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家族 6
しおりを挟む「小虎」
名前を呼ばれただけで心臓がドクドクと早鐘を打つ。溢れては止まらない雫が、玲央の手を濡らしてしまうのが分かる。
「司と豹牙を見てると、常識なんてくだらねぇって勘違いしそうになるけどな。そうじゃねぇだろ。俺とお前の関係は、やっぱり許されるもんじゃない」
「……うん」
「だから俺はあの日お前を抱かなかった。あのまま流されて簡単に超えていいもんじゃねぇ。それは分かるな?」
「うん、分かるよ」
恋をした。好きになった。触れてみたら、もっと触れたくなった。積み上がる気持ちを理由に、簡単に行動を起こす俺を制御してくれた優しさは、兄としての責任。
「世間一般の恋人とは違う。駄目になったから別れる、なんて簡単な始末じゃ片づかねぇ。それは俺とお前が兄弟だからだ」
「うん」
諭す真実を受け入れる。その当たり前を突きつける慈しみも、きっと兄としての覚悟。だけど、
「それでも俺は、お前が欲しい」
「…………うん、」
頬に添えた手の平でたおやかに撫でながら、手の内で未だ震える俺の手を握りしめ、少しも外れることのない真っ直ぐで定まる熱意。
兄として戒めるその実、堪えることのできない己を駆り立てるもの。
だけどそれは、朝日向玲央というただ一人の男が俺に向けた、嘘偽りのない欲望。
「悪いが、恋人なんてすぐ切れるような肩書をくれてやる気はない。けど俺とお前はもう家族だろ、だから考えた。お前を裏切らないって証明が形になるなら、俺はあの日限りのお前と結婚して、世間を騙す。お前を一生側に置いておくためなら、俺はなんだってする」
「……玲央」
なんて強欲な嘘だ。そんな嘘をついてまで、朝日向玲央は朝日向小虎を欲している。
それだけで、あぁそれだけで十分なのに、掻き集めても足りない言葉じゃもう、好きや愛してる以上の気持ちに名づけることなどできないのに、鼓動する抑えのきかない純粋が、俺をも突き動かす。
「お前がどんな答えを出しても、俺は結婚を発表するつもりだ。お前がやっぱり嫌だって言うならそれでもいい。それでも俺は、お前以外いらねぇ……――だから決めろ、小虎」
ふいに頬から外れた手が、俺の左手をそっと導いた。
「この薬指に俺のモンだって証拠を嵌められて落ちるところまで落ちるか、人として真っ当な人生を歩むか、お前が決めろ、小虎」
自分で導いたはずの手を、逃がさないと言わんばかりの強さで捕まえながら、それでも最後の選択肢をあてがう玲央の瞳には俺しか存在を許されない。
あぁ、ねぇその心を、
「……玲央、俺はね、」
その心を、少しでも損ないたくはない。
「俺はね、分かってるよ。玲央がこうして選ばせてくれるのは、昔のことで罪悪感があるからでしょう?
置いていかれたあの日、俺はまだ子供で、誰にも選ばせてもらえなかったよね。離ればなれになった五年も、再会してからも、俺は暴力を受けてたけど、違うんだ、違うんだよ、玲央」
捕まれた左手をそっと外せば、見つめ合う玲央の瞳が揺れ動いた。
「玲央は俺に言ったでしょう? 当たり前をしてこなかったって。その通りなんだ。俺は、あの五年も、再会してからも、いつだって拒むことをしなかった。それは俺が選ばなかっただけで、ちゃんと別の人生もあったと思う。
だから、俺が選ぶことも許されなかったのは一度だけ、置いていかれたあの日だけなんだよ。
それだけは、子供だった俺たちにはどうしようもなかったことだ」
両親が決めた離婚という結末は、たとえその血が分け与えられた子供にも覆すことはできない。大人の都合、だなんて体のいい屁理屈に泣き叫ぶことはできても、反対することはできても、それだけ。
だからと言って、両親を憎む気持ちになれないのは、やっぱり家族という情なのかな。
「でもね、玲央は俺に抵抗する当たり前を選ばせてくれた。
なんの価値もなかった俺の人生に、意味を与えてくれたでしょう?
