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第0章

チュートリアル 6 魔法を使ってみよう

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屋敷も無事購入し、アンナ・ミレーヌの引っ越しも無事終わった。
アンナは元々一人暮らしだったため、荷物も少なく直ぐに引っ越すことができた。
一方ミレーヌの方はお父さんと一緒に住んでいるということで、俺はミレーヌのお父さんに挨拶をすることに──

「初めました。」

《冷やし中華初めましました~みたいな挨拶ですね。》

(やかましいです。少し黙っててくれるかフォローしてくれるかどっちかにしてください。)

「えー……初めまして、俺は久世雷斗というものです。この度、ミレーヌさんと同居する事になりまして、ご挨拶に伺いました。」

そう、まさに今ミレーヌのお父さんを目の前にして挨拶をしている。
俺の挨拶にお父さんがものすごい剣幕で突っ掛かってくる
それはもう般若羅刹のごとく顔を真っ赤に染め上げて──

「そいつあ一体どういう事だ!あぁん!?
うちの無垢な娘とテメーはどういう関係なんだ!
事と次第によっちゃあ……」

さて、すごく怖いぞ……怒れる父親は鬼をも殺すからなぁ。

《1・娘さんといいことする関係です
2・娘さんと夜のお突き合いをする関係です
3・娘さんと毎日相撲大会を───》

(女神さま?)俺の顔面は怒りから青筋が浮かびそうになっている。

《すいません、冗談です。ここは素直に友人としておいた方がいいでしょう。》

(最初からそういう普通のでお願いしますよまったく……)

「俺はミレーヌさんの “友人” です。この度町の中央の一角にある屋敷に住むことになりまして、ミレーヌさんには空き部屋に住んでもらおうと思っています。」

俺は“友人“の部分を強調する。あくまでも友人なのだから特にやましいことはない!

「なんで只の友人のしかも男の家に一緒に住まなきゃならねーんだ!」

ぐっ……流石は男親、娘に対する執着が恐ろしい。
俺が言葉に困っていると……ミレーヌが間に割って入る。

「お父さん!いい加減にして!雷斗様は貴族の方でこの度お屋敷を購入されて、そこで家事手伝いを探しているっていうから私が住み込みで働きたいと申し出たの!」

「働くってお前!商業ギルドの方はどうするんだ?」

「勿論辞めます!」

「「なにいい!」」

ミレーヌの言葉にお父さんと──俺の叫びが重なる。

「お給金だって相場以上貰えるし。私!お父さんが何て言っても絶対雷斗様と一緒に住む!」

(お給料……女神さまー!仮に住み込みのメイドのお給料っていくらが相場なんですか?)

《そうですね、業務内容にも寄りますね。夜枷込みですと月に金貨3枚といった所でしょうか。》

(なにサラッと夜を入れてるんですかっ!なしで!そういうのなしで!)

《でしたら金貨1枚ですね。》

「テメーはうちのミレーヌにいくら出すっていうんだ!」

親御さんはなんとか食い止めようと必死に切り込み口を探す。
女の子の父親の気持ちってこんな感じなのかなぁ……でも俺もミレーヌの為にもここは引けない。

「住み込みで毎月金貨5枚を予定してますが…少ないですか?」

お父さんは両の眼を大きく開き、口をパクパクさせて言葉もない。
ミレーヌはミレーヌで慌てて俺に近付き「高すぎます!」と抗議してくるが、俺的には毎月金貨換算で100枚が振り込まれるため特に困ることはないだろう、と考えている。

「テメー……貴方様は何者なんだ…ですか?」

お父さんは俺が提示した金額から俺がどこかの大貴族の御曹司とでも思ったのだろう、今までの喧嘩腰の態度は鳴りを潜め言葉遣いも丁寧になる。俺は訪れた最高の波に乗る!乗っかりまくる!

「俺は……詳しくは説明出来ないが、俺は毎月金貨100枚を約束されている貴族だ……だからミレーヌを無下にすることは俺の名に誓ってない。」  

《上手く言いましたね。遊び人とか三男坊と言ったと時の親御さんの反応が見たかったのに……とても残念です。》

(残念なのは女神さまの頭の中ですよ!残念女神って呼びますよ!)

