92 / 96
リクエスト
⑭華族子息×平民使用人(美形×平凡)
しおりを挟む「おおきくなったら、葵をおよめさんにしてあげる!」
「うん!」
それは小さな頃の話。けれど、とても大事な思い出。
……平凡(葵)は、とある華族のお屋敷で住み込みで働いていた。両親が元々使用人であったため、子供の頃からそのお屋敷で暮らしているのだが、その屋敷には平凡と歳の近い息子(颯真)がいた。次男であるその息子は、美形で人柄がよく、誰にでも好かれる好青年で、使用人である葵にも分け隔てなく接してくれる人だった。幼い頃はまるで兄弟のように遊んで過ごし、今でも良好な関係を築いている。
ーー葵はいつの頃からか、そんな優しい颯真のことを一人の人間として好いていた。けれど同性であることや身分の違いを持ってして、その想いが叶わないことは分かっていた。
それでも彼の側に仕え、すこしでも支えになれればと思っていた時に、その噂は飛び込んでくる。
「聞いたかい?颯真坊ちゃん、ご結婚なさるそうだよ!」
「……え」
他の使用人から聞かされたその話に、葵は酷い衝撃を受ける。
いつかそんな日が来るとは覚悟していた。だが、こんなに急だとは。それななにより、本人からその話を聞かされなかったことがショックだったのだ。
小さい頃から二人はなんでも話してきた。嬉しいことや悲しいこと。好きなことや嫌いなこと、親には話せない秘密まで、なんでも共有してきたのだ。それなのにこんな大事な話を何もしてくれないとは……。
そこまで考えて、葵は「いや」と頭を振る。
(これはあくまでも噂。颯真様に聞いてみたら、違うかもしれない……)
言いようのない不安を感じつつ葵は颯真に聞いてみようと、彼の部屋に足を向けた。
扉に近づいた時、中から声がする。耳をすませればそれは、颯真の声だった。
「……ああ。そうだ。結婚したら仕事は辞めてもらおうと思っている。ずっと私のそばにいて欲しいからな」
誰かと会話している内容が聞こえる。
彼は確かに「結婚」と言った。
(嘘じゃ、なかった……)
葵は何も言わずにそのまま踵を返す。そうして庭まで来るとしゃがみ込んだ。
「僕には教えたくなかったの?他の人は知っているのに、どうして僕は除け者にされているの?」
部屋から漏れ聞こえた彼の声は、とても優しく暖かくて、相手のことを想っているのが伝わってきた。それほどまでに愛する人のことを、兄弟のように接してきた自分には内緒にするのはどうしてなのか。
「僕が、なにかしたのかな……。嫌いになったんだろうか」
好きな人に、好きな人がいること。結婚をすること。蔑ろにされたこと。すべてが葵の気持ちを暗く重くさせた。
「……およめさんにしてくれるって、言ってたのにな」
そんなこと子供の戯言だとわかっている。それでもあの言葉は、葵の心の中の宝物だったのだ。
ほんの少しだけ泣いて、それから葵は仕事に戻る。
(全て忘れよう。僕は使用人、彼はお屋敷の息子。それ以上でも以下でもない)
次に顔を合わせる時には、笑って祝福できるよう、葵は自分の気持ちを押し殺す。
そうして翌日のこと。
「……話は聞いたかい?」
と、どこか嬉しそうに颯真が話しかけてきた。
「っ、はい。伺いました。ご結婚……なさるんですね」
「ああ、そうなんだ!」
「おめでとうございます。使用人一同もとても喜んでおります」
ニコリと笑って頭を下げる。どこも不自然なところは無いはずだ。
(大丈夫。ちゃんと笑えてる)
自分に言い聞かせながら顔を上げると、何故か颯真は葵をじっと見つめてくる。
「? あの、颯真様?」
「葵は?嬉しくないのか?」
「は?……あ、いえ。ですから喜んでおりますと……」
「そうではなく、お前は結婚することが嬉しくないのか、と聞いているんだ」
「えぇ、と……」
何を言っているのか、と思った。それに自分をおちょくっているのか、とも。
(僕の気持ちも知らないから、そんなことが言えるんだ)
葵は悲しみと怒りが湧いてきた。
なぜ片思いの相手の結婚を喜ばないといけないのか。そう、怒鳴ってしまいたかった。けれどそんなことが出来るはずもない。
唇を噛んで、それからゆっくりと口を開く。
「……もちろん、嬉しいですよ」
と。するとそれを聞いた颯真は、表情をパッと明るくして
「そうか!だったらいいんだ!結婚式が楽しみだな!」
と笑いかけてくる。それから颯真はどこかへ行ってしまったが、葵は暫く動くことが出来なかった。
(なんなの?なんでそんな事言うの?楽しみ?そんなわけない!颯真様の結婚を祝うなんて、そんなの……!)
