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第10話「告白前夜」
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星見塔の上は、冬の空気みたいに澄んでいた。
学院の灯りが遠くに見えて、霧の海の上に星が浮かんでいる。
私は手すりに寄りかかって、夜空を見上げた。
魔力の調子は戻ったけれど、胸の奥はまだ落ち着かない。
あの夜――ヴァルトに抱き寄せられた感触が、まだ消えない。
「……おまえ、また考えすぎてる顔をしてるな」
声に振り返ると、彼がいた。
黒衣の裾を揺らして、月明かりの中に立っている。
「教官、また監視ですか?」
「監督だ」
「それ、便利な言い訳ですね」
「便利な立場だ」
口では冷たく言いながらも、
彼の目は、いつもより穏やかだった。
「……ここ、きれいですね」
「星の光が届く場所だからな。昔から、魔力を整えるために使われている」
「へえ……ロマンチックですね」
「魔力安定の話だ」
「そういうところが、ロマンチックじゃないんですよ」
私が笑うと、ヴァルトは少しだけ目を伏せた。
月明かりが彼の睫毛を照らして、横顔が美しすぎて、息が止まる。
「……おまえが笑うと、うるさい」
「え、今の褒め言葉ですか?」
「違う」
「でも、嬉しそうに言いましたよ」
「……気のせいだ」
そう言って彼は手すりに片手を置く。
距離が、ひと呼吸ぶん縮まる。
風が止まって、星の光が二人の間を照らした。
「教官」
「なんだ」
「私、最近……教官がいないと落ち着かないんです」
言ってから、顔が一気に熱くなる。
けど、もう止められなかった。
「授業も訓練も、教官がいないと、
なんか全部うまくいかないんです」
ヴァルトが目を細める。
その瞳の奥に、いつもと違う光があった。
「依存は危険だぞ」
「でも、それが私なんです」
「……厄介な生徒だ」
「はい。でも、置いていかないでください」
沈黙。
夜風がひとつ吹いて、髪が揺れた。
ヴァルトの指が、無意識のように伸びて――
私の髪をそっと押さえた。
その指先が触れた瞬間、心臓が跳ねる。
「……教官?」
「風が強い」
「それだけですか?」
「それ以上を求めるな」
「求めてません」
「嘘をつけ」
低く、笑うような声。
その響きに、背筋がぞくりとする。
沈黙のあと、彼がゆっくり口を開いた。
「奈央」
「はい」
「おまえの魔力は安定した。もう、俺がそばにいなくても大丈夫だ」
「それ……追い出しですか?」
「違う。独り立ちの話だ」
「でも、まだ――」
「俺のそばにいると、いずれ後悔する」
「しません」
はっきり言った。
ヴァルトが目を見開く。
「おまえ、相変わらず怖いもの知らずだな」
「教官のこと、もう“怖い”って思えないんです」
その瞬間、空気が変わった。
彼がゆっくりと近づいてくる。
距離が、星の光ひとつ分だけ縮まる。
「……なら、覚えておけ」
「なにを、ですか」
「俺はおまえを生徒として見られなくなっている」
その言葉が、胸の奥で爆発した。
時間が止まったみたいに、何も聞こえない。
「……それって、」
「言わせるな」
「でも、聞きたいです」
「……馬鹿だな」
ヴァルトの手が、頬に触れる。
指先が震えていた。
彼の唇が、何かを言いかけて――
けれど、言葉にならずに止まった。
「……下へ戻るぞ。冷える」
「……はい」
塔を降りる途中、
手すりの上に残った指先の感触が、
いつまでも消えなかった。
夜の空。
星がひとつ、流れて消えた。
きっと、あの瞬間――
私たちは、もう先生と生徒じゃなくなっていた。
学院の灯りが遠くに見えて、霧の海の上に星が浮かんでいる。
私は手すりに寄りかかって、夜空を見上げた。
魔力の調子は戻ったけれど、胸の奥はまだ落ち着かない。
あの夜――ヴァルトに抱き寄せられた感触が、まだ消えない。
「……おまえ、また考えすぎてる顔をしてるな」
声に振り返ると、彼がいた。
黒衣の裾を揺らして、月明かりの中に立っている。
「教官、また監視ですか?」
「監督だ」
「それ、便利な言い訳ですね」
「便利な立場だ」
口では冷たく言いながらも、
彼の目は、いつもより穏やかだった。
「……ここ、きれいですね」
「星の光が届く場所だからな。昔から、魔力を整えるために使われている」
「へえ……ロマンチックですね」
「魔力安定の話だ」
「そういうところが、ロマンチックじゃないんですよ」
私が笑うと、ヴァルトは少しだけ目を伏せた。
月明かりが彼の睫毛を照らして、横顔が美しすぎて、息が止まる。
「……おまえが笑うと、うるさい」
「え、今の褒め言葉ですか?」
「違う」
「でも、嬉しそうに言いましたよ」
「……気のせいだ」
そう言って彼は手すりに片手を置く。
距離が、ひと呼吸ぶん縮まる。
風が止まって、星の光が二人の間を照らした。
「教官」
「なんだ」
「私、最近……教官がいないと落ち着かないんです」
言ってから、顔が一気に熱くなる。
けど、もう止められなかった。
「授業も訓練も、教官がいないと、
なんか全部うまくいかないんです」
ヴァルトが目を細める。
その瞳の奥に、いつもと違う光があった。
「依存は危険だぞ」
「でも、それが私なんです」
「……厄介な生徒だ」
「はい。でも、置いていかないでください」
沈黙。
夜風がひとつ吹いて、髪が揺れた。
ヴァルトの指が、無意識のように伸びて――
私の髪をそっと押さえた。
その指先が触れた瞬間、心臓が跳ねる。
「……教官?」
「風が強い」
「それだけですか?」
「それ以上を求めるな」
「求めてません」
「嘘をつけ」
低く、笑うような声。
その響きに、背筋がぞくりとする。
沈黙のあと、彼がゆっくり口を開いた。
「奈央」
「はい」
「おまえの魔力は安定した。もう、俺がそばにいなくても大丈夫だ」
「それ……追い出しですか?」
「違う。独り立ちの話だ」
「でも、まだ――」
「俺のそばにいると、いずれ後悔する」
「しません」
はっきり言った。
ヴァルトが目を見開く。
「おまえ、相変わらず怖いもの知らずだな」
「教官のこと、もう“怖い”って思えないんです」
その瞬間、空気が変わった。
彼がゆっくりと近づいてくる。
距離が、星の光ひとつ分だけ縮まる。
「……なら、覚えておけ」
「なにを、ですか」
「俺はおまえを生徒として見られなくなっている」
その言葉が、胸の奥で爆発した。
時間が止まったみたいに、何も聞こえない。
「……それって、」
「言わせるな」
「でも、聞きたいです」
「……馬鹿だな」
ヴァルトの手が、頬に触れる。
指先が震えていた。
彼の唇が、何かを言いかけて――
けれど、言葉にならずに止まった。
「……下へ戻るぞ。冷える」
「……はい」
塔を降りる途中、
手すりの上に残った指先の感触が、
いつまでも消えなかった。
夜の空。
星がひとつ、流れて消えた。
きっと、あの瞬間――
私たちは、もう先生と生徒じゃなくなっていた。
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