《神罰を下しますよ?具体的には不能になったりとか、同性にしか好かれなくなる──》

(ごめんなさいもう言いません考えません)

《冗談ですよ?本気にしないでください。》

とても冗談とは思えないトーンの女神さまの声が頭の中に聞こえる──ガクガクブルブル──と女神と毎度の漫才をしていたら──お父さんが俺の肩を掴み──俺は意識を現実に戻す。

お父さんは俺の肩を掴んだまま熱い瞳を向け──
「わかりました。旦那!娘を宜しくお願いします!」
それだけ言うと一歩後ろに下がりガバッ!と頭を下げ、ミレーヌの方に向き直り「毎月金貨100枚も貰う貴族様だ!しっかりとお仕えするんだぞ!」と激励している。

お父さんの呼び方がテメーから旦那へと昇格した俺だが、毎月金貨100枚ってそんなにすごいのか?

《なにか勘違いをなされたのでは?精々この世界の王族と同じ程度の月収しかないですし。》

「ぶほっ!」
突然吹き出した俺を心配する二人に「大丈夫です。少しむせただけです」と誤魔化し(女神さまがあんまりサラッと言うから吹き出したじゃないですか!金額がおかしいのはわかってましたけど、そういう世の中の賃金事情は先に教えてくださいよ!)と苦情を入れる。

《聞かれなかったのでよろしいのかと思いました。》

この女神さま──ぐぬぬ!駄女神とか言うと不能にされかねないからあんまり強く怒れない!くそう……

《縦社会ですから、上司批判=極刑なのは当然ですよ?》

ぐぬぬぬ!悔しい!《でも──感じちゃう?》そんな訳ねーわ!ちくしょう!ただただ悔しいだけだよ!

《ふふふっ》

女神さまの楽しそうな──それでいて嬉しそうな笑い声に思わずため息がでるが、女神さまの笑顔を思い出すと、こんなやり取りも悪くないか──と思える。

そんなこんなでミレーヌは屋敷へと引っ越しの許可が降りたのだった。


そんなやり取りを終え、すっかり疲れてしまった俺だが…まだ家の調度品を揃えてないことを思いだし、一度屋敷へと戻り、アンナとミレーヌを連れ買い物をするため街へと繰り出す。

「二人とも屋敷に必要な物や足りない物を買いに来たけど、何か思い付く?」

俺がそう尋ねるとアンナは「食器と調味料」ミレーヌは「メイド服」と軽快なジョークを飛ばしてくる──ホントにジョークだよな?

「んじゃとりあえず食器と調味料を買って、それから二人の服を見に行こうか。」

「「えっ!」」

「やだなーメイド服とか冗談ですよ!本気にしないでくださいよ!」
もう!と肩を軽く叩いてくるミレーヌ

「いや別にメイド服って訳じゃなくて、俺の手伝いをするってことはそれなりの服装が必要になるだろうから、一式揃えようってこと!」

「一式ってどういう──」アンナは戸惑い困惑している、ミレーヌはミレーヌで「それなりってやだぁ!どうしよう!」と頬をピンクに染めこちらも困惑?している。

俺は手をパンパンと叩き二人の意識を俺に向け
「はいはい、とりあえず食器と調味料を買いに行くよー!」

「「はーい!」」

と順調に食器を買い、調味料も揃え、服屋へと向かう。

「いらっしゃいませー」

俺達は服屋へ入りスタッフさんに「この子達に見合うドレスと靴を、後普段着れる服を数着…それにメイド服。」

「あの、お客様、ドレスとなると結構なお値段がしますが──」
スタッフはそう言うと俺を値踏みするような目で見てくる。

《どうやらお金を持ってるとは思えないみたいですね。転移の時に服装も変更しておけばよかったです。私の落ち度ですね。》

(なるほど、試されているって訳ですね!)

《女神さまは気にしないでください。とかそういうのはないんですか?》

(自分で言ったらダメだと思いますよ。)

俺はスタッフに「金ならあるから心配しないでください。」と言いながら四次元魔法【インべントリ】から白金貨を2枚取りだし「これで二人のドレスや服を見繕ってくれ。」とスタッフへ渡す。

スタッフは慌てて裏へ下がると別の男を連れてきた、その男は俺に一礼し、「本日はようこそおいでくださいました。当店の支配人をしています、レナートと申します。」とキレイなお辞儀をし自己紹介をする。

「俺は久世雷斗だ。訳あって最近この街の屋敷へと引っ越してきた。」
そこまで言い、アンナとミレーヌを此方へ呼び「二人にも共に屋敷に住んでもらう事になっている。だから彼女らに相応しいドレスを見繕って欲しいんだが──お願いしても?」とレナートに聞くと直ぐ様に

「畏まりました。では早速見繕わせて頂きます。お嬢様方此方へ」言うや否や二人を連れて奥の部屋へと入っていく。

「あちらは貴族様の中でも上位の方々用の特別なドレスがある部屋です。お待ちの間に宜しければ久世様も服を選んではいかがでしょう?」
と先程のスタッフさんが進めてくれるので、折角だし何着か購入することにする。

しばらく待っていると奥から二人が戻ってくる。そして俺は二人の変わり様に目を奪われた──そう、二人はドレスを着ていた。

アンナは白い肌に良く似合う薄青色で腰と太もも辺りが締まったビスチェ型のマーメイドドレスを着用している。所々にある白いフリルが海面に起こる小波を連想させる

ミレーヌは元気な肌色に合わせエメラルドを連想させる色でVネック型の腰がきゅっと締まったプリンセスドレス。とても昨日まで商業ギルドの受付をしていたとは思えない。

二人は薄く化粧もしているのか頬はチークで薄桃色に染まり、ピンクの唇はグロスを塗ってあるかのようにプックラとして艶を放っている。

俺はあまりにもの衝撃に眼を全開に口は半開きになって固まったまま言葉もでない。

《どうしました?ここは誉めてあげる所ですよ?今の貴方の顔は口を半開きにして、ただのアホか変質者です。鏡を見せられないのが残念です。》

はっ!(女神さまの暴言で正気に戻れました。ありがとうございます)

二人も自分達の変わり様に困惑しているのか化粧以上に頬を染め恥ずかしそうにモジモジしている。

「二人ともよく似合ってるね!とてもキレイだよ!」
と俺は二人に近付き思った事をありのまま伝える。

「久世様、お気に召されましたか?」とレナートが俺に聞いてくるが、その仕草、口調には不安などは微塵も感じない。むしろ気に入らない訳がないと自負しているかのようだ。

こいつのコーディネーターとしての能力は素晴らしいの一言だな!

「とても気に入ったよ!これに合うアクセサリーもあれば欲しいから見繕ってくれ」といい更に白金貨を2枚レナートに渡すと「畏まりました、只今用意させて頂きます。」と静かに言い裏へと下がっていく。

「あの……雷斗さん…私達、仕事の手伝いとかします!っていいましたけど、このような高級なドレスは……」

「そうですよ雷斗様!いくらなんでも高すぎますよ!お値段聞いたら金貨80枚もするそうですよ!」

レナートが裏へと下がったのを引き金に二人が俺に詰め寄るが
「俺は貴族の夜会などに参加する場合もあるからね。パートナーの服もそれなりでなければならないから必要経費だよ。」

気にするなと手を振ると二人はお互い目を合わせ諦めたのか、その後レナートが持ってきたアクセサリーを着けたり外したり、別のドレスを着たりと俺とレナートの着せ替え人形となっていた。

結局ドレスを2着ずつ、私服を4着ずつ購入する。俺もドレスを選んでいる間にスーツとタキシードを1着ずつと私服を数着買っておいた。

服は移動で汚さないようレナートに住んでる屋敷を教え、後で届けるよう手配してもらう。

そうしてレナートの服屋から出ようとした時───事件が起きた!
突如レナートの店に見るからにゴロツキの様な風体の輩が5人同時に入っていくる。

そいつらは急に商品をばら蒔いたり、棚を倒したりと大暴れ!止めに入ったスタッフも殴る蹴るの暴行を受けている。

「やめろ!やめてくれ!」レナートはゴロツキどもを止めようと必死に声を振り絞っている。

俺はその光景に怒りを覚えずにはいられない。レナートには二人のドレスで世話になったばかりだ。また来ようと思える接客をしてくれるこの店のスタッフの対応も好感を持てた。

そんな店が突然ゴロツキどもにメチャクチャに蹂躙されている。

(女神さま、やっていいんですよね?)

