狂おしいほど愛おしい

ゆるふわ詩音

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いおとさん

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「ダメだよ、油断しちゃ……帰るまでがそ・う・さでしょ?」

くふふとかわいい笑い方をして、柔らかい声で話すので誰だかわかった。

悔しさで余計呼吸が荒くなる。

「ん、んん~!」

声を荒げてみるが、そいつはまたくふふと笑う。

「そっか。誘拐にクロロホルムを使うのはよくあるってわかってても、自分が使われたことはさすがにないよね」

ごめ~んと、緩く謝ったそいつはガチガチに食い縛っている上の前歯と下の前歯の間に、布越しで親指を差し入れる。

「安心して。口からの吸入ではそんなに害はないから。ゆっくり呼吸して大丈夫……怖がらせてごめんなぁ」

ちょっとびっくりさせたかっただけやから、安心して? と付け加え、俺の身体に巻き付いている両腕の力を弱めてくれた。

ああ、ただの脅しかと思って、緩やかに呼吸を整える。

そりゃあそうか。

1回、深呼吸。

やっぱり贖罪の意識があったか。

安心して、2回目の深呼吸をした。


 さっと逮捕術を掛けようとしたら、視界が揺らいだ。

頭もくらくらしてきて、身体もふらふらしてきた。

「ああ、しっかりしてよぉ……いおとさ~ん」

ガッと抱きしめられ、無理やり立たされる。

「案外素直なんやね。あまちょろ過ぎてヤバい」

くふふと笑うそいつに腹が立つ。

無様過ぎるからいっそ死んでやろうと力を振り絞って口を強く閉めた。

「あかんってぇ。生け捕りにしてこいっていわれてんねんから」

でも、布ごと親指を喉の奥まで入れられて、吐き気を催しただけやったわ。

「な、ん……で?」

俺は生理的に涙を流しながら、なんとか尋ねる。

「ん~わからんの? 培った推理力で謎を解いてみなよ……刑事さん」

こいつはきっと、ショウ。

トウパイの1人。

被害者は全員若い女性。

血が全部抜かれ、移植可能の臓器だけが欠損していた。

そこまではみんなわかっとる。

俺だけが知っている何かを隠すためか?

「きょう、か?」

今日、確信を得るためにショウに聞き取りをしにいった。

看護師のこいつの前で、わざとスーツの袖を捲って腕を見せた。

こいつはずっと腕の血管を見て嬉しそうにしていたわ。

やっぱりこいつが血抜きかと確信した。

「キレイな血管を見せてくれてありがとうねぇ。採血しづらいくらいの細さに萌えたよ」

くふふと余裕そうに笑うこいつ。

やっぱり腹立つ。

「じゃあ、ご褒美にええところへ連れてったるから……ちょっとだけええ子にしててな?」

トンッと静かに首の後ろを突かれたのを最後に、意識がプツンと落ちてもうたわ。


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