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オリジナル
54.失恋した×捨てられた(美形×平凡)
しおりを挟む「俺、結婚することになった」
高校からの同級生で、社会人になった今でも体の関係が続いていた男が、突然そう告げる。
「え……?」
「会社の子なんだけど、上司の娘でさ。可愛いし俺の事好きだって言ってくれるし、丁度いいかなって」
ーーなんだそれ。
平凡(巧)はそう思った。
そんな最近知り合ったような奴と結婚?俺の方が長い付き合いなのに?
好きだって言ってくれる?俺だってずっと前からお前のこと好きなのに?
伝えたいけど、言葉が出ない。
だって自分たちはただのセフレだから。
もともと親友だったのに、ひょんなことからそこに体の関係が組み込まれて。ずっと好きだったけど、もしそれを伝えてこの関係が壊れたらと思うと言い出せず、結局気持ちを隠したまま体だけの関係が今の今までズルズル続いてきた。
それでも、こんなに長く関係が続くってことは、相手も少しは自分のことを好きでいてくれてると思っていた。
(なのに、俺の思い込みだった……ってこと?お前は、なんとも思ってなかった?)
ズキズキと胸が痛む。泣きそうになるのを我慢していれば、更に衝撃的な言葉が。
「あ、結婚式には来てくれよな。高校の同級生はみんな呼ぶつもりだから」
へらっと笑って男は言う。
「ーーッ」
「あ、オイっ!?」
瞬間巧は荷物を引っ掴んでホテルを飛び出していた。
「っざけんな!ふざけんなふざけんな!!結婚式!?誰が行くか!」
怒りが抑えられない。歩きながら、男に……そして彼を奪った彼女に呪いの言葉を吐く。
「お前たちの幸せなんて誰が祝うもんか!俺の気持ちも知らないでッ!!クソっ、くそくそくそ……!!」
口汚く罵りながら、いつの間にか溢れ出た涙が止まらない。
すれ違う人に驚かれるのも気にせず、巧は泣きながら家に帰った。
それから巧は男と会うのをやめた。
向こうも結婚が決まったからか、連絡はしてこなかった。
けれどあの時の言葉は本気だったのだろう。
ーー数ヶ月後、男から結婚式の招待状が届いた。
「ほんと、クソ野郎だよ」
そう呟く巧は今、結婚式場にいた。
もちろん、セフレだった男とその恋人の女の結婚式だ。
ーー散々悩んだ挙句、参列した巧。
(ぶち壊してやろうかなって思ったんだけどな……)
幸せそうな笑顔の新郎新婦、二人を祝福する友人たち。
この数年間の男との関係をぶちまけて、いっそ式を滅茶苦茶にしてやろうという気持ちも、周囲を見ていたら萎んでしまった。
「あーあ。来なきゃ良かったな……」
こんな惨めな気持ちになるくらいなら。
そう思って、顔を伏せた時である。
視界の端に、同じように俯く誰かの姿が見えた。
「……?」
気になって視線をそちらに向ける。そこには巧と同じように辛そうな顔をした美形(彩斗)がいた。その美形は新婦側の参列者のようで、彼の視線の先には、嬉しそうに微笑む新婦がいた。
(ーーあ)
同じだ、と思った。
どんな関係かは分からない。けれど、自分と同じでこの人も、報われない恋をしていたのだと、そう思った。
そう感じてしまうと、目の前で幸せそうにしている二人より、同じ境遇であろう彩斗にばかり目がいくように。
挙式が終わり、披露宴に移ろうかという時、巧は思い切って彩斗に声をかけた。
「っあの……」
「え?」
正面から見る男は、やはり美しかった。けれどハレの日には似合わない、思い詰めたような、泣いてしまいそうな表情をしている。
「ちょっといいですか……?」
訳が分からないといった表情の彩斗を引っ張り、二人は会場から遠ざかる。
「あ、あの!一体なんなんですか……??」
