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雪消しの雨【3月短編】
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「みぃっ! みにゃー!」
「ちびちゃー! あばれないで、だいじょぶだから!」
「みぃー!」
必死になっておみがちびすけを抱き締めているのには理由がある。俺だって泣きわめくちびすけを好きで見ているわけじゃない。
これには立派な、そして大切な理由がある。
「やっぱり嫌なんだなぁ、爪を切られるのは」
「こわいよねー、でもおみがいるからあんしんだよ」
「みぃっ、みぃ……」
地域猫として山のみんなから大事にされているちびすけだが、最近はもっぱら我が家を寝床にしている。そうなると遊ぶ場所も我が家というわけで、伸びきった爪で畳や柱をバリバリと引っ掻いてしまうのだ。
それは物だけではなくじゃれついているおみも危険に晒すわけで。ちびすけの抵抗虚しくこうして俺に爪を切られているというわけだ。
「りょーた、はやくはやく」
「焦ると傷つけてしまいそうだから……」
「それもだめー! はやく、あんぜんに!」
「難しいな!」
「みいぃ……」
いつもは龍神のおみに対しても物怖じしないちびすけが、小さくなって震えている。それほどまでに怖くて恐ろしいんだろう。
確かに、おみも俺に爪を切られる時は同じように震えている。だから、なるべく丁寧に子猫用の爪切りでぱちぱちと切っているのだが。どうやらちびすけにとって初めての体験だったらしく、落ち着くどころか鳴き声が大きくなっていた。
「ちびちゃ、前足おわったよ! あとは後ろ足だけだよ!」
「んにぃ……にゃあぁ……」
おみの声に励まされたのか、ちびすけは少しだけ大人しくなる。今のうちに早く後ろ足の爪も切ってやろう。地域猫で、この辺をフラフラ歩いているだけならここまでしなくてもいい。
でも今はおみと毎日一緒に遊んで、一緒に寝て、まるで家族のように過ごしているのだ。誰かを傷つけてしまったらきっとおみもちびすけも悲しくなってしまう。
そう自分に言い聞かせて、なんとか最後の爪を切り終えた。ふう、なんて大変な仕事だったんだろう。
「おわったよー! ちびちゃ、えらいねー!」
「みゃごぉ、ぐるる……」
「よしよし、おみがぎゅーしてあげる」
「うにゅん」
素直におみに抱っこされている辺り、どうやら本当に辛かったらしい。よく頑張ったな、ちびすけ。それに、おみも。ずっとちびすけを抱きかかえて逃げ出さないようにしていた。
変に暴れると逆に危険だと分かっていたのだろう。おみの中に「ちびすけを守る」という気持ちがあるのかもしれない。
「よし、じゃあ次はおみだな」
「みっ!?」
今度は子供用の爪切りに持ち替え、おみの手をぎゅっと握る。しばらく手入れをしていなかったせいか両手の爪が少し伸びていた。
先程まではあんなにもちびすけを守ろうとしていたのに。今度は自分の番だと分かった途端、慌てて逃げようとする。残念ながらそうはいかないのだ。
俺にとってはお前も大切な存在だから。誰かを傷つけてもらいたくはないんだよ。
「みゃあああ! やだー!」
「大丈夫、ほら、ちびすけも応援してるぞ」
「ちびちゃー! かわってー!」
「ふにゃん」
「ちびちゃあああ!」
みぇみぇ泣きわめくおみを膝に乗せて、肌を傷つけないようパチンと爪を切る。俺の隣でちょこんと座ったちびすけとしらたきが、静かに温かくその様子を見守っていた。
「ちびちゃー! あばれないで、だいじょぶだから!」
「みぃー!」
必死になっておみがちびすけを抱き締めているのには理由がある。俺だって泣きわめくちびすけを好きで見ているわけじゃない。
これには立派な、そして大切な理由がある。
「やっぱり嫌なんだなぁ、爪を切られるのは」
「こわいよねー、でもおみがいるからあんしんだよ」
「みぃっ、みぃ……」
地域猫として山のみんなから大事にされているちびすけだが、最近はもっぱら我が家を寝床にしている。そうなると遊ぶ場所も我が家というわけで、伸びきった爪で畳や柱をバリバリと引っ掻いてしまうのだ。
それは物だけではなくじゃれついているおみも危険に晒すわけで。ちびすけの抵抗虚しくこうして俺に爪を切られているというわけだ。
「りょーた、はやくはやく」
「焦ると傷つけてしまいそうだから……」
「それもだめー! はやく、あんぜんに!」
「難しいな!」
「みいぃ……」
いつもは龍神のおみに対しても物怖じしないちびすけが、小さくなって震えている。それほどまでに怖くて恐ろしいんだろう。
確かに、おみも俺に爪を切られる時は同じように震えている。だから、なるべく丁寧に子猫用の爪切りでぱちぱちと切っているのだが。どうやらちびすけにとって初めての体験だったらしく、落ち着くどころか鳴き声が大きくなっていた。
「ちびちゃ、前足おわったよ! あとは後ろ足だけだよ!」
「んにぃ……にゃあぁ……」
おみの声に励まされたのか、ちびすけは少しだけ大人しくなる。今のうちに早く後ろ足の爪も切ってやろう。地域猫で、この辺をフラフラ歩いているだけならここまでしなくてもいい。
でも今はおみと毎日一緒に遊んで、一緒に寝て、まるで家族のように過ごしているのだ。誰かを傷つけてしまったらきっとおみもちびすけも悲しくなってしまう。
そう自分に言い聞かせて、なんとか最後の爪を切り終えた。ふう、なんて大変な仕事だったんだろう。
「おわったよー! ちびちゃ、えらいねー!」
「みゃごぉ、ぐるる……」
「よしよし、おみがぎゅーしてあげる」
「うにゅん」
素直におみに抱っこされている辺り、どうやら本当に辛かったらしい。よく頑張ったな、ちびすけ。それに、おみも。ずっとちびすけを抱きかかえて逃げ出さないようにしていた。
変に暴れると逆に危険だと分かっていたのだろう。おみの中に「ちびすけを守る」という気持ちがあるのかもしれない。
「よし、じゃあ次はおみだな」
「みっ!?」
今度は子供用の爪切りに持ち替え、おみの手をぎゅっと握る。しばらく手入れをしていなかったせいか両手の爪が少し伸びていた。
先程まではあんなにもちびすけを守ろうとしていたのに。今度は自分の番だと分かった途端、慌てて逃げようとする。残念ながらそうはいかないのだ。
俺にとってはお前も大切な存在だから。誰かを傷つけてもらいたくはないんだよ。
「みゃあああ! やだー!」
「大丈夫、ほら、ちびすけも応援してるぞ」
「ちびちゃー! かわってー!」
「ふにゃん」
「ちびちゃあああ!」
みぇみぇ泣きわめくおみを膝に乗せて、肌を傷つけないようパチンと爪を切る。俺の隣でちょこんと座ったちびすけとしらたきが、静かに温かくその様子を見守っていた。
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