そのときから、俺はちゃんと選ぶことができたんだよ」
空中を彷徨う玲央の手を、今度は俺がそうっと導く。
「玲央を家族として求めたのも、兄として憧れたのも、一人の人間として好きになったのも、それは全部、俺が選んできたことだ」
たった一瞬離れていた、指先の冷たくなった手を握りしめる。膝の上で震えていただけの自分の手も、重なる手の平ごと導いた。
「だからね、ずるいなって、ちょっと思っちゃった。強引に玲央のものにして欲しいなんて、なんだか女々しいことを思っちゃった。玲央が選ばせてくれた気持ちは、うん、分かってるんだけどね」
「……小虎、」
こちらを見上げている玲央に微笑めば、冷たかった指先がじんわりと熱を持つ。もうそれだけで、どうしようもないなぁ。
「ありがとう、玲央。その気持ちが嬉しい。あぁ幸せ者だなぁって、ニヤけちゃうんだ」
そう言って、だらしなく笑んだ俺の表情を目にする玲央の瞳が微かに見開かれる。そんな姿一つで俺をここまで幸せにできるのも、きっと玲央だけだから。
「だから、選ぶよ」
最後の選択肢を与えてくれる玲央の優しさは、俺という人間一人を簡単に救ってしまう。
知ってるんだ。恰好つけではあるけれど、飾らない朝日向玲央の頼もしさを、俺は知っている。
いつも俺を守っていた背中ばかり追いかけていたから、俺の代わりに苦しむことも、傷つくことも、辛く寂しく歪むその表情さえ、背中を向けることで隠しつづけてきた玲央を、俺は知ってしまったから。
――俺は、自分の手に収まる玲央の左手薬指、そこにゆったりと牙を突き立てた。
皮膚を突き破るような甘い感触が歯にあたる。その刺激で口内にある指がびくりと反応した。そんな指を舌で舐めとるように唇をすぼめ、時間をかけてゆっくりと、自分の口から抜き取った。
指と唇を繋ぐ唾液の糸を舌で切りながら、俺は自分の左手薬指を玲央の唇へと押しつける。微かに開いたその隙間へ押しこめるよう指を進めていけば、やがて訪れる芳しい痛み。
あぁ、ようやく玲央の隣に並べたのだ。
「……ずるいよ」
ようやっと、この男の隣に並べた。ずっと背中を向けていて、自分の気持ちを隠す兄の隣に並べた。そのくせ俺を守り、励まし、時折歩みを止めて俺を待っていてくれた、朝日向玲央の隣にようやく並べた。
その興奮が、するりと口から滑り落ちる。
「自分一人で決めないでよ。俺が好きならちゃんと話し合って決めさせろよ。
世間を騙すための結婚でも、その相手が女装したあの日の俺でも、誰にも玲央を渡したくないなって嫉妬するだろ。
自分に嫉妬なんて馬鹿馬鹿しい真似させんなよ、馬鹿レオ」
反論しようとする玲央の口内から、意地でも抜けない俺の指を甘く噛みながらこちらを見つめる瞳に微笑む。
「玲央は俺に言ったよね? 俺が抱えてるもの、全部寄こせって。
なのに玲央は俺にくれないの? それは違うでしょ? ねぇ、間違ってる?」
「……っ、」
「間違ってないよね?」
玲央が俺の手首を掴んだ。その力が想像よりも強くて負けそうになるが、俺は口内に収まる指で玲央の舌を引っ掻いた。ぎくりと揺れた肩に、つい笑みが深くなる。
手首を掴む玲央の手に本気の力を感じた俺は、ずるりと指を引き抜いた。途端、解放された息苦しさに呼吸する玲央の肩に手を添えて、迷うことなくその唇に食らいつく。
急な重みに一歩下がった玲央はそれでも倒れることはなくて。むしろこちらへ押し倒さんとするばかりの力で俺の後頭部を掴むと、その真っ赤な舌をねじ込んだ。
「んっ、はっ、はん、ふぁっ」
「……はぁ……っ」
互いの呼吸を奪い合うような、暴力的な舌の動きにどちらも引かない。唾液が交じり合う淫らな音をより際立たせ、舌と舌で貪りあう本能。
歯列をなぞられれば、俺はその下唇を噛み、唾液を流し込まれれば、玲央はその舌先をかじる。そこに理性などない。あるのは強烈な獣の性。
食うか食われるか、弱肉強食の悦楽。
掻き抱く互いの手が、無意識に繋がった。
線を越えてしまってもいい。その共有された気持ちは荒々しい肉欲へと変わり、一切の自制をかなぐり捨てた互いの唇は、まるで離れることを許さない。
なんどもソファーに押し付けられた。なんども床に引きずり倒された。なんども壁際に追い込まれた。体のあちこちに走る痛みなど分からない。ただ、この手に届く布地の感触が煩わしくて、うっすら汗ばんだ肉体を望んで爪を立てる。
歩きもせず、走りもせず、運ばれることもなく、一分一秒さえ惜しいと絡まりながら訪れた寝室で、中途半端に脱がされた服を投げ捨てた獣から、滴る香気に誘われる。ベッドに手をつきその汗を舐めとると、唸った獣が俺の服に手をかけた。
ふっ、ふっ、と浅い呼吸を繰り返し、こちらを見下ろす獣。あぁ、可愛い人。呟きかけた言葉を飲み込み、ゆったりとその手に自分の手を重ねて上へと導けば――獣は許容の無い瞳で服をたくし上げた。
「あっ、ん、はっ、あ……っ」
「はっ……どこもかしも甘いな、お前は」
己を守る鎧をすべて失い、貧相な肉体を晒した俺の体はじっとりと濡れていた。
見られるたびに興奮して汗が滴り、真っ赤な舌が唾液を絡ませ行き来する。一箇所一箇所、丁寧に舌で愛撫する玲央の唾液が、手先から足の先まで満遍なく俺の体に染み透る。
うつ伏せにされた俺の、特に背中を執拗に舐める玲央は時折首筋を噛みながら、行き場のない快楽に身悶える俺を凝望していた。
「んっ、れ、お……っ」
「どうした?」
舌先と、その牙で与えられる心地の良さはゾッとするほどに甘美で、もどかしい。
背中の中心をねぶられ、腰の辺りを撫でられた刺激ですでに気をやってしまった俺にとって、その快楽はもう優しすぎるのだ。
黒いシーツの上で下腹部を白く汚した俺の腕を掴み、そのまま横向きにされた俺の情けない姿を、獣は下唇を舐めながら笑んだ。
「またイクのか?」
「ふっ、ん……る、せ……っ」
「強請れよ、小虎」
と、意地悪に笑う獣の瞳は弧を描く。
旅行の時とは違い、その舌で全身を味わう愛撫が与える快感はケタ違いだ。
腕を掴んでいた手が俺の手首を持ち直す。一体なにをする気だと見つめていると、玲央はそんな俺を見下ろしながら指先に口付けた。
控えめな音がしたあと、爪と皮膚のあいだを狙って舌が伸びてくる。ぞくりと肌が栗立つ俺などおかまいなしに、指先から水かきまで舐めしゃぶり、手の平をくすぐり、手首にキスが落とされる。
「ほら、言えよ。どうして欲しいか、ちゃんと言え」
「……や、めっ」
理性を狂わせた獣の言葉は攻撃的だ。そのくせ与える刺激は波間のように緩やかで、俺の意志を無理に保たせる。
もっと強引な、我を失うような途方もない欲情をチラつかせ、ギリギリで突き放すこの感覚は、玲央の背中をひたすらに追っていたあの時間によく似ていた。それが情けないくらい悔しくて、やっと追いついたと思った次の瞬間、またも距離を取られたようで腹が立つ。
「おれ、も……っ」
なぁ知ってるか、これでも俺だって男なんだ。
「おれ、も……っ、触りたい……っ」
ゆっくり時間をかけて獲物を仕上げる獣に牙を向く。掴まれた手首を無理に払い、その肩めがけて手を伸ばす。無意識に爪を立てながら、強引に起こした体で玲央に反撃すれば、急なことで堪えきれなかった逞しい肉体が俺の下に落ちた。
「はは……っ、さっきと逆、だね?」
「てめぇ……、」
一度イッたことで俺の頭は多分、ネジが外れている。
またイキたい、もっとイキたい。ぐちゃぐちゃに、めちゃくちゃに、骨の髄まで喰い尽くされたい。けれどそれと同じくらい、この男を喰い尽くしたい。
再び俺を押し倒そうと、腰に手をかけた玲央の髪を両手でわし掴み、俺の全身を舐めしゃぶっていた唇に食らいつく。早急に押しこんだ舌で驚く玲央の歯列をなぞれば、自分の怒張を俺の尻に打ち付けた獣が舌を絡ませた。
「んっ、はぁっ、あまく、ない……っ」
「はっ、甘ぇよ、ふっ、ほら、飲み込め」
甘い。と言う玲央の言葉を期待して味わう口内は煙草の味がした。それに文句を垂れた俺の舌に沿って、玲央が大量の唾液を流し込む。けれど重力には逆らえず中途半端な粘液をすすれば、少しだけ甘い気がして更にむかついた。
経験の差で玲央の舌が優位に立った。無理やり口を離して身を起こすと、その長い距離を唾液の糸が淫らに繋ぐ。
「逃げてんじゃねぇよ」
俺の動きに焦りを感じ取ったのか、自分が組み敷かれているというのに野蛮に嗤う獣は挑発的だ。
この、光景は俺の気持ちをより高める。けれど、どうしてか無性に腹が立つのだ。やはり追いつけないこの男に対して、じゃない。本当は分かっている。ただ、それを認めてしまうのはあまりにも癪で、あまりにも口惜しい。
だってそうだろ。この男の、この黄金の獅子が、こうして熱く本能をさらす姿を、俺以外の誰かが知っている。
それも一人二人じゃない。想像もつかないほどの女が、この男の欲望を暴き、受け入れたのだ。
「……っ」