慌てて近くの空き部屋に入る。
それから声を殺して泣いた。
ーーそれから葵は動き出した。
颯真にバレないよう、両親や屋敷の主人に掛け合い、仕事を辞める話をつけた。
この屋敷の主人……つまり、颯真の父親からは、かなり必死になって止められた。けれど葵が折れる気は無いと知ると、渋々といった様子で受け入れてくれた。
それから優しいことに、葵の次の働き口や住む場所まで用意してくれるとの事。そこまで世話になることは出来ないと言ったが、これを受け入れないとこの話自体無かったことにすると言われてしまえば、それ以上何も言えなかった。主人が準備をしてくれている間に、葵も荷物をまとめることに。
(ここを離れよう。そして、全部忘れよう。大丈夫。彼はこれから幸せになるのだから。僕なんていない方がいいに決まってる)
自分をそう納得させ、淡々と作業を進めていれば、誰かが部屋を訪ねてきた。
誰かと思いつつ扉を開ければ
「っ颯真様……!?」
「葵っ!」
ものすごい勢いで颯真が部屋へ入り込んで来た。それから壁に押し付けられる形で、颯真と向かい合う。
「っ、ど……どうされたんですか!?」
「荷物をまとめて何処へ行くつもりだ」
「な、なんの事……」
「誤魔化すな!お前がここを出ていくつもりなのは知っている!一体、どういうつもりなんだ!?」
恐ろしい剣幕で葵を問い詰める颯真。その目は決して嘘は許さないと言っている。
だが。
「……少し、体調が優れないので、お暇を貰うだけです……。ご結婚を控えてらっしゃる颯真様に何かあったら困るでしょう?」
葵は視線を逸らしながらそう伝えた。
そうしたら大きな舌打ちが聞こえる。驚いて颯真を見やると同時に激しい口付けをされた。
「んぅ!?」
何が起こったのか分からない葵をよそに口内を蹂躙する颯真。しばらくして口を離されると、それから彼の想いをぶちまけられた。
「結婚が嬉しいと言ったのは嘘だったのか?仕事を辞めるのは構わない。いずれ辞めさせるつもりだったからな。だが、私から離れるのは許さない」
睨みつけてくる颯真。けれど彼の言葉に、葵も噛み付いた。
「そんなこと、貴方に言われたくない!僕がどうしようと、結婚する貴方には関係ないでしょう!?」
「あるに決まっている!!」
「っ、どうしてですか!?」
「私の結婚相手はお前だぞ!?妻になる者のことが関係ない訳がないだろう!!」
「…………は?」
颯真の叫んだ言葉に、葵の動きが止まる。
……それからなんやかんやあって、すれ違っていた二人が誤解を解いて、結婚して夫婦になって丸く収まる。
※長くなりすぎるのでカットしました
そんな感じの
愛重め執着華族美形×平民使用人平凡のお話です。
CP名:桜庭颯真×古谷葵
2
あなたにおすすめの小説
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる