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オリジナル
⑮孤児院オメガバース(美形×平凡)
しおりを挟む同じ孤児院で育った同い年の2人。子供たちは他にも沢山居たが、同年はお互いだけということで、何をするにも一緒に行動していて、非常に仲が良かった。
そんな二人の関係が少しずつ変わっていったのは中学の頃。バース検査により互いがαとΩであると判明してからだ。
今まで歳の近い子供たちと部屋で雑魚寝をしていたが、Ωと診断された平凡(知佳)は、その日から個室になった。今まで何も考えずに話していた親友(雪弥)がαだと思うと、身分の違いなどを感じてしまって気軽に話せなくなった。
そうして高校に上がって幾らか経った頃、遂にその日が訪れる。
寝苦しい夏の夜。体が火照ってどうしようもなかった。
そうしていればありえない場所が濡れる感覚。
発情期だ、と瞬時に理解し、そして混乱した。
体を駆け巡る熱に翻弄されながら、それでも抑制剤を飲まねばと立ち上がろうとする。
その瞬間、部屋の扉が開いた。
振り返った先には、雪弥の姿が。
…………そこからはもう本能の赴くままだった。抗うことも出来ずに押し倒され、裸に剥かれ、そうして体を開かれた。
知佳が正気に戻ったのは、あの日から1週間経ってからだ。それまでの記憶はあやふやで、ただ体や部屋に残る痕にとんでもないことをしてしまったと知る。
それからは尚のこと雪弥と距離を取った。学校ではもちろん、孤児院の中ですらろくに会話もせず、目も合わせず。
高校を卒業すれば、ここを出ていく。それまでの関係だと、そう考えていたのに。
いつからか体調を崩すようになった。
ダルさや吐き気が続き、何かおかしいと思って病院に行けば告げられたのは「妊娠」。
知佳は泣き崩れ、どうしていいのか分からなくなった。孤児院のことや、学校のこと、そして雪弥のこと。
色々悩んで、とりあえず雪弥に相談しようかと思った時、さらに知佳を絶望させる出来事が。
ーー雪弥が、新しい家族の元へ行くことが決まったのだ。
どこかの大きなお屋敷に引き取られるのだという雪弥。そんな彼に、子供が出来たなど言えるはずもなかった。
結局知佳は、孤児院の院長にだけこのことを告げ、それから1人で様々な準備をした。
そして雪弥が孤児院を出たその日、知佳も1人で行方をくらませたのだった。
知佳は親友が知らないであろう田舎町へと辿り着いていた。
まずは働かなければ、と思った知佳は職を探す。
すると、とある定食屋の夫妻が住み込みで雇ってくれることに。
夫妻はβで、知佳の事情を深く尋ねることも無く、優しく接してくれた。
自身がΩであり、また妊娠していることは伝えていたので、時折つわりで具合が悪くなってもやさしかった。
そうして必死に働き金を貯め、知佳は子供を産んだ。可愛い可愛い男の子。
定食屋の夫妻も自分の事のように喜んでくれ、知佳はこの街でこの子と、周りの人と一緒に幸せに暮らそうとそう思った。
ーー一方その頃。新しい家族に迎え入れられた雪弥は焦っていた。
何故ならば、自身が孤児院を出た次の日から、知佳が行方不明になったからだ。1年近く探しているが、その足取りは掴めない。
なぜ、どうして、どこへ。
そんな言葉ばかりが脳内を巡る。
いなくなった理由は、大体検討はつく。
あの一夜の出来事がきっかけだろう。あれから知佳の様子がおかしくなっていった。だが、自分が引き取られると伝えた時、笑顔を見せ喜んでくれた。だから、また昔のように仲良く出来ると、そしてそこから距離をどんどんと詰めて、番になれると、そう思っていたのに。
「どうして何も言ってくれなかったんだ……!」
自分に対する思いも、何か悩みがあるのかも、なにも言わずにいなくなってしまった。
……自分のことが嫌いになったのなら、それでも良かった。一言声が聞ければ、一言「あの時はすまなかった」と謝ることが出来れば。
そう考えて探しているのに。
「どこにいるんだ……」
力なく呟きながら、雪弥は歩き出す。向かう先は自身が暮らしていたあの孤児院だ。