人のいない駐車場まで来ると、掴んでいた彼の手を離す。
「いきなりごめんなさい。……でも、貴方が辛そうだったから」
「は……?」
「……貴方ずっと、新婦を見てましたよね」
「な、んのことですか?」
「誤魔化さなくていいです。……俺も、同じなので」
「……え?」
「俺も、ずっと見てたんです。……新郎を」
「それって……」
驚いたような彩斗。それに少しだけ笑って、巧は続ける。
「ーー少し、お話しませんか?」
駐車場の端に設置された喫煙スペース。そこに置かれたベンチに二人並んで腰かける。
そこで巧は、今までの新郎との関係をかいつまんで話した。
「……という訳で、高校から続いてたセフレ関係が、あっさり終わってしまったんです」
あはは、と苦笑いをこぼす巧。
それを見る彩斗はなんとも言えない顔をしていた。
「あー……、こんな話聞かせてすみません。勝手に貴方も、俺と似たような感じかなって思ってしまって」
「……いえ。仰る通りなので気にしないでください。でも、俺は貴方よりマシだ」
「というと?」
「俺は、ただの片想いなので。二人で食事に行ったり、休日に買い物に行ったり……そういうことをしたくらいで、全然深い関係なんかじゃなくて」
「……でも、失恋したことには変わりないですよね?」
「そう、ですけど……」
「なら俺と同じです。気持ちを伝えられないまま、諦めるしか無かった。……どうしようもなく辛いですよね」
力なく笑うと、彩斗も少しだけ返してくれる。
「そう……ですね。同じです。告白する意気地もない、ヘタレです」
「あはは!確かに。ヘタレで惨めな男ですね、俺たち」
ーーそうして不思議な縁で出会った二人。
連絡先を交換して、時折会うようになる。
話してみれば二人は、意外と好みが似ていた。食や趣味、見るテレビや着る服の傾向まで。
最初は、傷ついた心を互いに慰め合うために会っていた。だが、今は互いに過ごす時間が心地よく感じるように。
いつしか巧は、自分を捨てた親友のことを過去の出来事として、思い返すことができるようになっていた。
(それもこれも、全部多田さんのおかげ)
いつも穏やかな雰囲気で、優しく接してくれる彩斗。親友の時のようにコソコソ会わなくてよく、いつも楽しく居られる。
そんな相手のことを好きにならないわけがなくて。
(でも、彼はノンケ。あんなに素敵でかっこいいんだから、引く手数多だろうし、俺なんかが選ばれるはずない)
最初から叶うはずがないと分かっている。
だから巧は次の恋に進もうと決め、初めてゲイバーに行ってみることに。
初めて足を踏み入れたゲイバーは落ち着いた雰囲気で、心地のいい音楽と人の良さそうなマスターがいて、一先ずホッとする。
(えぇと、どうしたらいいんだろう……)
なんて思っていたら、声を掛けられた。
爽やかな見た目で、優しそうな雰囲気の男。どことなく親友に似ているその人は、巧を今夜の相手にと誘ってきた。
(……少しアイツに似てるのが気になるけど、まあご無沙汰だしいっか……)
そう思った巧は、男の誘いに乗ることにした。
店を出てホテル街を歩いていれば、突然腕を掴まれる。
「っ、え!?」
驚いて振り返る巧。そこには彩斗の姿が。
「多田さん!?」
「…………巧さん、その人誰ですか?」
「へ?」
「その人、貴方の恋人……なんですか?」
彩斗の視線の先には、先程ゲイバーで出会った男。
「あ、えっと、その……」
言い淀んでいれば、名前も知らない男が話に入ってくる。
「何?その男。もしかしてホントは相手いたとか言わないよね?」
「そういう訳じゃないけど……」
「そ?ならキミどっか行ってくんない?今から俺たちイイコトするんだからさぁ」
男は巧の肩を抱きながら彩斗に告げる。
気まずいな、と思いながらも、とにかくこの場から立ち去りたくて。
