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闇の世界と光の世界
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クロウ達は、なんとかチルルの村に着いた。
造りの古い門をくぐり抜けたそこは、歴史の村と呼ばれているチルル。
クロウの祖母は、歴史語りである。
クロウは、自分の中の獣をどう鎮めればいいのかを知る為チルルの村に来たのだ。
だが、まずは服を買うのが先だ。
ギンも自分も身元がわれている、その為姿を晒し続けるのは、はばかれた。
ギンを連れ家屋の合間を縫って細い路地に入る。
地面に風呂敷を広げ座っている男性に近づき、話しかける。
「服を2着とローブを2着欲しいのだけど。一枚は、彼に合わせて」
「はいよ。毎度あり」
「クロウ?この人は?」
山にいたギンにとっては不思議でしょうがない。男性が地面に座り後ろにダンボールを背負っているのだ。
「彼は、裏で商売をしている人よ。あまり良いものではないけど、今はそんな事言っていられないから」
「おじさん…悪い人なの?」
「おじさんは、悪い人なんかじゃないよ~。お姉さんひどいなぁ」
ギンは、白をベースにした服をクロウは、黒をベースとした服を着替え上からローブを羽織った。
この先の旅を考えブーツを履き、村の中を歩く。
途中、昼食をとり祖母を訪ねた。
他の民家から離れた所に小さな小屋があった。
母から聞いた祖母の家に間違いなかった。変わり者扱いされていた祖母もまた他者から離れた所で暮らすしかないのだ。
「おや、クロウ。来たかい。」
「おばあちゃん。聞きたい事がある。」
「その前にその子は、あんたが拾ってきたのかい?」
「えぇ。そうだけど。」
「あんたは、全て知ってその子を連れて来たのかい?」
ギンが人でない事。人を襲うトラである事。
「知った上よ。…私と一緒なんだから、変わりはないわ。」
クロウも同じく人ではない。正しくは人でなくなった。オオカミとトラが一緒なんて変な冗談だと思うけど、現実なんだから仕方ない。
「はぁー分かったよ。でも少年、ここから一人で出てはいけないよ。」
「はい。分かってます。ありがとうございます。」
おばあちゃんは、家の中を案内し今日は一晩泊めてくれると言ってくれた。
泊まる部屋を案内してもらい、クロウはギンが久々の布団にはしゃぐ姿を見た。
布団も部屋もある。クロウにとってもギンにとっても気分が上がった。ましてや、山を越えたりしたからギンも休憩が必要だったから幸いだった。
「ギン。あんたは、少し休みなさい。明日は、また歩くから」
「え。でも…」
クロウは、振り返らずおばあちゃんの元に戻った。
「んで、あんたの用事は?」
「母さんと父さんが亡くなった日から私はオオカミになるようになった。」
それから私は、祖母に今の現状と今回の目的を軽く話した。
もちろん、ギンを拾った時の事も包み隠さずに話した。
「じゃぁ、あんたは裁きの祠に向かいな。そこなら魂の正体が分かる。それから、ギンはあんたが責任持って旅に連れてきな、いいね?」
「なっ!?」
「えっ!?」
(ギンは、祖母に預けるつもりで連れてきたのに…)
ギンの方を見るとじっと私がとるであろう行動を待っていた。
震える手で服の裾を握りしめ奥歯を噛み締め俯いていた。
何も言わないギンの手にそっと手を添え言った。
「この子が私を必要としなくなるまでよ。それ以上は面倒見切れないわ。」
ギンは、顔を上げ満面の笑みを浮かべクロウに抱きついた。
クロウの肩は、ギンの涙で濡れていた。
そんなギンとクロウを優しく祖母は見守る。
その夜ギンは、寝るまでクロウから離れなかった。ベッドの中に入ってもクロウの手を掴んで離そうとしなかった。
まるで手を離したらクロウが何処かに行ってしまう。そう感じているかのようにギンは、離そうとしなかった。
そんなギンを幼少期の自分に重ねてしまう。
幼い頃、怖い夢を見て一人では眠れなくなり母の姿を探した夜。
我が子が眠るまで側にいて優しく頭を撫でる母の温もりを
もう感じる事が出来ない幼いギンに触れながらクロウは思い出していた。
ベッドからは、すやすやとした寝息を感じる。
(もう、大丈夫そうね。)
そっと手を離す。
そして、部屋を出て廊下の窓から空を見上げた。外には満天の星空と満月が輝いていた。
(明日は、裁きの祠に)
”ヤット オレノ ショウタイガ ワカルンダナ?”
「そうよ。…そういえばあんたも昔が分からないんだっけ?」
”キヅイタラ クロウト イタカラナ”
「そうだったわね。長い付き合いだったわね。まだまだこの先も頼むわね。」
”オウ!”
