追放されたデバフ使いが実は対ボス最終兵器でした〜「雑魚にすら効かない」という理由で捨てられたけど、竜も魔王も無力化できます〜

チャビューヘ

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第25話 【北の領主】

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 第25話 【北の領主】

「お前たちで五組目だ」

 執務室に入った瞬間、ヴァルター領主の第一声がそれだった。

 窓の外で吹雪がえる。ガラスが震える。

 俺は息をんだ。

「前の四組は?」

 クリスが静かに尋ねる。

 領主は答えなかった。代わりに地図を広げる。

 紙が机に広がる音だけが響いた。

「全滅だ」

 言葉が重い。

 ダリウスが腕を組む。ミラが小さく息を吸う音が聞こえた。

 俺の喉が渇く。唾を飲み込んだ。

「こちらへ」

 領主が地図の前に立つ。俺たちも近づく。

 地図には赤い印が七つ。どれも×で消されている。

「村だ。三日前まで、人が住んでいた」

 領主の指が一つの印を示す。

「ここに三百名。ここに百五十。ここは小さな集落で五十」

 指が次々と移動する。

「全て失われた」

 クリスが地図をノゾき込む。

「被害の拡大速度は?」

「加速している」

 領主が窓の方を見た。吹雪が一層激しくなっている。

「最初の村が襲われたのは二週間前。次は五日後。その次は三日後」

「ということは」

 俺は考える。

「次は」

「明日かもしれん」

 領主が振り返る。顔に深いシワが刻まれている。

 一晩で十歳老けたように見えた。

「竜の巣は北の山脈にある。封印の山だ」

 地図の北端を指さす。険しい山々が描かれている。

「封印?」

 ミラが首を傾げた。

「古い伝承だ」

 領主が椅子を引く。座る時、小さくため息が漏れた。

「この地には八つの封印があると言われている」

「八つ?」

 ダリウスが眉を寄せる。

「魔王を封じた八つの守護者。その一つが、あの山に眠っているはずだった」

 領主が机の引き出しを開ける。古い書物を取り出した。

 表紙が焦げている。ページが黄ばんでいる。

「これは?」

 クリスが尋ねる。

「二百年前の記録だ」

 領主が慎重に開く。紙が崩れそうだ。

 ページをめくる音。ホコリが舞う。

 図が描かれていた。八つの円。同心円状に配置されている。

「封印は連鎖している。一つが弱まれば、他にも影響が及ぶ」

「それで竜が?」

「目覚めたのだろう」

 領主の指が震えている。わずかだが、確実に。

 元A級冒険者の手が。

 俺は地図と古文書を見比べた。

 何かが引っかかる。

「待ってください」

 全員の視線が俺に集まる。

「この図の配置と、地図の村の位置が」

 指で図をなぞる。そして地図へ。

「重なる」

 クリスが即座に理解した。

「封印の位置と、被害の場所が一致している」

「そうだ」

 領主がウナズく。

「竜は守護者として封印を守っている。だが封印が弱まり、竜が狂暴化した」

「じゃあ竜を倒したら、封印は?」

 ミラの問いに、領主は古文書の別のページを開いた。

 文字は読みづらい。だが一文だけ、はっきりと残っている。

『弱体化の連鎖』

 俺の心臓が跳ねる。

「これは」

「お前のスキルと同じ原理かもしれん」

 領主が俺を見る。

「古代の魔法使いたちは、強大な敵を倒すために弱体化を連鎖させる技術を持っていたらしい」

 手が震える。自分の手だ。

 俺のデバフは、古代魔法と同じ?

「でも、それって」

 ダリウスが割り込む。

「つまり、アクセルなら竜を倒せるってことか?」

「可能性はある」

 領主が立ち上がった。暖炉へ歩く。

「だが保証はできん。前の四組も、それぞれ優秀な冒険者たちだった」

 炎を見つめる背中。

「特に三組目は、B級最上位のパーティだった。彼らは」

 言葉が途切れる。

「遺体すら見つからなかった」

 沈黙。

 外の風がより強く窓をタタく。

 クリスが口を開いた。

「依頼の詳細を」

「報酬は金貨五百枚。封印の再強化に成功すれば、さらに」

「いえ」

 クリスが手を上げる。

「報酬の話ではなく、竜の特性を」

 さすがだ。彼女は常に実用的だ。

「わかっている情報は少ない」

 領主が机に戻る。別の資料を広げた。「氷を操る。飛行能力がある。体長は推定三十メートル」

「弱点は?」

「不明だ。三組目のリーダーが、腹部が柔らかいかもしれないと報告したが」

「生きて戻れなかったわけだな」

 ダリウスが腕を鳴らす。

「面白くなってきたじゃねえか」

「ダリウス」

 ミラがニラむ。

「真面目に聞いて」

「真面目だぜ。俺は本気でワクワクしてる」

 彼は笑った。だが目は笑っていない。

 本気の目だ。

 俺は地図を見つめる。

 村の位置。×印。

 三百名。百五十名。五十名。

 数字じゃない。人だ。

 生きていた人たちだ。

「やります」

 自分の声が出た。

「俺たちがやります」

 クリスがウナズく。ミラが拳を握る。ダリウスが笑う。

 ヴァルター領主の目に、わずかな光が戻った。

「すまない」

 低い声。

「本当に、すまない」

 彼は深々と頭を下げた。

 領主が。元A級冒険者が。

 頭を下げている。

「明日の朝、出発の準備を整える」

 クリスが言う。「装備の補充は?」

「全て用意する。武器も防具も、最高級のものを」

「では今夜は休ませてもらう」

 俺たちは執務室を出た。

 廊下は寒い。暖炉があっても、寒気が消えない。

「アクセル」

 クリスが立ち止まった。

「大丈夫か?」

「ええ」

 ウソだ。大丈夫なわけがない。

 だが、やるしかない。

「俺のデバフが、本当に効くのかどうか」

「効く」

 彼女が断言した。

「あなたは、ストーンゴーレムもドラゴンリザードも無力化した」

「でも竜は」

「レベルが高いほど、あなたのスキルは強力になる」

 ミラが横から割り込む。

「アクセルくんなら絶対できるよ!」

「おう!」

 ダリウスが俺の肩をタタく。

「俺たちを信じろ!」

 胸が熱くなる。

 この人たちがいる。

 一人じゃない。

「ありがとうございます」

 窓の外で、吹雪が白い渦を巻いている。

 明日、俺たちは竜と戦う。

 古代の守護者と。

 生きて帰れる保証はない。

 それでも。

 やるしかない。

 宿へ向かう途中、雪が顔に当たる。

 冷たい。

 でも、まだ生きている。

 明日も、生きていたい。

 必ず、生き延びてみせる。
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