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第17話 創造主は、救いを書けない
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灰色の涙が、焦土に落ちる。
それは土を濡らし、小さな水溜りを作った。
灰燼は、泣いていた。
炎で焼かれた世界の中心で。
何度も殺されて、何度も殺して。
その果てに、創造主の前で。
子供のように。
「どうして」
掠れた声が、朔の耳に届いた。
「どうして戻ってきた」
錆びた剣を握る手が震えている。
殺意に満ちていたはずの瞳が、今は揺れていた。
朔は、その問いに答えられなかった。
言葉が、喉に詰まる。
何を言えばいい。
何を言う資格がある。
この世界を作って、この人物を生み出して。
そして、捨てたのは自分だ。
「メガネ」
グリムが低い声で呼んだ。
朔の隣で、いつでも動けるように身構えている。
「何か言えよ」
朔は唇を噛んだ。
言葉が出てこない。
いつもなら淀みなく出てくる丁寧語が、喉の奥で詰まっている。
灰燼の涙が、また一筋落ちた。
「待ったんだ」
その声は、呪詛のようで。
けれど、どこか祈りのようでもあった。
「何万回も焼かれて、何万回も立ち上がって」
錆びた剣が下がる。
だが、灰燼の体は震えたままだ。
「いつかお前が戻ってきて、『救い』を書いてくれると。そう信じて」
その言葉が、朔の胸を抉った。
◆
グリムは、朔の横顔を見ていた。
普段は飄々として、皮肉ばかり言って。
どんな時でも冷静で、何でも見通しているような顔をして。
今、この男は青ざめていた。
細い指が、赤いペンを握りしめている。
その手が、かすかに揺れている。
グリムは知っている。
この男が、本当は脆いことを。
だから黙って、隣に立っていた。
「私は」
朔が、ようやく口を開いた。
「結末を書くのが、怖かった」
灰燼の目が見開かれる。
「怖い、だと?」
声に、怒りが滲んだ。
「俺たちは何万回も死んだ。焼かれた。その痛みに比べれば」
「ええ」
朔が、静かに頷いた。
「あなたの苦しみに比べれば、私の恐怖など取るに足りません」
銀縁の眼鏡が、灰色の光を反射する。
「それでも、怖かったのです」
一歩、前に出る。
グリムが「おい」と制止しようとしたが、朔は止まらなかった。
「あなたを救う資格が、私にあるのかと」
灰燼が、息を呑んだ。
「あなたの苦しみを、私が終わらせていいのかと」
朔の声が、かすかに震える。
「だから……目を背けました。あなたの苦しみから」
その告白は、懺悔だった。
作者としてではなく。
一人の人間としての、謝罪だった。
灰燼の剣を握る手が、力なく下がった。
炎のように燃えていた瞳が、今は揺らいでいる。
怒りと。
悲しみと。
そして、ほんの少しの希望。
「俺を、救おうと思ったのか」
その声は、子供のようだった。
捨てられた子犬が、飼い主を見上げるような。
すがるような、目。
朔は、その視線を受け止めた。
「はい」
短く、けれど確かに。
「だから今、ここに」
言葉が、途切れた。
灰燼の目が、突然見開かれたからだ。
その表情が、恐怖に歪んだ。
◆
「感動的だな」
声が、空から降ってきた。
朔は反射的に上を見た。
灰色の空が、亀裂のように割れている。
その隙間から、黒い栞が舞い降りてきた。
「だが、残念だ」
編集者の声だ。
どこにも姿は見えない。
それなのに、声だけが響いている。
「復讐劇に、和解はいらない」
グリムが飛び出そうとした。
だが、遅かった。
黒い栞が、灰燼の背中に貼りついた。
ベタリと。
虫のように。
「や、やめっ」
灰燼が、自分の背中に手を伸ばす。
