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街を出た俺は、多くの冒険者が狩りに向かう森にではなく、草原へとやって来ていた。
ここは森よりも獲物が少なく、また距離的にも遠いため余程の事情が無ければ来る者などいない。
俺の目的を実行するには非常に都合が良かった。
「取り敢えず、あれを試しておかないとな」
俺の目的は『不幸解放』という言葉を言ってみること。
これによってどんな不幸が俺の身に訪れるのか知っておきたかった。
だから、誰も巻き込まないように人気の無いこの草原へとやって来たのだ。
俺は一通り周囲を見渡して確認した後、その言葉を口にした。
「不幸解放」
俺はその言葉を唱えると同時に身構える。
俺に訪れる不幸が何なのか。分からないだけにかなりの緊張感を強いられる。
「痛」
やって来たのは痛みだった。後頭部に何かが当たって感じた僅かな痛み。感覚としては玩具のエアガンで撃たれたみたいな感じだな。
何が当たったのか確かめるため足元を見回していると、先程まで無かった矢が落ちているのを見付けた。
「これが当たったのか?」
俺は落ちていた矢を拾い上げて確認してみる。それは金属製の鋭い鏃が付けられたものだった。所々錆が浮いているけど劣化まではしていない。普通の人間なら頭に突き刺さって死んでいたはずだ。
それがこの体では玩具のエアガンで撃たれた程度。確かにこの体の強度はチートだわ。
それはそうと、この矢を射た奴が何処かにいるだろう。
俺は周囲を見渡してそいつを探る。
その時、再び矢の直撃を食らった。
「ぬああ、目が、目があああ」
今度は当たった場所が悪かった。玩具のエアガンみたいなものではあっても眼球直撃はかなり痛い。
俺は矢が当たって涙目になった右目を右手で押さえ、その場にしゃがんで盾で身を守った。
今のはちょっと不用心過ぎたと思う。矢で射られているのに身を隠さずに周囲を見渡していたのだから。
それにしても、矢を射かけてきたのは何者なんだ?
今度は矢の飛んできた方角をはっきりと把握しているので無事な左目をそちらに向けた。
緑の草原を身を低くして進んでくる緑の生物。多分、ファンタジー世界の定番魔物ゴブリンで合っていると思う。
数は少なくとも五体以上。その内一体は確実に弓を持っている。剣を持っている奴も見えるし、盾を持っている者も。これは確実に役割分担が出来ているな。
数もいることだし、初めての戦闘の相手としては避けた方がいいのかもしれない。
だが、この右目に受けた矢のお返しはしておかないと気が済まないのですよ。まあ、もうほとんど回復しているけどさ。
俺は右目に当てていた右手を放し、腰のベルトに装着されているメイスを取って握りしめる。
それから一度大きく深呼吸をした。
先程射られた矢のことを考えると致命傷を負うことはまず無い。だからといって初めての戦闘に緊張しない訳ではないのだ。
それから回復してきた右目を何度か瞬きさせる。これで僅かに滲んでいた視界も回復した。
よし。これで問題無く戦える。
そうして戦闘準備に時間を使ったので、ゴブリンたちには完全に取り囲まれてしまっていた。
まあ、逃げるつもりは無いし、多少不利な状況になりはしたが、これくらいどうにか出来ないとこの先やっていけないだろう。
俺は立ち上がると、取り囲んでいるゴブリンの一体に向かってダッシュした。
その瞬間、弓を構えていたゴブリンから矢が放たれる。俺はそれを左手の盾で叩き落として更に接近する。二度も直撃を食らっているのだ。弓持ちのゴブリンからは目を放してはいないさ。
「食らえ!」
最初の目標にしたゴブリンは目の前。俺は右手のメイスを力一杯振り抜く。ゴブリンは躱すことも、手に持った棍棒でメイスを逸らすことも出来なかった。
