追放されたデバフ使いが実は対ボス最終兵器でした〜「雑魚にすら効かない」という理由で捨てられたけど、竜も魔王も無力化できます〜

チャビューヘ

文字の大きさ
2 / 58

第2話【真価を知らぬまま】

しおりを挟む
 第2話【真価を知らぬまま】

 安宿『銅の枝亭』の二階。

 窓から差し込む午後の光が、ホコリを浮かび上がらせていた。

 ベッドに腰を下ろし、俺は懐の袋を開ける。

 銅貨がチャリチャリと音を立てた。

「三百枚か」

 指先で数える。

 間違いない。

 この額で、どれだけ生活できる?

 一泊二食付きでこの宿は銅貨十枚。

 つまり三十日分。

 一ヶ月後には路頭に迷う計算だ。

 手が、自然と拳を握る。

 五年間。

 千八百二十五日。

 その対価が、たったこれだけ。

 いや。

 違う。

 感情的になっても意味がない。

 俺は深く息を吸った。

 吐く。

 落ち着け、アクセル。

 冷静に分析しろ。

 問題は報酬額ではない。

 問題は、マルセルの言葉だ。

『お前のデバフは雑魚敵にすら効いていない』

 その判断が、根本的に間違っている。

 俺のスキル【弱体化】は。

 脳裏に、スキルの詳細が浮かぶ。

 五年前、冒険者登録をした日。

 ギルド職員が驚いた顔を今でも覚えている。

「デバフ特化……珍しいですね」

 そう言われた。

 【弱体化 Lv.5】

 効果:対象の全能力を三十パーセント減少させる。

 持続時間:十分間。

 射程:視認可能な範囲。

 制限:一度に一体まで。

 数値だけ見れば、確かに地味だ。

 三十パーセント。

 ゴブリンの攻撃力が十から七になる程度。

 体感できる差ではない。

 だからマルセルは「効いていない」と判断した。

 でも。

 俺には、ずっと疑問があった。

 なぜゴブリンすら倒せないんだ?

 レベル五のスキルなのに。

 試しに、あの時。

 三年前の森での出来事を思い出す。

 マルセルたちがオーク討伐に向かった日。

「アクセル、お前は見張りだ。外で待ってろ」

 いつもの台詞。

 だが、あの日は違った。

 洞窟の入口で待機中、別のオークが現れた。

 レベル三十。

 単独では勝てない相手。

 トッに【弱体化】を発動した。

 オークの動きが鈍った。

 明らかに、鈍った。

 俺の短剣が、通常なら弾かれる皮膚に刺さった。

 辛うじて撃退できた。

 あれは、何だったんだ?

 ゴブリンには効かないのに、オークには効いた?

 おかしい。

 レベルが高い方が、デバフは効きにくいはずだ。

 それとも――

 指が、自然と顎に触れる。

 考えろ。

 もし、逆だったら?

 もし、対象のレベルが高いほど効果が増すスキルだったら?