「あ、えと。俺はこの人と用事があるので。それじゃ……」
そう、彩斗から目を逸らしながら伝える。
けれども。
「……あの、多田さん?手、離してくれませんか……?」
掴まれたままの手が離れない。それどころかさらに力を込められ、彩斗の方に引き寄せられた。
「ぅ、わ!?」
「オイ!?」
驚く巧と男。
彩斗は巧を抱きしめると、睨みつけるようにして男に言う。
「悪いけど、この人俺と先約あったから返してくれる?」
「はァ!?」
「ちょっと喧嘩してただけだから、アンタと本気でどうこうするつもり無かったんだよね。だから諦めて。……納得できないならお金も渡すけど」
「っ、要らねぇよ!相手いるなら最初から言えっての!」
怒鳴りながら遠ざかっていく男。
取り残された二人には、気まずい空気が漂う。
「あ、あの……」
「今の人誰ですか」
冷たい声音で問いかける彩斗。
巧は小さくなりながら正直に話すことに。
「……今日、初めて会った人です」
「どこで?どうやって?」
「さ、さっきゲイバーで。声をかけられて……」
「……どうしてそんな所に行ったんですか」
未だに抱きしめられたままの巧。その背に回された腕に力が篭もる。
「…………つぎの恋を、探そうと思って」
好きな男の腕に抱かれておきながら、何を言っているのか。
自分でも訳が分からないまま告げると、彩斗は巧の頭上で舌打ちをする。
思わずビクリと肩を揺らす巧。
彩斗はそんな巧を一瞥すると、腕を引いて歩き出した。
「えっ!?ちょ、あの!!ま、待って……!」
「待ちません」
連れ込まれたのは、近場のホテル。
適当に部屋を選ぶと、無言のまま入室し、そうして巧をベッドに押し倒した。
「待って!!なんで?おかしいよ、急に……ッ!!」
「……だめなんですか?」
「っ、え?」
「俺じゃ、駄目なんですか?」
「なに、言って……」
覆いかぶさられたままの体勢から視線を巡らせれば、不安そうな顔の彩斗がそこにいた。
「多田さん……?」
「巧さんの次の恋の相手、俺じゃだめなんですか?」
しっかりと目を見て、同じことを繰り返す彩斗。
巧は驚きに目を見開く。
「それって、どういう意味……」
「好きです」
「っ」
「傷付いた俺の事を気遣って、式場から連れ出してくれた貴方が。いつも優しく話を聞いて励ましてくれる貴方が。楽しそうに笑う可愛いあなたが。俺は、大好きなんです……」
「多田、さん」
「もう、気持ちも伝えず誰かに取られるなんて、あんな思いはしたくない。気持ちを伝えて、もしそれでダメでも、何度でも振り向いて貰えるまで努力したい。……そう思わせてくれたのは貴方だ、巧さん。……好きです。まだ誰のものでもないなら、どうか俺のものになって……」
懇願するように巧の首筋に顔を埋める彩斗。
それになんとも言えない気持ちになって、巧はその背中を強く抱き締めた。
「ッ、俺も好き……っ!!」
「……え」
「かっこよくて優しくて、一緒にいて楽しい多田さんが好き!大好き……!!」
その言葉にガバリと彩斗が体を起こす。
絡み合った視線の先には、顔を真っ赤にしたお互いが映っている。
「……ほんとに?」
「ほんとだよ。多田さんこそ、ウソじゃない?」
「そんなこと、あるわけない……」
ジワジワと両想いだということを実感する二人。いつしか瞳からは温かいものが溢れていた。そしてそのまま、吸い寄せられるように唇を重ねる。
ーー締まらなくて、カッコ悪くて。
本命に好きと告げられずに捨てられてしまった二人は、今やっと幸せになることが出来た。
失恋した美形×捨てられた平凡
CP名:多田彩斗×湯沢巧
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