不幸つき異世界生活

長岡伸馬

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 街へと戻ってきた俺たちは先ず冒険者ギルドに向かった。
 小川でゴブリンの返り血などを簡単に落としただけなので先に風呂屋に行きたいと思ったけど、巨大ミミズのことを報告しておかないとダメなのだ。
 イリーナさんが言うには、あの巨大ミミズはこの街の周辺ではまず見ることの無い危険な魔物なんだとか。
 確かに、地中から近付かれるのは対応が難しいし、あの巨体はそれだけで脅威だ。
 すぐに報告して対応策を考えてもらわないと犠牲者が出る可能性がある。
 それと、巨大ミミズのことを報告する以外にも、風呂屋でさっぱりした後にゴブリンの討伐証明部位を持ち歩くのが嫌だったというのもあった。
 そうして冒険者ギルドに報告に行けば、巨大ミミズを放置している場所まで案内させられた。



 連なる荷馬車が巨大ミミズの死体を次々と街へと運ぶ。あれらは全て食用の肉として買い取られていくものだ。
 正直、あんな気持ち悪い生き物の肉を食うって何考えてんだろって思ってしまったのは仕方ないよな。
 他の地域で食べたことある人が言うには美味いらしいけど、試す気になんてならない。
 それはともかく、巨大ミミズが現れた状況の検分である。これにはギルドマスターのヨハンまで同行していた。
 トップ自らのお出ましに、巨大ミミズの出現はかなりの重大事だとよく分かる。
 ここに来るまでも荷馬車の中で根掘り葉掘り話を聞かれたしな。千切れかけのズボンの右足部分のことも含めて。

「それじゃあ、お願いします」
「・・・はい」

 俺はヨハンに促されて巨大ミミズが開けた穴へと降りていく。穴を調べることで巨大ミミズが何処から来たのか調べる為に。
 今日はかなり魔法を使って魔力も消耗しているし、ゴブリンの返り血を大量に浴びるなど精神的にも消耗しているので調査役は避けたかったんだけど、他に適当な人材がいないのだ。
 穴の中は暗く狭いので、もし巨大ミミズが他にもいたら対処が難しく、十中八九餌食になってしまう。
 だけど、俺なら命の危険は無い。ヨハンもそれが分かっているから俺に調査役の話を振ってきたのだ。
 犠牲者が出たとか聞きたくないし、調査には報酬も出るので引き受けたけど、穴の中に降りた時には既に後悔していた。

「くせえ・・・」

 穴の中に充満する不快な臭い。これは明らかに土の匂いじゃない。汚物の臭いだ。
 俺は巨大ミミズの糞が近くにあるのかとげんなりしながら穴の中を魔法で照らす。
 俺が降り立った場所はドーム型の広場のようだ。天井が不自然に抉られていて横穴が続いているけど、あれは巨大ミミズが開けたものだろう。あれによって天井が薄くなって崩落し、俺が落ちかけたんだろうな。
 それで、この場所なんだが、どうやらゴブリンの住み家になっていたようだ。武器や道具、食べ物やそのカスなんかが散乱している。
 あと、ゴブリンたちの死体が。これは多分ここに落ちたブルータスがやったのだろう。魔法で倒したと思われる個体以外に、首を食い千切られた個体が何体かあった。
 道理でゴブリンが湧いて出てきた訳だ。巨大ミミズのいきなりの乱入に住み家から飛び出してきたのだろう。
 まあ、それはともかく、取り敢えずこのゴブリンの住み家の調査が先だろう。もしかしたらさらわれた人がいるかもしれないし。
 そうしてくまなく調べてみたけれど、さらわれた人はおらず、価値がありそうな物も見付からなかった。汚物の臭いの元は判明したけどさ。ゴブリンたちのトイレだった。あれはマジで臭過ぎる。吐きそうになった。このチートボディーにも悪臭耐性は付いて無かったんだよな。

 ゴブリンの住み家を調べ終えた後は巨大ミミズが掘った穴を調べる。
 こちらはただただ一直線に続いているだけ。穴が続いている方向は分かったけど、どこまで続いているか分からなかった。
 正直、『不幸解放』で呼び寄せたようなものだからな。生息地を飛び越えて現れたと言われても納得してしまう。
 まあ、なんにせよ、これなら他に巨大ミミズがいることはなさそうだ。