メイスはゴブリンの頭部に直撃したのである。
ボグシャッ、ベチャ。
血、目玉、脳味噌、皮、骨、あらゆるものをまき散らしながらゴブリンの頭部は爆ぜた。
そんな風になるとは一切想像していなかった俺は、それらをしっかりと浴びる破目になったのである。
「うぷっ」
そのグロ過ぎる状況に強烈な吐き気がこみ上げてくる。
俺はそれを無理矢理飲み込み、次の標的へと向かった。とにかく今襲ってきているゴブリン共は倒しておかないと。吐くのはその後だ。
俺はすぐさま一番近い個体へとダッシュする。
そいつは石斧を手にしたゴブリンで、そいつにもメイスを振るうつもりだったのだが、先程の光景が躊躇させた。
グロくない倒し方がないか考えてしまったのである。
そうすると必然的に体の動きが鈍くなってくる。気付けばすっかり他のゴブリンたちにも接近されていた。
「痛いなあ!」
背後から剣で斬り付けてきたゴブリンを振り向きざまに爪先で蹴り飛ばす。
蹴られたゴブリンは十メートルくらい飛んで動かなくなった。まあ、死んだよな。爪先が骨をぶち折ってめり込んだ感触あったし。
あ、剣で斬られた時の感覚は、プラスチックの定規で切り付けられたような感じだった。まあ、血も出てないし、体へのダメージはほとんど無い。
ただ、ズボンの太腿の部分が左足の付け根というか、尻の部分からばっさり切られた。物凄くすーすーする。
くそっ。これは新しいズボンを買わないとダメだな。財布は大ダメージだよ!
それから俺は躊躇いを捨てた。白百合亭を早く出ていくためにもこれ以上の損害は許容出来ないからな。
グロい。グロい。グロい。
俺はゴブリン共が振るう武器や飛んでくる矢を盾で防いだり躱したりしつつ、メイスを力の限り振り回して容赦無くゴブリンを撲殺していく。その度に吐き気が増す死体が出来上がり、返り血などが増えていった。ゴブリンって血も臭いね。不快感が半端じゃない。
そうして、近付いてきたゴブリン共を死体に変え、弓持ちゴブリンが逃走したところで俺の初めての戦闘は終わりを迎えた。
う、もう限界。ゲロゲロゲロ。
どうにか戦闘が終わって一通り吐き、浴びてしまった肉片などを払い落としたところで仕事に取り掛かる。
ゴブリンの討伐証明部位と魔石の回収だ。それと、ゴブリンの装備品の中で金になる物、剣などの金属製品も回収しておく。
取り敢えず、一番楽な装備品の回収から始めよう。回収すべき物は剣が一本に鏃が二つだけ。金属製品はそれだけしかなかったのだ。盾は補強の金具も釘も使われていない木製だし、射られた矢の鏃も大半が石で出来ていたから。
さて、これからが本番の討伐証明部位と魔石の回収だ。
ゴブリンの討伐証明部位は鼻。これを一つ持って行くと銅貨五枚になる。魔石は一つで銅貨一枚。合わせると銅貨六枚。日本円で二千四百円にしかならないのだからゴブリンの命って安いね。
まあ、その命の値段としては安い代金を得るにはかなりの覚悟が必要な訳ですよ。
『死体から鼻を切り取る』
『解剖して魔石を心臓付近から取り出す』
どちらも想像するだけで吐きそう。
だけど、これから冒険者としてやっていくためには慣れないとダメなことだから。
だからやりました。倒したゴブリンの数は六体だから六回ね。
ええ、当然、途中で何度か吐きましたよ。唾液と胃酸くらいしか出なかったけど。
そうしてかなりの時間を使いながら何とかゴブリンの鼻と魔石を回収した。
「うーん、どうやって持って行こうか」
俺は切り取ったゴブリンの鼻をどう運ぶか悩んだ。
素手で持つのは論外。
街を出る時に買った採取物を入れる革袋にも入れたくない。銅貨五枚したちょっといいやつだし。魔石は洗った後これに入れるつもりだ。