だが届かない。
栞から、黒い文字が這い出した。
『改稿』
文字が、灰燼の体を這う。
『憎悪』
『殺意』
『破壊』
禍々しい言葉が、皮膚に刻まれていく。
「やめろっ!」
灰燼が叫んだ。
その声は、もう子供のそれではなかった。
獣のような、悲鳴だった。
「俺は、話を」
体が膨れ上がる。
骨が軋む。
肉が裂ける。
「ああああああッ!!」
絶叫が、焦土に響き渡った。
◆
朔は、目の前の光景を見ていた。
灰燼の体が、変わっていく。
人の形を失っていく。
白い灰が舞い上がり、黒い影が膨張する。
巨大な、何か。
人型ではあるが、もう人ではない。
灰の巨人。
それが、灰燼の「成れの果て」だった。
「いい演出だろう?」
編集者の声が、愉快そうに響く。
「これが君の望んだ『復讐者』の完成形だ」
「違います」
朔は、拳を握りしめた。
「彼は、そんな怪物じゃありません」
「おや」
声に、嘲りが混じった。
「では何だと言うんだ? 君が捨てたキャラクターだろう?」
巨人が、咆哮を上げた。
大気が震える。
地面が揺れる。
理性は、もう残っていないようだった。
「メガネ!」
グリムが叫んだ。
巨人の腕が振り下ろされる。
「避けろ!」
朔は咄嗟に横に跳んだ。
轟音。
地面が爆ぜる。
衝撃波で体が吹き飛ばされる。
「くっ」
受け身を取って立ち上がる。
眼鏡が歪んでいた。
直している暇はない。
巨人が、次の一撃を振り上げている。
「グリム! 何か」
「分かってる!」
グリムが朔の前に立つ。
だが、その姿はパーカー姿のままだ。
変身できていない。
この世界は、ジャンルが確定していない。
未完の物語だから。
「くそっ、変身できねぇ!」
グリムが舌打ちする。
生身では、あの巨人には勝てない。
「おいメガネ!」
グリムが振り返った。
「ここ、お前が書いた世界なんだろ!? なんか武器でも盾でも、想像しろよ!」
朔の頭が、高速で回転する。
この世界は、自分の心象風景ではない。
だが、自分が書いた世界だ。
自分の想像力で構築された世界。
ならば。
「グリム」
「あ?」
「盾を」
朔は、目を閉じた。
かつて、書こうとした設定がある。
灰燼に与えようとした、聖なる防具。
最終章で手に入れるはずだった「灰の盾」。
装飾は、灰色の鉄に銀の縁取り。
中央には、不死鳥の紋章。
表面には、焼け跡のような模様が刻まれている。
模様の数は十三。
灰燼に与えようとした「試練」の回数を象徴する意匠。
重さは、グリムが片手で扱える程度。
硬度は、少なくとも巨人の一撃を防げるだけ。
縁の部分には細かな文字が刻まれていて、それは古代語で「灰より蘇れ」という意味の祈りの言葉で。
「想像しろと言ったな」
目を開ける。
「想像しました」
グリムの左手に、光が集まった。
銀色の粒子が渦を巻き、形を成していく。
そして、盾が現れた。
灰色の鉄。
銀の縁取り。
不死鳥の紋章。
焼け跡のような模様。
朔が想像した通りの、聖なる盾。
「っ、おお!」
グリムが目を丸くした。
手の中に、確かな重みがある。
「やればできんじゃねぇか!」
巨人の腕が振り下ろされる。
グリムは盾を構えた。
衝撃。
轟音。
だが、盾は砕けなかった。
「重ぇ!」
両足が地面にめり込む。
だが、グリムは踏ん張った。
「でも」
一瞬、こちらを振り返る。
その顔には、呆れたような笑みが浮かんでいた。
「デザインがだせぇ! もうちょいなんかこう、カッコよくできなかったのかよ!」
「うるさいですね!」
朔は思わず叫んだ。
「私は実用性重視なんです! 見た目より機能です! それに縁の古代語の文法まで考えたんですよ!? 『灰より蘇れ』という祈りの言葉を刻むのに、動詞の活用形が」
「聞いてねぇし!」
