不幸つき異世界生活

長岡伸馬

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「おはようございます」

 朝起きて身支度を整えた俺は食堂へとやって来た。

「おはようございます、レイジお兄ちゃん」

 テーブルを拭いていたサーシャちゃんが笑顔で挨拶を返してくれる。
 やっぱり美少女の笑顔はいいものだ。

「おはよう、レイジ君」

 俺の声に反応したリリーが厨房から顔を出し挨拶してくる。
 やっぱりオーガもどきの顔なんて嫌なものだ。

「どうぞ。召し上がってください」
「ありがとう」

 俺が席に着くとサーシャちゃんが食事を運んで来てくれた。
 ああ、物凄くサーシャちゃんの頭をなでなでしたくなる。
 これは完全に紳士たちの仲間入りをしかけているな。

「いただきます」

 俺は手を合わせて食事に手をつける。やはりいつも通り美味しい。

「おはよ。リリー、飯」

 俺が朝食を食べているとイリーナさんがやって来た。
 非常に残念なことに既にフル装備だ。
 イリーナさんは俺の向かいの席に座ると口を開いた。

「なあレイジ、お前さ、昨日、生足チラ見せして男を誘ってたってホントか?」
「ブフォ、ごほっごほっ・・・」

 イリーナさんの言葉に、俺は口にしていたスープでむせた。

「大丈夫か?」
「その話本当なの?男を誘うくらいならあたしを誘いなさいよ!」
「誰が誘うか!!!俺は男なんて誘ってないですよ!!!ゴブリンにズボンをばっさり斬られただけです!!!着替えなんて持ってなかったし、お金も持ってなかったので暫くは切れたままのズボンを穿いてましたけど。冒険者ギルドでゴブリン倒した報酬を貰ったらすぐに服屋に行って新しいズボンに穿き替えました!!!断じて、男なんて誘ってないです!!!」

 俺が男を誘っていただなんて酷い誤解だ!!!

「そ、そうか。悪かったな変なこと聞いて」
「いえ」
「それより、ゴブリンに斬られたって大丈夫なの?傷口を見せて!」

 リリーが厨房から出てきてそう言ってくる。

 例え大怪我だったとしても見せる訳ないだろ、リリーになんか。何されるか分かったもんじゃない。

「傷口なんて無いですよ。ズボンしか斬られてないんだから」
「レイジ君が気付いてないだけかもしれないじゃない。小さな傷でも後で大変なことになる場合もあるのよ。さあ、足を見せて!!!」
「見せる気は無いです」
「いいから見せなさいよ!!!本当に怪我が無いか見てあげるから!!!サーシャもレイジ君が怪我してるか気になるよね」
「うん。レイジお兄ちゃん本当にけがしてないの?」
「大丈夫だよ。ズボンを斬られただけで、一滴の血も出てないんだから」
「そうなんだ」
「チッ」

 『チッ』じゃねえよ。サーシャちゃんを使ってまで生足見ようとするとか本当に油断出来ないなリリーは。

「それにしても、誰から昨日の俺のことを聞いたんですか?」
「ああ、ギルドの受付嬢たちから。かなり興奮して喋ってたぞ。『期待の新人』『魔性の男』だって。それでお前のことを色々聞かれたな」
「・・・」

 何だろう。その人たちから物凄く腐女子臭を感じる。
 その人たちの目で見れば昨日の俺は格好の妄想ネタになるのか。

「で、本当のところはどうなんだ?男が好きな訳ではないんだよな」
「はい。俺は普通に女の人が好きですよ」

 俺の性的志向はいたってノーマルだ。まあ、物凄く可愛い男の娘に迫られたら拒み切る自信は無いけどさ。
 リリーと男の娘の二択だったら迷わず男の娘を選ぶしな。

「そうか。じゃあ、これからもラフな格好は出来ねえな」

 イリーナさんはそう呟くが、俺的にはこれからもどんどんラフな格好をしてほしい!!!
 昨日の貴女は最高でした!!!

「・・・お前、何期待した目で見てんだ。それと前屈みになるのやめろ」
「え、これは、その、違っ」
「お、お兄ちゃんのエッチ!朝から何考えてるの!」
「ぐはっ」

 イリーナさんの冷たい視線とサーシャちゃんの一言に、俺は撃沈した。



 食事を終えた俺はギルドには寄らず、昨日行った草原へと向かっていた。
 今の俺が受けられる依頼は討伐依頼か採取依頼だけ。どちらも現物を持って行けばちゃんと処理してくれるのでギルドに寄る必要が無いのだ。
 そうして辿り着いた草原でメイスと盾を構えた俺は、昨日と同じように言葉を唱えた。

「不幸解放」

 そう唱えると共にその場にしゃがみ込み周りを警戒する。昨日のように矢で射られないように。
 そうして警戒したまま辺りを見回してみるけれど、こちらに向かって来る存在は見られないし、矢も飛んでこない。
 だからといって油断をするつもりはない。確実に不幸なことが起こるはずだから。
 そう思っているとふくらはぎの下がちくっとした。

