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叢時雨【11月長編】
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朝から散々ぐずり続けたおみをなんとか滝で身を清め終わり、馬車に乗せた時は既に疲れ果てて眠たそうにしていた。ぐしゅぐしゅ言いながらしらたきに抱きついて、俺の膝で眠っていた。ここから目的地まではしばらくかかるし、どのみち途中で意識が飛んでしまうだろう。
それなら今くらいは好きにさせてやりたい。そんなことを考えている間に馬車は海を越え、山を越え、人里離れた清廉な場所に到着した。おみとはここからしばらくお別れだ。
真っ白な衣装を身につけ、仮面で顔を隠した(おそらく)男性が話しかけてきた。この人が諸々と準備をしてくれるのだろう。
「室生様は、お宿でお待ちください」
「わかりました」
「必要な装束は?」
「この風呂敷の中です」
「かしこまりました」
淡々と話が進んでいく。本来であれば俺も祭事に加わった方がいいのだろう。しかし、俺にその資格も力もない。
ただ待つことしかできないのだ。
「ここから稲佐の浜までおみ様をお連れします。その後、大社に入られ、開幕の儀式が行われます」
「分かりました」
「それでは」
必要な荷物を手に、新しく用意された馬車に乗り換える。儀式のことは文献で読んだことはあったが、詳しく何をするかまでは分からなかった。
生まれてまだ千年くらいしか経っていないおみが参加するのはまだ早いかもしれないと思ったが、招待状が届けられたのだから間違いではないのだろう。
「さて……夜まで待つとしようか、しらたき」
なんだかいつもより元気がないように見えるしらたきを膝に乗せて、先月もお世話になった宿へと向かう。やれやれ。先は長いな。
「室生様、お待ちしておりましたよ」
「お世話になります」
先月と同じように、ふくよかな女将さんが出迎えたくれた。この前と同じように離れを用意してもらえたので、気兼ねなく過ごすことができる。
たくさんあった荷物も運んでもらえたので、俺が運ぶものはしらたきだけだった。
「お連れ様はいらっしゃいませんの? あの、賢そうなお坊ちゃん」
「あー、夜に来ます。少し見た目が変わってるかもしれませんが」
「子供は成長が早いと言いますからねェ」
あはは、と愛想笑いを返して離れへと向かう。今回に関しては「早い」で済ませられない気もするが。
あとで詳しく説明しておこう。
時計を確認する。もう稲佐の浜から大社へと向かった頃だろうか。今日は初日だから遅くまで会合はないだろう。
「おみの服を整理するか……俺の分と間違えないように、と」
「それなら私が自分でする」
「えっ……」
すらりと襖が開いた。いつの間に到着していたんだろう。全く気づかなかった。それに、分かってはいたけれど。
やっぱり、驚いてしまう。
「おみ、様……お務めご苦労さまでした」
「うん」
俺とほとんど変わらない身長に、腰まである長い銀色の髪。海の色をした瞳は変わらずに澄んでいて、涼しげな切れ長になっていた。
先月よりも霊力が貯まり、成長したおみは。驚くほど立派な龍神様だった。
それなら今くらいは好きにさせてやりたい。そんなことを考えている間に馬車は海を越え、山を越え、人里離れた清廉な場所に到着した。おみとはここからしばらくお別れだ。
真っ白な衣装を身につけ、仮面で顔を隠した(おそらく)男性が話しかけてきた。この人が諸々と準備をしてくれるのだろう。
「室生様は、お宿でお待ちください」
「わかりました」
「必要な装束は?」
「この風呂敷の中です」
「かしこまりました」
淡々と話が進んでいく。本来であれば俺も祭事に加わった方がいいのだろう。しかし、俺にその資格も力もない。
ただ待つことしかできないのだ。
「ここから稲佐の浜までおみ様をお連れします。その後、大社に入られ、開幕の儀式が行われます」
「分かりました」
「それでは」
必要な荷物を手に、新しく用意された馬車に乗り換える。儀式のことは文献で読んだことはあったが、詳しく何をするかまでは分からなかった。
生まれてまだ千年くらいしか経っていないおみが参加するのはまだ早いかもしれないと思ったが、招待状が届けられたのだから間違いではないのだろう。
「さて……夜まで待つとしようか、しらたき」
なんだかいつもより元気がないように見えるしらたきを膝に乗せて、先月もお世話になった宿へと向かう。やれやれ。先は長いな。
「室生様、お待ちしておりましたよ」
「お世話になります」
先月と同じように、ふくよかな女将さんが出迎えたくれた。この前と同じように離れを用意してもらえたので、気兼ねなく過ごすことができる。
たくさんあった荷物も運んでもらえたので、俺が運ぶものはしらたきだけだった。
「お連れ様はいらっしゃいませんの? あの、賢そうなお坊ちゃん」
「あー、夜に来ます。少し見た目が変わってるかもしれませんが」
「子供は成長が早いと言いますからねェ」
あはは、と愛想笑いを返して離れへと向かう。今回に関しては「早い」で済ませられない気もするが。
あとで詳しく説明しておこう。
時計を確認する。もう稲佐の浜から大社へと向かった頃だろうか。今日は初日だから遅くまで会合はないだろう。
「おみの服を整理するか……俺の分と間違えないように、と」
「それなら私が自分でする」
「えっ……」
すらりと襖が開いた。いつの間に到着していたんだろう。全く気づかなかった。それに、分かってはいたけれど。
やっぱり、驚いてしまう。
「おみ、様……お務めご苦労さまでした」
「うん」
俺とほとんど変わらない身長に、腰まである長い銀色の髪。海の色をした瞳は変わらずに澄んでいて、涼しげな切れ長になっていた。
先月よりも霊力が貯まり、成長したおみは。驚くほど立派な龍神様だった。
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