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「ふああー」
朝が来た。
取り敢えず、貞操は無事だ。
リリーの襲撃を警戒していたので眠りが浅く熟睡出来たとは言えないけど、それなりに眠れたので体の疲れは取れている。
一応、野宿ではなく宿泊してよかったと言えるだろう。
俺は身支度を整えると、扉の前のバリケードを撤去して食堂へと向かった。
「おはようございます」
食堂に入るとサーシャちゃんがテーブルを拭いていたので挨拶をする。
「あ、レイジお兄ちゃん。おはようございます」
サーシャちゃんは一旦手を止め笑顔で挨拶してくれた。
それにしても、『レイジお兄ちゃん』か。いい響きだ。
サーシャちゃんみたいな美少女に言われると凄く幸福感を感じる。
こんな子が妹だったらいいのに。
「おはようレイジ君。適当に座ってて。すぐに食事を用意するから」
ああ、さっきの幸福感が一瞬で吹き飛んだ。
リリーなんか出てこなくていいのに。
朝から厳ついオーガもどきの顔なんて見たくねえよ。
厨房から出てきたリリーにつくづくそう思う。
俺は入り口近くの椅子に腰掛け料理を待った。
「お待ちどおさまです」
「ありがとうサーシャちゃん」
食事はサーシャちゃんが運んで来てくれた。
メニューとしては昨日の夕食とほぼ同じ。パンと焼いた肉と付け合わせの温野菜にスープ。
ただ、使われている食材が違っているために別の料理になっている。
味は昨日の夕食と一緒で文句無く美味しい。
いや、昨日の夕食より美味しく感じるかな。サーシャちゃんが運んで来てくれたから。
この際だから作ってくれたのもサーシャちゃんだと思おう。
オーガもどきはただ温め直しているだけだ。
そんなことを思いながら食事をしていると、食堂に人が入ってきた。
「ふああー、おはよ。リリー、飯」
食堂に入ってきたのは癖のある青い髪をショートカットにした美女だった。
美女は眠たげにあくびをしながら俺の横を通り過ぎていく。
俺はきっとこの光景を忘れない。
何しろ、美女は上半身がノーブラタンクトップ、下半身が下着だけと言う破壊力抜群な出で立ちなのだから。
乳首の形だってくっきりしてたよ。
こんなの脳内フォルダに永久保存です!!!
そんなことを思っていると美女と目が合った。
「え、人いたの?・・・あ、うわああ」
美女は俺のことをまじまじと見た後、自分の格好を思い出したのか慌てて食堂を出ていった。
その時の視線が俺の下半身にも及んでいたけど、そうだよね。元気になるよね。
俺は今更ながら足を閉じて前屈みになった。
えーと、何と言うか、ごちそうさまでした。
「抜いてあげようか?」
「うわあああ」
俺はスプーンを持っていた右手の裏拳を耳に囁き掛けてくる者へと振り抜いた。
「もう、危ないわね。料理を落としたらどうするの」
声の主たるリリーはお盆に乗せたスープを一滴も溢すことなく裏拳を躱し、呆れたように告げてくる。
そして、持っていたお盆を俺の向かいの席に置くと厨房へと戻っていった。
はあー。マジでビビった。また襲われるかと思ったよ。
取り敢えず、襲われなかったのはよかったけど、ビックリし過ぎて折角のお宝映像が記憶から飛ぶところだった。
本当にあのオーガもどきは疫病神だ。俺はつくづくそう思った。
それにしても、奴は何で俺の向かいに食事を置いていったのだろう?
一仕事終えたら俺の向かいで食事をするつもりなのだろうか?正直、それは勘弁してほしい。
そんなことを考えていると先程食堂を出ていった青髪の美女が戻ってきた。
今度はしっかりと服を着込んでいるよ。上が長袖シャツで下が長ズボン。おまけにその上に革鎧まで着けて腰のベルトには剣まで下げている。完全武装の軽戦士って感じだ。
そんな彼女は俺の向かいの席に座ると口を開いた。
「おい、お前。さっき見たことは忘れろ。いいな」
「えーと・・・」
美女のお願いだが、それは無理と言うものです!あんなお宝映像忘れたくありません!!!