「ご苦労様でした」
「いえ、お役に立ててよかったです」

 俺が穴の調査を終えて出てくるとヨハンが労いの言葉を掛けてきた。

「ああ、そうだ、レイジ君のランクを上げようと思います」
「ランクをですか」
「ええ。ゴブリンの討伐数が規定に達したので上げる予定だったのですが、今回ジャイアントワームを討伐した件でもう一段上げることにしました。これからレイジ君は八等級の冒険者ということですね」
「八等級」

 そろそろランクがアップするとは思っていたけど、八等級になるとは思っていなかった。
 八等級は一人前扱いされる一歩手前で、戦闘力に関しては一人前扱いしてもいいとされた者たちだ。ここまでは討伐の実績があれば昇格試験は必要無い。
 ただ、これから先、本当に一人前扱いされる七等級以上になるには常設のもの以外の依頼を上手くこなしていかなければならない。
 例えば、討伐依頼なら周りに被害を出さずに討伐する、採取依頼なら質の良いものを採取してくるなどだ。
 そうして、上手く依頼を達成していった数が積み重なって漸く昇格試験を受けることが出来る。
 まあ、ランクを上げたくないなら試験を受けないという手もあるんだけど。アルド、ザウバ、ゲランの強面三人組がこのパターンだ。
 冒険者としてランクが上がると報酬が上がったり、店での買い物で割引してもらったり、色々な場面で融通が利くなど、多くのメリットがあるんだけど、断り難い指名依頼が出てくるなどのデメリットもある。三人組はこのデメリットを嫌ったのだ。指名依頼で護衛の依頼なんか来たら毎日の晩酌が出来なくなるからと。
 だから、あの人たちは六等級のままなのだ。ギルドは何度もランクを上げることを打診しているけれど。本来なら四等級か三等級が相応しいとギルドの職員が愚痴っているのを聞いたことがある。
 三等級なら報酬の単価が六等級の倍くらいになるんだけどね。
 まあ、あの三人は例外中の例外。普通はランクを上げることに積極的だ。報酬などのメリットだけでなく、冒険者のステータスとしても。
 俺もランクは積極的に上げていきたいかな。どこまで上がれるかやってみたい。
 チートボディーは戦闘面でプラスだけど、不幸体質が依頼達成の面でマイナスになりそうだからな。どこまで上がれるか本当に分からないんだよ。だからやってみたいのかも。目指せ一等級冒険者ってね。

「これからは常設のもの以外の依頼の達成状況が問われます。それは、依頼内容を実行出来ればいいというものではありません。依頼内容を実行するにあたりどのような行動を取ったかも含まれます。依頼人と揉めたりなどの問題行動を起こしてばかりでは昇格出来ないので気を付けてください。まあ、本人に問題が無く、周りの者が難癖をつけている場合についてはマイナス評価にならないので、自分から問題を起こさなければ大丈夫ですよ。周りのやっかみが多いレイジ君にとってはいいことですね」
「・・・ええ、まあ」

 本人に問題が無ければマイナス評価がつかないのはいいことだな。やっかみから足を引っ張ろうとする者は出てくるだろうし。
 もうすぐ行う決闘だってそうだろう。俺から騒ぎを起こした訳じゃない。
 イラついて乗っかったのは否定出来ないけどさ。イリーナさんといい感じになりかけたところを邪魔されたからね。
 まあ、でも、決闘することになったのは結果オーライといえなくもない。
 何しろ、イリーナさんが監視として行動を共にしていたお蔭でより親密になれたのだから。
 所謂、吊り橋効果ってやつだろうか。今日の戦闘を潜り抜けたことでキスしてもいい雰囲気になったからな。ブルータスに邪魔されたけど。
 街に戻って風呂屋で汚れを落としたら、イリーナさんと二人っきりの時間を作れるように行動してみようかな。もしかしたらキスするチャンスがあるかもしれないし。

「これから先の昇格の件については頭の隅に置いておけばいいです。今はそれよりも報酬の話でしょうかね。取り敢えず、調査の報酬として銀貨五枚を用意いたします」
「銀貨五枚」

 調査をすれば報酬が出るとは聞いていたけど、銀貨五枚も出してくれるとは思ってなかった。これだけで一日の収入の最高額を更新したよ。
 この他に、多数のゴブリンを討伐した報酬に魔石の代金、ジャイアントワームの討伐報酬とその肉の買い取り代金が加算される。これらを合わせると、ひょっとしたら金貨が貰えるってことになるんじゃないだろうか?

