19 / 58
第19話 【大型依頼の発生】
しおりを挟む
第19話 【大型依頼の発生】
その日の朝は、いつもと違っていた。
ギルドの扉を開けた瞬間、アクセルは空気の変化に気づく。
受付嬢たちの表情が硬い。
冒険者たちの声も、妙に小さい。
何かが、起きている。
「アクセルさん」
エミリアが駆け寄ってきた。
息を切らしている。
「ギルドマスターが、お呼びです」
「ガレスさんが?」
「はい。至急、と」
エミリアの顔に、不安の色が浮かんでいた。
アクセルは階段を上がる。
三階。
ギルドマスターの執務室だ。
扉の前で、一度深呼吸をした。
ノックする。
「入れ」
低い声が応えた。
アクセルは扉を開けた。
部屋の中は薄暗い。
窓のカーテンが閉められている。
ガレスが、机の前に立っていた。
腕を組んでいる。
その表情は、今まで見たことがないほど厳しかった。
「来たか」
「はい。何か……」
「座れ」
アクセルは促されるまま、椅子に腰を下ろした。
ガレスは動かない。
沈黙が、部屋を満たす。
時計の秒針だけが、規則正しく刻まれていく。
「アクセル」
ガレスが、ようやく口を開いた。
「お前に、頼みたいことがある」
「頼みたいこと、ですか」
「ああ」
ガレスは窓の方へ歩いた。
カーテンを開ける。
外の景色が見えた。
遠くに、山脈が連なっている。
「古代竜が、目覚めた」
アクセルの息が、止まった。
「竜……ですか」
「ああ。グラナドス、と呼ばれている」
ガレスの声が、重い。
「レベル80相当だ」
「はち、じゅう……」
アクセルは思わず聞き返した。
信じられない数字だ。
今まで戦った中で最強のストーンゴーレムでも、レベル60。
それよりも、さらに上。
「通常の竜討伐は、レベル40から50程度だ」
ガレスが説明を続ける。
「だが、グラナドスは格が違う」
「……どのくらい、違うんですか」
「50年前、最後に目撃されたときのことだ」
ガレスは振り返った。
その目には、遠い過去を見るような光が宿っている。
「討伐隊が、300名編成された」
「300……」
「全滅した」
その一言が、部屋の空気を凍らせた。
「隣国の要塞が、一晩で灰になった」
ガレスは淡々と語る。
「生き残った者は、3名だけだ」
「それで、その3名は……」
「全員、廃人になった」
アクセルの背筋が、冷たくなる。
「恐怖で、正気を失ったそうだ」
ガレスは机に戻り、椅子に座った。
「なぜ、そんな竜が今……」
「分からん」
ガレスは首を振った。
「50年間、眠っていた。理由は不明だ」
「だが、昨夜、北の山脈で咆哮が聞かれた」
「目覚めた、ということですか」
「ああ」
アクセルは拳を握りしめた。
手が、震えている。
レベル80。
300名が全滅。
要塞が灰。
どれも信じがたい話だ。
だが、ガレスの表情が、それが真実だと物語っている。
「それで……俺に、何を」
「討伐を、頼みたい」
ガレスが、まっすぐアクセルを見た。
「お前と、お前のパーティに」
「……は?」
アクセルは、自分の耳を疑った。
「俺たちが、ですか」
「ああ」
「でも、俺はまだA級になったばかりで……」
「知っている」
ガレスは手を上げた。
「普通なら、こんな依頼は出さない」
「S級でも、断るレベルだ」
「だったら、なぜ……」
「お前のデバフだ」
ガレスが身を乗り出した。
「あれは、対象が強いほど効果が増す」
「そうですが……」
「ストーンゴーレム戦を見た」
ガレスの目が、鋭くなる。
「レベル60のゴーレムに、70パーセント以上の弱体化」
「もし、グラナドスに同じことができれば……」
アクセルは息を呑んだ。
確かに、理屈は分かる。
だが。
「できるか、分からないです」
「分かっている」
ガレスは頷いた。
「賭けだ。危険な賭けだ」
「だから、無理にとは言わない」
その言葉に、アクセルは顔を上げた。
「断っても構わない」
ガレスの表情が、少しだけ和らいだ。
「これは、ギルドマスターとしての依頼じゃない」
「一人の人間として、頼んでいる」