 仮説:【弱体化】の効果は対象の元の能力値に比例する。

 ゴブリン(Lv.10)→三十パーセント減少→体感できず。

 オーク(Lv.30)→三十パーセント減少→明確な差。

 だとすれば。

 マルセルが俺を雑魚狩りにしか連れて行かなかったから。

 俺の真価が、一度も発揮されなかった。

 息が、喉の奥で引っかかる。

 五年間。

 ずっと、証明する機会がなかった。

「兄ちゃん」

 ドアがノックされる。

「晩飯の時間だよ」

 低く、しゃがれた声。

 宿の主人だ。

「……はい」

 俺は立ち上がった。


 一階の食堂は、薄暗く静かだった。

 他に客はいない。

 木製のテーブルに、パンとスープが置かれる。

「ゆっくり食べなされ」

 主人は、そう言って向かいの席に座った。

 白髪混じりの髪。

 深いシワが刻まれた顔。

 だが、目だけは穏やかだった。

「元気ないね」

 主人が口を開く。

「……ええ、まあ」

 俺はスープに口をつけた。

 塩味が、疲れた体に染みる。

「パーティから追い出されたんだろう?」

 ずばりと言われた。

 驚いて顔を上げる。

「なぜ」

「この宿に一人で来る冒険者は、大抵そうさ」

 主人は苦笑した。

「顔に書いてある。『居場所を失った』ってな」

 否定できなかった。

 俺は黙ってパンをちぎる。

「デバフ使いなんです」

 なぜか、口が勝手に動いた。

「五年間、雑魚狩りばかりで。ボス戦は一度もなくて」

「で、追放されたと」

「……はい」

 主人は、ゆっくりとウナズいた。

 何かを思い出すような、遠い目をしている。

「デバフねえ」

 主人の指が、テーブルを軽くタタく。

「昔、ここを通った冒険者でのう」

「冒険者……ですか」

「ああ。もう三十年も前の話じゃが」

 主人の声が、少し低くなった。

「その男もデバフ使いでな。皆から『役立たず』

 と呼ばれておった」

 俺の手が、止まる。

「じゃが、ある日のことじゃ」

 主人は遠くを見つめた。

「北の山に竜が現れた」

「竜……」

「そうじゃ。古代竜グラナドスという、恐ろしい獣でな」

 主人の目が、わずかに細まる。

「王国軍も、S級冒険者たちも、誰も敵わなかった」

 息をむ。

 竜。

 伝説の中にしか存在しないと思っていた。

「じゃが、その『役立たず』

 のデバフ使いがおったおかげで」

 主人はゆっくりと、一息ついた。

「竜を倒せたんじゃ」

「どうやって」

「デバフをかけたら、竜の動きが子供のように鈍くなったそうな」

 主人は笑った。

「強い相手ほど、デバフは効く。そういう話じゃった」

 心臓が、強く脈打つ。

 強い相手ほど。

 まさに、俺の仮説と同じだ。

「その人は、今どこに」

「さあてな。旅立ってしもうて、消息は知らん」

 主人は首を振った。

「じゃが、その男が言っておったそうじゃ」

 主人の目が、真っ直ぐ俺を見る。

「『弱い敵ばかり相手にしていたら、自分の本当の力は分からない』とな」

 喉が、カラカラに乾いた。

 水を飲む。

 手が、わずかに震えている。

「兄ちゃん」

 主人が、優しく言った。

「お前さんの力が本物かどうかは、わしには分からん」

「でも、もしかしたら――お前さんも、その男と同じかもしれんのう」

 胸の奥が、熱くなる。

 もしかしたら。

 俺のスキルも、本当は。

「ありがとうございます」

 俺は深く頭を下げた。

「少し、希望が見えました」

「それは良かった」

 主人は立ち上がる。

「明日からどうするつもりじゃ?」

「ギルドに行きます」

 俺は答えた。

「ソロで、強い敵と戦える依頼を探します」

「そうか」

 主人は満足そうに笑った。

「なら、早く寝なされ。朝は早い方がいい」

「はい」


 部屋に戻り、ベッドに横になる。

 窓の外で、月が昇り始めていた。

 竜を倒したデバフ使い。

 伝説かもしれない。

 作り話かもしれない。

 でもそれが本当なら。

 俺にも、可能性がある。

 五年間、証明できなかった力。

 明日から、それを試せる。

 不安はある。

 失敗するかもしれない。

 でも、このまま何もしないよりはいい。

 目を閉じる。

 明日、新しい一歩を踏み出す。

 この『無能』が、本当は何者なのか

 それを、自分自身で確かめるために。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった

椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。 底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。 ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。 だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。 翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。

S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました

白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。 そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。 王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。 しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。 突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。 スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。 王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。 そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。 Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。 スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが―― なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。 スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。 スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。 この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります

俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜

早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。 食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した! しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……? 「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」 そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。 無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!

帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす

黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。 4年前に書いたものをリライトして載せてみます。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜

KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。 ~あらすじ~ 世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。 そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。 しかし、その恩恵は平等ではなかった。 富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。 そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。 彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。 あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。 妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。 希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。 英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。 これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。 彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。 テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。 SF味が増してくるのは結構先の予定です。 スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。 良かったら読んでください!

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

処理中です...