「もし他の奴に言いやがったらお前の股間の物をぶった斬ってケツの穴に突っ込むからな」
おふ。
美女の口からは想像もしていなかった暴言が・・・。
「はい。言いません」
俺も『他の人に言うな』という言葉には素直に頷いておく。
もとより他人に言うつもりはなかったし、大事なものを斬られて尻の穴に突っ込まれるのなんて嫌過ぎるから。
「そうか。話はそれだけだ」
美女はそう言うと、リリーが置いていった食事を食べだした。
どうやらリリーはこの展開を予想していたようだ。
「イリーナもこれに懲りたら下着でうろつくのはやめなさい。前から言っていたでしょ。女は慎み深くないとダメよって。見られて恥ずかしい格好でうろつくのがいけないのよ」
「仕方ねえだろ。この宿に男が泊まるなんて思わねえんだから」
「はあー、男がいる、いないの話じゃないんだけど・・・」
厨房から声を掛けてくるリリーもイリーナと呼ばれた美女の返答には呆れていた。
言動から察するに、しょっちゅう下着姿でうろついているようだし、これは今後もさっきのような姿が見られるのかも。ちょっと期待してしまう。
あ、想像したらまた元気になってる。前屈み前屈みっと。
俺は出来るだけ悟られないように食事を続けた。
「なあ、お前は何でこの宿に泊まってんだ?」
「他の宿に泊まるのが無理だったので」
「リリーに襲われなかったのか?」
「襲われましたよ。サーシャちゃんが助けてくれなければどうなっていたことか・・・」
俺は遠い目をしてそう答えた。
「悪い。嫌なことを思い出させちまったな」
「いえ」
ばつが悪そうにするイリーナさんに答えてからスープを口にする。
その後、少々気まずいながらも色々と話をした。
現在、白百合亭を利用しているのが女性の冒険者だけでほぼ女子寮化していることや、イリーナさんの個人情報などは俺的にかなりの収穫だと思う。
ちなみに、他に宿を利用している女性冒険者は二人いて、護衛の依頼で数日留守にしているようだ。
あと、リリーは元三等級の冒険者らしい。道理で攻撃が簡単に躱される訳だよ。奴にはますます注意しないとな。
俺はリリーへの警戒を改めて強化することを肝に銘じながら食事を終えた。
食事を終えた俺は冒険者ギルドにやってきた。
白百合亭から他の宿に移るにしろ、魔法や技能を教えてもらうにしろ、お金を稼がないことには話にならない。
「お、昨日の兄ちゃんじゃねえか。どうだ?あっちの方は無事か?」
冒険者ギルドに入った俺に声を掛けてきたのは昨日絡んできた強面の冒険者の三人だった。
酒瓶も持っていないし、酒臭くもない。ギルドから出ていこうとしていたことから、冒険者としての仕事はちゃんとしているようだ。
「はい。何とか。娘さんが助けてくれたので」
リリーに襲われたことを思い出し、目の前の三人に対して怒りが湧いてくる。
まあ、所持金の点からも結局白百合亭に行かないといけなかったのは変わりないのだが、リリーに襲われるという情報が前もって得られなかった点については有罪だろう。
「ああ、あの子か。親戚の子を養子にしたんだよな?」
「いいや。あれ実子だぞ」
「「え、マジで!!!」」
サーシャちゃんがリリーの実子という言葉に、俺と三人組の一人が驚愕した。
「何だ、アルドは知らなかったのか。結構有名な話だぞ」
「知らなかったよ。って言うか信じられる訳ねえだろ!」
「うんうん」
俺もその点は激しく同意する。
「まあ、無理もねえが実子なのは間違いねえ」
「あのリリーが四十過ぎて子供を産んだって騒ぎになったものさ。アルドはその時まだこの街にいなかったから知らなくても仕方ないか」
「いたとしても信じなかっただろうな。あの子がリリーの実子ってのは。他の家の子と取り替えられたんじゃねえのか?」
「その可能性は当時も言われてたけどよ。この近隣であんな真っ赤な髪の人間はいないんだわ」
「そうなのか。じゃあ、旦那が美形だったってことか?」
「そうだ」
「超が付くな」
サーシャちゃんは父親似か。リリーの実子だとそうなるよな。リリーとは髪の毛の色しか似てないし。
「超が付く程の美形ね。そんな奴がなんであんな化け物なんか選んだんだ?」
「その点については謎だ。奴はイケメンな上に性格も良かったから女なんて選り取り見取りだったのにな」
「呪いの魔道具を使われたとか、強力な惚れ薬を使われたとか、色々言われていたが真相は不明だな」
うわー、そんな道具使われたくねえー。
俺なら多分大丈夫だと思うけど、万が一を考えると恐ろし過ぎる道具だよ。
「もう亡くなられているんですよね」
「ああ。五年くらい前だったかな?商人を護衛している時に魔物の群れに襲われてな。まだ二十四だったってのにな」
「流石にあの時は散々『イケメン滅びろ』とか言ってた連中もしんみりしてたな」
「そうですか・・・」
確かに、『イケメン滅びろ』とか思っていても、実際に亡くなられると『ざまあみろ』とはなかなかならないだろう。
冒険者なら自分たちもいつ同じ目に遭うとも限らないし。
「まあ、この世界にいりゃ嫌でも聞く話さ」
「そうそう」
「もうやめようぜ。その手の話は。これから仕事に行くのに縁起でもねえ」
「だな。考えるなら楽しいことを考えないと」
「仕事終わりの一杯とかな」
「いいねえ。あ、そうだ。なあ、兄ちゃん、白百合亭で飯食ったか?」
「はい。食べましたけど」
「どうだった?美味かったか?」
「ええ、美味しかったですよ」
こいつら白百合亭の食事に興味があるのか?