《勿論です。格さん懲らしめてやりなさい!》

(誰が格さんだ!どっちかっていうと俺は助さんだ!)

と漫才をして緊張を取り、すかさずゴロツキどもの元へと跳び─

──ン!

ゴロツキ目掛けて繰り出された俺の拳は音速を超え───

ガシャーン!

ゴロツキAを入り口を突き破り店外へと吹き飛ばす。

突然起こった光景に、残りのゴロツキどもは呆然と吹き飛んだ仲間と俺を交互にみている。

「お前ら……人が楽しく楽しく買い物をしていればなんだ!」

「あぁぁ?テメーには関係ねーだろ!すっこんてろ!」
俺のセリフに意識を現実に戻したゴロツキが食い付き恫喝してくる──が、怒り心頭の俺には火に油。

ゴロツキには瞬間移動のように見えただろう。目の前に瞬時に移動しA同様ぶん殴りAが開けた穴から吹き飛ぶB、これを見て焦った残りのゴロツキは「ちくしょう!覚えてろ!」と月並みなセリフを吐き店外へと駆け足で逃げ出す──

《店の外に全員出たら魔法で一網打尽にしましょう。》

(ああ!そういえば俺は女神さまに全ての魔法を授かっていましたね!あんまりにも肉弾戦が強すぎて忘れてましたが……)

《ふふっまずは奴等を逃がさないよう土の壁で周囲を取り囲むイメージで【アースウォール】と念じてください。》

(わかりました!)

俺は掌を前に出し、ゴロツキの周囲へ土の壁のイメージを浮かべ【アースウォール】を念じた。
すると走り逃げるゴロツキをたちまち土の壁が前後左右を囲い空高くまで迫り上がる!

《次はその壁の中に水を流して洗濯機みたく回してあげましょう。【ウォーターバブル】で水の玉を壁頭上から落とすイメージで、その後【トルネイド】で内部を掻き回すイメージです。》

(やってみます!)

俺は女神さまの声に従い【ウォーターバブル】で水を降らせ
「くそ!どうなってやがる!うぉ!急に水が!うわあああ」と混乱しているゴロツキへ止めの魔法【トルネイド】を念じる。

「うおおお!目が……目が回る!助け──助けてくれえ!」

しばらく放置しているとゴロツキどもの声が聞こえなくなる。

(これ、解除するときはどうすれば?)

《頭の中で止めるイメージをすれば止まりますよ。》

ということで、魔法を止め、土も元に戻すとそこには溺れ、水圧に手足を本来ならばあり得ない方向へと曲げ溺死している者や、首が1回転している者など──生存者は皆無だった。

(全員死んでますね……死体は放置出来ないしどうしますか?)

《でしたら風化の魔法【サンドストーム】で死体を粉にしてしまいますか。》

(なるほど、名案ですね。)【サンドストーム】と念じれば死体
は粉になり土へと還る。

あとは生き残ったゴロツキだが……(女神さま、こいつを追跡することって可能ですか?)と聞いてみる。

《それでは、それに向かって【エンチャントサーチ】と念じてください。そうすればサーチの魔法が肉体に付与され、何処に居てもわかるようになります。》

(それはすごい!)俺はすかさず【エンチャントサーチ】と念じる。すると頭の中に地図が表示され、それには赤い点が1つ灯っている。

《その点がエンチャントされた対象の位置になります。地図は意識で表示したり、消したりできます。》

(おお!これはすごい!って──この地図があれば昨日商業ギルドに行くのに迷わなかったんじゃ……)

《迷って困ってる所が面白くてつい……てへ!》

(なるほど、部下への嫌がらせはパワハラに該当しますね。訴えます)

《やーめーてー》

と、こんな漫才してる場合じゃないな。レナートに事情を聞かねば!
俺はレナートの店に戻って行った──意識を失い倒れている生き残りのゴロツキを地図で表示しながら──
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