倒したゴブリンの持ち物にもちょうどいい袋のような物は無い。
ゴブリンの腰に巻かれた布は風呂敷のように使えるだろうけど、あれはゴブリン共の下着だ。あれに触ること自体がなんか嫌だ。解体に使ったナイフや魔石に付いてる血は擦り付けたけどさ。勿論、布は手で触らずに。
取り敢えず、ゴブリンが使っていた木の盾をお盆代わりにして持って行くか。かさばるし、手が塞がるのが難点だけど。
そうして俺はゴブリン共の血を洗い流すために近くの小川に向かった。
道中、大き目の葉っぱが生えていたのでちぎって木の盾の上に被せる。これでゴブリンの鼻なんて見なくてよくなった。
小川に着いたところで早速手を洗う。もうほとんど乾いていたのでなかなか取れない。暫くこすってようやく落とせた。その後、服を脱いでから顔と頭もしっかりと洗っておく。これで今までの不快感はかなり軽減した。でも、水で洗っただけなので、街に戻ったら風呂屋で石鹸使って洗いなおさないと。
解体に使ったナイフや魔石、メイスや盾の金属部分に付いた血も問題無く落ちる。
ただ、メイスの持ち手に巻かれた革の部分、盾の木の部分、革鎧や服などについては取れる気配がなかった。
「はあー、取れない。上の服も買わないとダメだな」
俺はゴブリンの血を落とすことを諦めた。
服は上下新しい物を買って宿で過ごす時などに着ることにしよう。今洗った服は仕事着として使えばいい。切られたズボンも安く修繕してくれるなら新しいズボンを余分に買う必要はないんだけど、こればかりは聞いてみないと分からないな。
俺は洗っていた服を絞って身に着ける。湿ってはいるけどこんなところで服が乾くのを待つつもりはない。さっさと街に帰るのだ。
正直、精神的にかなり限界が近いし、尻からスリットの入ったズボンで動き回りたくはない。
俺は他の装備品を身に着け、荷物をまとめて街へと歩きだした。ズボンの切られた部分はベルトに持ち手を通した盾で隠しながら。お陰で凄く歩き難かった。
街へと戻った俺はすぐに冒険者ギルドへと向かう。ゴブリンの鼻なんていつまでも持っていたくないし。
そうしてギルドに着いた俺は受付で用件を伝える。
馴れているのか、ゴブリンの鼻を見ても嫌な顔一つせずにテキパキ処理してくれた。
その時に服の中に入れっぱなしのタグにタブレット端末みたいなものをかざして処理していたのには驚いた。物凄くハイテク。
魔石と金属製品の買取もしてもらい、ゴブリン討伐の報酬と合計で銀貨一枚、銅貨二十一枚、四分銅貨二枚、の収入になった。日本円で一万八千六百円。日当としてはかなりの高収入だと思うけど、普通の人は最初に射られた矢で死んでいる。冒険者はやはりハイリスクハイリターンなのだ。
収入を手にした俺はすぐさま服屋に向かう。いつまでもすーすーするズボンなんて穿いてられない。他人に見られるのも恥ずかしいし。
そういう訳で、服屋に着くとすぐに古着の上下を買い揃えてその場で着替える。ズボンの修繕も引き受けてくれるようなのでそれも頼んだ。
あと、下着も一着新しいのを買った。ズボンを穿き替える時に下着もかなり大きく切れているのに気が付いたから。
こちらは修繕は頼んでいない。脱ぎたての下着を他人に渡すなんて変態的行為をするつもりはないからね。
他にはサイズ違いの安い布袋を三枚、手拭いを二枚買って買い物は終了だ。
幾らかサービスしてもらって支払いの合計金額は銀貨一枚だった。
服屋の後は風呂屋だ。
この風呂屋だけど、期待していたのとは違っていた。体を洗う場所の併設されたサウナって感じだったのだ。当然、湯船なんて無い。水風呂はあったけどさ。
まあ、さっぱりはしたよ。石鹸を使ってしっかり洗ったからね。財布の中身もさっぱりしたけど。
風呂屋の利用料が銅貨五枚。石鹸一つで銅貨十枚。合計で銅貨十五枚。