「そうか。で、兄ちゃんはリリーに襲われたんだよな?」
「はい。襲われましたけど」
ああ、襲われたさ。
あんたたちの思惑通りにな。後で笑い話にでもするんだろ?
それにしても、食事の味を聞いてきた後に確認してくることか?
「それは寝静まった時か?」
「いいえ。食事を終えたところに覆い被さってきましたけど」
「マジか。噂通り男があの宿に行っただけでか」
「寝静まったところじゃなくて食後じゃあ、飯食いに行くのもやめた方がいいな」
「だな。飯を食いに行ってあんな化け物に食われたんじゃ割に合わねえ」
何だ?俺への嫌がらせで白百合亭に行かせたのではないのか?
「白百合亭に食事に行くつもりだったのですか?」
「ああ、『白百合亭は飯が美味い』って女たちが噂してたから気にはなってたんだが、それ以上に『白百合亭に男が行くと襲われる』って噂があってよ」
「リリーはあの容姿だろ。好き好んで噂を確かめに行く男なんている訳がねえ」
「行って襲われた奴もいたのかもしれねえが、そんなことは口に出さないだろうしな。噂は噂のままだった訳だ」
なるほど。ようするに俺でその噂の検証を行ったと。
「そうですか。じゃあ、その噂の検証のために俺を生贄にしたってことですね」
ああ、この目の前の奴らはどうしたらいいだろう?
こいつらが何等級の冒険者か知らないが、登録したての俺より格上の冒険者には違いない。
そんな奴らに喧嘩を売ると色々まずいこともあるだろうけど、奴らのやったことは到底許せるものではないのだ。
俺は湧き上がってくる怒りを隠そうともせずに睨みつけた。
「えーと、あれだ、あの時俺らはしこたま飲んでてよ、軽い気持ちだったんだ・・・」
「誰か噂を確かめに行ってくれる奴はいないかなって思ってた時に宿を探してるあんたを見掛けたからよ・・・」
「俺たちもマジで襲われるとは思ってなくてだな・・・」
「・・・」
「「「すまん。俺たちが悪かった。許してくれ」」」
強面の冒険者たちは頭を下げて謝ってくる。
まさか登録したての新人冒険者に公衆の面前で謝ってくるとは思わなかった。
ひょっとしたら根はいい人たちなのかもしれない。
それにしても、こうすんなりと謝られると責め立てるのは難しい。俺の方が悪者になってしまう。
取り敢えず、今回のことは貸し一つとして後日何らかの形で返してもらうことにしてその場を収めた。
その後、多少ざわつく周囲を無視しながら依頼の張り出されたボードを確認する。
やはり登録したての新人冒険者が受けられる依頼は少ない。
比較的弱い魔物の討伐依頼や、薬草類の採取依頼など、常設のものだけだ。これらの常設依頼は依頼書を剥がして受付で手続きをする必要は無い。討伐依頼なら討伐の証明となる魔物の部位、採取依頼なら現物を持って行けば依頼を達成したとみなされるから。
俺は常設依頼の内容を確認してから受付に向かった。
だって採取依頼が出ている薬草類がどんなものなのか全く分からないんだもん。
神様もこの世界の大まかな生活習慣なんかは教えてくれたけど、それ以外は教えてくれなかったし。こっちの世界で自分で調べていきなさいって。
はあ、『鑑定』スキル欲しかった。
まあ、そんな訳で受付で話を聞きましたよ。そうしたら買取担当の人が教えてくれました。査定額アップのポイントなんかも。
おかげでかなり時間を使ってしまった。
でも、これで準備は整った。さあ、冒険者稼業を始めよう。
朝が来た。
取り敢えず、貞操は無事だ。
リリーの襲撃を警戒していたので眠りが浅く熟睡出来たとは言えないけど、それなりに眠れたので体の疲れは取れている。
一応、野宿ではなく宿泊してよかったと言えるだろう。
