闇と光

白銀狼

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狼と虎

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 太陽が昇る頃クロウとギンはチルルの村に向かい山を歩いていた。
 無口で歩くクロウの後ろを親鳥を追う子鳥のように必死にギンは後ろを歩く。
 途中、蛇が出たりイノシシやクマの姿を見かけギンはよく一人でこんなとこに居たと驚いた。

「クロウさん」

「…なに?」

「たまにクロウさん、独り言のように呟いていますよね?…今隣にいる者に対して」

「あんた、見えるの?これが」

 クロウは、隣を鷲掴んだ。
 掴まれた者はむっとしている。今にも噛みつかれそうだ。

  ギンは、頷き不思議そうに見つめる。
 どうやら、気になったらどうしても解明したいらしい。

 さながら、小さな子犬が尻尾を振り催促をするかのよう。

 瞳をキラキラさせて目を離さないため説明をする事にした。

「こいつの正体はあまり分かってはいないけど、私が飼っていた犬の魂らしいわ。あの子とは全く似てないけど」

「そうなんだ…」

 シュン…
 
 ギンは、少し落ち込みがっくりとしていた。

「私は、興味がないから」

 ギンは弾かれたように、クロウを見上げる。
 ギンには、何かあると感じていたが。まさか…

 (今はそんな事はどうでもいい。)

「…私は興味がないから知らないだけ。…だから、あんたは知りたいなら時間をかけて知っていけば良いんじゃないの?」

「え…?…うん!!」

 ギンの機嫌はコロコロ変わる。変わりやすいし変えやすい。
 真っ直ぐ過ぎるのも問題だ。もし敵に騙され敵側に付かれたら…分が悪い。気を付けておく必要がある。

 クロウの心配を余所にギンはクロウの前を歩き出す。
 道端の草花を見、流れる川に身を乗り出しはしゃいでいた。


 ガサ…ガサガサ

 二人は、一斉に木々の間を見る。
 
「白い…何?何かある。」

「…騎士かそれとも…!」

 クロウは、ギンを後ろに庇い地面を転がる木の棒を右手に持ち警戒した。

 木の間からは、一匹のうさぎが飛び出した。

「クロウ!うさぎだよ!わぁ!!」


 近づこうとするギンの腕を引き戻し構える。

 「え?うあぁ…!!」

 「獣人クロウ!見つけたぞ!!」

 うさぎを出しに使い、攻撃を仕掛けて来たのはやはり騎士だった。

 目の前には、三人の騎士。対するは、二人の獣。

(本当、分が悪い。)

 急いでギンに演唱をさせ、クロウは棒きれで相手を拡散した。

「炎よ 弾丸となりて 敵を散らせ ファイアーボール」

 ギンの周りのスペルが円を描き目の前の敵に放つ。

 騎士団は、ギンの魔法に驚くもクロウを攻撃する。
 ギンは、クロウの援護をしたが次の演唱をするには時間がかかる。

「ギン!戦線から離脱しなさい!」

「それじゃぁ、クロウが!!」

「あたしは、大丈夫だから 逃げなさい。」

「でも…」

 心配するギンを払い退ける。クロウの言葉にギンは従い、戦線を離脱する。

 「…いくわよ…」”イツデモ イイゼ”

 去り際のクロウの言葉に不安が湧いた。しかし、クロウの言葉に従うしかないギンは後ろを気にしながらも走り身を隠した。

 ギンは、騎士団に追われず戦いが収まるまで怪我も無く無事だった。

 ギンが、どうしてもクロウが心配になり元の場所に戻るとそこには騎士が一人も居なかった。

 立っていたのは、騎士団員の甲冑を手にし、左手を真っ赤に染まった獣 
ークロウであった。

 ギンは息を飲みクロウに近づいた。

 クロウの顔は、長い黒髪で見えなかったがギンには 表情が悲しそうに見えた。

 何故か無性に彼女の隣に居たいと思った。

 名前しか知らない 目的も定かでない
 全てがまだ分からないが…彼女の表情は、側にいたいと思うには十分であった。

「…戻って来たのね。先を急ぐわよ。」

「あ!!…まっ待って!!」

 クロウは、甲冑を地面に置き川を見つけ左手を念入りに洗った。

 クロウの背中や腕には無数の切り傷があった。

「僕に…僕に傷を治させて。」

「勝手にしなさい。でも、すぐに終わらせて。まだ追っ手が居ないとも限らない。」

「分かった。」

「生ある者に祝福を キュア」

 優しい黄色がクロウを覆い傷が回復していく。
  
ギンによる治癒が終わるとクロウは立ち上がり歩き出す。

”チイサナ トラ デモ ヤクニタツナ”
(…うるさい)

「…ありがとう。ほら、行くわよ」

「うん!」

 そして、ギンとクロウはチルルの村に向かいまた歩き出した。

 チルルの村まであと少し。
 ギンは、一歩一歩確実に歩を進めた。






騎士団本部
 時同じくして本部には、シーロと数名の騎士が待機していた。

 半数はクロウを追わせ、また半数はクロウについて調べを開始していた。


「シーロ様!!」

「なんだ!?何か分かったか!」

「それが…あのクロウは、ただの獣人の女でなく…」

 騎士団員の一人が語った事実は意外なものだった。

「まさか…騎士団が関わっているなんて!?」



ーー物語の歯車が回り始める。
                                              続く
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