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オリジナル
76.ヤクザ若頭補佐×シングルファーザー(美形×平凡)
しおりを挟む嫁の浮気によって離婚した平凡(篠本)。一人息子を引き取って、毎日悪戦苦闘しながらも子育てを頑張っている。
それでも仕事が忙しくて、なかなか保育園にお迎えに行けず、いつもいちばん遅くに駆け込むような日々だった。
ある日、いつもの如く遅い時間にお迎えに行けば、そこには息子(翔)と遊ぶ女の子の姿が。
「あれ? お友達ができたの?」
「あ、パパ! そうなの! みゆちゃんっていうの~!!」
にこにこしながら駆け寄ってくる息子。
彼を抱きとめながら女の子の方を見れば、ちょっと恥ずかしそうにしつつ、どこか寂しげな表情を浮かべている。
(まだお迎えが来ないのかな? 翔が帰っちゃったら、先生と2人だもんな……)
「みゆちゃんこんばんは」
「……こんばんは」
「パパかママ、まだ来ないの?」
「……うん」
「そっか。じゃあ、お迎えが来るまで翔とおじさんも、一緒に待っててもいいかな?」
「!! うんっ、いいよ!」
まだ息子と遊べることが嬉しかったようで、途端に笑顔になる女の子。
保育士さんにも許可を貰って、3人で楽しく遊ぶことに。しばらくそうしていたら、バタバタと忙しない足音が。
「っすんません!! 遅くなっちまって……!!」
「あっ、せいやー!!」
「お嬢さん! お待たせしました!」
入口に目を向ければ、そこには息を切らして立っている美形(石動)がいた。
(わ……すごいかっこいい人!)
目付きや雰囲気が尖っている感じはあるが、駆け寄ってきた女の子を抱きしめるのは優しくて。
こんな人いるんだー……とぼぅっと見ていた篠本は、バチッと美形と目が合って驚く。
「っ、」
「あ? 何見てんだ……」
「あのねせいや、おともだちのねしょうくんと、しょうくんのパパだよ」
一瞬めちゃくちゃ怖い顔で睨まれたが、女の子が紹介してくれると、途端に驚いた顔になり、それから頭を下げてきた。
「すいません! 俺が来るまでお嬢さんと遊んで待っててくれたんですね? わざわざお手数かけて……」
「あ、いえいえ! この子も楽しかったみたいですし、気にしないでください!!」
深々とした礼に驚きつつ、息子も喜んでいたことを伝え頭を上げてもらう。それから保育士さんに挨拶をしてから帰路に着くことに。
「パパー、たのしかったねえ!」
「そうだね。翔も、新しいお友達出来て良かったね」
可愛い息子と会話しながら、先程の美形と女の子を思い返してみる。
(『お嬢さん』とか、男の人のことを名前で呼んでるみたいだったけど、ちょっと変わったご家庭なのかな?)
普通の親子……というにはどこか変な感じはするものの、まあ人それぞれだよな。と深く考えない篠本。あんな美形と会うのも今回きりだろうし、なんて思っていれば、それからお迎えの度に会うことになる。
何度も遭遇していればそれなりに会話もするようになり、だんだんと打ち解けてきた石動と篠本。
「でも篠本さんは凄いですね。男手ひとつで子供を育ててるんですから」
「いやいや、そんな事ないですよ。僕なんて至らないところばっかりですし、それに石動さんだっていつもお迎え来てて、しっかりされてるじゃないですか」
「俺なんて全然ですよ! 送り迎えくらいしかできることないですし。ほんと、篠本さんのこと尊敬してます」
石動に真面目な顔で褒められて、つい赤くなってしまう篠本。
毎日クタクタになりながら1人で育児をしている篠本にとって、その褒め言葉はとても嬉しく、また胸に染みるものだった。
(辛いこともあるけど、こうやって褒められたら嬉しいし、子供の話できるパパさんとか滅多にいないし……)
いつしか、保育園から石動の車が停まっている、少し離れた駐車場までの短い距離間の会話が、篠本にとって楽しく癒しの時間になっていた。
「でもあんまり彼のこと知らないんだよな……」
それはなんとはなしにこぼれた言葉。
何度も会話はするのに、いつも自分のことばかり話していて、石動の事で知っていることなんて『仕事が忙しいこと』『送り迎えは彼が担当であること』『大切な人がいて、その人のために出来ることはなんでもしたいと思っていること』くらいだった。
自分の方はと言えば、離婚したことから子供の育児についての悩み、果ては仕事での悩みや愚痴まで、ついつい話してしまっているというのに。
「僕って喋りすぎ?」
振り返って恥ずかしくなる篠本。
というか、なんでこんなこと考えてるんだろう……なんて不思議に思いながら、息子のお迎えに行ったある日のこと。
「美優」
「あっ、ママー!」
(え……?)
