俺のダンジョン配信がバズった理由は、ダンジョンそのものが俺に恋してるからだった

チャビューヘ

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1章 巡り合い編

第4話「E級の底辺が未踏破を歩く」

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───────────────────
 草:急上昇1位きたああああ
 †漆黒の剣†:は? 1位? あのソウが?
 DJケンタ_B級:バグだろ。登録者まだ
        5,000だぞ
 しろくま_22:御影翔抜いてんじゃん
 深層好き_A:DunCast始まって以来初の
       異常事態では
 N_o_a:想さんの配信が一番です。当然です。
 ───────────────────

 配信を開いた瞬間、コメント欄が爆発していた。

 想はARゴーグルの表示を二度確認した。DunCast急上昇ランキング、1位。自分のチャンネルが、登録者50万人の御影翔を押しのけてトップに立っている。

「いや、おかしいだろ」

 登録者は5,000人。昨日の配信の同時接続は700人。どう計算しても急上昇1位になる数字じゃない。

 だがランキングは動かない。リロードしても変わらない。DunCastのアルゴリズムが、想の配信を1位に固定している。

 心当たりは一つしかなかった。

「ノア、お前だろ」

 声に出してもダンジョンの外では届かない。だがスマホの画面にコメントが1件追加された。

 ───────────────────
 N_o_a:なんのことですか?
 ───────────────────

 白々しい。

 想はため息をついて、ダンジョンに入った。今日の目的は魔石の回収と、ノアに話をつけることだ。

「配信開始する。みんなよろしく」

 視聴者数が跳ね上がった。急上昇1位の効果で、開始直後に2,000人を超えている。コメントの流れが速すぎて読めない。

 通路を進む。昨日と同じように光苔が道を照らし、モンスターが壁際に退避していく。もうこの光景に慣れてしまった自分がいる。

 中層を抜け、深層への通路に入ったあたりで、カメラをオフにした。

「ノア」

 呼びかけると、5秒もかからず空気が変わった。マナの密度が跳ね上がり、通路の先に青白い光が灯る。

 ノアが壁から染み出すように現れた。石の壁面に光が集まり、輪郭ができ、少女の姿になる。金色の瞳が想を見つけて、嬉しそうに細くなった。

「想さん、来てくれた。昨日は寂しかったです」

「悪い、用事があった。それよりノア」

「はい?」

「DunCastのランキング、いじったろ」

 ノアが首を傾げた。演技ではなく、何が問題なのか本気でわかっていない顔だった。

「想さんの配信が一番上にあるべきです。他の人より下にあるのは、間違っています」

「間違ってはねえけど、ランキングには仕組みがあるんだよ。再生数とか登録者とか」

「仕組みを直しました。想さんがずっと1位でいられるように」

 悪気はない。想のためにやった。それだけだ。

 想は頭を掻いた。怒る気にはなれない。ただ、このまま放置するとまずい。不自然なランキングは運営に目をつけられる。

「気持ちはありがてえよ。でも元に戻してくれ。自力で上がりたい」

 ノアの表情が、ほんの一瞬だけ曇った。壁面の光苔が数秒間、暗くなる。ノアなりの抗議だ。

「想さんが、そう言うなら」

 声は従順だった。だが唇の端が、かすかに下がっている。

「頼んだ」

「でも」

 ノアが想の袖をつまんだ。指先が生地を軽く引く。

「あの人のことは、嫌いです」

「あの人?」

「昨日、想さんと会っていた人。御影、という人」

 想は目を丸くした。昨日はダンジョンに来ていない。カフェで御影と会ったのは、ダンジョンの外の話だ。

「なんで知ってんの」

「DunCastのメッセージを見ました。御影さんが想さんにDMを送っていたので」

 想の背中に冷たいものが走った。DunCastのDM。プライベートなやり取りだ。それをノアが読んでいる。

「お前、俺のDM見てんの」

「DunCastのサーバーは、このダンジョンの通信回線とつながっています。わたしには全部見えます」

 悪びれていない。技術的に見えるから見た。それだけの認識だ。プライバシーという概念が、ノアにはまだない。

「見るなとは言わねえけど、あんまり覗くなよ」

「努力します。でも、御影という人のことは」

 ノアの声のトーンが変わった。甘えの色が消え、事務的な冷たさが混じる。

「嫌いです。あの人の文章には、嘘の匂いがします」

「嘘の匂い?」

「表面の言葉と、その下にある意図がずれています。データではうまく説明できないのですが」

 想は小さく笑った。

「お前、俺以外の人間には全員そう言うじゃん」

「それは」

 ノアが口をつぐんだ。否定できなかったのだろう。想以外の人間に対するノアの態度は一貫して冷たい。嫌いの基準が「想以外」では、御影への警告も説得力を持たない。

「御影さんはいい人だよ。配信を広めてくれたし、コラボの話もくれた」

「コラボ」

 その単語に、ノアが反応した。金色の瞳が一瞬だけ鋭くなる。

「想さんと、あの人が、一緒に配信するんですか」

「まだ決めてねえよ。考え中」

「考え中」

 ノアが同じ言葉を繰り返した。表情は穏やかに戻っている。だが袖をつまむ指先の力が、わずかに強くなった。

「わかりました。想さんが決めることです」

「おう」

「でも」

 ノアが顔を上げた。

「配信中のことは、わたしにも見せてくださいね」

 それは「見るな」と言われた直後の発言にしては、妙に落ち着いていた。

 想がダンジョンを出た後、スマホを確認した。ランキングは元に戻っている。想の配信は急上昇7位。それでも十分に高い。

 DunCastのトップページに、御影の配信が表示されていた。生放送中。タイトルは「雑談配信! 質問なんでも答えます」。

 想はなんとなくタップした。

 御影が画面の中で笑っている。背景は白い壁。照明が当たった顔は完璧に整っている。

「あ、ソウくんの話? 急上昇1位すごかったよね。なんか一瞬で落ちちゃったけど」

 御影が笑いながら言った。

「自分はねえ、ソウくんのこと応援してるよ。E級で未踏破とか、根性あるよなあ。みんなも応援してあげて」

 コメント欄が「御影さん器でかい」「さすが探索者の良心」で埋まった。

 想は御影の顔を見ながら、ノアの言葉を思い出した。

「あの人の文章には、嘘の匂いがします」

 気のせいだ、と想は思った。

 ───

 同じ日の深夜。御影のタワーマンション。

 御影は2台目のスマホを操作していた。匿名掲示板のスレッドに、新しい書き込みが並んでいる。自分が撒いた種が育ち始めていた。

「ソウの母親、入院してるらしいぞ」「どこの病院?」「関東圏の大学病院って噂」

 御影はスレッドの流れを読みながら、検索窓に文字を打ち込んだ。

「後天性マナ欠乏症候群 治療 関東 大学病院」

 検索結果を1件ずつ開いていく。該当する病院は3箇所。多くない。特定は時間の問題だ。

 何に使うかは、まだ決めていない。カードを持っておくだけだ。いつでも切れるカード。

 御影はブラウザを閉じ、DunCastを開いた。想のチャンネルの登録者は7,000人を超えていた。1日で2,000人増えている。

 自分のチャンネル。50万200人。昨日から増減なし。

 御影は画面を見つめた。しばらく動かなかった。

 やがて、スプレッドシートを開いた。「コラボ実績一覧」の6行目に、新しい名前を打ち込む。

 柊ソウ。

 ステータスのセルは、まだ空欄だった。
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