「うん?」

 見ると一匹の蛇が噛み付いている。体長は八十センチくらいか。
 俺はその蛇の首を掴んで引き離す。

「今日は蛇ね。しかも毒持ち」

 捕まえた蛇を観察するとその牙には穴が開いており、そこから毒液らしきものが垂れていた。

「普通の人間だとこいつに噛まれるのも命の危険があるよな。俺は傷一つ付かないけど」

 人気の無い草原。こんな場所で毒蛇に噛まれた場合、普通の人間なら毒への対処方法を持ってないと大体死亡する。
 俺の場合毒への対処方法を持っていなかったけどなんともない。無傷だ。牙が皮膚すら貫けていないのだから毒が体内に入ることもなかった。まあ、俺の場合毒が体内に入ったとしても大丈夫な気がするけど。
 被害と言えば噛まれた跡がズボンに付いたくらい。蛇の牙なんて針みたいなものだから実質的な被害は皆無だった。
 取り敢えず、毒蛇は頭をメイスで潰して袋に入れておく。こんなものでも少しは値段が付くからね。

「うーん、これで終わりなのかな?『不幸ゲージ』も昨日より少なかったしな。もう他の所に行くか」

 毒蛇に噛まれて以来何も起こらない。
 もう『不幸解放』の影響はなさそうだ。俺はこの場所を離れることにした。
 その後、あちこち歩き回って狩れるものや採取出来るものを探す。
 途中、買っていた食事を取りつつ夕方まで歩き回った成果は、ゴブリン二体討伐、薬草類を少量採取、兎一匹生け捕りである。ゴブリンは残念ながら金属製の武器を持っていなかった。
 うーん、今日の成果少なくね。
 まあ、魔物や動物の出没率の高い場所や、薬草類のよく生えている場所はまだ把握していないから仕方ない部分はあるんだけど。他の冒険者に聞いても教えてくれる類の情報じゃないし。こればかりは地道に調べていくしかないかな。
 取り敢えず、ギルドに行って換金してもらおう。



 ギルドに着いた俺が感じたのは受付嬢たちからの視線。昨日よりも格段に注目されている気がする。
 今朝イリーナさんから聞いた話があるため物凄く居心地が悪い。何だか視線が尻に向いてる気がするし。
 受付嬢の全てが腐女子なんてことはないだろうが、早く出ていく方が賢明だな。
 俺はすぐに買取などの手続きをしてもらう。
 買取金額や討伐報酬は、毒蛇一匹銅貨一枚、ゴブリン二体討伐と魔石二個で銅貨十二枚、薬草類は全てまとめて銅貨一枚、兎一匹銅貨十枚、合計で銅貨二十四枚と銀貨一枚にもならなかった。
 今、切実に探査系の魔法が欲しいです!というか何でもいいから魔法が使いたい!!!
 まあ、その為にはお金が要るのですよ。しかも銀貨五枚。最初の講習代が一番高いのです。
 これはあれかな。『不幸ゲージ』を溜めて多数の魔物に襲われたところを返り討ちにして稼ぐしか・・・。
 『不幸ゲージ』を解放したのはまだ二回だし、必ず魔物などに襲われるとも限らないのだが、無駄に歩き回るより稼げる気がする。

「よう、兄ちゃん。どうした?しけた面してよ」

 換金を終えた俺に話しかけてきたのは強面の冒険者三人組。名前は確かアルド、ザウバ、ゲランだったかな。彼らは今日は酒瓶じゃなくジョッキ片手に絡んでくる。
 この人たち午後に見掛けた時は必ずお酒を飲んでいるよな。

「思いの外稼げなかったのでこれからどうしようかと考えていたんですよ」
「ふーん」
「で、今日の稼ぎは幾らだったんだ?」
「銅貨二十四枚です」
「それだけあれば十分だろ」
「ああ。それだけあれば飯食って酒も飲める。十分じゃねえか」
「あまり欲をかくもんじゃねえぞ。早死にするだけだからな」

 稼ぎが少ないと馬鹿にされるかと思ったがそんなことはなかった。
 むしろ、欲をかくなと忠告してくれるくらいだ。

「俺、魔法を覚えたいので講習代を稼ぎたいんです。それに、早く宿を替えたいですし・・・」
「「「・・・」」」

 宿のことを出すと三人は途端に黙り込む。
 数瞬の後、アルドとゲランがぽんぽんと肩を叩いてきた。

「お前もこっち来て飲め」
「一日の疲れは酒で癒すに限る」
「そうそう。酒を飲まないなんて人生の楽しみの半分を捨てるようなものだぞ」
「え、いや、俺は」
「いいからいいから。お姉さんこいつにも一杯頼む」
「はーい」