俺は身支度を整えると、扉の前のバリケードを撤去して食堂へと向かった。
「おはようございます」
食堂に入るとサーシャちゃんがテーブルを拭いていたので挨拶をする。
「あ、レイジお兄ちゃん。おはようございます」
サーシャちゃんは一旦手を止め笑顔で挨拶してくれた。
それにしても、『レイジお兄ちゃん』か。いい響きだ。
サーシャちゃんみたいな美少女に言われると凄く幸福感を感じる。
こんな子が妹だったらいいのに。
「おはようレイジ君。適当に座ってて。すぐに食事を用意するから」
ああ、さっきの幸福感が一瞬で吹き飛んだ。
リリーなんか出てこなくていいのに。
朝から厳ついオーガもどきの顔なんて見たくねえよ。
厨房から出てきたリリーにつくづくそう思う。
俺は入り口近くの椅子に腰掛け料理を待った。
「お待ちどおさまです」
「ありがとうサーシャちゃん」
食事はサーシャちゃんが運んで来てくれた。
メニューとしては昨日の夕食とほぼ同じ。パンと焼いた肉と付け合わせの温野菜にスープ。
ただ、使われている食材が違っているために別の料理になっている。
味は昨日の夕食と一緒で文句無く美味しい。
いや、昨日の夕食より美味しく感じるかな。サーシャちゃんが運んで来てくれたから。
この際だから作ってくれたのもサーシャちゃんだと思おう。
オーガもどきはただ温め直しているだけだ。
そんなことを思いながら食事をしていると、食堂に人が入ってきた。
「ふああー、おはよ。リリー、飯」
食堂に入ってきたのは癖のある青い髪をショートカットにした美女だった。
美女は眠たげにあくびをしながら俺の横を通り過ぎていく。
俺はきっとこの光景を忘れない。
何しろ、美女は上半身がノーブラタンクトップ、下半身が下着だけと言う破壊力抜群な出で立ちなのだから。
乳首の形だってくっきりしてたよ。
こんなの脳内フォルダに永久保存です!!!
そんなことを思っていると美女と目が合った。
「え、人いたの?・・・あ、うわああ」
美女は俺のことをまじまじと見た後、自分の格好を思い出したのか慌てて食堂を出ていった。
その時の視線が俺の下半身にも及んでいたけど、そうだよね。元気になるよね。
俺は今更ながら足を閉じて前屈みになった。
えーと、何と言うか、ごちそうさまでした。
「抜いてあげようか?」
「うわあああ」
俺はスプーンを持っていた右手の裏拳を耳に囁き掛けてくる者へと振り抜いた。
「もう、危ないわね。料理を落としたらどうするの」
声の主たるリリーはお盆に乗せたスープを一滴も溢すことなく裏拳を躱し、呆れたように告げてくる。
そして、持っていたお盆を俺の向かいの席に置くと厨房へと戻っていった。
はあー。マジでビビった。また襲われるかと思ったよ。
取り敢えず、襲われなかったのはよかったけど、ビックリし過ぎて折角のお宝映像が記憶から飛ぶところだった。
本当にあのオーガもどきは疫病神だ。俺はつくづくそう思った。
それにしても、奴は何で俺の向かいに食事を置いていったのだろう?
一仕事終えたら俺の向かいで食事をするつもりなのだろうか?正直、それは勘弁してほしい。
そんなことを考えていると先程食堂を出ていった青髪の美女が戻ってきた。
今度はしっかりと服を着込んでいるよ。上が長袖シャツで下が長ズボン。おまけにその上に革鎧まで着けて腰のベルトには剣まで下げている。完全武装の軽戦士って感じだ。
そんな彼女は俺の向かいの席に座ると口を開いた。
「おい、お前。さっき見たことは忘れろ。いいな」
「えーと・・・」
美女のお願いだが、それは無理と言うものです!あんなお宝映像忘れたくありません!!!