この日はいつもより行くのが遅くなって、篠本が園に入ろうとしたタイミングで、女の子の声が聞こえてきた。
いつも呼ぶ石動の名前ではなく、はっきりと「ママ」と言ったその声に驚いて顔を上げたら、そこにはとても美しい女性が。
「きょうはママがきてくれたの? みゆうれしい!!」
「そうよ~! 今日はママがお迎えに来たの! さ、早くおうちに帰ろうね!」
「うん!!」
「石動、行くわよ」
「はい!」
女性の一言にハッとして周りに視線をやれば、彼女の背後には石動が待っていて。女の子を抱き上げた女性の荷物を持ってやっている。それから2人を見つめる顔がとても優しくて。
(あぁ。そうかーー……)
その完成された美しい家庭図を見て、篠本は痛む胸と、自分の気持ちに気づいてしまう。
(自分を褒めてくれて、こんなつまらない僕の話を聞いてくれて、息子にも優しく接してくれた彼のこと、いつの間にか好きになってたんだ)
だから、彼のことなんにも知らないな、なんてちょっと悩んだり、誰に褒められるより彼の言葉が1番嬉しく感じたりしたのだと。
「バカだよなぁ。奥さんがいるのなんて、最初からわかってたのに……」
じわりと視界が滲んでしまったのを、慌てて袖で拭って。それから何も無かったかのように息子の元へ向かった篠本。
「お待たせ翔! おうち帰ろうか!」
「パパー!」
(これはきっと気のせいだったんだ。疲れた心が優しさを欲していただけ。カッコイイ人に褒められて、ちょっといい気分になってただけ)
息子と歩く帰り道、最初から叶うはずのなかった気持ちを忘れるため、自分に言い聞かせる篠本。
それから、なるべく石動に会わないようにと、今までより早く息子を迎えに行くことにして、より一層仕事に励んだ。頑張れば頑張るだけ仕事は捗って早く退社出来るし、余計なことは考えなくて良いから。
そんな日を続けていれば体調もおかしくなる訳で。
「パパだいじょうぶ?」
「ん? なにが? パパは全然なんともないよ?」
「でも、げんきないよ?」
「そんなことないぞ? 元気もりもりだ!!」
心配そうな顔をする息子に微笑んでみるけれど、誰がどう見てもその顔には疲労が浮かんでいて。
保育園に息子を送っていけば、保育士にも心配される始末。そこでも「何ともないです」と誤魔化して仕事に向かおうとすれば、視界がぐにゃりと歪んだ。
「あ、れ……?」
何が起きているんだ?と思っているうちに、体が重くなって。足にも力が入らなくなって、その場に座り込んでしまう。
「こんなこと、してるばあいじゃ……。しごと……」
「篠本さん……?」
ぐわんぐわんと頭の中が揺れてる感覚に襲われつつ、どうにか立ち上がろうとしていれば、久しぶりに聞く声が。
「あ……?」
「なにして……って、篠本さん!?」
「石動、さ……?」
「ちょっ、どうしたんですか!?」
「な、に? しごと……いかなきゃ」
「何言ってんだあんた! そんな酷い顔で仕事なんて出来るわけないだろっ!」
「でも、やすめない」
「でももだってもねーよ! ちょっと待ってろ!」
声は聞こえるのにぼんやりとしか姿が見えなくて、なんでかなぁ。とか。久しぶりに声が聞けたのに、なんかすごい怒ってるなぁとか。グラつく頭で考えていたら、そのうちぷっつりと記憶が途切れていた。
ーー次に目を覚ましたら、そこには真っ白な天井があって。
「……どこ、ここ」
ぐるりと視線をさ迷わせてわかったのは、どうやら病院らしいということ。
上体を起こしてみて、幾分か頭がスッキリしていることに気づく。
(倒れた……のか? 翔を送って行ってそれから……)