「調査の報酬は、ジャイアントワームの討伐報酬と肉などの買い取り代金、それと、ゴブリンの討伐報酬と合わせてお渡しいたします。ギルドの受付までお越しください。まあ、その前に汚れを落とした方がいいですね。そのままでは不快でしょう。風呂屋までお送りしますよ」
「ありがとうございます」

 俺たちはヨハンの言葉に甘えて、荷馬車で風呂屋まで送ってもらった。



「それでは、しっかり汚れを落としてさっぱりしてください」
「はい。ありがとうございました」
「ありがと。助かったよ」
「きゃん」

 送ってくれた人たちに礼を言って見送った後、俺たちは風呂屋に入った。

「それじゃあ、三十分後くらいでいいですか?」
「ああ、それでいいよ」

 風呂を出た後は一緒に冒険者ギルドに向かう為イリーナさんと待ち合わせの時間を決めて二手に別れると、俺はブルータスを連れて脱衣所へと向かった。
 そうして脱衣所で服を脱ぐと、石鹸と手拭いを持って洗い場へと向かう。
 先ずは手桶で水を汲んで浴びていく。多少冷たいけどそれが気持ちいいくらいだ。
 その後は石鹸でしっかりと体を洗って汚れを落としていく。ゴブリンの返り血や土埃で汚れているので念入りに。
 自分を洗い終えたらブルータスも洗ってやる。ブルータスは嫌がることなく洗われていた。こいつはゴブリンの臭いが嫌いだからな。

「よし、これでオッケーだな」
「きゃん!」

 洗い終えて泡を水で流してやるとブルータスが一鳴きした。ゴブリンの返り血が取れたのが嬉しいのだろう。
 しっかりと汚れも落としたし、この後はゆっくりと風呂を堪能したいんだけど、あるのは蒸し風呂だけだ。
 今日は色々あって疲れているから湯船に浸かって疲れを取りたいのに。

 くそっ、こういう時こそ湯船に浸かりたいのに湯船が無い!

 チートボディーだから体は疲れてないけど、精神的には疲れているんだよ。湯船に浸かってリラックスしたいんだよ!それなのに。
 ・・・いや、まてよ。水風呂はあるんだからいっそのこと温めてお湯にしてしまうのはどうだろう?魔法の使い方を覚えた今なら出来るはずだ。勝手に水をお湯に変えて怒られたら冷やして元に戻せばいい。
 今は俺たち以外に利用客がおらず、水風呂をお湯の風呂に変えるまたとないチャンスなのだから。
 そう考えて、俺は水風呂を魔法で温めることにした。

 水風呂に腕を突っ込むと熱を加えていくイメージを持って魔力を込めていく。
 そうして、暫くすると湯気が立ち上ってきた。

「よし、こんなもんだろ」

 ちょうどいい湯加減になったところで魔力を込めるのを止め、掛け湯をしてから湯船に浸かった。

「はああああ」

 ああ、至福だ。
 やっぱり風呂はこうでないとな。

 俺は体を包み込むお湯の感触を目を瞑って堪能する。
 温かさと共に優しく体を刺激する水圧が何とも心地いい。このまま目を瞑って堪能しているとうっかり寝てしまいそうだ。

「きゃん!」
「ん?お前も入ってみたいのか?」
「きゃん!」

 俺が風呂を堪能する姿に興味を持ったのか、ブルータスが一鳴きしてきた。
 まあ、気持ちよさそうにしている姿を見れば興味も湧くよな。
 ただ、流石に毛だらけのブルータスを湯船に浸けるのは気が引ける。俺は桶でお湯を掬って小さな湯船を作ってやった。

「ちょっとお湯を触って温度を確認してみな」
「きゃん」
「熱くないか?」
「きゃん」

 俺はブルータスを持ち上げてお湯の温度を確認させると、掛け湯をしてやってからお湯で満たされた桶に浸けてやった。

「どうだ?」
「くーん」

 俺がブルータスにお湯に浸かる感想を聞いてみれば、奴は桶の縁に顎を乗せて体を弛緩させていた。
 ちょっとだけ縁に掛かっている前足がまた何とも可愛いじゃないか。これ、動画でも撮ってネットにアップすれば、癒し動画としてすぐに人気が出そうだよな。
 それにしても、本当に見た目だけは物凄く可愛い。これで俺の寝首を掻こうとさえしなければ愛情を注げるんだけど。
 まあ、『不幸解放』で現れた魔物だ。期待するだけ無駄だな。
 それにしても、お湯に浸かるのはやっぱり気持ちいい。
 ・・・・・・

「・・・・・・」
「・・・きゃん!」
「ん?どうした?ぬるくなったのか?」
「きゃん!」
「そうか。ちょっと待ってろよ。・・・あっ、やべっ!寛いでいる場合じゃなかった!!!」

 お湯に浸かってのんびりしている場合じゃない!イリーナさんと待ち合わせしていたんだった!!!

 久々にお湯に浸かることが出来た為、思いの外長湯してしまっていた。お湯が冷めるくらいだからイリーナさんとの待ち合わせ時間は確実に過ぎていると思う。
 俺は慌てて風呂を出ると、ブルータスを掴んで脱衣所へと急いだ。



「すみません!遅くなりました!!!」

 俺が不満気なブルータスを拭いて、急いで着替えて脱衣所を出ると、イリーナさんが受付近くのベンチに座って待っていた。

「・・・確かに遅かったな。何をしていたんだ?」

 イリーナさんが空になった飲み物の容器を置きながら不機嫌な顔で訪ねてくる。
 不機嫌なのは当然だろう。予定の時間をかなりオーバーしているのだから。空の容器も四つ目だし。
 本当に、マジですみません!!!

「えーと、それは・・・」

 俺はイリーナさんに風呂での出来事を事細かに説明していく。
 それで待たせてしまったことが許されるとは思わないけど。

「・・・そうか。何をしていたのかはよく分かった。それにしても、お湯に浸かるのはそんなに気持ちいいものなのか?」
「はい」
「きゃん!」

 お湯に浸かるのは間違いなく気持ちいい。そのことを俺以上にブルータスが主張している。
 イリーナさんのズボンの裾をくわえて浴場に行こうと誘ってくるくらいには。
 いや、イリーナさんを誘うのはいいが、そっちは男湯だからな。イリーナさんを連れて行ったらダメな方だ。

「そうなのか。そこまで言われると私もお湯に浸かってみたくなるな」
「ぜひ試してください」
「きゃん!」
「・・・でもなあ、私魔法の使い方知らないしな」
「そうなんですか?」

 魔法というのは才能によって強弱はあれど、使い方を習えば誰でも使える。
 冒険者として未来を嘱望されているイリーナさんならとっくに魔法の講習を受けていると思っていた。

「ああ。だって、魔法の講師ってライザだろ。私あの手のチャラい奴嫌いなんだよ。もう一人は年だし」
「ああー」
「わふ」

 ギルドの魔法の講師はライザと、冒険者を引退した魔法使いのお爺さんがいる。
 そのお爺さんは結構高齢なのでギルドに出てこない日がままある。講習の予約をしても出てこない日があるものだから講師として選ぶにはちょっとあれなのだ。耳も遠いので話が通じない時もあるし。
 ライザが講師の時は、男性なら多少うざいだけだが、女性だとしつこくナンパされて碌に魔法を学べない。
 そんな訳で、魔法を習いたい女性たちは他の街に行って習うことが多かった。
 イリーナさんも魔法を習いたかったようだけど、この街の講師陣には問題があるし、他の街に行くのは時間が掛かり過ぎるということで後回しにしていたようだ。探索や採集の仕方だとか、武器を使った戦闘技能など、他にも習うべきことは多いから。
 魔法が習える街に行く依頼も受けられなかったようだし、今は主に戦闘技能の講習を受けているみたいだ。

「あの、俺と一緒に魔法の講習を受けてみますか?それなら多少はライザが絡むのを抑えられるんじゃないかと」

 また魔法の講習を受けるつもりだった俺は、イリーナさんも一緒にどうかと思って誘ってみた。
 俺と一緒ならライザもそれ程イリーナさんに絡むことは無いんじゃないかと思うし、もし絡んできたとしても効果的な対処法を取れると思ったからだ。
 即ち、ライザを凹ませること。その為のネタは冒険者ギルドの受け付けのお姉さんたちや、ウェイトレスのお姉さんたちから大量に仕入れている。それらを口に出していけば奴はイリーナさんを口説く余裕は無くなる訳だ。

「まあ、確かにレイジと一緒の方がライザも絡んでくることは減りそうだよな」

 お、イリーナさんが話に乗ってきそうだ。

「きゃん!」

 ブルータスが一声鳴いた。魔法の講習を受けるなら自分も連れて行けってことだろう。

「ブルータスも一緒に行くって。こいつライザに噛み付いているので側に置いておけばかなり効果があるかと」
「そうなのか?・・・じゃあ、一緒に講習を受けてもらおうかな」
「きゃん!」

 イリーナさんが乗り気になったところで魔法の講習を受ける段取りを決めてしまう。申し込むのは今日冒険者ギルドに報酬を受け取りに行く時だ。
 イリーナさんの分の講習代も俺が払うって言ったんだけど、ギルドから俺たちの監視を依頼されている最中だからそれはダメだと言われた。賄賂になるので二人とも罰を受けるのだそうな。
 今日の戦闘で心配させたお詫びと、今さっき約束の時間を忘れて長風呂してしまったお詫びにと思ったが実行することは出来なくなった。
 それでもまあ、イリーナさんの機嫌も少しは良くなったと思う。
 だけど、許されたと思っちゃダメだよな。女の人は昔のことを掘り返してくるって聞くし。
 俺はそんなことを思いながらイリーナさんたちと冒険者ギルドへ向かった。



 冒険者ギルドへ着いた俺たちはすぐにカウンターで今日の報酬を受け取る。

「はい、こちらがレイジさんへの報酬です。ご確認ください」
「はい。ありがとうございます」

 確認してみると、金貨が混ざってた。それも、四枚も。他に銀貨が六枚、銅貨が二十枚、四分銅貨が三枚あった。
 日本円換算で四十六万八千三百円。月収ではなく、日収がだ。ここまでくると仕事での収入というより、ギャンブルで当たりでも出したかのように感じる。

「あの、本当にこんなに貰っていいのですか?」
「はい。適正な金額ですよ。レイジさんはジャイアントワームを仕留められたのですから。それも、単独で。ジャイアントワーム一体分の買い取り金額を一人で受け取れば、その金額で何もおかしくないですよ。魔石だけでも金貨一枚の価値はありますからね」

 あ、そういえばジャイアントワームも魔物だった。魔石も当然持っているよな。全く気付かなかったけど。
 ジャイアントワームの魔石はテニスボールくらいの大きさで、口から二メートルくらいの他より太くなっている場所から出てきたものだ。
 アイテムボックスとか無いから荷馬車で運ばなければならない大量のジャイアントワームの肉は運べないけど、テニスボールサイズの魔石なら問題無く運べる。
 今回のことで魔石のある場所も分かったから、今度ジャイアントワームに出会った時はちゃんと取り出して持っていこう。他の人に持っていかれないように。魔石一個で金貨一枚だもんな。

「凄いねー。一人でジャイアントワーム倒したんだって」
「冒険者になったばかりでこれだけ活躍した人見たことないよ」

 報酬を受け取る俺の周りにウェイトレスのお姉さんたちが集まってくる。そして、口々に俺を称賛してくるのだ。
 まあ、何台もの荷馬車がジャイアントワームの肉を冒険者ギルドへ運び込んだのだから知られていて当然か。お姉さんたちもギルドの職員なんだし。

「ねえ、お姉さんと付き合わない?」
「あ、ずるーい。レイジ君はあたしが狙っていたのに。ねえ、あたしにしよーよ」
「私と付き合うのよね」

 いつもはブルータス目当てで構ってくれるお姉さんたちが、今日に限っては俺に付き合ってと言ってくるではないか!

 何これ。ひょっとしてモテ期というやつですか?

 そんなことを考えていたら、いつものように怨念混じりの視線が飛んで来る。
 まあ、これはいつものことだ。もう慣れた。
 ただ、一つだけ無視できない視線があった。イリーナさんのものだ。
 イリーナさんは冷ややかな目でこちらを見ていた。
 そんなイリーナさんは俺と目が合うと、スッと視線を外してギルドから出ていこうとする。

「待って、イリーナさん!」

 俺は囲んでいるウェイトレスのお姉さんたちを振り切って出ていくイリーナさんを追い掛けようとした。

「行っちゃダメよ」
「そうそう、あたしたちの中の誰を選ぶか決めてもらわないと。当然、あたしだよね!」
「私でしょ」

 だけど、ウェイトレスのお姉さんたちが俺を捕まえて放してくれない。物凄い力だ。ブルータス目当てで俺を引き留めようとした時とは訳が違う。そんなお姉さんたちを傷付けずに振り解くのはかなり難しい。
 おまけに、胸を押し付けてくる色仕掛けが精神的にも振り解くのを難しくしていた。

「あの、放してください」
「ダメ。放さない」
「あたしを選んでくれないと放してあげなーい」
「私を選んでくれるよね?」

 腕に押し付けられる胸の感触が凄い。いつもよりずっと激しいのだ!
 それどころか、俺の掌を胸に押し当て、その上に手を当てて揉むように動かしてさえしてくれる!完全に揉ませてくれているのだ!!!

 これ絶対やらせてくれるだろ!!!選んだらやらせてくれるだろ!!!

 ウェイトレスのお姉さんたちで童貞卒業。ひょっとしたらハーレムだって可能かもしれない。
 そんなことを考えていたらイリーナさんの姿はいつの間にか見えなくなっていた。

「あれ、イリーナさん?イリーナさん!!!」

 俺は風魔法でウェイトレスのお姉さんたちとの間に隙間を作ると、腕を引き抜いてお姉さんたちの囲みから逃れる。
 そして、すぐさまイリーナさんを追い掛けるべく冒険者ギルドを出ていった。

「イリーナさん!!!」

 建物を出た俺はイリーナさんの名前を呼びながら周囲を見渡す。
 だけど、その姿は見えない。宿に帰るのに通る道にも、それ以外の道にも。
 追い掛けるには遅過ぎたのか。そんな風に思った時だった。

「呼んだか」
「イリーナさん!」

 背後からイリーナさんの声が聞こえた。
 イリーナさんは建物の入り口から少し離れた場所の壁にもたれていたのだ。

「待っていてくれたのですか?」
「お前を監視するのがギルドから受けた仕事だからな。勝手に帰る訳にはいかねえよ。物凄く帰りたくなったけどな」
「えっと、その、すみません」
「謝る必要はねえだろ。私とお前の関係は監視する者とされる者ってだけだからな。お前が女を侍らせたところで咎める理由はねえよ」

 確かにイリーナさんの言う通りだ。俺たちの関係は監視する者とその対象でしかない。それが何だが寂しかった。

 ウェイトレスのお姉さんたちからちやほやされるのは嬉しいし興奮する。
 だけど、そのことでイリーナさんと疎遠になってしまうのならちやほやされなくてもいいとあっさり思えた。

 俺、イリーナさんのことが好きだ。

 ひょっとしたら今日の戦闘で俺にも吊り橋効果のようなものが現れているのかもしれない。
 だけど、命懸けで助けようとしてくれたことに好意を抱かない訳がない。
 俺が無事でほっとして泣き出し、泣き止んだ姿は本当に愛おしかった。
 俺は俺のことをちやほやしてくれる人たちよりずっとイリーナさんのことを大事にしたいのだ。

「俺は他の誰かよりイリーナさんに側にいてほしいです」
「何だよ突然に」
「突然かもしれませんけど、自分の気持ちに整理がついたから」

 前世の俺は怪我や病気で入退院を繰り返し、誰かを好きになることも無くあっさり死んだ。
 今も俺たちは冒険者で、命の危険がある。まあ、俺はチートボディーだから死にはしないだろうけど、罠に嵌って行方不明にはなりそう。
 それに、一所に留まるとは限らない。
 だから、伝えられる時に伝えておきたい。そう思ったのだ。

「俺はイリーナさんのことが好・・・」

 最後まで言い切る前にイリーナさんが走って逃げた。ダッシュで。あっという間に距離が開いたと思ったら路地に入って完全に姿が見えなくなる。
 俺はあまりのことに声を掛けることさえ出来なかった。
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