俺のダンジョン配信がバズった理由は、ダンジョンそのものが俺に恋してるからだった

チャビューヘ

文字の大きさ
3 / 25
1章 巡り合い編

第3話「笑顔の裏で」

しおりを挟む
「いやあ、ほんとすごいっすよソウさん。動画見て鳥肌立ちました」

 御影翔は、画面越しの印象そのままの人間だった。

 駅前のカフェ。窓際の席で向かい合っている。整った顔立ちに爽やかな笑顔。A級探索者にしてDunCast登録者50万人。「探索者界の良心」と呼ばれる男が、E級の想にわざわざ会いに来た。

 周囲のテーブルから視線を感じる。御影は顔が知れている。それでも想を優先するように体をこちらに向けていた。

「すごくはねえよ。死にかけただけだし」

「その死にかけ映像がバズるのがすごいんですって。自分、あの手の生配信のリアルさってずっと大事にしてて」

 御影がアイスコーヒーのストローを回しながら身を乗り出した。

「ソウさんの配信には『本物感』がある。作り物じゃない緊張感っていうか。自分の視聴者にも薦めたんですよ」

「え、まじ?」

「まじまじ。だから登録者、急に伸びたでしょ? あれ半分くらい俺のとこから流れてると思う」

 言われて納得した。2日で3,000人に届いた異常な伸びは、切り抜きの力だけじゃなかったのだ。

「ありがとな、マジで」

「いやいや、面白い配信を広めるのは先輩の仕事っすよ」

 御影が右手を差し出した。想はその手を握った。力の入れ方が丁寧で、握り返しやすい。

「それで提案なんすけど」

 御影がスマホを取り出し、画面を見せた。DunCastのコラボ申請フォーム。

「今度、一緒にダンジョン潜りません? コラボ配信。ソウさんの未踏破エリアで」

「俺なんかとコラボして、御影さんにメリットあんの」

「ありますよ。今一番注目されてる配信者と組むんだから。それにソウさんのダンジョン、明らかに何か普通じゃない現象が起きてるでしょ? あれの謎解きをコラボでやったら絶対数字出る」

 たしかに筋は通る。御影の提案はどこにも穴がない。

「ちょっと考えさせて。配信のスタイルとか、まだ固まってねえから」

「もちろん。急かす気はないんで、いつでも連絡ください」

 御影がにっこりと笑った。完璧な笑顔だった。

 カフェを出て、想は駅までの道を歩いた。冬の空気が冷たい。息が白い。

 悪い人じゃなさそうだ。配信を薦めてくれた恩もある。コラボ、やってみてもいいかもしれない。

 スマホにDunCastの通知が来た。

 ───────────────────
 N_o_a:想さん、今日は来てくれないんですか。
 ───────────────────

 ダンジョンに行かなかった日は、今日が初めてだった。

 想は返信のしようがないことに気づいて、スマホをポケットにしまった。このアカウントにDMを送れるのだろうか。そもそもDunCastのコメント欄にしか現れない存在に、どうやって連絡を取ればいいのか。

