上 下
49 / 61
第5章

5 - 5 戦術級魔法は巨大手裏剣!

しおりを挟む
雷斗はヨハンに報告を受け、急ぎ脳内の地図を確認──

すると確かに市街の塀を取り囲むように部隊が展開されているのがわかる

しかし──

なんてこった…点が7割空白2割…まさに蜘蛛の子一匹たりとも逃がす気がない布陣が敷かれている
さらに悪い事に地図がバグってないとすると、表示されているマーカーはほぼ赤一色…
つまり今市街に迫っているのは魔物の大群ということになる。赤のマーカーに混じって所々に白のマーカーがあるのが気になる…

魔物が人質を取るとは思えない…ということはこの魔物の軍勢を支配している…と推測できる

俺一人でも全滅させることは可能だろう…時間を掛ければ…ということが前提になるが…
だが、その時間を与えてはくれないだろう…果たしてその間に何人の人々が犠牲になるのか…

俺は脂汗を浮かべながら思案していると

「大佐殿!」と本日養成所を卒業したユリウスが声を上げる

「なんだユリウス?」とユリウスの声がした方に顔を向けると、そこには養成所の生徒達が全員揃って俺を見ている。そしてユリウスが一歩前に出て口を開く

「私とここの皆と一緒に戦います!この街と愛する者を守るために!」

「「「「おおおおお!」」」」と鬨の声を上げる生徒達──しかし…

「この街を包囲している戦術級の部隊だが…主力が魔物で構成されているのを遠見の魔法で確認している…お前らも随分と力を付けたが…厳しい戦いになることは避けれんぞ?」

「大佐殿に鍛えて頂いたこの体!今戦わずしていつ戦うのですか⁉」と一歩も引かないユリウスに皆も続き

「そうですよ大佐殿!」「大佐殿!どうかご命令を!」「大佐殿!」「大佐殿!」

俺は皆の街を、愛する者を守ろうという気概に心を打たれ…

「わかった…そこまで言うのなら見事役目を果たしてみせろ!後方の部隊はお前達とギルドの冒険者達に任せる!生きて戻った者は全員卒業とする!」

「「「「おおおおお!」」」」

「野郎共!俺たちの目的はなんだ!」

「街を守り、魔物を一匹たりとも侵入させないことです!サー!」

「今貴様らはウジムシから冒険者へと進化した!冒険者として存分に戦ってこい!いざ出陣!」

「「「「サー!イエスサー!」」」」

俺たちは鬨の声を上げ、生徒達は後方の部隊へと突進するため街の裏側へと急行する!
俺はヨハンにギルドへ緊急クエストの発注と戦力を集中して裏側及び側面の防衛に回るよう指示を出し──「【フライ】」と念じ、上空へと踊り出る

《雷斗さん…気を付けてください…なにか悪い予感がします…》

(女神さまがそんな事を言うなんて…その悪い予感…当たりそうで怖いんだけど…)

《これだけの魔物が感知されずにこの街の外周に辿り着くなんて立地上ありえません…ということは…何者かが魔物を召喚したことになります…それも恐らく桁違いの魔力の持ち主…》

(それって俺みたいな奴が居るってことか?)そう…俺のように神の加護を授かった奴が…

《はっきりとは言えませんが…そのつもりで当たった方がいいでしょう…》

そう女神さまと脳内で会話している間に俺は前線へと到着していた
地上に展開している魔物の軍団。前衛にはゲームでよくみたオークやゴブリンのような集団。中衛には馬の下半身に人型の上半身を持ったケンタウロスみたいなのが…そして後衛に見えるのは大弓を持ったゴーレムのような巨人が確認できる

城壁に降り立った俺はすかさず最大級の魔力を込めて戦術級魔法を眼前の敵影集団へと叩き込む!

「【クリエイト】【レビテーション】【トルネイド】!」

と立て続けに念じて超巨大な手裏剣を生成しそれを浮かせて風魔法で射出したのだ!
それに打ち付けられた前衛の混成軍は所狭しとひしめき合っていたため回避も叶わず大量の肉塊へと変わっていく

俺はその工程を繰り返し、超巨大手裏剣を大量に射出!瞬く間に魔物軍団は壊滅──

するはずだった

飛来する手裏剣に最初のうちは戸惑い轢き殺されるのみだった魔物軍団だが、いつの間にか後衛のゴーレムが前に出てきて手裏剣をその巨体で受け止め、体が崩れるのをお構いなしに前へと歩みを進める

結果、中衛と後衛に配置転換をしたオーク・ゴブリンは半壊程度のダメージ、ケンタウロスに至っては無傷と言っていいほどの数がゴーレムの影に隠れて進軍してくる

「チッ!魔物のくせに頭つかいやがって!」

近づくにつれ、前に出ているゴーレムからの大弓がビュンビュンと飛来し、街の城壁に突き刺さったり崩したりと被害が出始める

「あまり調子に乗るんじゃないぞ!全部纏めて灰燼と化せ!【カラミティフレア】」

魔力を臨界まで高めた俺の爆裂魔法の発動に呼応して、魔物の軍団の中心に高密度のエネルギーが凝縮され…そのエネルギーは臨界を突破!魔物たちの中心で大爆発を起こし優に魔物たちの七割以上を消滅させ、その場に大きなクレーターを作った

その余りにもの威力に魔物たちに動揺が広がり、徐々に壊走を始める

俺は撃退できたことに安堵の表情を浮かべていると──

「やはり貴様は只者ではなかったな」と突然横から声を掛けられ、振り向くとそこにはフルフェイスによって素顔を隠した戦士の姿があった

「貴様…何者だ⁉」という俺の問に男はフルフェイスの兜を脱ぎ顔を見せる

「久しぶりだな…」と声をかけてきたのは王城で俺を詰問した壮年の戦士だった

「あんたが今回の首謀者か?…とても召喚魔法が使えるとわ思えないが…」と訝しがるも臨戦態勢を取る俺に──

「我ではない…全ては我が主のお力によるもの…」と言葉を濁す壮年の戦士

「お前の主って王様だろ?そんな国の王が街一つを滅ぼそうなんて思うのか?」

「否!我が主は王にあらず…我が主は神の使いぞ!」と男は気合一閃!剣を抜き俺に襲い掛かる

俺はインベントリから正清を取り出し振り下ろされる剣を寸での所で受け──

「着装!」と用意していたセリフと共に顕現させたのは最強の鎧。こうがいぜっが全身を包み俺を黄金の戦士へと瞬時に変身させる

「ぜやぁぁぁぁぁ!」俺は裂迫の気合と共に正清を上段から力任せに振り下ろす!
その攻撃を剣の腹で受けようとした壮年の戦士の剣を真っ二つに叩き折った!

「勝負あったな!その剣ではもう次は受けきれまい!あまり相手をしてやれなくて済まないが後方が心配でね…トドメを刺させてもらうぜ!」と俺は大地を蹴り壮年の戦士を袈裟斬りに切り裂こうとした──

キィン!

「くくく…」
壮年の戦士は迫る凶刃を折れて短くなったはずの剣で受け止めていた…そう剣は元の長さにしていたのだ──

「我はバルトロ!フェヒターの称号を持つ男…我が剣は幾度となく再生し砕けることはない!」
と名乗りをあげ、刀を受け止めていた剣を力任せに弾くとステップで俺との距離を取る

「チィィ!なんて厄介な剣なんだ!こんな所で足止めを喰らっている場合ではないと言うのに…」
と俺は苦虫を潰したような顔で壮年の戦士…バルトロを睨みつけるのだった───

しおりを挟む

処理中です...