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雪消しの雨【3月短編】
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ここ数日のぽかぽか陽気に誘われたのか、おみは庭で遊ぶことが増えてきた。畑を綺麗にして、苗を植えてからは毎日「おっきくなれー」と言いながら水をあげている。きっと大きくなるだろうな。
そんなおみは、今日も今日とて外を走り回っている。最近はちびすけと一緒に日向ぼっこをすることも増え、見ていて楽しそうだ。今日は何をしているんだろうかと縁側に座り眺めるのが俺の楽しみだ。
「ちびちゃー、どこー?」
「隠れんぼ?」
「そう。いっつも負けちゃう」
「そうだろうなぁ」
そこまで広くはないが、様々な植物の生えている庭を走り回りながらちびすけを探している。これはなかなか難しいだろうな。
果たして晩ご飯までに見つけられるだろうか。
「むー、いない」
「木の上とかは?」
「さいしょにみたよ! でも、いなかった」
「そっかぁ」
だとしたらますます難しいな。ぴょんぴょん飛び跳ねながら探し回る様子を見ながら、くああ、と欠伸をする。うーん、平和だ。
そうだ、ちびすけのために猫草を育てようかな。育てるのは難しいと聞くけれど、おみなら上手に出来そうだ。そんなことを考えていると、おみが座り込んでいるのが見えた。
おや、一体どうしたんだろう。もしかして拗ねちゃったのかな。それとも見つけられないから悲しくなったんだろうか。
「おみ? どうした?」
「んむー……これ、ふわふわ」
「ふわふわ……ああ、たんぽぽか」
どうやら庭の隅でたんぽぽの綿毛を見つけたらしい。黄色の花と一緒に咲いている。丸くて白くてふわふわの綿毛は、おみにとって不思議でならないらしい。
風が吹くと、綿毛がふわわと飛んでいく。それにつられて、おみもふにゃふにゃ追いかけ始めた。なんとも足元が覚束無い。大丈夫かな。
「ふわわー」
「おみ、前向かないと危ないぞ」
「だいじょーぶ、ふわふわだから」
「なにが?」
ふわふわした返事をしながら、小さな綿毛を追いかけている。一応、おみが転ばないように足元は常に片付けているが。
なんだろう、嫌な予感がする。
「ふわ、ふわわ、わ、みっ!?」
「あー」
思った通り。何も無いところで、自分の足に引っかかってぺしゃりと転んでしまった。しかも顔から転んだせいで大の字になっている。
これは、泣くかな。
泣くだろうな。
しかし、いくら待っても「みええ」という泣き声は聞こえてこない。空も眩しいままで、頭痛も訪れない。おや? どうしたんだろう。
「お、おみ?」
「……みっ」
「どうした? 痛かったか?」
「みー」
駆け寄ると、不思議な鳴き声をあげつつじっと地面を見つめていた。どうしたんだろう。ショックのあまり、涙も出ないのだろうか。
そう思って視線の先を見てみると。
「てんとーむし! かわいー!」
「ほ、ほんとだ」
「まるいねー」
「そうだな」
どうやら涙が出る前に、可愛いてんとう虫に釘付けになっていようだ。尻尾もご機嫌に揺れている。
よかった、転んだのは驚いただろうけれど、新しい春の訪れに出会えて。
小さな指でてんとう虫に触ろうとするおみを見ながら、安堵のため息をついた。
その後、てんとう虫から盛大に黄色い「贈り物」をされてしまったおみは、いつも通り大泣きしたのであった。
そんなおみは、今日も今日とて外を走り回っている。最近はちびすけと一緒に日向ぼっこをすることも増え、見ていて楽しそうだ。今日は何をしているんだろうかと縁側に座り眺めるのが俺の楽しみだ。
「ちびちゃー、どこー?」
「隠れんぼ?」
「そう。いっつも負けちゃう」
「そうだろうなぁ」
そこまで広くはないが、様々な植物の生えている庭を走り回りながらちびすけを探している。これはなかなか難しいだろうな。
果たして晩ご飯までに見つけられるだろうか。
「むー、いない」
「木の上とかは?」
「さいしょにみたよ! でも、いなかった」
「そっかぁ」
だとしたらますます難しいな。ぴょんぴょん飛び跳ねながら探し回る様子を見ながら、くああ、と欠伸をする。うーん、平和だ。
そうだ、ちびすけのために猫草を育てようかな。育てるのは難しいと聞くけれど、おみなら上手に出来そうだ。そんなことを考えていると、おみが座り込んでいるのが見えた。
おや、一体どうしたんだろう。もしかして拗ねちゃったのかな。それとも見つけられないから悲しくなったんだろうか。
「おみ? どうした?」
「んむー……これ、ふわふわ」
「ふわふわ……ああ、たんぽぽか」
どうやら庭の隅でたんぽぽの綿毛を見つけたらしい。黄色の花と一緒に咲いている。丸くて白くてふわふわの綿毛は、おみにとって不思議でならないらしい。
風が吹くと、綿毛がふわわと飛んでいく。それにつられて、おみもふにゃふにゃ追いかけ始めた。なんとも足元が覚束無い。大丈夫かな。
「ふわわー」
「おみ、前向かないと危ないぞ」
「だいじょーぶ、ふわふわだから」
「なにが?」
ふわふわした返事をしながら、小さな綿毛を追いかけている。一応、おみが転ばないように足元は常に片付けているが。
なんだろう、嫌な予感がする。
「ふわ、ふわわ、わ、みっ!?」
「あー」
思った通り。何も無いところで、自分の足に引っかかってぺしゃりと転んでしまった。しかも顔から転んだせいで大の字になっている。
これは、泣くかな。
泣くだろうな。
しかし、いくら待っても「みええ」という泣き声は聞こえてこない。空も眩しいままで、頭痛も訪れない。おや? どうしたんだろう。
「お、おみ?」
「……みっ」
「どうした? 痛かったか?」
「みー」
駆け寄ると、不思議な鳴き声をあげつつじっと地面を見つめていた。どうしたんだろう。ショックのあまり、涙も出ないのだろうか。
そう思って視線の先を見てみると。
「てんとーむし! かわいー!」
「ほ、ほんとだ」
「まるいねー」
「そうだな」
どうやら涙が出る前に、可愛いてんとう虫に釘付けになっていようだ。尻尾もご機嫌に揺れている。
よかった、転んだのは驚いただろうけれど、新しい春の訪れに出会えて。
小さな指でてんとう虫に触ろうとするおみを見ながら、安堵のため息をついた。
その後、てんとう虫から盛大に黄色い「贈り物」をされてしまったおみは、いつも通り大泣きしたのであった。
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