 明日は行く。そう思いながら、病院に向かった。

 母親の病室は6階にある。エレベーターを降りると消毒液の匂いが鼻を突いた。窓から見える景色は、駐車場とその先に広がる住宅地。夕焼けが屋根を染めていた。

 ベッドの上で母親が目を開けた。頬がこけている。腕に刺さった点滴の管が、蛍光灯の下で光っていた。

「今日はどうだった」

 母親の声は掠れていたが、笑顔を作ろうとしていた。

「ちょっと有名になったかも。テレビ出るレベルじゃねえけど」

「そう。よかったね」

「あと、魔石が手に入った。いいやつ。次の治療費、しばらく大丈夫」

 母親の手が、シーツの上で小さく動いた。想の手に触れようとして、力が足りずに止まる。

「無理、しないでね」

「してねえよ」

 嘘だった。母親にはわかっている。想にもわかっている。だがどちらも、それ以上は踏み込まなかった。

 病室を出ると、廊下の蛍光灯が目に刺さった。

 あのS級魔石で半年分の治療費が出る。だがその先は。毎月毎月、2億円を稼ぎ続けなければ母親は死ぬ。

 ノアの力に頼れば、魔石はいくらでも手に入るかもしれない。だがそれは、ノアにどこまで依存することになるのか。

 答えの出ない問いを抱えたまま、想は病院を出た。

 夜の空気が肺に冷たかった。駐車場の自販機で缶コーヒーを買い、一口飲んで歩き出す。

 スマホの画面に、N_o_aの通知がまだ残っていた。「想さん、今日は来てくれないんですか」。その文字列を親指でなぞり、画面を閉じた。

 明日は行くよ。声に出さず、そう思った。

 ───

 同じ時刻。都内のタワーマンション32階。

 御影翔は帰宅するなり、リビングの照明をつけなかった。

 カーテンも閉めたまま。窓の外の夜景だけが、部屋をぼんやりと照らしている。ソファに座り、スマホを取り出した。

 ロック画面を解除する。表示されたのは、カフェで想に見せたものとは別のアカウントだった。

 ユーザー名:名無しの探索者。

 匿名掲示板のアプリを開く。御影自身が3日前に立てたスレッドが表示された。

「【検証】配信者ソウの未踏破ダンジョンはヤラセか? 不自然なドロップまとめ」

 スレッドには100件以上のレスがついている。御影はその大半を自分で書いていた。IDを切り替えながら、複数人が議論しているように見せている。

 新しいレスを打ち込んだ。

「協会関係者に聞いたけど、あいつ探索者登録すらまともにしてないらしい。正式なマナ適性検査も受けてないって話」

 全部嘘だった。送信を押す。親指に力がこもる。

 DunCastの画面に切り替えた。想のチャンネルページ。登録者数の横に、上昇率を示す赤い矢印が出ている。

 御影は登録者推移のグラフを長押しした。2日前まで3人だった線が、垂直に跳ね上がっている。

 自分のチャンネルのグラフを開く。50万人の登録者。横ばいだ。ここ半年、微増しかしていない。

 3年かけて積み上げた数字を、あの男はたった2日で追い上げようとしている。

 スマホを置き、ソファの背にもたれた。暗い天井を見上げる。

 テーブルの上にノートPCが開いていた。画面にはスプレッドシート。「コラボ実績一覧」というタイトルの下に、5人の名前が縦に並んでいる。

 各名前の右のセルに、ステータスが記入されていた。

 佐伯ユウト。済。
 水谷リョウ。済。
 橋本カナタ。済。
 天野ミキ。済。
 久保マサル。済。

 5人全員が、御影とのコラボ後に配信活動を停止していた。引退、活動休止、アカウント削除。理由はそれぞれ違うが、結果は同じだ。

 御影がスマホを持ち直した。DunCastの想のページに戻り、フォローボタンの横にある通知設定をオンにする。想が配信を始めたら、即座にわかるように。

 窓の外の夜景が、御影の顔を半分だけ照らしていた。カフェで見せた笑顔は、そこにはない。

 唇が動いた。

「おれの場所は、おれが守る」

 声にはなっていなかった。口の形だけ。

 スマホの画面が暗転し、御影の顔が液晶に映り込んだ。

 笑っていない目が、自分自身を見つめていた。

 翌朝。想のスマホに、匿名掲示板のスレッドURLが貼られたDMが届いた。差出人は「名無しの心配者」。

 想はそれを「よくあるアンチ」だと思い、既読もつけずに閉じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

世界最強の七賢者がお世話係の俺にだけはデレデレすぎる件

Y.
恋愛
国の頂点に君臨し、神にも等しい力を持つ『七賢者』。 火・水・風・土・光・闇・氷の属性を極めた彼女たちは、畏怖の対象として国民から崇められていた。 ――だが、その「聖域」の扉を一枚隔てた先では、とんでもない光景が広がっていた。 「アルトぉ、この服脱がせてー。熱いから魔法で燃やしちゃった」 「……アルトが隣にいないと、私、一生布団から出ないから」 「いいじゃない、減るもんじゃないし。さあ、私と混ざり合いましょう?」 彼女たちの正体は、私生活が壊滅的にポンコツで、特定の一人に依存しきったデレデレな美少女たちだった! 魔法の才能ゼロの雑用係・アルトは、世界で唯一「彼女たちの暴走魔力に耐えられる」という理由で、24時間体制の身の回りのお世話をすることに。 着替え、食事の介助、添い寝(!?)まで……。 世界最強の7人に取り合われ、振り回され、いじり倒される。 胃袋と心根をガッチリ掴んだお世話係と、愛が重すぎる最強ヒロインたちによる、至福の異世界ハーレムラブコメ、開幕!

