追放されたデバフ使いが実は対ボス最終兵器でした〜「雑魚にすら効かない」という理由で捨てられたけど、竜も魔王も無力化できます〜

チャビューヘ

文字の大きさ
1 / 58

第1話【無能の烙印】

しおりを挟む
 第1話【無能の烙印ラクイン

「お前を、このパーティから追放する」

 マルセルの声が、雨上がりの石畳に冷たく響いた。

 早朝六時。王都ギルドの前で、俺は立ち尽くしていた。

 雨上がりの石畳が、朝日を反射してマブしい。

 夜明け前の雨が洗い流した街路には、まだ人影もまばらだ。

 ギルドの大扉はまだ開いておらず、俺たちの他には誰もいない。

 マルセルの後ろには、カミラ、ブライト、リナが立っている。

 五年間、共に戦ってきた仲間たち。

 いや、今は「かつての」仲間、か。

「理由は説明するまでもないだろう」

 マルセルは腕を組んで言った。

 俺様口調が、いつもより尊大に響く。

「お前のデバフ、雑魚敵にすらかかってないじゃないか」

「これじゃ欠陥スキルだろ」

「だから俺たちのエリアには弱い魔物しか出てこないんだよ」

「お前がいる限り、俺たちは強くなれない」

 雑魚敵しか出ない。

 それは、違う。

 まったく逆だ。

「マルセル、それは誤解だ」

 俺は冷静に言葉を選んだ。

「デバフは敵のレベルを相対的に」

「黙ってろ!」

 カミラが割り込んできた。

 彼女の声には、明らかな嘲りが混じっている。

「五年間、あなたは何の役にも立ってないわ」

「デバフ使いなんて、最初からいなかったのと同じよ」

 彼女はマルセルに視線を送り、同意を求めるように微笑んだ。

 五年間。

 千八百二十五日。

 毎朝、仲間の装備を点検した。

 毎晩、翌日の作戦を立案した。

 補給品の調達、情報収集、ギルドへの報告書作成。

 全て、俺が担当していた。

 だが、その五年間で、俺がボス部屋に入ったことは一度もない。

「補助職はボス戦には不要だ。外で待機していろ」

 最初の年に言われたその言葉が、いつしか当然になっていた。

 二年目も、三年目も、「次は一緒に」

 という約束は果たされなかった。

 気づけば、俺はいつも扉の外だった。

「お前がボスと戦えないのは、実力がないからだ」

 ブライトが無感情に付け加えた。

 彼は視線を合わせない。

 かつて、俺が彼の命を救ったあの日も、こんなふうに目を逸らしていた。

「お前みたいな無能に、ボスは任せられない」

 マルセルが断言する。

「五年間?よくやってくれた。だが、それも今日までだ」

 マルセルは懐から小さな袋を取り出した。

 そして、俺の足元に投げつける。

 鈍い音を立てて、袋がれた石畳に転がった。

「退職金だ。銅貨三百枚。五年分としては十分だろう」

 三百枚。

 俺の頭が、自動的に計算する。

 一日あたり、銅貨0.16枚。

 一食の価格にもならない額だ。

「あの……マルセル」

 リナが小さな声で言った。

「もう少し考え直しては……」

 彼女の目には、申し訳なさそうな色がある。

 だが、マルセルの視線に遭って、すぐに口を閉じた。

 彼女の指が、胸の前で握り合わされる。

 それだけだ。

「決定は変わらない」

 マルセルが冷たく言い放つ。

「今日限りで、お前はこのパーティのメンバーじゃない」

「ギルドカードを返せ」

 俺は黙って、ギルドカードを差し出した。

 感情的になっても無駄だ。

 マルセルの理論には三つの論理的矛盾がある。

 第一に、デバフの効果範囲は対象の元のレベルに依存する。

 第二に、雑魚に見えるのはデバフ後の状態だ。

 第三に、本来のレベルを測定していない。

 だが、説明しても彼は聞かないだろう。

 結論を決めている人間に、論理は通じない。

「ふふっ」

 カミラが満足そうに笑った。

「これからは本当の魔法使いを入れるから」

「さようなら、アクセルさん」

 ブライトは相変わらず無表情だ。

 リナはウツいている。

 彼女の肩が、小さく震えているように見えた。

 五年間の終わり。

「では、失礼します」

 俺は転がった袋を拾い上げ、キビスを返した。

 背後から、カミラの笑い声が聞こえる。

 マルセルの「やっと解放されたな」

 という声も。

 リナが何か言いかけて、止める気配。

 けれど、俺は振り返らなかった。

 雨上がりの街路を歩く。

 手には銅貨三百枚の袋。

 懐には何もない。

 所持金は、これだけだ。

 だが。

 不思議と、胸のつかえが取れたような気がした。

 五年間、俺は自分の力を確かめる機会がなかった。

 デバフが「雑魚敵に効かない」のか。

 それとも、効きすぎて全てが雑魚に見えているだけなのか。

 その答えを、俺は一度も確かめられなかった。

 今日から、俺は自分の本当の強さを知ることができるのかもしれない。

 そして。

 あいつらが間違っていたことを、証明できるのかもしれない。

 俺の手が、腰の短剣に触れる。

 五年間、実戦で一度も使わなかった武器。

 だが、手入れだけは欠かさなかった。

 雨上がりの空が、少しずつ明るくなっていく。

 新しい朝だ。

 俺にとっては、追放された朝。

 だが同時に、何かが始まる朝でもあった。

 石畳を踏みしめて、俺は歩き出す。

 冒険者ギルドの建物が、背後に遠ざかっていく。

 五年間の終わり。

 そして、新しい始まり。

 まだ誰も知らない。

 この「無能」と呼ばれた男が、これから何を成すのかを。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。 底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。 ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。 だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。 翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

処理中です...