ちょっと待ってよ董卓さん

長岡伸馬

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2 森での出会い

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「本当にここは何処なのだ?見た事ない植物ばかりではないか」

 董卓は食べ物を探して森を彷徨うが、周囲は見慣れない植物ばかりである。
 実をつけている木も幾つかあるが、馴染みがある実は一つもなかった。

「うーむ、こいつは食えるのか?」

 董卓は木になっていた実を一つもぎ取り、じっくりと観察する。
 その色味は、赤、青、黄、緑、黒、白の原色が散りばめられたモザイク画の様であり、董卓が食べてきた果物とはかけ離れた物だった。

「毒でも有りそうな色だな。・・・匂いは無し。取り敢えず、割ってみるか」

 実の匂いを嗅いでも無臭で、食用が可能なのか判断するのは難しかった。

 パキッ!

「臭っ!何だこれは!」

 実を割ると共に強烈な悪臭が一気に広がる。
 董卓は堪らず手に持った実を放り投げた。

「ふう、酷い目にあったわい。・・・ん?」

 実を割った時に漂った悪臭が薄れ、董卓が一息吐いた時、近くの茂みがガサガサと音をたて揺れだした。

『獣か?ならばそいつを仕留めて肉を食らうか』

 董卓は揺れる茂みに体を向けると、出てくるものに直ぐに対応出来るように、神経を研ぎ澄まして身構えた。

「肌が緑の子供だと?訳が分からん。ここはあの世か?」

 董卓が遭遇したのはゴブリンだった。
 緑色の肌をした人間の子供サイズの魔物。ファンタジー世界の定番モンスターではあるけど、そんな知識など欠片も無い董卓はただただ混乱した。

「ギャギャ」
「ギャ!」

 董卓の混乱など、ゴブリンたちには関係ない。
 ゴブリンたちは目の前に現れた巨大な獲物を仕留めるチャンスとばかりに、小汚いナイフを片手に董卓に駆け寄った。

「ぐっ」

 状況を飲み込めず混乱していた董卓は、ゴブリンたちにナイフで腹を刺された。

「ギャギャギャギャギャ!」
「ギャッギャッギャ!」

 ゴブリンたちは董卓にナイフを突き刺した事で歓喜した。これで今日は大量の肉にありつけると。
 だが、その考えは間違いだった。
 董卓は、笑うゴブリンたちの首を掴むと、そのまま握り潰して圧し折った。

「ふん!雑魚共が!この程度で儂がやられる訳がなかろう」

 分厚い脂肪と筋肉に阻まれたナイフは、董卓に致命傷を与えることは無かったのだ。
 董卓はゴブリンたちを投げ捨てると、腹に刺さっていたナイフを引き抜いた。

「粗末な刃物だが無いよりましか」

 ゴブリンたちのナイフはかなり刃こぼれしており、切れ味は期待出来ない物だったが、何も持っていない董卓にとっては貴重な道具だった。

「傷口は放置するしかないのう。手当てする道具も無いしな」

 董卓が持っている道具は、腹から引き抜いたゴブリンたちのナイフだけ。
 周りは見た事のない植物ばかりで、薬草の類も分からないのでは手当のしようがなかった。

「取り敢えず、適当な長さの棒を作るか。藪の中を探るのにも使えよう」

 董卓が履いているのはサンダルの様な物で、森を歩くのに適しているとは言い難い。
 特に藪の中など表面しか見えない場所にいきなり踏み込むのは危険がある。そういった場所を探る為にも長めの棒は持っておきたかった。

 董卓は棒にする為の手頃な太さの木の枝を探す。
 出来るだけ真っ直ぐで、長さと、太さがあればいい。
 食べ物と違い、見た目だけで探せるのですぐに候補の枝が見付かった。

「これにするか」

 董卓は棒にする候補の枝に触れて強度を確かめると、ゴブリンから手に入れたナイフでゆっくりと切っていった。

「やはり切れ味は悪いな」

 董卓はナイフの切れ味を試す様に、木の枝に少しずつ切り込みを入れていく。
 最終的には圧し折るつもりだが、ある程度は切っておかないと予定外の場所で折れてしまう。
 董卓は地道に木を切る作業を続けていった。

「ん?」

 董卓がしばらく作業を続けていると、再び茂みがガサガサと揺れだした。
 ゴブリンたちが現れた時よりも音はずっと小さい。しかし、茂みが揺れている範囲は広かった。
 茂み自体は董卓が立っていても姿が隠せる程の大きさがある。
 そんな中をゴブリンより間違いなく大きな存在が、音を出来るだけ立てない様に近付いてくる。
 董卓はゴブリンから手に入れたナイフを両手に持ち、油断無く身構えた。

