【完結】黒の魔導士は、私を“ただの生徒”として扱わない

桜葉るか

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第1話「寝落ち→異世界だった」

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 目を開けたら、知らない天井だった。
 ……というより、知らない“世界”だった。

「え、ちょ、どこここ? ……いや、なにこの服!?」

 ふわふわの白いローブ。
 袖から出た手が、ほんのり光ってる。
 寝落ちしたのは確か、試験勉強中の自分の部屋。
 でも目の前に広がっているのは――広い石造りの教室と、見たことのない魔法陣。

「……起きたか」

 低く、冷えた声が頭上から降ってきた。

 振り返ると、漆黒のローブをまとった男が立っていた。
 夜の闇みたいな瞳。息をのむほど整った顔。
 でもその目つきが、あまりに冷たくて思わず肩が震えた。

「おまえの名は?」

「え、あ、は、早見……奈央、です……」

「今日から――俺の生徒だ」

 ……は? いまなんて言った、この人。

「え、いやいや、無理です無理です! そもそも私、魔法とか知らないですし!」

「知っている必要はない」

「いや、必要あるでしょ!?」

 そんな私の抗議をさらりと無視して、男――ヴァルトと呼ばれるその教官は、冷たい手袋を外した。
 そして、ためらいもなく私の額に指を当てる。

「っ……な、なに、これ……」

「識別魔法だ。異界から来た者の確認」

「異界……!?」

 ぞくり、と背筋が凍った。
 この人、全部わかってるみたいに平然と口にする。

「……君は“こちら側”の人間じゃない。だが、なぜ学院の名簿に君の名があるのかは――まだ分からん」

「名簿って……私、知らないですけど……」

「だから教える。今日から俺の監督下に置く」

 監督下、って。え、まって、なんか刑務所っぽくない?

「……逃げるなら今だ」

「え?」

「だが、ここを出た瞬間、学院の結界が異界人を“排除”する。死ぬ」

「逃げません!」

 反射的に叫んでた。
 そしたらヴァルトが、ほんの少しだけ目を見開いた気がした。

「……賢明だな」

 その声、わずかに柔らかくなった。

 けれど次の瞬間には、また冷たい表情に戻っていた。

「授業は明日からだ。部屋を用意してある」

「え、あ、ありがとうございます……?」

「勘違いするな」

 すれ違いざま、耳元で低く囁かれた。

「――おまえを“守る”ためだ。俺の許可なく、誰の前にも立つな」

 心臓が跳ねた。
 その声音が、冷たさの奥にかすかな独占欲を含んでいたから。

 霧の都ルセリア。
 私は、ここで生きていく。
 そして――“黒の魔導士”ヴァルトの視線の意味を、まだ知らない。
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