今日の収入の残りは銅貨六枚と四分銅貨二枚。
はあー、出費が厳しい。
ここは森よりも獲物が少なく、また距離的にも遠いため余程の事情が無ければ来る者などいない。
俺の目的を実行するには非常に都合が良かった。
「取り敢えず、あれを試しておかないとな」
俺の目的は『不幸解放』という言葉を言ってみること。
これによってどんな不幸が俺の身に訪れるのか知っておきたかった。
だから、誰も巻き込まないように人気の無いこの草原へとやって来たのだ。
俺は一通り周囲を見渡して確認した後、その言葉を口にした。
「不幸解放」
俺はその言葉を唱えると同時に身構える。
俺に訪れる不幸が何なのか。分からないだけにかなりの緊張感を強いられる。
「痛」
やって来たのは痛みだった。後頭部に何かが当たって感じた僅かな痛み。感覚としては玩具のエアガンで撃たれたみたいな感じだな。
何が当たったのか確かめるため足元を見回していると、先程まで無かった矢が落ちているのを見付けた。
「これが当たったのか?」
俺は落ちていた矢を拾い上げて確認してみる。それは金属製の鋭い鏃が付けられたものだった。所々錆が浮いているけど劣化まではしていない。普通の人間なら頭に突き刺さって死んでいたはずだ。
それがこの体では玩具のエアガンで撃たれた程度。確かにこの体の強度はチートだわ。
それはそうと、この矢を射た奴が何処かにいるだろう。
俺は周囲を見渡してそいつを探る。
その時、再び矢の直撃を食らった。
「ぬああ、目が、目があああ」
今度は当たった場所が悪かった。玩具のエアガンみたいなものではあっても眼球直撃はかなり痛い。
俺は矢が当たって涙目になった右目を右手で押さえ、その場にしゃがんで盾で身を守った。
今のはちょっと不用心過ぎたと思う。矢で射られているのに身を隠さずに周囲を見渡していたのだから。
それにしても、矢を射かけてきたのは何者なんだ?
今度は矢の飛んできた方角をはっきりと把握しているので無事な左目をそちらに向けた。
緑の草原を身を低くして進んでくる緑の生物。多分、ファンタジー世界の定番魔物ゴブリンで合っていると思う。
数は少なくとも五体以上。その内一体は確実に弓を持っている。剣を持っている奴も見えるし、盾を持っている者も。これは確実に役割分担が出来ているな。
数もいることだし、初めての戦闘の相手としては避けた方がいいのかもしれない。
だが、この右目に受けた矢のお返しはしておかないと気が済まないのですよ。まあ、もうほとんど回復しているけどさ。
俺は右目に当てていた右手を放し、腰のベルトに装着されているメイスを取って握りしめる。
それから一度大きく深呼吸をした。
先程射られた矢のことを考えると致命傷を負うことはまず無い。だからといって初めての戦闘に緊張しない訳ではないのだ。
それから回復してきた右目を何度か瞬きさせる。これで僅かに滲んでいた視界も回復した。
よし。これで問題無く戦える。
そうして戦闘準備に時間を使ったので、ゴブリンたちには完全に取り囲まれてしまっていた。
まあ、逃げるつもりは無いし、多少不利な状況になりはしたが、これくらいどうにか出来ないとこの先やっていけないだろう。
俺は立ち上がると、取り囲んでいるゴブリンの一体に向かってダッシュした。
その瞬間、弓を構えていたゴブリンから矢が放たれる。俺はそれを左手の盾で叩き落として更に接近する。二度も直撃を食らっているのだ。弓持ちのゴブリンからは目を放してはいないさ。
「食らえ!」
最初の目標にしたゴブリンは目の前。俺は右手のメイスを力一杯振り抜く。ゴブリンは躱すことも、手に持った棍棒でメイスを逸らすことも出来なかった。
メイスはゴブリンの頭部に直撃したのである。
ボグシャッ、ベチャ。