分かっている。それは所詮過去にすぎず、今、この男は俺を欲していると分かってはいる。
それでもみっともないこの感情が肥大するのは、どうしようもなく好きだから。
玲央を見下ろす俺の瞳が肉欲以外に染まったことに気がついたのか、労わるように腰を撫でる手が、緩やかに俺を引き寄せた。
そんな優しさを無下にして、俺は汗ばんだ獅子の喉仏に牙を立てる。
人間の急所を攻撃されたせいか、身を震わせた獣が俺の腰を強く掴んだ。それに気を良くして噛みついたそこに舌を這わせると、玲央の片手がするりと俺の胸を撫で上げる。その手を軽く叩き落とし、にっこりと笑む。
「だめ」
「おまえ……、」
なにか言いかけた唇を一舐めし、そのまま頬に唇を落とす。胸板に乗せていた手で逞しい体を撫ではじめれば、獣がごくりと息を呑んだ。
――可愛い。
と、思ってしまった。
いつも余裕綽々で、経験豊富で横暴な玲央が、俺を前にしてそのすべてを失っている。
ただ本能が欲するまま、俺に触れたいと願っている。
あぁ、なんだ。俺と一緒なのだ。
俺はゆるりと頷いて、玲央の胸に手をつき体を起こす。
「……だめ」
玲央が与えてくれる一言で舞い上がったり、玲央が触れてくれただけで満たされたり、隣に座って手を繋ぐだけでも充分幸せなのに。なのに俺はワガママだから、その先が欲しくなる。
好きなのに、好きだから。だから触れたい。触れられたい。
「俺以外、玲央に触っただなんて……許せそうにないや」
余すところなくそのすべてを、俺だけのものにしたい。
俺の言葉に目を瞠った玲央が早急に身を起こした。けれど俺はそれを受け入れず、肩を強く押しながら強引に唇を奪う。もう何度目か分からない口付けは互いに暴力的で、その優しさが微塵も存在しない動きに満足してしまう。
そんな俺とは違い、今度は押し倒されなかった玲央が、寄りかかる俺の腰を抱きながらゆるりと身を起こした。
「ふっ、あ……れお……っ」
「一丁前に嫉妬しやがって、煽ってんのかお前」
ぐるりと視界が反転する。あっけなく押し倒された俺のモノを強く握り、直接的な快楽にガクガク震える俺など無視した玲央は上下に扱く。簡単に吐精し、息を乱す俺を見下ろす獣の瞳は、ただどうしようもなく美しかった。
「変なこと考えてんじゃねぇよ」
「……んっ、れお……」
「全部くれてやるって言っただろ。ならてめぇの全部は俺のもんだろ」
ひどく傲慢な取り替えだなぁと、肩で息をする俺に目を細めた獣は、手に付着した俺の精液を目の前で舐めた。驚く俺を余所に、わざとらしく音を立てて舐めしゃぶる真っ赤な舌は、真っ白な粘液をはしたないほど美味そうに味わっている。
「余計なことは考えるな。お前は俺の下で喘いでろ。それ以外は許さない」
「……っ」
ゾクリと、身の毛がよだつ。
水かきまで滴る精液を淫らに味わう獣の瞳が、指と指のあいだからこちらをじっと見下ろしている。一切の許容もない、傲慢で強欲な、ひどく冷たい、けれど脳が煮え滾るような熱を帯びた双眸が、俺を犯している。
どぷり。その視線で先走りを漏らす俺を、黄金の獅子は卑しく笑った。
「れ、――っ!?」
「んっ、はぁ……っ」
信じられない。嘘だ、こんなの。
玲央が、あの玲央が、俺の太ももを押し上げながら下半身に顔を埋め、達したばかりの物を咥え込んだ。そのありえない光景に思わず腰を引いた瞬間、ぐぷっと音を立てながら根元までしゃぶられる。
「やっ、うそっ、やだれおっ、あっひぃっ、やめっ!」
ただただ混乱した。潔癖症の玲央が俺の精液を舐めただけでも充分信じがたいのに、それを吐き出した俺の物を玲央が咥え込むなんて。
信じられない、申し訳ない、頭がおかしくなりそうだ。なのに玲央はそんな俺の思考を根こそぎ奪っていくように、舌を絡ませ先端まで吸い上げた。
「ひっ、やっあっあぁっ!」
先ほど達したばかりの熱が強引に呼び覚まされる。下品な音が直接鼓膜に響くようで、俺は涙を溢しながらビクビクと震えた。
ねっとりとした口内で馬鹿みたいに先走りが零れていくのが分かる。それが漏らしてしまったようなひどい感覚で、咄嗟に掴んだ玲央の髪を強く引く。咎めるようにカリに歯を立てられ、一瞬眩暈がした。
ぷるぷると大袈裟なくらい痙攣していた俺の太ももを持ち上げた玲央が自分の肩に乗せる。そのとき離れた唇は、蠱惑的に笑みを刻んでいた。
「やらしい顔してんなぁ」
「あっ……ん、」
口から溢れた唾液と涙でぐちゃぐちゃな、俺の顔を見て満足そうに歪む獣の顔は雄のそれだった。