朝の出来事を思い返していて、ハッとする。
「っ、仕事……!! ヤバい今何時!?」
「仕事の連絡はしてますよ。っつーか、あんたそれどころかよ」
慌ててスマホを探そうとすれば、掛けられた声にピタリと動きが止まってしまう。
「え……」
「やっと起きたんすね。顔色は……まあ、朝よりマシか」
シャッと音を立てて開かれたカーテンから現れたのは、久しぶりに見た石動だった。
「石動、さん……」
「久しぶりですね、篠本さん」
にこ、と音がつきそうな笑顔を見せる石動。けれどもその目は笑っていなくて、逆になんだか怒っているようにも見える。
「あ、そ……そうですね。お久しぶり、です」
「ほんと朝からビックリしましたよ。お嬢さんを園に送ってる最中に、道に座り込んでる篠本さん見つけて」
「っあ! もしかして助けてくれたのって……って、そうだ翔!!」
「ちょっとは落ち着いてくださいよ。翔くんなら今うちで預かってます」
「は……なら、よかった」
息子が1人で園に取り残されている訳ではないと知り、ほっと胸を撫で下ろす篠本。
「翔くんは問題ないですけど、あんたのほうはそうじゃないだろ」
「……へ? あ、仕事のこと……」
「じゃねえよ!」
急に大きな声を出されてビクリとしてしまう。
「っと、わり。……でも、仕事なんてどうでもいいんだよ」
「そんな、だって迷惑かけるじゃ……」
「だから! 仕事なんかよりあんたの体の方が大事だろって言ってんの!」
「ッ、」
「疲労に睡眠不足、貧血も起こしてたって医者が言ってた。目の下にはデケェ隈つくって、顔色は真っ白。子供がみてもわかるくらい酷い状態で、あんた何やってんだ?」
グッと詰め寄られながら、篠本は鋭い視線で射抜かれる。そのあまりの迫力に思わず布団を握ったまま小さくなってしまう。
「な、にって、別に……。早く仕事終わらせて、翔のお迎えに」
「今までと同じじゃダメだった訳? あん時は今ほどキツそうじゃなかっただろ? なのになんで急に体調崩すほど無理して、お迎えの時間早めるわけ?」
「そんなの、あなたに関係ないじゃないか! ちょっとでも早く息子を迎えに行ってあげたいだけだよ!」
「なら他になんかやりよう無かったわけ? つーか、単刀直入に聞くけど、俺の事避けたよな?」
詰るような言葉の数々に、つい怒鳴るように返してしまった篠本。けれど目の前の石動は、そんなことは気にもせずに、鼻先が触れそうなほど至近距離で、じいっと篠本の目を覗き込んでくる。
「なあ。なんで俺の事避けてたわけ?」
「ちょ、ちか……ッ! そ、それに、別に避けてた訳じゃ」
「嘘だな。……マジで迎えの時間が早くなってたけど、時々俺がお嬢さんの迎えに行くよりあんたが来るのが遅い日もあった。そんな時あんた、俺が園から離れるまで陰に隠れてただろ」
「な……!?」
「気づいてねーと思ってた? 残念だけどバレバレ。そんなにしてまで俺を避けたい理由って、なに」
少しも視線をそらさず問いかけてくる石動。
篠本は、その圧とかチクチクと責めるような口調だとか、現状の意味不明さに、とうとう何かが崩壊した。
ボロッと涙を零しながら言う。
「なん……っ、なんで、そんな事言うんだよ。会いたくなかったから、避けたに決まってんだろっ! あんたには別に関係ないんだから、ほっといてくれよ!」
「なんで会いたくなかったんだ?」
「っ、言いたくない!!」
「言わなきゃわかんねぇだろ。つっーか言わす。なぁ、なんで」
まるでキスでもする距離感で、両頬を掴まれて顔を固定されてしまい逃げられない。
ぐあっと今まで以上に顔が赤くなって、それから叫ぶように言い放つ。