血、目玉、脳味噌、皮、骨、あらゆるものをまき散らしながらゴブリンの頭部は爆ぜた。
そんな風になるとは一切想像していなかった俺は、それらをしっかりと浴びる破目になったのである。
「うぷっ」
そのグロ過ぎる状況に強烈な吐き気がこみ上げてくる。
俺はそれを無理矢理飲み込み、次の標的へと向かった。とにかく今襲ってきているゴブリン共は倒しておかないと。吐くのはその後だ。
俺はすぐさま一番近い個体へとダッシュする。
そいつは石斧を手にしたゴブリンで、そいつにもメイスを振るうつもりだったのだが、先程の光景が躊躇させた。
グロくない倒し方がないか考えてしまったのである。
そうすると必然的に体の動きが鈍くなってくる。気付けばすっかり他のゴブリンたちにも接近されていた。
「痛いなあ!」
背後から剣で斬り付けてきたゴブリンを振り向きざまに爪先で蹴り飛ばす。
蹴られたゴブリンは十メートルくらい飛んで動かなくなった。まあ、死んだよな。爪先が骨をぶち折ってめり込んだ感触あったし。
あ、剣で斬られた時の感覚は、プラスチックの定規で切り付けられたような感じだった。まあ、血も出てないし、体へのダメージはほとんど無い。
ただ、ズボンの太腿の部分が左足の付け根というか、尻の部分からばっさり切られた。物凄くすーすーする。
くそっ。これは新しいズボンを買わないとダメだな。財布は大ダメージだよ!
それから俺は躊躇いを捨てた。白百合亭を早く出ていくためにもこれ以上の損害は許容出来ないからな。
グロい。グロい。グロい。
俺はゴブリン共が振るう武器や飛んでくる矢を盾で防いだり躱したりしつつ、メイスを力の限り振り回して容赦無くゴブリンを撲殺していく。その度に吐き気が増す死体が出来上がり、返り血などが増えていった。ゴブリンって血も臭いね。不快感が半端じゃない。
そうして、近付いてきたゴブリン共を死体に変え、弓持ちゴブリンが逃走したところで俺の初めての戦闘は終わりを迎えた。
う、もう限界。ゲロゲロゲロ。
どうにか戦闘が終わって一通り吐き、浴びてしまった肉片などを払い落としたところで仕事に取り掛かる。
ゴブリンの討伐証明部位と魔石の回収だ。それと、ゴブリンの装備品の中で金になる物、剣などの金属製品も回収しておく。
取り敢えず、一番楽な装備品の回収から始めよう。回収すべき物は剣が一本に鏃が二つだけ。金属製品はそれだけしかなかったのだ。盾は補強の金具も釘も使われていない木製だし、射られた矢の鏃も大半が石で出来ていたから。
さて、これからが本番の討伐証明部位と魔石の回収だ。
ゴブリンの討伐証明部位は鼻。これを一つ持って行くと銅貨五枚になる。魔石は一つで銅貨一枚。合わせると銅貨六枚。日本円で二千四百円にしかならないのだからゴブリンの命って安いね。
まあ、その命の値段としては安い代金を得るにはかなりの覚悟が必要な訳ですよ。
『死体から鼻を切り取る』
『解剖して魔石を心臓付近から取り出す』
どちらも想像するだけで吐きそう。
だけど、これから冒険者としてやっていくためには慣れないとダメなことだから。
だからやりました。倒したゴブリンの数は六体だから六回ね。
ええ、当然、途中で何度か吐きましたよ。唾液と胃酸くらいしか出なかったけど。
そうしてかなりの時間を使いながら何とかゴブリンの鼻と魔石を回収した。
「うーん、どうやって持って行こうか」
俺は切り取ったゴブリンの鼻をどう運ぶか悩んだ。
素手で持つのは論外。
街を出る時に買った採取物を入れる革袋にも入れたくない。銅貨五枚したちょっといいやつだし。魔石は洗った後これに入れるつもりだ。
倒したゴブリンの持ち物にもちょうどいい袋のような物は無い。