星を見上げるクロウを祖母は見えない場所で奥歯を噛み締めていた。
後に暴かれる謎にクロウはまだ気づきもしない。
今はただ、何もない静かな夜を各々過ごしていた。
続く
造りの古い門をくぐり抜けたそこは、歴史の村と呼ばれているチルル。
クロウの祖母は、歴史語りである。
クロウは、自分の中の獣をどう鎮めればいいのかを知る為チルルの村に来たのだ。
だが、まずは服を買うのが先だ。
ギンも自分も身元がわれている、その為姿を晒し続けるのは、はばかれた。
ギンを連れ家屋の合間を縫って細い路地に入る。
地面に風呂敷を広げ座っている男性に近づき、話しかける。
「服を2着とローブを2着欲しいのだけど。一枚は、彼に合わせて」
「はいよ。毎度あり」
「クロウ?この人は?」
山にいたギンにとっては不思議でしょうがない。男性が地面に座り後ろにダンボールを背負っているのだ。
「彼は、裏で商売をしている人よ。あまり良いものではないけど、今はそんな事言っていられないから」
「おじさん…悪い人なの?」
「おじさんは、悪い人なんかじゃないよ~。お姉さんひどいなぁ」
ギンは、白をベースにした服をクロウは、黒をベースとした服を着替え上からローブを羽織った。
この先の旅を考えブーツを履き、村の中を歩く。
途中、昼食をとり祖母を訪ねた。
他の民家から離れた所に小さな小屋があった。
母から聞いた祖母の家に間違いなかった。変わり者扱いされていた祖母もまた他者から離れた所で暮らすしかないのだ。
「おや、クロウ。来たかい。」
「おばあちゃん。聞きたい事がある。」
「その前にその子は、あんたが拾ってきたのかい?」
「えぇ。そうだけど。」
「あんたは、全て知ってその子を連れて来たのかい?」
ギンが人でない事。人を襲うトラである事。
「知った上よ。…私と一緒なんだから、変わりはないわ。」
クロウも同じく人ではない。正しくは人でなくなった。オオカミとトラが一緒なんて変な冗談だと思うけど、現実なんだから仕方ない。
「はぁー分かったよ。でも少年、ここから一人で出てはいけないよ。」
「はい。分かってます。ありがとうございます。」
おばあちゃんは、家の中を案内し今日は一晩泊めてくれると言ってくれた。
泊まる部屋を案内してもらい、クロウはギンが久々の布団にはしゃぐ姿を見た。
布団も部屋もある。クロウにとってもギンにとっても気分が上がった。ましてや、山を越えたりしたからギンも休憩が必要だったから幸いだった。
「ギン。あんたは、少し休みなさい。明日は、また歩くから」
「え。でも…」
クロウは、振り返らずおばあちゃんの元に戻った。
「んで、あんたの用事は?」
「母さんと父さんが亡くなった日から私はオオカミになるようになった。」
それから私は、祖母に今の現状と今回の目的を軽く話した。
もちろん、ギンを拾った時の事も包み隠さずに話した。
「じゃぁ、あんたは裁きの祠に向かいな。そこなら魂の正体が分かる。それから、ギンはあんたが責任持って旅に連れてきな、いいね?」
「なっ!?」
「えっ!?」
(ギンは、祖母に預けるつもりで連れてきたのに…)
ギンの方を見るとじっと私がとるであろう行動を待っていた。
震える手で服の裾を握りしめ奥歯を噛み締め俯いていた。
何も言わないギンの手にそっと手を添え言った。
「この子が私を必要としなくなるまでよ。それ以上は面倒見切れないわ。」
ギンは、顔を上げ満面の笑みを浮かべクロウに抱きついた。
クロウの肩は、ギンの涙で濡れていた。
そんなギンとクロウを優しく祖母は見守る。
その夜ギンは、寝るまでクロウから離れなかった。ベッドの中に入ってもクロウの手を掴んで離そうとしなかった。
まるで手を離したらクロウが何処かに行ってしまう。そう感じているかのようにギンは、離そうとしなかった。
そんなギンを幼少期の自分に重ねてしまう。
幼い頃、怖い夢を見て一人では眠れなくなり母の姿を探した夜。
我が子が眠るまで側にいて優しく頭を撫でる母の温もりを
もう感じる事が出来ない幼いギンに触れながらクロウは思い出していた。
ベッドからは、すやすやとした寝息を感じる。
(もう、大丈夫そうね。)
そっと手を離す。
そして、部屋を出て廊下の窓から空を見上げた。外には満天の星空と満月が輝いていた。
(明日は、裁きの祠に)
”ヤット オレノ ショウタイガ ワカルンダナ?”
「そうよ。…そういえばあんたも昔が分からないんだっけ?」
”キヅイタラ クロウト イタカラナ”
「そうだったわね。長い付き合いだったわね。まだまだこの先も頼むわね。」
”オウ!”
星を見上げるクロウを祖母は見えない場所で奥歯を噛み締めていた。
後に暴かれる謎にクロウはまだ気づきもしない。
今はただ、何もない静かな夜を各々過ごしていた。
続く
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