「聞いてください!」
巨人が、再び腕を振り上げる。
「文句は後で聞きます! 今は」
朔は、次の想像を始めた。
武器が必要だ。
盾だけでは、守れても攻撃できない。
剣。
灰燼が使っていた錆びた剣ではなく。
かつて書こうとした「灰焔の剣」。
刃渡りは八十センチ。
柄には灰色の布が巻かれ、刃は黒曜石のように黒い。
刃の中央には、赤い筋が一本走っている。
それは溶岩の流れを模した意匠で、振るうと残像が炎のように見える設計で。
「グリム! 右手!」
「おう!」
グリムの右手に、黒い光が集まる。
剣が現れた。
「これで!」
巨人の二撃目が来る。
グリムは盾で受け止めながら、踏み込んだ。
剣が閃く。
巨人の腕を切り裂く。
灰が舞った。
「効いてる!」
だが。
◆
巨人が、咆哮を上げた。
傷口から、黒い靄が噴き出す。
それが、新たな腕を形成していく。
「再生しやがる!」
グリムが舌打ちした。
朔は、巨人を見上げていた。
その中心に、灰燼の面影を探していた。
どこかに、まだ。
あの涙を流していた少年が、残っているはずだ。
「灰燼さん」
朔は、声を張り上げた。
「聞こえますか」
返答はない。
巨人が、三撃目を振り下ろす。
「聞こえているなら、待っていてください」
グリムが盾で受け止める。
地面が陥没する。
「必ず、あなたを」
その瞬間。
巨人の拳が、グリムごと吹き飛ばした。
「グリムッ!」
朔は叫んだ。
だが、グリムの姿は土煙の向こうに消えていた。
地面が、割れる。
巨人の一撃で、地形そのものが変わっていた。
大きな亀裂が、朔とグリムの間に走っている。
分断された。
「メガネーーッ!!」
遠くで、グリムの声が聞こえる。
だが、姿は見えない。
朔は、一人だった。
巨人の足元で。
武器もなく。
盾もなく。
ただ、赤いペンを握りしめて。
見上げる。
灰の巨人が、こちらを見下ろしている。
その瞳は、まだ涙で濡れていた。
助けを求めるように。
それは土を濡らし、小さな水溜りを作った。
灰燼は、泣いていた。
炎で焼かれた世界の中心で。
何度も殺されて、何度も殺して。
その果てに、創造主の前で。
子供のように。
「どうして」
掠れた声が、朔の耳に届いた。
「どうして戻ってきた」
錆びた剣を握る手が震えている。
殺意に満ちていたはずの瞳が、今は揺れていた。
朔は、その問いに答えられなかった。
言葉が、喉に詰まる。
何を言えばいい。
何を言う資格がある。
この世界を作って、この人物を生み出して。
そして、捨てたのは自分だ。
「メガネ」
グリムが低い声で呼んだ。
朔の隣で、いつでも動けるように身構えている。
「何か言えよ」
朔は唇を噛んだ。
言葉が出てこない。
いつもなら淀みなく出てくる丁寧語が、喉の奥で詰まっている。
灰燼の涙が、また一筋落ちた。
「待ったんだ」
その声は、呪詛のようで。
けれど、どこか祈りのようでもあった。
「何万回も焼かれて、何万回も立ち上がって」
錆びた剣が下がる。
だが、灰燼の体は震えたままだ。
「いつかお前が戻ってきて、『救い』を書いてくれると。そう信じて」
その言葉が、朔の胸を抉った。
◆
グリムは、朔の横顔を見ていた。
普段は飄々として、皮肉ばかり言って。
どんな時でも冷静で、何でも見通しているような顔をして。
今、この男は青ざめていた。
細い指が、赤いペンを握りしめている。
その手が、かすかに揺れている。
グリムは知っている。
この男が、本当は脆いことを。
だから黙って、隣に立っていた。
「私は」
朔が、ようやく口を開いた。
「結末を書くのが、怖かった」
灰燼の目が見開かれる。
「怖い、だと?」
声に、怒りが滲んだ。
「俺たちは何万回も死んだ。焼かれた。その痛みに比べれば」