アクセルは、ガレスの目を見た。
そこには、懇願があった。
同時に、覚悟も。
「……報酬は」
「金貨500枚だ」
アクセルの目が、見開かれた。
「ごひゃく……」
「それに加えて、王国からの特別褒賞がある」
ガレスが続けた。
「名誉称号。貴族への推薦状。望むなら土地も」
「さらに……」
ガレスは一度、言葉を切った。
「グラナドスを倒した者は、歴史に名を刻む」
「英雄だ」
アクセルの心臓が、高鳴る。
金貨500枚。
今まで稼いだ全ての報酬を合わせても、届かない額だ。
それに、名誉。
英雄。
だが。
命を賭ける価値が、あるのか。
「少し、考える時間を……」
「ああ。ゆっくり考えろ」
ガレスは頷いた。
「ただし、時間はあまりない」
「グラナドスは、北の山脈から南下している」
「このままでは、一週間以内に王都に到達する」
アクセルは立ち上がった。
足が、少し震えている。
「分かりました。仲間と、相談します」
「ああ。待っている」
アクセルは部屋を出た。
扉を閉める。
廊下に、一人。
壁に手をついた。
呼吸が、荒い。
竜。
レベル80。
300名全滅。
自分が、戦えるのか。
いや、戦うべきなのか。
頭の中が、混乱していた。
銀の翼亭に戻ると、クリスたちが待っていた。
いつもの席だ。
「アクセル、遅かったな」
ダリウスが手を振る。
「ギルドマスターに呼ばれてたんだって?」
ミラが心配そうに尋ねた。
「ああ……」
アクセルは席に座った。
三人の視線が、集まる。
「実は……」
アクセルは、ガレスから聞いた話を全て語った。
古代竜グラナドス。
レベル80。
討伐依頼。
報酬。
全てを。
話し終えると、沈黙が訪れた。
ミラの顔が、青ざめている。
ダリウスは、腕を組んで黙っている。
クリスだけが、冷静な表情だった。
「……データが足りない」
クリスが最初に口を開いた。
「グラナドスの詳細な情報を、ギルドから入手する必要がある」
「弱点、行動パターン、ブレスの種類」
「でも、50年前の話ですよ」
ミラが不安げに言う。
「記録は残っているはずだ」
クリスは即答した。
「それに……」
クリスは、アクセルを見た。
「アクセルのデバフが、どこまで効くか」
「それ次第だ」
「効けば、勝てる」
その言葉に、アクセルは息を呑んだ。
「本気、ですか」
「ああ」
クリスは頷いた。
「リスクは高い。だが、可能性はある」
「おい、クリス」
ダリウスが口を開いた。
「お前、マジで行く気かよ」
「データを見てから判断する」
クリスは答えた。
「ただし、行くなら全力で行く」
「中途半端は、死を意味する」
ダリウスは、大きく息を吐いた。
「……俺はな」
ダリウスがアクセルを見る。
「お前を信じてる」
「ストーンゴーレム戦を見た」
「お前のデバフは、本物だ」
「だから……」
ダリウスは拳を握った。
「行くなら、一緒に行く」
「ダリウス……」
「でも」
ミラが小さく言った。
「怖い、です」
その声が、震えている。
「竜なんて……私、戦ったことないし」
「レベル80なんて、想像もできない」
アクセルは、ミラの肩に手を置いた。
「無理に、とは言わない」
「怖いなら、待っててもいい」
「……ダメです」
ミラは首を振った。
「一緒に、行きます」
「みんなで戦ってきたんです」
「今さら、一人だけ逃げるなんて」
ミラの目に、涙が浮かんでいた。
だが、その瞳には決意があった。
「……ありがとう」
アクセルは、三人を見た。
クリスの冷静な瞳。
ダリウスの力強い笑み。
ミラの震える決意。
みんな、ここにいる。
一緒に、戦ってくれる。
「俺は……」
アクセルは立ち上がった。
「やる」
「グラナドスを、倒す」
その言葉に、三人が顔を上げた。
「俺のデバフが、どこまで効くか分からない」
「でも、試す価値はある」
「それに……」
アクセルは拳を握った。
「俺は、もう無能じゃない」
「証明したい。自分の力を」
「よし!」
ダリウスが立ち上がった。
「じゃあ、決まりだな!」