助けを求めるように思わず手を伸ばすと、その指先を甘噛みした玲央はけれど、まだ満足していなかったらしい。
再び顔を埋めると、今度は裏筋を舌で細かに刺激しながら、睾丸のあいだに指を差し入れ、手の平全体で揉みしだいた。
「あっ、んぁっ、はっ、あ……っ」
先ほどの強烈な快楽とは違う、背筋を這うゾクゾクとした独特の感覚に体がのけ反る。玲央の肩に乗せられた足が、その背中を手繰り寄せるように引っ掻いてしまう。
「れ、お……あっ、れお……っ」
自分の声だとは信じられないくらい、欲情しきった雌の声音。雄を誘う淫らで悩ましく、けれど暴かれることを望み、身を委ねたいと晒す本性。
あぁ、もっともっと、喰われてしまいたい。
睾丸を揉みしだく指が、するりと穴のふちを撫でる。
ぞくり、腰から首筋まで駆け巡る妙な感覚の波に大きく息を吸うと、獣が音を立てて俺の尿道口を吸い上げた。中から直接すすられた先走りが、自分の意志とは別の勢いで奪われる。
「ひぁ、んっ、はっ、あぁっ!」
亀頭を唇でしごきながら、穴の中心をくすぐった指先がゆっくりと内部へ侵入を果たした。
堪えきれない異物感に思わず足に力を入れると、膝裏に手を差し込まれ、そのまま持ち上げられてしまった。
「やっ! やだっ、れおっ!」
「すげー格好だな」
器用にも俺の両足首をひとまとめに持ち上げた獣が、内部へ差し込んだ指を舐めながらこちらを見下ろす。ぐっと、お尻の下に膝を立てながら頭の方まで押し上げられ、濡れそぼった恥部が露わになる。
あまりの羞恥心で暴れる俺の力に、けれどびくともしない玲央は舌先から離す指へ絡めながら、見せつけるように唾液をそこへ垂れ流した。粘液質なそれが時折固まりになって穴の周りを汚していくと、浮いた下半身のほうへ伝う感覚に喉がひくついた。
「れお、やだっ、れお……っ、やだぁ……っ」
あんまりな恰好に首を横に振るが、玲央の力が弱まることはない。
脳みそも体もぐずぐずにされてもなお残る羞恥心で玲央を見上げるが、獣はそんな俺の表情を甘く見下ろすだけだ。
ゆるりと微笑んだ玲央は、己の唾液でたっぷり濡れたその指を、無情にも内部へ突き入れた。
「ひぃっ!?」
ゆっくりと、ゆっくりと奥へ差し込まれる指が時折曲がって中を刺激する。すぐ抜けた指はしかし、穴の周りを濡らす唾液を絡ませながら再び中へなんども、なんども侵入してくる。
「んぐっ、んっ、はっ、はぁっ」
「小虎、目ぇ逸らさずちゃんと見ろ。分かるか、こうやってお前の中を広げて、慣らして…………あぁ、」
ぐっと奥まですすんだ指を曲げたまま、玲央が一気にふちまで中を引っ掻く。
「っあ、ひあっあぁっ!」
その引っ掻いた指がある一点を通過したとき、俺の視界は真っ白に染まって弾けた。びしゃっ、と安っぽい音を立てながら、自分の体に飛び散る精液で汚れる俺を見下ろしていた玲央は荒く息を呑みこみながら、
「ブチ込みてぇ……っ」
爛々と鋭く細めた瞳で、俺を犯した。
両足首を掴んでいた玲央の手が離される。それに伴い力を失った足がシーツの上へ崩れ落ちた。顔にまで飛んでしまった精液の匂いに呆然とする俺に、玲央は再び奥まですすめた指で、中を広げるように輪を描く。
空いたもう片方の手がへそに溜まった精液をすくい上げ、そのままするするとなぞるように乳首をくすぐった。
休む間もない快楽の波に体は執拗なほど反応し、蕩けた視界の中、こちらを射抜く獣の瞳につい微笑んでしまう。
そんな俺を認めた玲央は、壮絶に淫靡な笑みを浮かべながら舌なめずりをした。
突然、玲央が中から指が引き抜いた。と、同時に腕を掴まれうつ伏せにされる。急なことで驚く俺の背中に吸い付いた玲央は、恐ろしく熱い怒張を尻に押し付けてきた。その間接的な触れ合いでも分かるほどに、いきり立つ大きなそれは興奮に染まり、俺を求めていた。
「あっ、やぁっ、んっあっ」
俺の背骨や肩甲骨をたどるように皮膚を舐めていた唇が肩のつけ根を強く吸い上げる。ちくりと小さな痛みにシーツを握りしめた瞬間、獣は容赦なくそこに噛みついた。みち、と牙がくい込む音がした気がして、思わず歯を食いしばると今度は怒張が尻の割れ目をなんども行き来して、そのたび玲央の先走りで自分の体が濡らされていくのが分かった。
先ほどまで弄られていた穴がひくひくと細かに震える。そこを狙うように滑る怒張に少なからず恐怖を感じていると、ようやっと口を離した玲央が身を起こす。
「……れお……?」