「ええ」
朔が、静かに頷いた。
「あなたの苦しみに比べれば、私の恐怖など取るに足りません」
銀縁の眼鏡が、灰色の光を反射する。
「それでも、怖かったのです」
一歩、前に出る。
グリムが「おい」と制止しようとしたが、朔は止まらなかった。
「あなたを救う資格が、私にあるのかと」
灰燼が、息を呑んだ。
「あなたの苦しみを、私が終わらせていいのかと」
朔の声が、かすかに震える。
「だから……目を背けました。あなたの苦しみから」
その告白は、懺悔だった。
作者としてではなく。
一人の人間としての、謝罪だった。
灰燼の剣を握る手が、力なく下がった。
炎のように燃えていた瞳が、今は揺らいでいる。
怒りと。
悲しみと。
そして、ほんの少しの希望。
「俺を、救おうと思ったのか」
その声は、子供のようだった。
捨てられた子犬が、飼い主を見上げるような。
すがるような、目。
朔は、その視線を受け止めた。
「はい」
短く、けれど確かに。
「だから今、ここに」
言葉が、途切れた。
灰燼の目が、突然見開かれたからだ。
その表情が、恐怖に歪んだ。
◆
「感動的だな」
声が、空から降ってきた。
朔は反射的に上を見た。
灰色の空が、亀裂のように割れている。
その隙間から、黒い栞が舞い降りてきた。
「だが、残念だ」
編集者の声だ。
どこにも姿は見えない。
それなのに、声だけが響いている。
「復讐劇に、和解はいらない」
グリムが飛び出そうとした。
だが、遅かった。
黒い栞が、灰燼の背中に貼りついた。
ベタリと。
虫のように。
「や、やめっ」
灰燼が、自分の背中に手を伸ばす。
だが届かない。
栞から、黒い文字が這い出した。
『改稿』
文字が、灰燼の体を這う。
『憎悪』
『殺意』
『破壊』
禍々しい言葉が、皮膚に刻まれていく。
「やめろっ!」
灰燼が叫んだ。
その声は、もう子供のそれではなかった。
獣のような、悲鳴だった。
「俺は、話を」
体が膨れ上がる。
骨が軋む。
肉が裂ける。
「ああああああッ!!」
絶叫が、焦土に響き渡った。
◆
朔は、目の前の光景を見ていた。
灰燼の体が、変わっていく。
人の形を失っていく。
白い灰が舞い上がり、黒い影が膨張する。
巨大な、何か。
人型ではあるが、もう人ではない。
灰の巨人。
それが、灰燼の「成れの果て」だった。
「いい演出だろう?」
編集者の声が、愉快そうに響く。
「これが君の望んだ『復讐者』の完成形だ」
「違います」
朔は、拳を握りしめた。
「彼は、そんな怪物じゃありません」
「おや」
声に、嘲りが混じった。
「では何だと言うんだ? 君が捨てたキャラクターだろう?」
巨人が、咆哮を上げた。
大気が震える。
地面が揺れる。
理性は、もう残っていないようだった。
「メガネ!」
グリムが叫んだ。
巨人の腕が振り下ろされる。
「避けろ!」
朔は咄嗟に横に跳んだ。
轟音。
地面が爆ぜる。
衝撃波で体が吹き飛ばされる。
「くっ」
受け身を取って立ち上がる。
眼鏡が歪んでいた。
直している暇はない。
巨人が、次の一撃を振り上げている。
「グリム! 何か」
「分かってる!」
グリムが朔の前に立つ。
だが、その姿はパーカー姿のままだ。
変身できていない。
この世界は、ジャンルが確定していない。
未完の物語だから。
「くそっ、変身できねぇ!」
グリムが舌打ちする。
生身では、あの巨人には勝てない。
「おいメガネ!」
グリムが振り返った。
「ここ、お前が書いた世界なんだろ!? なんか武器でも盾でも、想像しろよ!」
朔の頭が、高速で回転する。
この世界は、自分の心象風景ではない。
だが、自分が書いた世界だ。
自分の想像力で構築された世界。
ならば。
「グリム」
「あ?」
