闇と光

白銀狼

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真実

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【裁きの祠】

 御台に進むクロウの身体には、依然として変わらず痛みが走っていた。
 御台に足を踏み入れた時身体中に引き裂かれるような痛みが走った。
 痛みは無いとは言え、ギンを連れて来なくて良かったわね…

 痛みと言うよりわ
 身体の一部が引き裂かれる感じ
 側にあった物が離れる感じ

”クロウ…ソロソロダナ。”

「そうね、あんたとは長い間一緒だったから少し…寂しいわね」

''ソウダナ クロウ。アリガトウ”

「何よ、急に」

”クロウ スクッテクレテ アリガトウ”

「え?何言ってんの?どうしたのよ…あんた!?」

”アァ。 オレハ クロウ二 アノトキ ヒロワレタ  ラウ ダ。”

「やっぱり…ラウだったんだ。何でっ!今まで黙ってたんだ!!言ってくれれば…」

 クロウは、俯きながら呟く。
 ラウは、幼い頃にクロウを庇って死んでしまった。
 
 クロウにとっては相棒のような存在だった。何処に行くにも一緒。朝起きてから寝るまでずっと一緒だった。

 ラウも母様も皆んなクロウを庇って死んでしまった。そう思っていた…

「あんたは、あの時の私を庇って…私がもっと…」

”イママデ オモイダセナカッタ… オレハ クロウヲ カバッテ シンダ。”

”デモ クロウト ハナレタクナクテ マモリタクテ テン二 ソムキ タマシイダケニナリ クロウ二 トリツイタ。”

「私の為に…」

”アァ。クロウ…モウ モタナイ。 モウ クロウヲ マモレナイ…”

「ラウ。ごめん。あんたを死なせたのは私なのに…ううん。いつも守ってくれてありがとう。ラウ…大好きだよ、これからもっ。だから、儀式辞めよう?ラウ…」

”ソレハ デキナイ 。オレモ ハナレタクハ ナイ…”

「ならっ!!」

 初めてラウが、その姿を見せてくれた。
 昔見たラウの姿は無かったが、一目でラウと分かる。懐かしいラウの匂いがする。懐かしい声がする。

”クロウ。ザンネンダケド コレデサヨナラダ…”

「そんなっ!今ようやくあんたの姿を見れたのに?!まだ聞きたいことがあるのに!?」



ザッザッザッ 

「誰だっ!?…お前らっ!?」

 急に重苦しい感じがした。
 クロウの背後から大勢の騎士隊が周囲を取り囲み、地面に結界陣を張った。
 隊の中から前に進みでる者がいた。クロウの知っている人だった。村の住人が何人か…残りは騎士団。

(いつバレた…あぁ、なるほど)


「神よ…化の者を清めたまえ…」

 天に両手を合わせ祈りを捧げる。1人を筆頭に何人もの騎士隊が動作を真似る。

「?!あんた…裏切ったの…!!」

「裏切ったなんて…」
「そうですよ。貴方は間違ってなどいません。裁かれるべきは彼女です。」

 目の前にはまだ信じられない人が…クロウのおばあちゃんが立っていた。そばにはこの村の聖職者がいる。聖職者に丸め込まれたのか…いや、違う。元からあちら側だったのだ。


 「ごめん。クロウ。ラウ…貴方たちを犯罪者にしないとこの村では生きて行けないの…私もあの子も…」

(あの子も?!ちっ、ならギンも危ない!)

「ごめん…おばあちゃん!」

 クロウは、結界陣に突っ込み全力で敵の中に入って攻撃を避けながら聖職者に摑みかかる。そのスピードに追いつける者は居ない。

「あんた達!こいつがどうなってもいいの?!
嫌なら道を開けなさい!!」

「ひぃっ…みっみなさん、私よりこの悪魔を!?そして私を助けなさい!?さすれば神からっ!?」

「黙りなさいっ!!」

 クロウの剣が聖職者の喉元に当たる。血が少し流れる程度に傷を付ける。それくらいでこいつらを怯えさせるくらいにはなるはず!!

「皆の者!!聖職者様が囮になられたっ!今だ一斉に魔術を放てっ!!神は皆をお守りして下さる筈だ!!」

 1人の騎士が大声で叫ぶ、その叫びに続き皆が一斉に魔術を放つ。

「人質も、意味ないかっ!?ちっあんたもつくづく必要とされてないわねっ!!」

 
 聖職者もろともクロウに狙いを定め放つ。

 聖職者は重症をおい、クロウは腕や足にダメージをおう。軽傷だが、痛みが酷く鬱陶しく感じる。

 クロウの頭に術が当たるその時、クロウの周りを光の加護が覆い前が見えなくなった。
 加護を受けたクロウの前にまたラウが現れた。

 ”クロウ、オレ クロウノ イチブ二ナル。ソウシタラ クロウ タスカル。ダカラ クロウイキテクレ!アバヨ、アエテウレシカッタ。”

 クロウの前からラウは消え、クロウの姿に変化が起きた。身体の傷がみるみる内に治る。それと共に頭痛や吐き気がした。身体が熱く火照る。クロウは自身の身体をきつく抱き締め耐える。

「がっ…あぁ…あっ…うぅ…」

「なっなんだっ!!何が起きて!?」


 
「はっはっ…クロウっ!!大丈夫っ!?へっ、あっ…クっクロウ…」

  クロウを心配してミカの反対を押し切り、祠へ到着したギンの目に映ったのは…

 半獣化した女
 長い黒髪にピンと鋭くたった形の整ったケモ耳に長く垂れ下がった尻尾。祠前に赤く光る二つの瞳を持つ女。

 クロウだった。

「クロウ…なの?…!?」


「ギン。…あんたもう、私に関わらないで。だからお願い。振り返らずに早く逃げなさいよ?決して見てはダメよ…バイバイ、ギン…」

 間違いなくクロウだった。ギンに対して時折見せる優しい瞳。だが、笑顔を見せたのはその一瞬。

 クロウは向きを変え、騎士隊の中に突っ込んで行った。そして隊に亀裂を生み、分裂させギンの前から姿を消した。

 その後彼女の行方を知る者は誰も居らず、隊員の殆どはあまりの恐怖にあの時の記憶を忘れてしまった。

 ギンは、目の前の驚きと恐怖の光景に気を失いミカに助けられた。




「やっぱり、君は僕の敵に回ってしまうんだね…クロウ」


       続く
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