不思議に思って見上げると、肩越しに広がるその光景に目を瞠る。
そんな俺と目が合った瞬間、玲央は俺の尻を強く掴んで揉みしだいた。
「んっ、やっ、れおっ」
「はっ……はぁっ、」
玲央は、俺を見下ろしながら自身で扱いていた。
腹につくくらい高ぶった、血管の浮き立つそれは想像以上に大きく、同じ男性器とは思えないほど物恐ろしい。長く、太い怒張が先走りに濡れながら上下に扱かれるさまは、ただただ淫らだった。
眉根を寄せ、獲物を捕らえた劇しい瞳から目が逸らせなかった。いつものような優しい触れ合いなどではない。けれどその強引さが、なぜか堪らなく嬉しかった。
少し開いた唇から覗く、歯を食いしばるその口内を味わいたい。ゆっくり身を起こそうとすれば、それに気がついた獣は尻を揉みしだきながら、器用にも親指で穴を刺激する。
「んっ! あっ、あぁ……っ、んぅっ!?」
「っ、は……っ」
穴の刺激で腕から力が抜けそうになる俺の顎を掴んだ獣が無遠慮に唇に喰らいつく。俺の唾液を奪うような口内を暴いていく舌に眩暈がして、瞳に溜まった涙が頬を伝った。それが口の端から垂れ落ちる唾液と首筋で交ざりあう感触がして、ぞくりと腰が跳ね上がる。
「むっ、んぁっ、はっあっ」
「……っ、」
俺の口内にくぐもった息を吹きつけながら、獣は熱く勢いのある大量の精液を俺の背中にぶちまけた。顎から首筋を這う五指が汗ばんでいる。肩で息をする玲央はそれでも動きを止めず、未だ硬い怒張の先端で飛び散った精液を塗り広げた。
「んっあ、れお……っ」
それだけでも足りないのか、顎から離れた手がさらに精液を広げ、濡れていなかった肩の方にまで執拗に塗り込まれる。首の根元から腰まで滑らせた指がそのまま精液をすくい上げ、震える俺の口元へと運ばれた。
「んむっ、あっん、んぅっ」
「……あー……、」
されるがまま、玲央の欲望を舐めしゃぶる俺を見下ろす獣がはしたなく笑う。
「たまんねぇ……っ」
「ひぃっんっあっ、やらぁっ!」
「んっ、嫌じゃ、ねぇだろ」
どれくらいの時間が経ったのだろうか。俺の背中に精液を塗り込んだ玲央は、もはや全身に力の入らない俺の下半身に陣取り、あろうことか舌で穴をねぶり、広げた内部を四本の指で抜き差ししている。
わざとらしく下品な音を立てられ、嫌でも分かるほどにヒクついた穴はそれでも玲央の愛撫に喜び、俺とは違う筋張った指を健気にも締め付けていた。
「やらっ、れおっ、まっ、まらひ、ひくから、あっあ、あっ」
そんな容赦のない快楽に俺などではひとたまりもなく、いくど吐き出した腹の上を濡らす大量の精液がシーツに零れ、身をよじるたびに拡がったそれはあまりにも卑猥だった。
尻の下はもちろん、背中までも白く汚す光景に玲央は隠そうともしない興奮で息を荒くし、潔癖症など嘘ではないかと疑うほど執拗に穴や俺の物を舐めしゃぶった。
「少しは堪えろよ。まだ挿れてもねぇだろ」
「らって、きもひくてっえ、んっ、あっやぁ……っ」
中を弄られる内に自分でも気づいてしまったある一点は、少しでも指が掠ると体が言うことを聞かなくなる。それに当然気づいている玲央は、わざとそこを刺激せず俺をぐずぐずに溶かしていた。
じゅぽっ、なんて音を立てながら指が抜かれ、味わうように穴のふちをなぞった舌が離れる。視界もかすんでもうくたくたな俺の顎を玲央が掴む。
「んぅっ、んっ、あっ……んぁっ、はあっ」
ねっとりと熱い舌が口内に伸びてきた。その舌が先ほどまで自分の穴を執拗に舐めていただとか、もうそんなことすら考えられず、打って変わって優しい動きに感じ入ると、ヒクつく穴に怒張が押し当てられた。まさか、驚いて目を開ければ、こちらを見つめていた獣が笑む。
「れっ――あぁああっ!」
随分と広げられたそこに押し入る巨大な熱。その雄々しさに俺はだらしもなく、達してしまった。
「ひっ……あ、あっ、あぁ……っ」
「っ、挿れただけで、イッてんじゃねぇよ」
のけ反った背中も折り曲がった足もガクガクと痙攣し、いつのまにか掴んでいた玲央の腕には深く爪がくい込んだ。焦点の合わない視界でこちらを見下ろす玲央を眺めていると、未だ震える俺の顔中に舌を這わせてくる。それが妙に優しくて、爪先がより肉をえぐった。
「まだ、全部入ってねぇ」
「あっ、……う、うそぉ……っ」
「ほんと」
ちゅっ、と軽い音を立てながら唇をついばむ玲央が微笑む。
「痛いか?」
「やっ、あっ、じょくぞくっ、する、ぅ……っ」