ゴブリンの腰に巻かれた布は風呂敷のように使えるだろうけど、あれはゴブリン共の下着だ。あれに触ること自体がなんか嫌だ。解体に使ったナイフや魔石に付いてる血は擦り付けたけどさ。勿論、布は手で触らずに。
取り敢えず、ゴブリンが使っていた木の盾をお盆代わりにして持って行くか。かさばるし、手が塞がるのが難点だけど。
そうして俺はゴブリン共の血を洗い流すために近くの小川に向かった。
道中、大き目の葉っぱが生えていたのでちぎって木の盾の上に被せる。これでゴブリンの鼻なんて見なくてよくなった。
小川に着いたところで早速手を洗う。もうほとんど乾いていたのでなかなか取れない。暫くこすってようやく落とせた。その後、服を脱いでから顔と頭もしっかりと洗っておく。これで今までの不快感はかなり軽減した。でも、水で洗っただけなので、街に戻ったら風呂屋で石鹸使って洗いなおさないと。
解体に使ったナイフや魔石、メイスや盾の金属部分に付いた血も問題無く落ちる。
ただ、メイスの持ち手に巻かれた革の部分、盾の木の部分、革鎧や服などについては取れる気配がなかった。
「はあー、取れない。上の服も買わないとダメだな」
俺はゴブリンの血を落とすことを諦めた。
服は上下新しい物を買って宿で過ごす時などに着ることにしよう。今洗った服は仕事着として使えばいい。切られたズボンも安く修繕してくれるなら新しいズボンを余分に買う必要はないんだけど、こればかりは聞いてみないと分からないな。
俺は洗っていた服を絞って身に着ける。湿ってはいるけどこんなところで服が乾くのを待つつもりはない。さっさと街に帰るのだ。
正直、精神的にかなり限界が近いし、尻からスリットの入ったズボンで動き回りたくはない。
俺は他の装備品を身に着け、荷物をまとめて街へと歩きだした。ズボンの切られた部分はベルトに持ち手を通した盾で隠しながら。お陰で凄く歩き難かった。
街へと戻った俺はすぐに冒険者ギルドへと向かう。ゴブリンの鼻なんていつまでも持っていたくないし。
そうしてギルドに着いた俺は受付で用件を伝える。
馴れているのか、ゴブリンの鼻を見ても嫌な顔一つせずにテキパキ処理してくれた。
その時に服の中に入れっぱなしのタグにタブレット端末みたいなものをかざして処理していたのには驚いた。物凄くハイテク。
魔石と金属製品の買取もしてもらい、ゴブリン討伐の報酬と合計で銀貨一枚、銅貨二十一枚、四分銅貨二枚、の収入になった。日本円で一万八千六百円。日当としてはかなりの高収入だと思うけど、普通の人は最初に射られた矢で死んでいる。冒険者はやはりハイリスクハイリターンなのだ。
収入を手にした俺はすぐさま服屋に向かう。いつまでもすーすーするズボンなんて穿いてられない。他人に見られるのも恥ずかしいし。
そういう訳で、服屋に着くとすぐに古着の上下を買い揃えてその場で着替える。ズボンの修繕も引き受けてくれるようなのでそれも頼んだ。
あと、下着も一着新しいのを買った。ズボンを穿き替える時に下着もかなり大きく切れているのに気が付いたから。
こちらは修繕は頼んでいない。脱ぎたての下着を他人に渡すなんて変態的行為をするつもりはないからね。
他にはサイズ違いの安い布袋を三枚、手拭いを二枚買って買い物は終了だ。
幾らかサービスしてもらって支払いの合計金額は銀貨一枚だった。
服屋の後は風呂屋だ。
この風呂屋だけど、期待していたのとは違っていた。体を洗う場所の併設されたサウナって感じだったのだ。当然、湯船なんて無い。水風呂はあったけどさ。
まあ、さっぱりはしたよ。石鹸を使ってしっかり洗ったからね。財布の中身もさっぱりしたけど。
風呂屋の利用料が銅貨五枚。石鹸一つで銅貨十枚。合計で銅貨十五枚。
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