「竜退治だ!」
クリスも頷いた。
「明日、ギルドで詳細を詰める」
「装備も、見直す必要がある」
ミラは、目の端を拭った。
「頑張りましょう、ね」
四人は、顔を見合わせた。
そして、笑った。
不安はある。
恐怖もある。
だが、仲間がいる。
信じ合える仲間が。
翌朝、アクセルたちはギルドに向かった。
ガレスの執務室だ。
「来たか」
ガレスが、四人を見た。
「返事を聞かせてもらおう」
「受けます」
アクセルが、まっすぐ答えた。
「古代竜グラナドス、討伐します」
ガレスの目が、僅かに見開かれた。
そして、深く頷いた。
「……分かった」
「正式に、依頼として受理する」
ガレスは書類を取り出した。
「出発は、明日の夜明けだ」
「準備期間は、一日しかない」
「分かっています」
クリスが答えた。
「必要な情報と、装備の調達を」
「ああ。全て用意させる」
ガレスは四人を見回した。
「……一つだけ、言っておく」
その声が、重くなる。
「無理だと思ったら、逃げろ」
「命より大事なものは、ない」
「はい」
アクセルは頷いた。
「でも、やれるだけやってみます」
ガレスは、小さく笑った。
「……頼もしくなったな」
「あの日、ギルドの前で追放されていた男とは思えん」
アクセルは、苦笑した。
「色々、ありましたから」
「ああ。だが……」
ガレスは真剣な目をした。
「生きて、戻ってこい」
「英雄になるのは、それからだ」
「はい」
四人は、執務室を出た。
廊下を歩く。
明日の夜明け。
竜との戦いが、始まる。
アクセルは窓の外を見た。
北の山脈が、遠くに見える。
あそこに、グラナドスがいる。
レベル80の、古代竜が。
拳を、握りしめた。
恐怖はある。
だが、退くわけにはいかない。
これは、俺の戦いだ。
自分の力を、証明する戦い。
「アクセル」
クリスが呼んだ。
「装備の確認に行くぞ」
「ああ」
アクセルは、仲間のもとへ駆けた。
その夜。
アクセルは宿の部屋で、荷物をまとめていた。
回復薬。
予備の武器。
防寒具。
一つ一つ、確認していく。
窓の外は、暗い。
星が、いくつか見えた。
明日の天気は、どうだろう。
晴れるだろうか。
それとも。
ふと、視線を北に向ける。
山脈の向こう。
そこに、竜がいる。
まだ見ぬ、巨大な敵が。
アクセルは深呼吸をした。
そして、ベッドに横になる。
明日に備えて、眠らなければ。
だが、目が冴えていた。
天井を、見つめる。
どれくらいの時間が経っただろう。
ノックの音が、した。
アクセルは起き上がった。
「どなた、ですか」
「私だ」
クリスの声だった。
扉を開けると、クリスが立っていた。
その手には、小さな包みがある。
「これを」
クリスが、包みを差し出した。
「何ですか」
「お守りだ」
アクセルは、包みを受け取った。
開けると、中には小さな石が入っていた。
青い、綺麗な石だ。
「これは……」
「昔、師匠にもらったものだ」
クリスが言った。
「困ったときは、これを握れと言われた」
「でも、クリスさんの大事なもの……」
「今は、お前が持っていろ」
クリスは、いつもの冷静な表情だった。
だが、その目には優しさがあった。
「明日、一緒に戦う」
「だから、生きて帰ってこい」
「……はい」
アクセルは、石を握りしめた。
温かい。
クリスは、そのまま立ち去った。
アクセルは扉を閉める。
手の中の石を、見つめた。
そして、小さく笑った。
大丈夫だ。
一人じゃない。
仲間がいる。
信じてくれる仲間が。
アクセルは石をポケットに入れた。
そして、再びベッドに横になる。
今度は、すぐに眠りについた。
夢の中で、竜が咆哮していた。
その日の朝は、いつもと違っていた。
ギルドの扉を開けた瞬間、アクセルは空気の変化に気づく。
受付嬢たちの表情が硬い。
冒険者たちの声も、妙に小さい。
何かが、起きている。
「アクセルさん」
エミリアが駆け寄ってきた。
息を切らしている。
「ギルドマスターが、お呼びです」
「ガレスさんが?」
「はい。至急、と」