「……っ」
痛みはなかった。ただ、恐らくまだ先端しか入っていない怒張に絡みつく体内から伝わるのは、全身をびりびりと細かに刺激する快感だ。息を詰めた玲央がゆっくりと腰を進めれば、みちみちと肉を押し広げる感触に腰が抜ける。
「っ……はぁっ」
「んっ、ひっ、あ、はぁっ」
未だ痙攣する俺の腰を支えながら、眉根にしわを寄せた玲央が甘い息を吐く。それを吸いこむように喘げば中がうごめき、怒張を締め付けた。
「おまえっ、くそ……っ」
「あっ、れお……んっ、」
ぽたり。玲央の額から零れ落ちた汗が頬を伝う。快楽に目を細める獣のそんな姿があんまりにあんまりで、俺は思わずその唇に喰らいついた。瞬間、
「――~~~っ!?」
一気に奥まで穿った玲央の爪が腰に突き刺さり、俺の悲鳴までも奪い取った獣がついに俺を喰い尽くす。
想像を絶する甘美な快楽の世界に、俺の肉体は内部までも痙攣し、悦んでいた。
「ぷはっ、あっ!? あっれ、れおっ、んっ、ひぃっ!」
「はっ、……くっ」
舌を吸い上げながら唇を離した玲央が、あえて触れずにいた一点を押し上げながら腰を引けば、連続で与えられる容赦のない突き上げ。自分の欲望に忠実な動きに遠慮はない。けれど再び口付けられた唇を割って、舌を絡められればそれだけで途方もなく愛おしかった。
玲央の腕にしがみついていた手が外され、指が絡められる。
あそこも、口も、指も繋がって、俺と玲央の精液で汚れたベッドで絡まり合う肉体の熱さがより気持ちを高める。それだけじゃ足りなくて、中を穿つ玲央の腰に足を絡めると獣の動きは激しくなった。
「あっんぁ、むあっ、はっあっ」
「はっ、小虎……っ」
快楽しかなかった。
痛むはずの体のあちこちも、口内に吐き出される玲央の声ですべてが馬鹿になって、肉と肉がぶつかり合う、けれど粘液の交じるはしたない音だけで中は貪欲に締まり、もっともっと深くまで食らい尽くされてしまいたいと願う情欲が漏れつづける。
いたるところからやらしい音が立ち、二人だけの寝室にそれが淫らに響いていた。
「はっあっああっ、あひっ、ひぁ、あんぅっ」
「……小虎……っ」
どんどん激しくなる突き上げに唇が離れてしまった。深く絡まっていた舌をたっぷり濡らしていた唾液を垂らしながら、栓を失ったことで上がる声に玲央が一際強く奥を穿つ。どぷっと吐き出された先走りに思いっきり中を締め付けてしまえば、一点を狙うように怒張が細かに俺を揺さぶった。
「ひあっそ、しょこっらっ、だめっひ、いくかっらぁっ!」
「はぁっ……くそっ」
怒鳴るように吐き出された玲央の言葉に背中がのけ反る。もう何度目かの感覚に視界で火花が散った。挿れられてからずっとイッた状態がつづいているようで、俺の物はだらだらと精液を垂れ流していたことを、玲央の腹に擦られてやっと気がついた。もはやそんなことすら分からないくらい気持ちが良くて、中で膨らむ怒張の刺激に頭が追いつかない。
「っ……出すぞ、小虎……っ」
「んっあ、ひんっ、れ、れお……っ!」
奥を穿ち、俺を揺さぶる獣が唸る。腰を支えていた玲央の手が背中に回った。より密着した肉体が振動と汗で滑るが、そのもどかしさに体全体で玲央に抱き着いた瞬間、中の怒張がこれ以上ないほど膨れ上がり、俺は高い悲鳴を上げた。
「あっ、あぁあっああんっ!」
「っは……ッ、」
ガクガク震える俺の首筋に玲央が牙を突き立てた。
同時に俺の物から精液が飛び散り、玲央の腹を汚す。中で弾けた怒張は勢いよく大量の熱を注いだ。それでも硬さを保ったままの怒張が塗りこむように微動して、その感覚とあまりの疲労に目が蕩ける。
玲央にしがみ付いていた指を伸ばせば、皮膚に喰い込ませた牙を抜いて、ふわりと舞い降りる優しい唇。目を伏せながら受け入れると、甘く絡まる互いの舌が、ゆるりと肉欲を呼び起こす。
舌を出しながら離れた唇に、思わずぎゅうっと玲央にしがみつくと、獣はそれは優しく、優しく俺の首筋に噛みついた。
玲央の首に腕を回せば、息の荒い肩の震えに興奮を隠せない。
あぁ、気高い獣が今、腕の中にある。
ふわりと髪がたおやかに梳かれた。その優しい手つきにまどろむ世界がゆるりと顔を上げる。そうっと目蓋を開くと、ベッドに肘をつけて寝転ぶ玲央が、甘く微笑みながら俺を見つめていた。
「……れお」
「おはよう」
「……うん、おはよ……」
力の入らない笑みを浮かべると、玲央は口元を緩めながら今度は耳たぶを撫ではじめた。
