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千歳をかねてたのしきをつめ【お正月】
【三社参り】
しおりを挟むお腹いっぱいにお餅を食べて、おみは満足そうに寝転がっている。放っておくとそのまま寝てしまいそうだ。せっかく晴れ着だというのに、このまま寝正月は勿体ないなぁ。
じいさんと一緒に過ごしていた時はどんな風にお正月を迎えていたんだろう。色々大切なことを教えてもらったけれど、こういう細かいことは聞けずじまいだったな。
「おみ、寝るなら普段着に着替えるぞ」
「ねないー」
「今にも寝そうなのに……」
「もうすぐイネとマイ、くるから」
「え、そうなのか」
「たぶん」
うにゃうにゃ言ってるけれど、そうだとした少しは部屋を片付けておかないと。とりあえず空になった食器は洗って、あとは何かお茶菓子とか。
というか、どうして先に言ってくれないんだ。来ると分かっていたらもう少し早くおみを叩き起したのに。
「ピンポーン! おみちゃん、いますかー?」
「イネだよー」
「マイもいるよー」
「早いな!?」
想像の五倍くらい早くイネとマイがやって来た。インターフォンなんて便利なものが我が家にはないので、わざわざご丁寧にピンポンまで言ってくれて。
いや、しかしおかしいな。いつもならそんなこと言わないのに。むしろ玄関ではなく裏庭に回って縁側から来ているはず。こんなふうにわざわざ呼び出すなんて珍しい。
「あ、きた!」
「お出迎えするか」
「するするー」
がばりと勢いよく起き上がり、嬉しそうにおみが玄関まで駆けていく。その後ろを追いかけながら、結局お茶菓子は干し柿にしようと頭の中で決定した。
玄関ドアを開けると、振袖と袴でめかしこんだ織田さん、イネそしてマイがにこにこ笑いながら立っていた。織田さんはいつもと変わらず鮮やかな色に大きな柄の訪問着、マイは可愛らしい浅葱色で、イネは渋く濃藍色だ。
イネとマイはそれぞれ大きな風呂敷を持っていた。
「あけましておめでとう、おみちゃん」
「おだしゃきれー」
「ふふ、でしょう? この日のために新しく仕立てたのよ」
相変わらずほわほわと緩んだ顔をしている。どうやらおみは綺麗な女性を前にすると頭が真っ白になるらしい。織田さんは男性だけど。見た目は完全に麗しい女性だからなぁ。
まあ、神様だからなんでもありか。
「さ、りょうちゃん」
「へ?」
「行くわよ」
「え、どこに」
「坂口のとこよ、ほら行くわよ」
「えええ!?」
なぜだか両腕を掴まれ、おみには背中に乗っかられ、みんなで坂口さんの家に向かうことになった。うちに用事があるんじゃなかったのか?
理由を聞く暇もなくずるずると引きずられてしまった。織田さん、おみ、そして坂口さん。わざわざ何かするでもなく元旦に顔を合わせるなんて。それって、なんだか。
「……三社参りみたいだ」
ふと幼い頃を思い出してしまった。毎年元旦になると家族で神社へお参りに行っていたのだ。一つ目はもちろん本家の神社。そこで本家の方々へ挨拶をし、そのあと近くの稲荷神社と大黒天神社へと歩いてお参りをしに行っていた。
こんな風に織田さんと坂口さんが揃ったら、まさにその当時を再現しているみたいだ。もちろん今の方がよほどご利益はありそうだけど。
「りょーた、さかぐちお菓子もってるかな」
「どうだろうな」
「おみ、干し柿食べたいな」
「まだ食べるのか……!?」
まさか五穀豊穣の神様に干し柿を強請ることになるなんて。うちの龍神様もなかなかだな。きっとお前は立派な神様になれるよ。
多分ね。
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