知佳がいなくなった翌日から、何度も何度も通って、院長に知佳の居場所を尋ねた。だが、「知らない」とその一言で追い返されていた。
それでも手がかりはそこしかないと、雪弥は諦めない。そうしてその日、奇跡が起きた。
「いんちょーせんせー!」
いつものように院長に話を聞いていれば、郵便物を手にした孤児院の幼子が駆け寄ってくる。
真っ白なシンプルな便箋。
その真ん中に書かれた筆跡に、見覚えがあった。
「っ、これ……!!」
「あ!」
院長が受け取るより先に、子供からそれをひったくると、書かれた文字を食い入るように見つめる。
間違いない。これは、知佳の字だ。
確信して差出人の名前を見るが、そこには何も書かれていない。
ならばと、院長の制止の声を無視して開封する。そして手紙に目を通した。
♢♦︎♢
ーー可愛いなぁ。
ふにゃりと笑う我が子を見つめながら知佳は思う。
静かな港町、優しい人々、愛しい息子。
少し前まで絶望の中にいたのに、今はこんなに心穏やかだ。
このまま彼のことも忘れてしまえたら。……そう思っていたのに。
「ーーどうして」
「やっと見つけた!!」
昼食時を過ぎ、店も落ち着いてきた頃に彼はやってきた。
最後に見た時より、また一段と格好よくなった雪弥。
何もかもを捨ててこの男から逃げてきたというのに、どうして。
じわりと首の後ろが熱を持った気がした。
が、それを無視して店の奥へと走り出す。
居住区に繋がる扉の鍵を閉めると、荷物をまとめて我が子を抱える。
今すぐここから逃げなければ、と住居の方の玄関へと向かえば、
「捕まえた」
どうして先回りできたのかは知らないが、立ち塞がった雪弥がいた。
「全部、話してくれるよな?」
否やを言わせぬ圧を掛けられ、赤子を抱いた腕にギュッと力を込め、それから静かに頷いた。
店舗に戻って夫妻に話をしてから、家に雪弥を上げる。そして向かい合って今までの事を話し始める。
あの一夜の過ちによって子供を授かったこと。相談しようと思ったが、雪弥は新しい家族の元へ行くことが決まっていたので、巻き込んではいけないと思ったこと。自分一人で子供を産んで育てると決めたこと。
「……僕は、大丈夫だから。だから、君は帰ってくれない?」
「なんで?俺とお前の子だろ?2人で育てればいいじゃないか」
雪弥の言葉に心が揺れた。けれど
「君には君の人生があるじゃないか。新しい家はお金持ちなんだろう?それに君はαだ。引く手あまたで、僕みたいなやつじゃなくて素敵な相手と出会えるよ。僕とのことは、事故だったんだから気にしなくていい。不幸中の幸いは、あの時噛まれなかったことだね」
小さく笑って言った瞬間、机が激しい音を立てて叩かれる。
それに知佳も腕の中の赤子も驚く。
赤子は泣き出してしまうが、あやすことが出来なかった。
「確かにアレは事故だった。でも、俺は後悔してないし、あの時本気でお前を番にするつもりで何度も抱いたんだ」
「な、なん……」
「なんで噛まれてないと思う。俺もお前も、意識が朦朧として本能のままに抱き合っていたのに」
射抜くように見つめられ、身動きすら取れない。
確かに、疑問には思っていた。
身体中至る所に噛み跡があったのに、項だけは無事だったことが。
「不幸中の幸いなんて言葉で片付けられちゃ困る。アレは俺の忍耐力の賜物だ。噛みつきたくて仕方ないのを、ギリギリの理性で押しとどめたんだぞ。ちゃんとした意識の時に、お前に告白して、それから噛むために」
いつの間にか子供は泣き疲れたのか眠っていた。
部屋に静寂が満ちる。
「なぁ知佳」
静かに雪弥が声を発する。
「ずっとお前が好きだった。バース性がわかった時からずっと、お前を番にしたいと思ってた。でもお前が戸惑ってたから、気持ちが落ち着くまで待とうと思ったんだ。……でも。待っててこうやって逃げられてちゃ意味ないよな」
「え……」
「もう、絶対に逃がさないからな」
仄暗い瞳と視線が交わる。
(ああ……)
近づいてくる雪弥から、逃げられないと悟る。そうして項に鋭い牙が突き立てられるのを目を閉じて受け入れるのだった。
執着美形α×平凡Ω
CP名:篠原雪弥×相羽知佳
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