろう風祭に一宮が優しく声をかける。

「いや口に出さない人の思いを汲み取ろうと考える
それは、風祭の長所でもあるのだし深く気に病む事じゃないさ」

一宮の言語に風祭が微笑む、そこに如月が入ってきた。
正確に言えば、対面式のキッチンから見渡せる談話室で一宮との待ち合わせをしていた如月がそこの現れたのだが。

「夜食か?美味そうだな」

如月が手にしていたプリントは3年前に出された1年の学期末のテストだった。
考える事はみな同じなのだなと思いながら風祭が皿に山盛りになったおにぎりをゴーグル越しに見つめる如月に尋ねる。

「食べるか?余ったら冷凍させるつもりで沢山作ったから」

「頂こう」と機嫌良く答える如月にキッチンの横にある棚から皿を2枚出し、風祭がノリの巻いてあるものと無いものをそれぞれ各1つとタコの形をしたウインナーとだし巻き卵をのせてくれる。

「ノリの巻いてあるのは梅干で、巻いてないのはかつおぶしだからな」

皿の中を説明し序にとふたりにお茶を入れてから自室に帰る風祭を、一宮と如月は礼を言いながら見送る。
風祭がキッチンから消えた後、手を洗い皿を持ち談話室に向かう如月がふっと口した言葉に一宮は皿を思わず取り落としかけた。

「もし、お前が風祭が欲しいというのなら、俺は祠堂ではなくお前に味方するぞ」

体制を立て直し机に皿をすこし乱暴に置く一宮が「からかうな」と如月を少し赤い顔をして軽く睨み付ける。
しかし、一宮の向かいに座る如月の顔にからかいの気配は毛ほども無かった。

「もう少し早くお前が自分の気持ちに気付いていれば…何とかしようもあったろうに…
阻止するならともかくも、手とり足とり協力するなど、もっと自分の感情を優先しても良いんじゃないか?
あの時も、今も…な」

頂きますと行儀良く手を合わせ、おにぎりを食べ始める如月に一宮が薄く笑う。

「無理矢理、自分のものにする為に風祭を泣かせるくらいなら
自分が泣く方がマシだ」

出会った瞬間に恋に落ちて、同時に失恋した…あまりに呆気無い恋の結末
思い出がないぶん早くに立ち直れるかと思ったが、相手がどんどん美しくなるのに戸惑いその儚い笑を守りたいと思った、それは本当の気持ちで…

「勿論、全部が綺麗な感情だけじゃないけどな…」

小さく呟く一宮がゆっくりとだし巻き卵を口に放り込む。
絶妙な甘みに舌堤を打ちしばし無言で夜食を楽しむ二人は大きな足音を立て廊下を走ってくる音に何事かとドアを見やる。

少し乱暴に扉が開かれたそこに祠堂の姿が現れ二人の姿を確かめると一息呼吸を整えた後、少し苦しげに声を発したのだった。

「春崎を庇って野々宮が怪我したって連絡があった…」

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