エミリアの顔に、不安の色が浮かんでいた。
アクセルは階段を上がる。
三階。
ギルドマスターの執務室だ。
扉の前で、一度深呼吸をした。
ノックする。
「入れ」
低い声が応えた。
アクセルは扉を開けた。
部屋の中は薄暗い。
窓のカーテンが閉められている。
ガレスが、机の前に立っていた。
腕を組んでいる。
その表情は、今まで見たことがないほど厳しかった。
「来たか」
「はい。何か……」
「座れ」
アクセルは促されるまま、椅子に腰を下ろした。
ガレスは動かない。
沈黙が、部屋を満たす。
時計の秒針だけが、規則正しく刻まれていく。
「アクセル」
ガレスが、ようやく口を開いた。
「お前に、頼みたいことがある」
「頼みたいこと、ですか」
「ああ」
ガレスは窓の方へ歩いた。
カーテンを開ける。
外の景色が見えた。
遠くに、山脈が連なっている。
「古代竜が、目覚めた」
アクセルの息が、止まった。
「竜……ですか」
「ああ。グラナドス、と呼ばれている」
ガレスの声が、重い。
「レベル80相当だ」
「はち、じゅう……」
アクセルは思わず聞き返した。
信じられない数字だ。
今まで戦った中で最強のストーンゴーレムでも、レベル60。
それよりも、さらに上。
「通常の竜討伐は、レベル40から50程度だ」
ガレスが説明を続ける。
「だが、グラナドスは格が違う」
「……どのくらい、違うんですか」
「50年前、最後に目撃されたときのことだ」
ガレスは振り返った。
その目には、遠い過去を見るような光が宿っている。
「討伐隊が、300名編成された」
「300……」
「全滅した」
その一言が、部屋の空気を凍らせた。
「隣国の要塞が、一晩で灰になった」
ガレスは淡々と語る。
「生き残った者は、3名だけだ」
「それで、その3名は……」
「全員、廃人になった」
アクセルの背筋が、冷たくなる。
「恐怖で、正気を失ったそうだ」
ガレスは机に戻り、椅子に座った。
「なぜ、そんな竜が今……」
「分からん」
ガレスは首を振った。
「50年間、眠っていた。理由は不明だ」
「だが、昨夜、北の山脈で咆哮が聞かれた」
「目覚めた、ということですか」
「ああ」
アクセルは拳を握りしめた。
手が、震えている。
レベル80。
300名が全滅。
要塞が灰。
どれも信じがたい話だ。
だが、ガレスの表情が、それが真実だと物語っている。
「それで……俺に、何を」
「討伐を、頼みたい」
ガレスが、まっすぐアクセルを見た。
「お前と、お前のパーティに」
「……は?」
アクセルは、自分の耳を疑った。
「俺たちが、ですか」
「ああ」
「でも、俺はまだA級になったばかりで……」
「知っている」
ガレスは手を上げた。
「普通なら、こんな依頼は出さない」
「S級でも、断るレベルだ」
「だったら、なぜ……」
「お前のデバフだ」
ガレスが身を乗り出した。
「あれは、対象が強いほど効果が増す」
「そうですが……」
「ストーンゴーレム戦を見た」
ガレスの目が、鋭くなる。
「レベル60のゴーレムに、70パーセント以上の弱体化」
「もし、グラナドスに同じことができれば……」
アクセルは息を呑んだ。
確かに、理屈は分かる。
だが。
「できるか、分からないです」
「分かっている」
ガレスは頷いた。
「賭けだ。危険な賭けだ」
「だから、無理にとは言わない」
その言葉に、アクセルは顔を上げた。
「断っても構わない」
ガレスの表情が、少しだけ和らいだ。
「これは、ギルドマスターとしての依頼じゃない」
「一人の人間として、頼んでいる」
アクセルは、ガレスの目を見た。
そこには、懇願があった。
同時に、覚悟も。
「……報酬は」
「金貨500枚だ」
アクセルの目が、見開かれた。
「ごひゃく……」
「それに加えて、王国からの特別褒賞がある」
ガレスが続けた。
「名誉称号。貴族への推薦状。望むなら土地も」
「さらに……」
ガレスは一度、言葉を切った。
「グラナドスを倒した者は、歴史に名を刻む」
「英雄だ」