「……ッ好きに、なっちゃったからだよ! あんたが既婚者なのはわかってるのに、好きに……なっちゃったから。こんな男に好かれたって迷惑だろうし、合わせる顔もなくて……それで」
言葉は勢いをなくして尻すぼみに。
顔は逸らせないので目線だけ逸らし、彼から突きつけられるだろう断りの宣言を待つ。
「なんだ……俺の素性知って、嫌われたわけじゃなかったんだな」
「は……素性?」
「……もう今更だし、つーか嘘つきたくないし正直に言うな? 俺ヤクザなんだわ。そんで、俺もあんたのこと好き」
「…………は? は……はぁぁ!?」
サラッと告げられたのは理解不能な言葉ばかりで。
「え? なに!? ヤクザ!? それに、僕のこと好き!? どういうこと? だって奥さん……」
「奥さん? 俺、結婚してないけど」
「じゃ、じゃあみゆちゃんは……?」
「……あぁ、なるほど? もしかして姐さんがお嬢さんのお迎え来た日見てた感じ?」
なにか理解したらしい石動。
ニヤリと笑いながら訊ねてくる。
その問いに口ごもってしまう篠本。
そうしたら石動はさらに楽しそうにして、篠本の頬を撫でならがら続ける。
「俺はヤクザの若頭補佐をしてんだけどな? お嬢さんは若頭の娘さんだ。俺は若頭や姐さんの代わりに、お嬢さんの送り迎えを任されてただけ。つまり俺には嫁も子供もいねぇってこと」
「…………なにそれぇ」
真実を告げられ、途端に力が抜ける篠本。もたれ掛かるようにぽすりと石動の肩に頭をもたれかからせる。
「だって大切な人いるって言ってた。……それにおねえさん?と、みゆちゃんのこと、すっごい優しい顔で見てたし。そんなの、勘違いするに決まってる……」
「大切な人ってのは、組長や若頭、その家族……組のみんなのことだな。っつーか大体、お嬢さんの呼び方とか、おかしいと思わなかったのかよ」
「それは、思ったけど……。でも、家庭それぞれ事情があるのかなって……」
うー、と唸る篠本の頭を撫でながら、石動は笑う。
「ほんと、あんたのそういうとこが好きなんだよ」
「ふぁ!?」
「俺が自分のこと話さないのに、あんたは詮索することもなく、いつも楽しく会話してくれた。顔が怖いって言われることもあるのに、全然態度も変わんねーし、そんなとこが嬉しくて、可愛く思えて。あの短い時間が毎日の楽しみだったのに、急に会えなくなって。どうしたんだろうって心配してれば俺の事避け出すし。……ほんと、俺を振り回してどうしたいんだっての」
「そんなの、知らな……」
「知っててもらわねーと困る。俺はあんたのこと好きで、避けられてる間イライラして、不安で、辛くて。……俺を振り回した責任、取ってもらわなきゃなあ?」
耳元に吹き込まれた重くて甘い声。それに思わず背を震わせて、弾かれたように顔をあげれば、熱くギラつく瞳に見つめられる。
「今日からあんたは俺のモンだ。ぜってぇ逃がさねえから覚悟しな」
呼吸さえも奪うような激しいキスを送られて、そうして篠本は危ない美しい男に捕まってしまったのだった。
最初は石動が言葉遣いちゃんとしてたのは、一般人を怖がらせちゃいけないよなーって気持ちと、多分石動の方が年下だから。
後半で口悪くなってるのは、篠本がぶっ倒れて焦ってて素が出たのと、取り繕ったってボロでるだろうし、隠し事したくないから自分自身でアピールしたろ!みたいな感じ。歳とか気にしてない。
ヤクザの若頭補佐美形×シングルファーザー平凡
CP名:石動誠矢×篠本文彦
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