泣き虫龍神様

一花みえる

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秋霖 【10月短編】

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「はふー……ぽかぽか」
「すっきりした?」
「したー」
    めっきり冷え込むこの時期は、お風呂が大変気持ちのいい季節だ。夏は「あついー!」と言ってなかなか入りたがらなかったが、秋になってからは好んで風呂場に行くようになった。
    庭で採れたハーブを入れたり、坂口さんからもらった入浴剤入れたり、おみは日々お風呂を楽しんでいるようだ。
「おふろにはいると、ぽわーってする」
「のぼせたかな」
「んーん。あったかくてぽわぽわするの」
「それなら良かった」
    ほわほわ赤くなった頬が緩んでいる。今日もいいお湯だったんだろう。秋用の寝巻きを着て、さっそくしらたきを抱きしめ、ちょこんと俺の前に座った。
    濡れているのに癖が収まらない銀色の髪は、湿って色が濃くなっていた。
「熱かったらすぐに言うんだぞ?」
「うぃ」
    ドライヤーのスイッチを入れて、濡れた髪を乾かし始める。地肌になるべく近づけないよう気をつけながら、ふわふわする髪を手ぐしで整える。
    子供特有の柔らかくて細い髪が、指に心地よい。
「ふあー……きもちょい……」
「それは良かった」
「しらたきも拭いてあげる」
「……そうか」
    濡れていないのにタオルでしらたきをゴシゴシ拭き始めた。三人(人?)並んで髪を乾かす絵面は想像すると不思議でならない。
    おみが楽しそうなのは何よりではあるが。
「かゆいところはございませんかー」
「シャンプーだな、それは」
「ながしたりないところはございませんかー」
「もう流したのか」
    動きはどう見てもタオルドライだというのに。おみはいつ見ても楽しそうだ。
「はい、乾いたよ」
「ありがとー」
「しらたきも乾いたか?」
「ほわほわになった!    ぎゅーするとぽかか」
「じゃあ体が冷える前に一緒に寝な」
「ん」
    明日は朝から織田さんがやって来る。そのあと荷造りをして、夜中にはここを出ないといけない。ゆっくり眠れるのは今日くらいだ。
    呑気にしらたきと何か話していたおみが、ふわりと欠伸をした。こちらもつられて欠伸が出そうになった。とはいえ、俺はまだ眠れないのだが。
「りょーた、おやすみ」
「うん。おやすみ」
「しらたきも、おやすみって言ってる」
「しらたきもおやすみ。二人ともいい夢を」
「んー」
    ぽてぽて寝室に向かう後ろ姿を見送りながら、俺も小さく欠伸を零した。
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