「もし他の奴に言いやがったらお前の股間の物をぶった斬ってケツの穴に突っ込むからな」
おふ。
美女の口からは想像もしていなかった暴言が・・・。
「はい。言いません」
俺も『他の人に言うな』という言葉には素直に頷いておく。
もとより他人に言うつもりはなかったし、大事なものを斬られて尻の穴に突っ込まれるのなんて嫌過ぎるから。
「そうか。話はそれだけだ」
美女はそう言うと、リリーが置いていった食事を食べだした。
どうやらリリーはこの展開を予想していたようだ。
「イリーナもこれに懲りたら下着でうろつくのはやめなさい。前から言っていたでしょ。女は慎み深くないとダメよって。見られて恥ずかしい格好でうろつくのがいけないのよ」
「仕方ねえだろ。この宿に男が泊まるなんて思わねえんだから」
「はあー、男がいる、いないの話じゃないんだけど・・・」
厨房から声を掛けてくるリリーもイリーナと呼ばれた美女の返答には呆れていた。
言動から察するに、しょっちゅう下着姿でうろついているようだし、これは今後もさっきのような姿が見られるのかも。ちょっと期待してしまう。
あ、想像したらまた元気になってる。前屈み前屈みっと。
俺は出来るだけ悟られないように食事を続けた。
「なあ、お前は何でこの宿に泊まってんだ?」
「他の宿に泊まるのが無理だったので」
「リリーに襲われなかったのか?」
「襲われましたよ。サーシャちゃんが助けてくれなければどうなっていたことか・・・」
俺は遠い目をしてそう答えた。
「悪い。嫌なことを思い出させちまったな」
「いえ」
ばつが悪そうにするイリーナさんに答えてからスープを口にする。
その後、少々気まずいながらも色々と話をした。
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ちなみに、他に宿を利用している女性冒険者は二人いて、護衛の依頼で数日留守にしているようだ。
あと、リリーは元三等級の冒険者らしい。道理で攻撃が簡単に躱される訳だよ。奴にはますます注意しないとな。
俺はリリーへの警戒を改めて強化することを肝に銘じながら食事を終えた。
食事を終えた俺は冒険者ギルドにやってきた。
白百合亭から他の宿に移るにしろ、魔法や技能を教えてもらうにしろ、お金を稼がないことには話にならない。
「お、昨日の兄ちゃんじゃねえか。どうだ?あっちの方は無事か?」
冒険者ギルドに入った俺に声を掛けてきたのは昨日絡んできた強面の冒険者の三人だった。
酒瓶も持っていないし、酒臭くもない。ギルドから出ていこうとしていたことから、冒険者としての仕事はちゃんとしているようだ。
「はい。何とか。娘さんが助けてくれたので」
リリーに襲われたことを思い出し、目の前の三人に対して怒りが湧いてくる。
まあ、所持金の点からも結局白百合亭に行かないといけなかったのは変わりないのだが、リリーに襲われるという情報が前もって得られなかった点については有罪だろう。
「ああ、あの子か。親戚の子を養子にしたんだよな?」
「いいや。あれ実子だぞ」
「「え、マジで!!!」」
サーシャちゃんがリリーの実子という言葉に、俺と三人組の一人が驚愕した。
「何だ、アルドは知らなかったのか。結構有名な話だぞ」
「知らなかったよ。って言うか信じられる訳ねえだろ!」
「うんうん」
俺もその点は激しく同意する。
「まあ、無理もねえが実子なのは間違いねえ」
「あのリリーが四十過ぎて子供を産んだって騒ぎになったものさ。アルドはその時まだこの街にいなかったから知らなくても仕方ないか」
「いたとしても信じなかっただろうな。あの子がリリーの実子ってのは。他の家の子と取り替えられたんじゃねえのか?」
「その可能性は当時も言われてたけどよ。この近隣であんな真っ赤な髪の人間はいないんだわ」
「そうなのか。じゃあ、旦那が美形だったってことか?」
「そうだ」
「超が付くな」
サーシャちゃんは父親似か。リリーの実子だとそうなるよな。リリーとは髪の毛の色しか似てないし。
「超が付く程の美形ね。そんな奴がなんであんな化け物なんか選んだんだ?」
「その点については謎だ。奴はイケメンな上に性格も良かったから女なんて選り取り見取りだったのにな」
「呪いの魔道具を使われたとか、強力な惚れ薬を使われたとか、色々言われていたが真相は不明だな」
うわー、そんな道具使われたくねえー。
俺なら多分大丈夫だと思うけど、万が一を考えると恐ろし過ぎる道具だよ。
「もう亡くなられているんですよね」
「ああ。五年くらい前だったかな?商人を護衛している時に魔物の群れに襲われてな。まだ二十四だったってのにな」
「流石にあの時は散々『イケメン滅びろ』とか言ってた連中もしんみりしてたな」
「そうですか・・・」
確かに、『イケメン滅びろ』とか思っていても、実際に亡くなられると『ざまあみろ』とはなかなかならないだろう。
冒険者なら自分たちもいつ同じ目に遭うとも限らないし。
「まあ、この世界にいりゃ嫌でも聞く話さ」
「そうそう」
「もうやめようぜ。その手の話は。これから仕事に行くのに縁起でもねえ」
「だな。考えるなら楽しいことを考えないと」
「仕事終わりの一杯とかな」
「いいねえ。あ、そうだ。なあ、兄ちゃん、白百合亭で飯食ったか?」
「はい。食べましたけど」
「どうだった?美味かったか?」
「ええ、美味しかったですよ」
こいつら白百合亭の食事に興味があるのか?