アクセルの心臓が、高鳴る。
金貨500枚。
今まで稼いだ全ての報酬を合わせても、届かない額だ。
それに、名誉。
英雄。
だが。
命を賭ける価値が、あるのか。
「少し、考える時間を……」
「ああ。ゆっくり考えろ」
ガレスは頷いた。
「ただし、時間はあまりない」
「グラナドスは、北の山脈から南下している」
「このままでは、一週間以内に王都に到達する」
アクセルは立ち上がった。
足が、少し震えている。
「分かりました。仲間と、相談します」
「ああ。待っている」
アクセルは部屋を出た。
扉を閉める。
廊下に、一人。
壁に手をついた。
呼吸が、荒い。
竜。
レベル80。
300名全滅。
自分が、戦えるのか。
いや、戦うべきなのか。
頭の中が、混乱していた。
銀の翼亭に戻ると、クリスたちが待っていた。
いつもの席だ。
「アクセル、遅かったな」
ダリウスが手を振る。
「ギルドマスターに呼ばれてたんだって?」
ミラが心配そうに尋ねた。
「ああ……」
アクセルは席に座った。
三人の視線が、集まる。
「実は……」
アクセルは、ガレスから聞いた話を全て語った。
古代竜グラナドス。
レベル80。
討伐依頼。
報酬。
全てを。
話し終えると、沈黙が訪れた。
ミラの顔が、青ざめている。
ダリウスは、腕を組んで黙っている。
クリスだけが、冷静な表情だった。
「……データが足りない」
クリスが最初に口を開いた。
「グラナドスの詳細な情報を、ギルドから入手する必要がある」
「弱点、行動パターン、ブレスの種類」
「でも、50年前の話ですよ」
ミラが不安げに言う。
「記録は残っているはずだ」
クリスは即答した。
「それに……」
クリスは、アクセルを見た。
「アクセルのデバフが、どこまで効くか」
「それ次第だ」
「効けば、勝てる」
その言葉に、アクセルは息を呑んだ。
「本気、ですか」
「ああ」
クリスは頷いた。
「リスクは高い。だが、可能性はある」
「おい、クリス」
ダリウスが口を開いた。
「お前、マジで行く気かよ」
「データを見てから判断する」
クリスは答えた。
「ただし、行くなら全力で行く」
「中途半端は、死を意味する」
ダリウスは、大きく息を吐いた。
「……俺はな」
ダリウスがアクセルを見る。
「お前を信じてる」
「ストーンゴーレム戦を見た」
「お前のデバフは、本物だ」
「だから……」
ダリウスは拳を握った。
「行くなら、一緒に行く」
「ダリウス……」
「でも」
ミラが小さく言った。
「怖い、です」
その声が、震えている。
「竜なんて……私、戦ったことないし」
「レベル80なんて、想像もできない」
アクセルは、ミラの肩に手を置いた。
「無理に、とは言わない」
「怖いなら、待っててもいい」
「……ダメです」
ミラは首を振った。
「一緒に、行きます」
「みんなで戦ってきたんです」
「今さら、一人だけ逃げるなんて」
ミラの目に、涙が浮かんでいた。
だが、その瞳には決意があった。
「……ありがとう」
アクセルは、三人を見た。
クリスの冷静な瞳。
ダリウスの力強い笑み。
ミラの震える決意。
みんな、ここにいる。
一緒に、戦ってくれる。
「俺は……」
アクセルは立ち上がった。
「やる」
「グラナドスを、倒す」
その言葉に、三人が顔を上げた。
「俺のデバフが、どこまで効くか分からない」
「でも、試す価値はある」
「それに……」
アクセルは拳を握った。
「俺は、もう無能じゃない」
「証明したい。自分の力を」
「よし!」
ダリウスが立ち上がった。
「じゃあ、決まりだな!」
「竜退治だ!」
クリスも頷いた。
「明日、ギルドで詳細を詰める」
「装備も、見直す必要がある」
ミラは、目の端を拭った。
「頑張りましょう、ね」
四人は、顔を見合わせた。
そして、笑った。
不安はある。
恐怖もある。
だが、仲間がいる。
信じ合える仲間が。
翌朝、アクセルたちはギルドに向かった。
ガレスの執務室だ。
「来たか」
ガレスが、四人を見た。
「返事を聞かせてもらおう」
「受けます」
