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第9話「失われた魔力」
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翌朝。
目を覚ますと、世界が少し霞んで見えた。
手のひらに力が入らない。
昨日、あの暴走を抑えたせいだろうか。
「……あれ、魔力が……」
意識を集中しても、何も感じない。
まるで中が空っぽになったみたいだった。
昼の講義。
魔法陣の上で、私はただ座っているだけ。
光らない魔法具。ざわめく教室。
「どうした、早見?」
教師の声に答えようとしても、声が出ない。
体の奥が冷たい。
「……少し休ませてください」
教室を出て、壁にもたれる。
指先まで冷たくて、息が白い。
そのとき。
「……おまえ、また倒れる気か」
聞き慣れた低い声。
顔を上げると、ヴァルト教官が立っていた。
「教官……。魔力が、抜けてるみたいで」
「暴走封印の反動だ。おまえがあの光を受け止めたせいだ」
「やっぱり、私……やっちゃいました?」
「違う。俺が止める前に動いた。それだけだ」
その言い方が、少し優しい。
でも瞳は真剣そのもの。
「来い」
「えっ、どこに」
「訓練場だ。回復させる」
夜の訓練場。
風が冷たくて、空気が澄んでいた。
魔法陣の中心に立つと、ヴァルトが杖を掲げた。
「おまえの魔力は眠っているだけだ。共鳴で起こす」
「また、あの……?」
「そうだ。だが、前より深く繋ぐ」
「……深くって、怖い言い方」
「痛みはない。俺が制御する」
彼が近づく。
月明かりに照らされた黒衣が、すぐ目の前にある。
「目を閉じろ」
言われて従うと、指先がそっと頬に触れた。
そこから、静かな熱が流れ込んでくる。
「……あったかい」
「おまえの魔力を探っている。深く息を吸え」
指が耳の後ろをなぞる。
心臓が跳ねた。
「心拍が上がっているな」
「……しょうがないじゃないですか」
「集中しろ」
「無理です!」
ヴァルトが小さく息を吐く。
けれど、その声にわずかな笑みが混ざっていた。
「……本当に、おまえは騒がしい」
掌が私の胸の上に置かれた。
光がふっと弾け、身体の奥に熱が広がる。
それが彼の魔力だと、すぐに分かった。
「感じるか」
「……はい。すごく、優しい」
「俺の魔力は“静”だ。おまえの“光”と混ざると、穏やかになる」
「つまり、相性いいってことですか?」
「……言い方を選べ」
「でも、そういうことですよね」
「調子に乗るな」
そう言いながらも、彼の手は離れない。
指先が震えていた。
たぶん、彼も緊張してる。
それが嬉しくて、少し笑ってしまった。
「なにがおかしい」
「教官が、人間らしくて」
「当たり前だ」
「そういうところ、もっと見せてください」
「……危険だ」
「でも、嫌じゃないでしょ」
沈黙。
やがて、ヴァルトがそっと腕を回した。
私を抱き寄せ、耳元で囁く。
「……おまえがいないと、静かすぎて落ち着かない」
「それ、告白ですか?」
「違う」
「でも、ほぼそうです」
「うるさい」
その声が、笑っていた。
頬が触れそうな距離。
息が混ざる。
「これで、魔力の流れは戻った」
「ほんとだ……体が軽い」
「だろう。――離れるぞ」
「……少しだけ、このままでもいいですか」
「……好きにしろ」
彼の胸の鼓動が、静かに響いていた。
私の魔力も、同じリズムで動いている気がした。
夜風が吹き抜ける。
訓練場の灯りがひとつ、ふっと消える。
その瞬間、彼の腕が少しだけ強くなった。
「奈央」
「はい」
「もう無茶はするな」
「努力します」
「努力じゃない。約束だ」
「……約束します」
彼が小さく頷く。
月明かりの下、その横顔がやけに近かった。
目を覚ますと、世界が少し霞んで見えた。
手のひらに力が入らない。
昨日、あの暴走を抑えたせいだろうか。
「……あれ、魔力が……」
意識を集中しても、何も感じない。
まるで中が空っぽになったみたいだった。
昼の講義。
魔法陣の上で、私はただ座っているだけ。
光らない魔法具。ざわめく教室。
「どうした、早見?」
教師の声に答えようとしても、声が出ない。
体の奥が冷たい。
「……少し休ませてください」
教室を出て、壁にもたれる。
指先まで冷たくて、息が白い。
そのとき。
「……おまえ、また倒れる気か」
聞き慣れた低い声。
顔を上げると、ヴァルト教官が立っていた。
「教官……。魔力が、抜けてるみたいで」
「暴走封印の反動だ。おまえがあの光を受け止めたせいだ」
「やっぱり、私……やっちゃいました?」
「違う。俺が止める前に動いた。それだけだ」
その言い方が、少し優しい。
でも瞳は真剣そのもの。
「来い」
「えっ、どこに」
「訓練場だ。回復させる」
夜の訓練場。
風が冷たくて、空気が澄んでいた。
魔法陣の中心に立つと、ヴァルトが杖を掲げた。
「おまえの魔力は眠っているだけだ。共鳴で起こす」
「また、あの……?」
「そうだ。だが、前より深く繋ぐ」
「……深くって、怖い言い方」
「痛みはない。俺が制御する」
彼が近づく。
月明かりに照らされた黒衣が、すぐ目の前にある。
「目を閉じろ」
言われて従うと、指先がそっと頬に触れた。
そこから、静かな熱が流れ込んでくる。
「……あったかい」
「おまえの魔力を探っている。深く息を吸え」
指が耳の後ろをなぞる。
心臓が跳ねた。
「心拍が上がっているな」
「……しょうがないじゃないですか」
「集中しろ」
「無理です!」
ヴァルトが小さく息を吐く。
けれど、その声にわずかな笑みが混ざっていた。
「……本当に、おまえは騒がしい」
掌が私の胸の上に置かれた。
光がふっと弾け、身体の奥に熱が広がる。
それが彼の魔力だと、すぐに分かった。
「感じるか」
「……はい。すごく、優しい」
「俺の魔力は“静”だ。おまえの“光”と混ざると、穏やかになる」
「つまり、相性いいってことですか?」
「……言い方を選べ」
「でも、そういうことですよね」
「調子に乗るな」
そう言いながらも、彼の手は離れない。
指先が震えていた。
たぶん、彼も緊張してる。
それが嬉しくて、少し笑ってしまった。
「なにがおかしい」
「教官が、人間らしくて」
「当たり前だ」
「そういうところ、もっと見せてください」
「……危険だ」
「でも、嫌じゃないでしょ」
沈黙。
やがて、ヴァルトがそっと腕を回した。
私を抱き寄せ、耳元で囁く。
「……おまえがいないと、静かすぎて落ち着かない」
「それ、告白ですか?」
「違う」
「でも、ほぼそうです」
「うるさい」
その声が、笑っていた。
頬が触れそうな距離。
息が混ざる。
「これで、魔力の流れは戻った」
「ほんとだ……体が軽い」
「だろう。――離れるぞ」
「……少しだけ、このままでもいいですか」
「……好きにしろ」
彼の胸の鼓動が、静かに響いていた。
私の魔力も、同じリズムで動いている気がした。
夜風が吹き抜ける。
訓練場の灯りがひとつ、ふっと消える。
その瞬間、彼の腕が少しだけ強くなった。
「奈央」
「はい」
「もう無茶はするな」
「努力します」
「努力じゃない。約束だ」
「……約束します」
彼が小さく頷く。
月明かりの下、その横顔がやけに近かった。
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