闇と光

白銀狼

文字の大きさ
10 / 11

裏切りと裏切り

しおりを挟む
「おはよう、クロウ。気分はどうだい?やはり、君は獣なんだね。両眼が紅く光っている。」


 声に驚き目を覚ます。目の前には冷たい鉄格子に暗い闇の空間。
 クロウの方を見下ろす奴だけがいるこの状況。こいつは確か騎士団の…なら此処は…そうか…

(…ギンに売られたのね。あの子は大丈夫かしら)

 暗い中にあるベッドの端にもたれ片膝を抱える。やはり裏切りは怖く苦しいものだ。
 身を抱き寄せる。すると…懐かしい匂いと足音がした。

 クロウの耳と尻尾がピンと立つ。

「こらこら、出て来てはいけない。」
「いえ、僕が悪いので」

「ギン…なの?」
 
 クロウは、不安げに顔を挙げる。そして矢が放たれた様に鉄格子に駆け寄る。
 影に目を向け上から下までくまなく見る。目の前には、ギンが立っていた。彼は、無事だったらしい。表情はやや暗いが身体には怪我もなく無事の様だ。
 ギンと出会って一緒にいた長く時間は無いが…クロウは自分が狙われたことよりギンの方が心配になっていた。ギンをもう一人の家族の様に感じていた。だからこそ…

「ごめんなさいクロウ。僕が…ごめん」
「いいわよ。もう気にしないで。」

「っでも!!」

「そうですよ。ギン。恨むなら私を恨む筈ですよ。」

 クロウの尾が膨らむ。こいつはヤバイと本能が察知した、よって臨戦態勢に入ったのだ。

 だからこそ、クロウは冷たく言った。

「あんたは、騎士団長のシーロ」

「はい。お久しぶりです。クロウさん。いやクロと呼んだ方がよろしいでしょうか?」

「あんた、殆ど初対面に向かって愛称を呼ぶなんて、なんなのよ!」

「残念ながら貴方とは、知り合いですよ。覚えていませんか?シロと呼ばれて居ましたね。お互い白黒で仲良いのか悪いのか?本当にあの頃が懐かしいです。」

「あんた!何勝手に言ってっ!!」

 クロウが飛びかかろうとしたが両手足を鎖で繋がれ身動きが取れない。そんなシーロの元に騎士の一人が近づいて来た。

「隊長…」

「どうかしましたか?」

「それが…あの方が呼んでおられます。今すぐ応接間へ」

「あぁ、分かった。クロ、また後で続きを。ギン」

「待ちなさいっ!!あんたが何もんなのかは知らない。知りたくも無い!でもギンを巻き込むなら私が許さないっ!」

 シーロは、クロウに笑顔を見せ騎士と共に姿を消した。
 
 すると、鉄格子越しに見つめるギンの表情が変わった。ギンは、小さな声でシーロに気づかれないように言った。

「クロウ…僕は僕のやり方でクロウを助けるから…今は此処にいて…じゃぁ、また来るよ」


 去り際に聞こえた声は、蚊の鳴くような声…

”無事で居て”

 (それは…私の言葉だよギン。)

 ガシャン…

 牢屋に鍵が掛けられた。もう逃げられない。完璧に捕まってしまった。
 私に出来ることは…何か考えなくては。何もしないでギンに頼るわけにはいけない。

 クロウは、人を苦しめる存在だ。獣の力…これは言わばクロウだけの呪いの様な物だ。これにギンを巻き込む訳にはいかない。

 ラウは、クロウを守る為にクロウと一つになった。祖母は、村人たちを守る為に孫であるクロウを売った。母さま達は、幼いクロウを守る為に犠牲になった。

 皆んながそれぞれの守る物の為に嘘も裏切りも重ねた。そうしなくちゃ守れない物がある。だから今度は私が…私がギンを守るんだ。

 希望ある者を守る。…その為には先ず此処を抜け出さなくてはいけない。

 暗い牢屋で一人策を練るクロウであった。


続く
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

処理中です...