アクセルが、まっすぐ答えた。
「古代竜グラナドス、討伐します」
ガレスの目が、僅かに見開かれた。
そして、深く頷いた。
「……分かった」
「正式に、依頼として受理する」
ガレスは書類を取り出した。
「出発は、明日の夜明けだ」
「準備期間は、一日しかない」
「分かっています」
クリスが答えた。
「必要な情報と、装備の調達を」
「ああ。全て用意させる」
ガレスは四人を見回した。
「……一つだけ、言っておく」
その声が、重くなる。
「無理だと思ったら、逃げろ」
「命より大事なものは、ない」
「はい」
アクセルは頷いた。
「でも、やれるだけやってみます」
ガレスは、小さく笑った。
「……頼もしくなったな」
「あの日、ギルドの前で追放されていた男とは思えん」
アクセルは、苦笑した。
「色々、ありましたから」
「ああ。だが……」
ガレスは真剣な目をした。
「生きて、戻ってこい」
「英雄になるのは、それからだ」
「はい」
四人は、執務室を出た。
廊下を歩く。
明日の夜明け。
竜との戦いが、始まる。
アクセルは窓の外を見た。
北の山脈が、遠くに見える。
あそこに、グラナドスがいる。
レベル80の、古代竜が。
拳を、握りしめた。
恐怖はある。
だが、退くわけにはいかない。
これは、俺の戦いだ。
自分の力を、証明する戦い。
「アクセル」
クリスが呼んだ。
「装備の確認に行くぞ」
「ああ」
アクセルは、仲間のもとへ駆けた。
その夜。
アクセルは宿の部屋で、荷物をまとめていた。
回復薬。
予備の武器。
防寒具。
一つ一つ、確認していく。
窓の外は、暗い。
星が、いくつか見えた。
明日の天気は、どうだろう。
晴れるだろうか。
それとも。
ふと、視線を北に向ける。
山脈の向こう。
そこに、竜がいる。
まだ見ぬ、巨大な敵が。
アクセルは深呼吸をした。
そして、ベッドに横になる。
明日に備えて、眠らなければ。
だが、目が冴えていた。
天井を、見つめる。
どれくらいの時間が経っただろう。
ノックの音が、した。
アクセルは起き上がった。
「どなた、ですか」
「私だ」
クリスの声だった。
扉を開けると、クリスが立っていた。
その手には、小さな包みがある。
「これを」
クリスが、包みを差し出した。
「何ですか」
「お守りだ」
アクセルは、包みを受け取った。
開けると、中には小さな石が入っていた。
青い、綺麗な石だ。
「これは……」
「昔、師匠にもらったものだ」
クリスが言った。
「困ったときは、これを握れと言われた」
「でも、クリスさんの大事なもの……」
「今は、お前が持っていろ」
クリスは、いつもの冷静な表情だった。
だが、その目には優しさがあった。
「明日、一緒に戦う」
「だから、生きて帰ってこい」
「……はい」
アクセルは、石を握りしめた。
温かい。
クリスは、そのまま立ち去った。
アクセルは扉を閉める。
手の中の石を、見つめた。
そして、小さく笑った。
大丈夫だ。
一人じゃない。
仲間がいる。
信じてくれる仲間が。
アクセルは石をポケットに入れた。
そして、再びベッドに横になる。
今度は、すぐに眠りについた。
夢の中で、竜が咆哮していた。
24
あなたにおすすめの小説
底辺動画主、配信を切り忘れてスライムを育成していたらバズった
椎名 富比路
ファンタジー
ダンジョンが世界じゅうに存在する世界。ダンジョン配信業が世間でさかんに行われている。
底辺冒険者であり配信者のツヨシは、あるとき弱っていたスライムを持ち帰る。
ワラビと名付けられたスライムは、元気に成長した。
だがツヨシは、うっかり配信を切り忘れて眠りについてしまう。
翌朝目覚めると、めっちゃバズっていた。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
俺だけ永久リジェネな件 〜パーティーを追放されたポーション生成師の俺、ポーションがぶ飲みで得た無限回復スキルを何故かみんなに狙われてます!〜
早見羽流@3/19書籍発売!
