泣き虫龍神様

一花みえる

文字の大きさ
上 下
43 / 290
秋霖 【10月短編】

1

しおりを挟む
    朝晩めっきり冷え込んできた。ふわふわの毛布を出しておいて本当によかった。庭に出ると朝露が降っている時もふえてきた。
    朝は随分と冷え込むのに、昼間はぐんと気温が上がる。日差しが強ければ汗ばむこともあり、まだまだ扇子が手放せない。
    そんな中。
「りょーたー!    おはな!」
「元気だなぁ……」
    おみは庭を走り回っていた。まだ麻の浴衣を着せていた方がいいのか、と思うくらい毎日汗だくになるまで遊んでいる。今日はコスモスを見つけたらしく、両手いっぱいに抱えて帰ってきた。
    額に浮かんだ汗を拭い、温い麦茶をしっかりと飲ませる。今月は遠出をしないといけない予定がある。ここで体調を崩しては大変だ。
「あとねー、あかいおはなもあった!」
「彼岸花かな」
「きれいだった!    あと、あと、虫がいて」
「よしよし。おやつ食べながら聞くから中に入ろう」
「うぃ」
    暑さが苦手なおみにとって、今の季節はとても過ごしやすいのだろう。楽しそうにはしゃいでは転び、ぴぃぴぃ泣く日々が続いている。
    遠出をするのは月の下旬なので、それまではここで用意をしなくてはいけない。着物は織田さんに頼んでいるし、移動などの手配は実家が進めている。
「さかぐちはー?」
「坂口さん、な。この時期は忙しいんだってさ」
「んむー」
    稲刈りが始まり、収穫が盛んになるこの時期は多忙になると言っていた。五穀豊穣に携わるため、気が抜けないのだと話していた気がする。
「さかぐちにあいたいー」
「今度お手伝いに行こうか」
「いく!」
    喜びに任せて俺の腹に飛び乗ってきた。抱き上げると体が熱を帯びてホカホカしている。髪の毛から甘い香りがしてきて、よく見ると金木犀の花が散らばっている。
    やれやれ。一体どこまで探検してきたのか。
「明日は何をする?」
「あしたは、どんぐり拾う!」
「よし。楽しみだな」
    嬉しそうに揺れる尻尾に一匹の蜻蛉がじゃれついていて、思わず笑ってしまう。明日も晴れるといいな、と優しく頭を撫でてやった。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

ショート朗読シリーズ

ライト文芸 / 連載中 24h.ポイント:426pt お気に入り:0

龍の寵愛

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:2,643pt お気に入り:3

死が見える…

ホラー / 完結 24h.ポイント:2,683pt お気に入り:2

明らかに不倫していますよね?

恋愛 / 完結 24h.ポイント:6,242pt お気に入り:121

【架空戦記】蒲生の忠

歴史・時代 / 完結 24h.ポイント:21pt お気に入り:21

ぶち殺してやる!

現代文学 / 完結 24h.ポイント:1,590pt お気に入り:0

傲慢悪役令嬢は、優等生になりましたので

恋愛 / 完結 24h.ポイント:2,591pt お気に入り:4,401

顔面偏差値底辺の俺×元女子校

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:362pt お気に入り:2

処理中です...