「盾を」
朔は、目を閉じた。
かつて、書こうとした設定がある。
灰燼に与えようとした、聖なる防具。
最終章で手に入れるはずだった「灰の盾」。
装飾は、灰色の鉄に銀の縁取り。
中央には、不死鳥の紋章。
表面には、焼け跡のような模様が刻まれている。
模様の数は十三。
灰燼に与えようとした「試練」の回数を象徴する意匠。
重さは、グリムが片手で扱える程度。
硬度は、少なくとも巨人の一撃を防げるだけ。
縁の部分には細かな文字が刻まれていて、それは古代語で「灰より蘇れ」という意味の祈りの言葉で。
「想像しろと言ったな」
目を開ける。
「想像しました」
グリムの左手に、光が集まった。
銀色の粒子が渦を巻き、形を成していく。
そして、盾が現れた。
灰色の鉄。
銀の縁取り。
不死鳥の紋章。
焼け跡のような模様。
朔が想像した通りの、聖なる盾。
「っ、おお!」
グリムが目を丸くした。
手の中に、確かな重みがある。
「やればできんじゃねぇか!」
巨人の腕が振り下ろされる。
グリムは盾を構えた。
衝撃。
轟音。
だが、盾は砕けなかった。
「重ぇ!」
両足が地面にめり込む。
だが、グリムは踏ん張った。
「でも」
一瞬、こちらを振り返る。
その顔には、呆れたような笑みが浮かんでいた。
「デザインがだせぇ! もうちょいなんかこう、カッコよくできなかったのかよ!」
「うるさいですね!」
朔は思わず叫んだ。
「私は実用性重視なんです! 見た目より機能です! それに縁の古代語の文法まで考えたんですよ!? 『灰より蘇れ』という祈りの言葉を刻むのに、動詞の活用形が」
「聞いてねぇし!」
「聞いてください!」
巨人が、再び腕を振り上げる。
「文句は後で聞きます! 今は」
朔は、次の想像を始めた。
武器が必要だ。
盾だけでは、守れても攻撃できない。
剣。
灰燼が使っていた錆びた剣ではなく。
かつて書こうとした「灰焔の剣」。
刃渡りは八十センチ。
柄には灰色の布が巻かれ、刃は黒曜石のように黒い。
刃の中央には、赤い筋が一本走っている。
それは溶岩の流れを模した意匠で、振るうと残像が炎のように見える設計で。
「グリム! 右手!」
「おう!」
グリムの右手に、黒い光が集まる。
剣が現れた。
「これで!」
巨人の二撃目が来る。
グリムは盾で受け止めながら、踏み込んだ。
剣が閃く。
巨人の腕を切り裂く。
灰が舞った。
「効いてる!」
だが。
◆
巨人が、咆哮を上げた。
傷口から、黒い靄が噴き出す。
それが、新たな腕を形成していく。
「再生しやがる!」
グリムが舌打ちした。
朔は、巨人を見上げていた。
その中心に、灰燼の面影を探していた。
どこかに、まだ。
あの涙を流していた少年が、残っているはずだ。
「灰燼さん」
朔は、声を張り上げた。
「聞こえますか」
返答はない。
巨人が、三撃目を振り下ろす。
「聞こえているなら、待っていてください」
グリムが盾で受け止める。
地面が陥没する。
「必ず、あなたを」
その瞬間。
巨人の拳が、グリムごと吹き飛ばした。
「グリムッ!」
朔は叫んだ。
だが、グリムの姿は土煙の向こうに消えていた。
地面が、割れる。
巨人の一撃で、地形そのものが変わっていた。
大きな亀裂が、朔とグリムの間に走っている。
分断された。
「メガネーーッ!!」
遠くで、グリムの声が聞こえる。
だが、姿は見えない。
朔は、一人だった。
巨人の足元で。
武器もなく。
盾もなく。
ただ、赤いペンを握りしめて。
見上げる。
灰の巨人が、こちらを見下ろしている。
その瞳は、まだ涙で濡れていた。
助けを求めるように。
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