「確かこっちに向かっていたはず、ひっ、オーク?!」
「ん?おーく?何だそれは?」

 今回、董卓の前に現れたのは人間の男で、ゴブリンと違って話している言葉が聞き取れた。

「えっ、あ、人間だった。すみません!咄嗟の事で勘違いをしました!」

 董卓が出会った男は、謝罪の言葉と共に頭を下げた。

「謝罪は受け入れよう。それで、『おーく』と言うのは何だ?」

 男は話が通じる上に、頭を下げて謝罪をしてくる程敵意は無い。
 董卓はナイフを下すと、男に再度問いかけた。

「えーと、その・・・」

 董卓に問われた男は、返答に困っていた。
 オークが豚顔の肥満体型の魔物とは言い難いのだ。

「本当にすみません!『オーク』は豚の顔をした、肥満体型の人型の魔物です」
「・・・」

 男の言葉に一瞬青筋を立てる董卓だったが、男に対して怒りをぶつける事は無かった。

『豚の顔をしたものと間違われたのは腹が立つが、今は情報を得る方が重要だ。怒鳴り散らして逃げられても困るしな』

 董卓はそう判断すると、男に色々質問する事にした。

「まあ、咄嗟の事では仕方あるまい。ところで、『魔物』とは何だ?そこの緑色の肌をしたやつも『魔物』でいいのか?」

 董卓はそう言ってゴブリンの死体を指さした。

「えっ、あ、ゴブリン!そいつらも魔物です。あなたが倒したんですか?」
「ああ。そうだ」
「って、よく見たら血が出ているじゃないですか!刺されたんですか?」
「まあな」
「早く手当しないと。傷口を見せてもらえますか?」
「ああ」

 董卓は手当をする道具を何も持っていなくて放置するしかなかった傷口を男に見せる。

「・・・変色している?あの、どんな物で刺されたんですか?」
「これだ」

 董卓は左手に持っていたナイフを男に見せた。

「ちょっと調べさせてください。『物品鑑定』・・・。ああ、やっぱり毒付きだ。『キュア』」
「何だ?手が光っておるではないか」

 董卓は男が傷口にかざす右手が淡く光りだしたのを不思議そうに見ていた。

「魔法です。見た事ないですか?」
「ああ。無い」
『手を光らせるとは不思議な事よ。こやつは仙人なのか?』

 董卓はそう思いながら男がやる事を注意深く見ていた。

「あとはポーションを掛ければオッケーですね」

 男は小瓶を取り出すと、その中の液体を董卓の傷口に振り掛けていった。

「・・・傷が塞がっただと。何だその液体は?」

 ポーションが掛けられた傷口がどんどん塞がっていく。それと共に、痛みも消えていった。

「初級のポーションですよ。ある程度の怪我なら治ります」
「そんな物があるのか」
「他に具合が悪いとこは無いですか?」
「ああ、問題無い」
「それは良かった。ところで、あなたはこの世界の人間じゃないですよね?ゴブリンの事も、魔法の事も、ポーションの事も知らなかったし」

 男は董卓の治療を終えると、そう問い掛けてきた。

「儂はこの世界の人間ではないだろうな。ここは儂の生きてきた場所とは違い過ぎる。ここは仙人の住む世界か?」

 董卓は男に『この世界の人間ではない』と言われて納得していた。
 通りで不思議な事ばかり目にすると。

「ここは一応、人間の住む世界ですよ。仙人の住む世界ではありません。仙人みたいな人も居るかもしれないけど」
「おぬしは仙人なのか?」
「違います。普通の人間です。あ、普通の人間と言うとちょっと問題がありますね。俺も元々この世界の人間じゃないので。俺は別の世界から転生した『異世界人』です。元の世界で死んじゃって、気付いたらこの世界に転生していました」

 男は転生者だった。

「・・・元の世界で死んで、気付いたらこの世界か。儂も同じなのだろうな」

 董卓は転生者の男の言葉に、この世界で目覚める前の事を思い出していた。
 あの状況で生きているはずは無いと。

「あ、自己紹介がまだでしたね。俺は『スズキ』です。『日本』と言う国から転生しました」
「『二ホン』か。聞かぬ国の名だな。儂は董・・・、董卓だ。『漢』の生まれだ」

 『スズキ』と自己紹介した男に対し、董卓は少し引っ掛かりながら自己紹介をした。

「『カン』って『前漢』とか『後漢』の『漢』ですか?」
「『漢』を知っておるのか。儂が生まれたのは『後漢』の方だ」
「『ゴカン』の『トウタク』さん・・・。もしかして、将軍として黄巾族と戦いませんでしたか?」

 董卓の自己紹介に対して思い当たる事があるのか、スズキと名乗る男はそう尋ねた。

「戦ったな。慣れない歩兵の指揮をさせられたわ」
「洛陽から長安への遷都を行いましたか?」
「やったな」
「『呂布』って者を部下にしませんでしたか?」
「なんだ、スズキは儂の事を知っておるのか」
「『トウタク』さんはあの『董卓』さんって事ですよね。すみません!色々失礼しました!」

 董卓に質問する度に青くなっていったスズキと名乗る男は、そう言って土下座した。
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