自分の口から漏れ出る声が可哀想なくらい枯れていて、喉を擦ると困ったように玲央が口を開く。
「悪いな、無理させて」
「んーん……平気、嬉しかったよ?」
「へぇ? そりゃ良かった」
まるで獣のように互いを求め、玲央を体内で感じたあと、それでも足りないと俺を求める獣はしかし、ひたすらに甘く俺を抱いた。涙や鼻水や唾液に塗れた俺の顔中に舌を這わせ、男のくせに感じる乳首を愛で、もう精液も出なくなった俺の物をゆるく扱き、玲央を求めて離そうとしない中をもどかしいほど時間をかけて慈しんだ。
言葉数は少なく、そのくせ合間合間に俺の名を呼び、目が合うたびに絡む舌はなよらかに俺を溶かした。あんなに甘くて蕩ける時間は刻むほどに俺を駄目にしたが、いつしか気を失ってから目覚めるまでの今、体の汚れも失せ、シーツも新しくなっていると分かればまた、俺がぐずぐずに溶けてしまう。
「……れお、好き」
「知ってる」
滴るほどに潤った瞳が俺を捕え、弧を描いた。それがあまりにも綺麗で、思わず身を寄せると耳たぶを撫でていた手が俺の肩を抱き寄せる。
あぁ、気持ちがいいなぁと落ちそうな意識を奮い立たせ、ゆっくりと口を開いた。
「玲央……あのさ」
「あ?」
「結婚のこと、なんだけど」
なんだか顔を見るのが怖くて、つい石けんの香りがする胸板に額を押しつけると、玲央がそんな俺の首筋を撫で上げる。
「しなくても、俺は玲央のこと信じてるよ?」
「そう言うと思った」
「え……わっ!?」
頭上で息の漏れる音が聞こえたかと思うと、あっというまに玲央に押し倒されていた。両手首を掴んでベッドに押しつける玲央の眉間には、不機嫌そうにしわが寄っている。
「れお……んぅっ、」
どうしてそんな顔をするのか尋ねようと開いた唇に、ちゅっ、と可愛い音を立てて口付けた玲央がゆっくりと顔を上げる。その眉間には、まだしわが寄ったままだ。
「お前はいつもそうだよな」
「そうって……?」
「遠慮がち」
「……遠慮、ていうか」
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俺は玲央を信じているし、裏切らない証明ならば指輪という形でも充分だと思うのだ。それをわざわざ存在しない女、実際は女装したあの日の俺に操を立てるなど宣言せずとも、二人が良ければそれで良いと。
おずおずと玲央の真意をはかる俺に、まだ不機嫌そうな獣は大きく息をつく。
「だから言い方を変える」
「?」
「あんな格好つけたこと言ったけどな、本音はただ、俺がケジメつけてぇだけなんだよ、馬鹿トラ」
ケジメ。その言葉に目を瞬かせると、いくぶん表情の和らいだ玲央が俺の額に口付ける。
「お前を傷つけてきた俺が、いまさら欲しいだなんて滑稽だろ。それでもお前は俺を受け入れただろ。そんなお前を大事にしたいって思う自分に誓うケジメとして、二人だけの間柄で片したくはない」
「……でも、いつか後悔するかもよ? あぁ、馬鹿なことしたなーって」
「そんときはお前が俺を笑えばいいだろ、馬鹿トラ」
「……じゃあ、そうしようかな、馬鹿レオ」
ははは。声に出して笑った玲央が俺の首筋に顔を埋めてきた。
「……ねぇ玲央、」
「あ?」
器用に横に寝転んだ玲央が、俺の頭の下に自分の腕を差し入れる。筋肉質な逞しい、けれど温かな腕に素直に頬を擦り寄せた。
「今日、さ。玲央がショーから帰ってきて、俺がバイトから帰ってきたら、夜は二人で過ごすでしょ?」
「当たり前だろ」
「うん、そのときにさ、教えて欲しいな」
「なにを」
「玲央が母さんとどんな風に過ごしてきたか、教えて欲しいな。俺も、父さんとどう過ごしてきたか、ちゃんと話すから」
緩やかに囁く俺の言葉に玲央が目を瞠った。
そんな玲央に、ごめんね、と思わず口から声が漏れ出てしまう。
「もう簡単には別れられないってなってから、こんなこと言うなんて卑怯だと思う。もしかしたら俺の話を聞いて、玲央がやっぱり嫌だって思うかもしれない……ずるいよね、ごめん」
へにゃりと顔を顰めながら、無理に笑う俺の額を小突いた玲央が鼻先をかじる。驚いて呆ける俺に、玲央は満足そうに微笑んだ。
「お前こそ理解しろよ。俺がどれだけてめぇに惚れてんのか、いい加減理解しろ、小虎」
「…………っ」
ずるい、なぁ。そんなことを言われたら、もうなにも言えないじゃないか。
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