「そうか。で、兄ちゃんはリリーに襲われたんだよな?」
「はい。襲われましたけど」
ああ、襲われたさ。
あんたたちの思惑通りにな。後で笑い話にでもするんだろ?
それにしても、食事の味を聞いてきた後に確認してくることか?
「それは寝静まった時か?」
「いいえ。食事を終えたところに覆い被さってきましたけど」
「マジか。噂通り男があの宿に行っただけでか」
「寝静まったところじゃなくて食後じゃあ、飯食いに行くのもやめた方がいいな」
「だな。飯を食いに行ってあんな化け物に食われたんじゃ割に合わねえ」
何だ?俺への嫌がらせで白百合亭に行かせたのではないのか?
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「ああ、『白百合亭は飯が美味い』って女たちが噂してたから気にはなってたんだが、それ以上に『白百合亭に男が行くと襲われる』って噂があってよ」
「リリーはあの容姿だろ。好き好んで噂を確かめに行く男なんている訳がねえ」
「行って襲われた奴もいたのかもしれねえが、そんなことは口に出さないだろうしな。噂は噂のままだった訳だ」
なるほど。ようするに俺でその噂の検証を行ったと。
「そうですか。じゃあ、その噂の検証のために俺を生贄にしたってことですね」
ああ、この目の前の奴らはどうしたらいいだろう?
こいつらが何等級の冒険者か知らないが、登録したての俺より格上の冒険者には違いない。
そんな奴らに喧嘩を売ると色々まずいこともあるだろうけど、奴らのやったことは到底許せるものではないのだ。
俺は湧き上がってくる怒りを隠そうともせずに睨みつけた。
「えーと、あれだ、あの時俺らはしこたま飲んでてよ、軽い気持ちだったんだ・・・」
「誰か噂を確かめに行ってくれる奴はいないかなって思ってた時に宿を探してるあんたを見掛けたからよ・・・」
「俺たちもマジで襲われるとは思ってなくてだな・・・」
「・・・」
「「「すまん。俺たちが悪かった。許してくれ」」」
強面の冒険者たちは頭を下げて謝ってくる。
まさか登録したての新人冒険者に公衆の面前で謝ってくるとは思わなかった。
ひょっとしたら根はいい人たちなのかもしれない。
それにしても、こうすんなりと謝られると責め立てるのは難しい。俺の方が悪者になってしまう。
取り敢えず、今回のことは貸し一つとして後日何らかの形で返してもらうことにしてその場を収めた。
その後、多少ざわつく周囲を無視しながら依頼の張り出されたボードを確認する。
やはり登録したての新人冒険者が受けられる依頼は少ない。
比較的弱い魔物の討伐依頼や、薬草類の採取依頼など、常設のものだけだ。これらの常設依頼は依頼書を剥がして受付で手続きをする必要は無い。討伐依頼なら討伐の証明となる魔物の部位、採取依頼なら現物を持って行けば依頼を達成したとみなされるから。
俺は常設依頼の内容を確認してから受付に向かった。
だって採取依頼が出ている薬草類がどんなものなのか全く分からないんだもん。
神様もこの世界の大まかな生活習慣なんかは教えてくれたけど、それ以外は教えてくれなかったし。こっちの世界で自分で調べていきなさいって。
はあ、『鑑定』スキル欲しかった。
まあ、そんな訳で受付で話を聞きましたよ。そうしたら買取担当の人が教えてくれました。査定額アップのポイントなんかも。
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※第16話 あつまれ聖獣の森 6 が抜けていましたので2025/07/30に追加しました。
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