断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜

深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。 処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。 なぜなら彼女は―― 前世で“トップインフルエンサー”だったから。 処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。 空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。 タイトルは―― 『断罪なう』。 王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。 すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、 国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。 そして宣言される、前代未聞のルール。 支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。 処刑台は舞台へ。 断罪はエンタメへ。 悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。 これは、 処刑されるはずだった悪役令嬢が、 “ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。 支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、 それとも――自由か。

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕だけ別な場所に飛ばされた先は異世界の不思議な無人島だった。

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚… スマホのネット小説や漫画が好きな少年、洲河 愽(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りの公園でくっちゃべっていると地面に突然魔法陣が現れて… 気付くと愽は1人だけ見渡す限り草原の中に突っ立っていた。 愽は幼馴染達を探す為に周囲を捜索してみたが、一緒に飛ばされていた筈の幼馴染達は居なかった。 生きていればいつかは幼馴染達とまた会える! 愽は希望を持って、この不思議な無人島でサバイバル生活を始めるのだった。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つものなのかな?」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達よりも強いジョブを手に入れて無双する!」 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は魔王から力を授かり人類に対して牙を剥く‼︎」 幼馴染達と一緒に異世界召喚の第四弾。 愽は幼馴染達と離れた場所でサバイバル生活を送るというパラレルストーリー。 はたして愽は、無事に幼馴染達と再会を果たせるのだろうか?

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕は幼馴染達より強いジョブを手に入れて無双する!

アノマロカリス
ファンタジー
よくある話の異世界召喚。 ネット小説やファンタジー小説が好きな少年、洲河 慱(すが だん)。 いつもの様に幼馴染達と学校帰りに雑談をしていると突然魔法陣が現れて光に包まれて… 幼馴染達と一緒に救世主召喚でテルシア王国に召喚され、幼馴染達は【勇者】【賢者】【剣聖】【聖女】という素晴らしいジョブを手に入れたけど、僕はそれ以上のジョブと多彩なスキルを手に入れた。 王宮からは、過去の勇者パーティと同じジョブを持つ幼馴染達が世界を救うのが掟と言われた。 なら僕は、夢にまで見たこの異世界で好きに生きる事を選び、幼馴染達とは別に行動する事に決めた。 自分のジョブとスキルを駆使して無双する、魔物と魔法が存在する異世界ファンタジー。 「幼馴染達と一緒に異世界召喚、だけど僕の授かったスキルは役に立つ物なのかな?」で、慱が本来の力を手に入れた場合のもう1つのパラレルストーリー。 11月14日にHOT男性向け1位になりました。 応援、ありがとうございます!

異世界配信中。幼馴染みに捨てられた俺に、神々(視聴者)がコメントしてくるんだが。

葉月
ファンタジー
コルネ村で、幼なじみであり恋人でもあったユリアナと、ささやかな幸福を分かち合って生きていたロイド。 だがある日、ユリアナは女神の愛子として目覚め、国王の命により王都へと連れ去られる。 突然、日常を奪われ、運命に引き裂かれたロイドは、抗う術も持たぬまま、否応なく大きな流れへと呑み込まれていく。 これは、奪われたものを取り戻すため、そして理不尽な運命に抗おうとする、一人の少年の物語である。

新緑の光と約束~精霊の愛し子と守護者~

依羽
ファンタジー
「……うちに来るかい?」 森で拾われた赤ん坊は、ルカと名付けられ、家族に愛されて育った。 だが8歳のある日、重傷の兄を救うため、ルカから緑の光が―― 「ルカは精霊の愛し子。お前は守護者だ」 それは、偶然の出会い、のはずだった。 だけど、結ばれていた"運命"。 精霊の愛し子である愛くるしい弟と、守護者であり弟を溺愛する兄の、温かな家族の物語。 他の投稿サイト様でも公開しています。

ダンジョンを拾ったので、スキル〈ホームセンター〉で好き勝手リフォームします

ランド犬
ファンタジー
 異世界に転移した佐々木悠人は、召喚でも勇者でもなかった。ただ迷い込んだ先で見つけたのは、王都を望む郊外にひっそりと口を開けるダンジョン。足を踏み入れた瞬間、発動したスキルは ――〈ホームセンター〉 壁を張り替え、部屋を増やし、畑や牧場、カフェまで作れる不可思議な力だった。 気ままに始めたリフォームは、もふもふなネコミミ獣人の少女との出会いをきっかけに、思わぬ変化を呼び始める。 拡張され続けるダンジョンの先で、悠人が作り上げる“住める迷宮”とは――?

処理中です...