 俺はアルドとゲランに肩を掴まれ無理矢理テーブルへと連れていかれ、座らされた。

「はい、お待ち」
「さあ、飲め!俺たちのおごりだ」

 俺の目の前に置かれた木製のジョッキ。そこにはなみなみと赤茶色のお酒が注がれていた。見た目はブランデーとかウイスキーみたいだ。
 俺まだ十七なんだけど。まあ、この世界だと十五歳で成人だから飲んでも構わないのか。それに、飲まないことには解放してもらえないだろうし。
 俺はそう思ってジョッキに手を掛けた。
 お酒を飲むのは初めてだからちょっとドキドキする。

「いただきます」

 俺はジョッキに入った琥珀色の液体を口にする。
 そうすると、ちょっとした苦みと共に焼けるような感覚が喉を下っていく。

 うーん、お酒って美味しいものだと想像してたけどそうでもないな。

 どうやら俺とこのお酒との相性はよくないようだ。美味しいとは思えない。正直、不味いとすら思っている。
 しかし、おごられているものを不味いとも言えず、黙ってジョッキを空にした。

「ほお、やるねえ」
「何だ、いける口じゃねえか。あ、お姉さんこいつにおかわり頼む」
「はーい」

 そうして運ばれてくる新たなお酒。
 俺としてはお酒を美味しいと感じないし、早く解放してもらいたいのだが、そうしてはくれないようだ。
 仕方なく、運ばれて来たお酒に口を付ける。

「あの、みなさんは普段どの辺りで狩りをしているのですか?」

 暫くは解放してくれないみたいなので情報収集をすることにする。
 彼らも少しは酔っ払っているようだから口が軽くなることを期待していた。

「何だ、手っ取り早く稼げる場所が知りたいってか」
「ええと、はい。そうです」

 こちらの意図は簡単に見破られているようだ。誤魔化しても仕方ない。

「ははは、素直なのはいいねえ」
「まあ、お前さんには借りもあるし、教えてやらんこともない」
「本当ですか?」
「ああ。だが、条件がある」
「条件ですか?」
「そうだ。俺たちに飲み比べで勝てたら教えてやるよ」

 飲み比べね。いつもお酒飲んでるこの人たちらしい。
 毎日飲んでいるのだからお酒には強いだろうし、やっぱり自分たちが狩りをしている場所は教えたくないのだろうな。
 まあ、負けたところで話が聞けないだけだし、ダメ元でやってみるか。

「分かりました。お願いします」
「いい度胸だ。そうこなくっちゃな」
「お姉さんじゃんじゃん酒持って来てくれ」

 そうして始まった飲み比べ。ついでだから色々なお酒を頼んで美味しいと思えるものがあるか試してみる。
 結果は、美味しいと思えるお酒は無かった。
 甘口のお酒とかカクテル類はジュースに近くていい線行ってたんだけど、どれもこれも嫌に感じるものがある。多分、アルコールがダメなんだと思う。
 そう結論付けていると、アルドが沈んだ。

「あうお。おい、おきお」
「あるどはだめか。だがおれひゃまはまけん!」

 アルドに遅れること二杯でゲランが沈み、最後に残ったザウバも更なる十杯で沈んだ。
 飲み比べは俺の完全勝利で終わった。
 残されたのは酔い潰れてテーブルに突っ伏している強面のおっさん三人。
 かろうじて名前を知っているだけの、何処に寝泊まりしているかも分からないおっさん三人である。
 正直、彼らをどうしたらいいのか分からない。

「すみません」
「はい。何かしら?」
「あの、この人たちどうすればいいでしょうか?それと、お勘定の方も・・・」

 俺はウエイトレスのお姉さんを呼び止め、目の前の惨状にどう対処したらいいか聞いてみた。

「ああ、そいつらのことは気にしなくていいわ。床に転がしときゃいいんだから。飲食代もそいつら持ちでしょ。あなたは気にせずに帰っていいわよ。宿まで帰れるならだけど」
「大丈夫です。帰れます」
「本当に?あなたもしこたま飲んでいたわよね」
「そうですけど。・・・うん。何も問題無いですね」

 酔った感覚は無いんだけど、一応、立ち上がって足踏みをしたりして体の状態を確かめる。
 ふらつくことも一切無いし、問題無さそうだ。
 やっぱり酔ってないな。

「あなたあれだけ飲んで酔ってないの?」
「そうみたいですね」

 この体は毒が効かないからアルコールで酔うこともないのだろう。
 ほろ酔い気分ってやつは味わってみたかったのに。
 毒への耐性が高いのもいいことばかりじゃないようだ。

「はあ、とんだうわばみがいたものね」
「あはははは。じゃあ、俺は失礼します」
「また飲みに来てね」
「機会があれば」

 俺は体質的にお酒が美味しいとは思えないし、酔うこともないから飲みに来ることは無いだろうけどね。お金も掛かるし。
 あ、でも、美女と一緒なら飲みに来たいかも。それで、酒の上での過ちを期待します!
 俺がお酒に期待するのはそれくらいだよ。
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