ファンタジー
ポーション生成師のリックは、回復魔法使いのアリシアがパーティーに加入したことで、役たたずだと追放されてしまう。
食い物に困って余ったポーションを飲みまくっていたら、気づくとHPが自動で回復する「リジェネレーション」というユニークスキルを発現した!
しかし、そんな便利なスキルが放っておかれるわけもなく、はぐれ者の魔女、孤高の天才幼女、マッドサイエンティスト、魔女狩り集団、最強の仮面騎士、深窓の令嬢、王族、謎の巨乳魔術師、エルフetc、ヤバい奴らに狙われることに……。挙句の果てには人助けのために、危険な組織と対決することになって……?
「俺はただ平和に暮らしたいだけなんだぁぁぁぁぁ!!!」
そんなリックの叫びも虚しく、王国中を巻き込んだ動乱に巻き込まれていく。
無双あり、ざまぁあり、ハーレムあり、戦闘あり、友情も恋愛もありのドタバタファンタジー!
帰って来た勇者、現代の世界を引っ掻きまわす
黄昏人
ファンタジー
ハヤトは15歳、中学3年生の時に異世界に召喚され、7年の苦労の後、22歳にて魔族と魔王を滅ぼして日本に帰還した。帰還の際には、莫大な財宝を持たされ、さらに身につけた魔法を始めとする能力も保持できたが、マナの濃度の低い地球における能力は限定的なものであった。しかし、それでも圧倒的な体力と戦闘能力、限定的とは言え魔法能力は現代日本を、いや世界を大きく動かすのであった。
4年前に書いたものをリライトして載せてみます。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
【もうダメだ!】貧乏大学生、絶望から一気に成り上がる〜もし、無属性でFランクの俺が異文明の魔道兵器を担いでダンジョンに潜ったら〜
KEINO
ファンタジー
貧乏大学生の探索者はダンジョンに潜り、全てを覆す。
~あらすじ~
世界に突如出現した異次元空間「ダンジョン」。
そこから産出される魔石は人類に無限のエネルギーをもたらし、アーティファクトは魔法の力を授けた。
しかし、その恩恵は平等ではなかった。
富と力はダンジョン利権を牛耳る企業と、「属性適性」という特別な才能を持つ「選ばれし者」たちに独占され、世界は新たな格差社会へと変貌していた。
そんな歪んだ現代日本で、及川翔は「無属性」という最底辺の烙印を押された青年だった。
彼には魔法の才能も、富も、未来への希望もない。
あるのは、両親を失った二年前のダンジョン氾濫で、原因不明の昏睡状態に陥った最愛の妹、美咲を救うという、ただ一つの願いだけだった。
妹を治すため、彼は最先端の「魔力生体学」を学ぶが、学費と治療費という冷酷な現実が彼の行く手を阻む。
希望と絶望の狭間で、翔に残された道はただ一つ――危険なダンジョンに潜り、泥臭く魔石を稼ぐこと。
英雄とも呼べるようなSランク探索者が脚光を浴びる華やかな世界とは裏腹に、翔は今日も一人、薄暗いダンジョンの奥へと足を踏み入れる。
これは、神に選ばれなかった「持たざる者」が、絶望的な現実にもがきながら、たった一つの希望を掴むために抗い、やがて世界の真実と向き合う、戦いの物語。
彼の「無属性」の力が、世界を揺るがす光となることを、彼はまだ知らない。
テンプレのダンジョン物を書いてみたくなり、手を出しました。
SF味が増してくるのは結構先の予定です。
スローペースですが、しっかりと世界観を楽しんでもらえる作品になってると思います。
良かったら読んでください!
ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる