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天泣【9月長編】
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秋物を仕入れて、長い長いファッションショーも終わる頃。店子たちがソワソワと話しているのが見えた。そっくりの顔をした二人は、昔からよく知っている。肩で綺麗に切り揃えられた髪も、切長の目も、つんと尖った鼻も、鏡合わせのようにそっくりだ。
いつもならやかましく俺に話しかけてくるが、今日はやけにおとなしい。
というか、とても勤勉に働いている。無駄口を叩く暇もないくらい、あくせくと走り回っていた。
「ごめんなさいね、今はちょっと人手が足りなくて」
「いや、別に大丈夫ですけど……でも、何かあったんですか?」
「稼ぎどきだからね。ウカが博多へ出張よ」
どうして今、博多で稼ぎどきなんだろう。ここ数年、こういう類のことから離れていたせいでかなり疎くなっている。とはいえ、ウカさんが抜けた穴がとても大きいことはよくわかった。
残された二人の店子、イネとマイだけじゃ埋められていないのは明白だった。
「店長、お着物全部運び終わりました!」
「ました~」
「はいご苦労様」
ようやく仕事が終わったようで、お礼のお菓子を用意しようと立ち上がった。おみは新しい着物に浮かれているらしく、しらたきと二人でぴょんぴょん跳ね回っている。おみのことは織田さんに任せるとして、午前中に作ったドーナツを取りにいくため台所へと向かった。
今回は秋物だけだったが、来月はもっと大変になる。ウカさんが帰ってくるのなら大丈夫だろうけれど。
「それにしても、博多で何があるんだ?」
「方生会に決まってるだろ!」
「だろ!」
「うわぁ!?」
いきなり耳元で二人分の声が響き、思わず腰が抜けてしまいそうだった。右を見ても左を見ても、同じ顔。全く、この二人は昔から何も変わらない。
「リョータは相変わらずいい反応をするなァ」
「するなァ」
「イネもそう思う?」
「マイもそう思う?」
ふふふ、と笑いあった後、双子はくるりとこちらを向いた。パッと見た印象はそっくりだけど、姉であるマイは目の色が少しだけ濃く、弟のイネは耳がちょっとだけ大きい。それと、マイは右耳、イネは左耳にピアスを開けている。
昔は幼くてもっと似ていたらしいけれど、声変わりをしたせいか今は口を開けば声が全然違うのですぐにバレてしまうらしい。そもそも織田さんのところで働いているんだからその辺の礼儀はしっかりと仕込まれているはずだ。
「放生会くらいは覚えてるだろ?」
「あ、ああ。それはもちろん」
これは、イネ。
「放生会ぎもんは覚えてる?」
「あー……なんとなく」
これは、マイ。
うん、見間違うことはないな。
「今でも浴衣を買う人は多くいるの。それと、今回のおみちゃんみたいに秋物を仕立てたりね」
「姉さんの言う通り。それで、ウカさんが博多に行ったってわけ」
「なるほどね」
確かにこの二人を博多にやるより、ウカさん一人の方が織田さんも安心だろう。織田さんも大変だな。
「でも、もうすぐウカさん、帰ってくるの!」
「新生姜買ってくるって!」
「柿も!」
「梨も!」
「そっか。よかったな」
二人で手を繋ぎながら飛び跳ねる姿は、幼い頃に初めて出会った印象と何も変わらない。なんだか微笑ましい気持ちになりながら、大量のドーナツを皿に取り分けた。
いつもならやかましく俺に話しかけてくるが、今日はやけにおとなしい。
というか、とても勤勉に働いている。無駄口を叩く暇もないくらい、あくせくと走り回っていた。
「ごめんなさいね、今はちょっと人手が足りなくて」
「いや、別に大丈夫ですけど……でも、何かあったんですか?」
「稼ぎどきだからね。ウカが博多へ出張よ」
どうして今、博多で稼ぎどきなんだろう。ここ数年、こういう類のことから離れていたせいでかなり疎くなっている。とはいえ、ウカさんが抜けた穴がとても大きいことはよくわかった。
残された二人の店子、イネとマイだけじゃ埋められていないのは明白だった。
「店長、お着物全部運び終わりました!」
「ました~」
「はいご苦労様」
ようやく仕事が終わったようで、お礼のお菓子を用意しようと立ち上がった。おみは新しい着物に浮かれているらしく、しらたきと二人でぴょんぴょん跳ね回っている。おみのことは織田さんに任せるとして、午前中に作ったドーナツを取りにいくため台所へと向かった。
今回は秋物だけだったが、来月はもっと大変になる。ウカさんが帰ってくるのなら大丈夫だろうけれど。
「それにしても、博多で何があるんだ?」
「方生会に決まってるだろ!」
「だろ!」
「うわぁ!?」
いきなり耳元で二人分の声が響き、思わず腰が抜けてしまいそうだった。右を見ても左を見ても、同じ顔。全く、この二人は昔から何も変わらない。
「リョータは相変わらずいい反応をするなァ」
「するなァ」
「イネもそう思う?」
「マイもそう思う?」
ふふふ、と笑いあった後、双子はくるりとこちらを向いた。パッと見た印象はそっくりだけど、姉であるマイは目の色が少しだけ濃く、弟のイネは耳がちょっとだけ大きい。それと、マイは右耳、イネは左耳にピアスを開けている。
昔は幼くてもっと似ていたらしいけれど、声変わりをしたせいか今は口を開けば声が全然違うのですぐにバレてしまうらしい。そもそも織田さんのところで働いているんだからその辺の礼儀はしっかりと仕込まれているはずだ。
「放生会くらいは覚えてるだろ?」
「あ、ああ。それはもちろん」
これは、イネ。
「放生会ぎもんは覚えてる?」
「あー……なんとなく」
これは、マイ。
うん、見間違うことはないな。
「今でも浴衣を買う人は多くいるの。それと、今回のおみちゃんみたいに秋物を仕立てたりね」
「姉さんの言う通り。それで、ウカさんが博多に行ったってわけ」
「なるほどね」
確かにこの二人を博多にやるより、ウカさん一人の方が織田さんも安心だろう。織田さんも大変だな。
「でも、もうすぐウカさん、帰ってくるの!」
「新生姜買ってくるって!」
「柿も!」
「梨も!」
「そっか。よかったな」
二人で手を繋ぎながら飛び跳ねる姿は、幼い頃に初めて出会った印象と何も変わらない。なんだか微笑ましい気持ちになりながら、大量のドーナツを皿に取り分けた。
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