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春の雨【3月長編】
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こんがり焼けた魚介類と、肉厚で瑞々しい野菜を思う存分食べ、そろそろ俺の胃袋が限界を迎え始めていた。みんなで網を囲むことが楽しくて、つい箸が進んでしまった。おまけに隣には最高級のお酒がある。これは、もう、拒む理由なんか存在しなかった。
はち切れそうなお腹をさすりながら、温かい麦茶を口にする。夜の冷たい風が心地よい。空はもうすっかりと暗くなり、月明かりの下で桜は静かに咲き誇っていた。
「おみちゃん、まだ食べられる?」
「たべるー!」
「すごいなぁ、おみ……」
元気いっぱいに両手を上げたおみが、織田さんに呼ばれて網の方に近づいていく。周りに誰もいないわけじゃないし、なんなら神様ばかりの場所で悪いことは起きないだろうが。どうしても心配になって俺も一緒についていく。ううん、どうにも心配性だ。
「これ、マシュマロ。串にさして網に近づけてみて」
「おみ、しってる! ふわふわで甘いの」
「そうよ。でも、もっと美味しい食べ方を教えてあげる」
「おお」
言われた通り、マシュマロを串に刺している。身長が足りないせいで網に近づけられないようで、代わりに俺が炙ってやることになった。表面が焦げないようくるくる回す。ぷわ、と膨らんでいくのがわかった。
どことなく甘い香りも漂ってくる。
「じゅるり」
「大きくなったな」
「そしたら、これで挟んでちょうだい」
差し出されたのは大きめのクラッカーだった。落とさないよう気をつけながらマシュマロを挟み、おみに渡す。今にもよだれが垂れそうな顔でずっと見つめられていたから無事に完成してよかった。
「熱いから気をつけるのよ、おみちゃん」
「うぃ!」
小さな口を思いきり開いて、出来立てのデザート、スモアにかぶりつく。焼かれて表面はカリカリになり、中はとろとろになったマシュマロがクラッカーの塩気と混ざっていっているのだろ。おみの目が、歓喜で輝いた。
「んー!」
「美味しいか?」
「んんー!」
どうやら口いっぱいに頬張ったため、喋ることができないらしい。それでも全身で美味しさを伝えてくれるので、それはそれは美味だということがよくわかった。
「チョコレートを一緒に挟んだり、クッキーを使ってもいいの。楽しいでしょ?」
「たのしー!」
「イネとマイも呼んでくるわ。みんなで食べましょうね」
「わーい!」
まさか最後にこんな美味しいものが待っていたなんて。こんなことならもう少し食べる量を減らせばよかった。神様と違って俺は普通の成人男性、胃袋は平均並なのだ。
でも、おみが美味しそうに食べているからそれを見ているだけで十分か。あっという間に半分食べ終わり、幸せそうに頬を蕩かせている。見ているこっちが幸せになりそうだ。
「りょーた、食べないの?」
「うーん。結構お腹いっぱいなんだ」
「むー……」
一口くらいなら食べられそうだだけど、織田さんが用意してくれたマシュマロもクラッカーも割と大きい。さすがに丸々一個は無理だろうな。
そんなことを思っていると、目の前にずい、とスモアが差し出された。
「あーん」
「え?」
「ひとくち、あーん」
「いいのか」
「うん。だって、おみ、りょーたと食べたい」
そうだった。おみは、こういう子だ。自分だけが幸せならそれでいいのではなく、周りの人がみんな幸せであって欲しいと願う子だ。
優しい子だなぁ。一体誰に似たんだろう。
「じゃあ、遠慮なく」
「はいどーぞ」
かり、とスモアの端っこを齧り付く。とろとろに甘くて柔らかいマシュマロは、口の中でふわりと溶けていった。
はち切れそうなお腹をさすりながら、温かい麦茶を口にする。夜の冷たい風が心地よい。空はもうすっかりと暗くなり、月明かりの下で桜は静かに咲き誇っていた。
「おみちゃん、まだ食べられる?」
「たべるー!」
「すごいなぁ、おみ……」
元気いっぱいに両手を上げたおみが、織田さんに呼ばれて網の方に近づいていく。周りに誰もいないわけじゃないし、なんなら神様ばかりの場所で悪いことは起きないだろうが。どうしても心配になって俺も一緒についていく。ううん、どうにも心配性だ。
「これ、マシュマロ。串にさして網に近づけてみて」
「おみ、しってる! ふわふわで甘いの」
「そうよ。でも、もっと美味しい食べ方を教えてあげる」
「おお」
言われた通り、マシュマロを串に刺している。身長が足りないせいで網に近づけられないようで、代わりに俺が炙ってやることになった。表面が焦げないようくるくる回す。ぷわ、と膨らんでいくのがわかった。
どことなく甘い香りも漂ってくる。
「じゅるり」
「大きくなったな」
「そしたら、これで挟んでちょうだい」
差し出されたのは大きめのクラッカーだった。落とさないよう気をつけながらマシュマロを挟み、おみに渡す。今にもよだれが垂れそうな顔でずっと見つめられていたから無事に完成してよかった。
「熱いから気をつけるのよ、おみちゃん」
「うぃ!」
小さな口を思いきり開いて、出来立てのデザート、スモアにかぶりつく。焼かれて表面はカリカリになり、中はとろとろになったマシュマロがクラッカーの塩気と混ざっていっているのだろ。おみの目が、歓喜で輝いた。
「んー!」
「美味しいか?」
「んんー!」
どうやら口いっぱいに頬張ったため、喋ることができないらしい。それでも全身で美味しさを伝えてくれるので、それはそれは美味だということがよくわかった。
「チョコレートを一緒に挟んだり、クッキーを使ってもいいの。楽しいでしょ?」
「たのしー!」
「イネとマイも呼んでくるわ。みんなで食べましょうね」
「わーい!」
まさか最後にこんな美味しいものが待っていたなんて。こんなことならもう少し食べる量を減らせばよかった。神様と違って俺は普通の成人男性、胃袋は平均並なのだ。
でも、おみが美味しそうに食べているからそれを見ているだけで十分か。あっという間に半分食べ終わり、幸せそうに頬を蕩かせている。見ているこっちが幸せになりそうだ。
「りょーた、食べないの?」
「うーん。結構お腹いっぱいなんだ」
「むー……」
一口くらいなら食べられそうだだけど、織田さんが用意してくれたマシュマロもクラッカーも割と大きい。さすがに丸々一個は無理だろうな。
そんなことを思っていると、目の前にずい、とスモアが差し出された。
「あーん」
「え?」
「ひとくち、あーん」
「いいのか」
「うん。だって、おみ、りょーたと食べたい」
そうだった。おみは、こういう子だ。自分だけが幸せならそれでいいのではなく、周りの人がみんな幸せであって欲しいと願う子だ。
優しい子だなぁ。一体誰に似たんだろう。
「じゃあ、遠慮なく」
「はいどーぞ」
かり、とスモアの端っこを齧り付く。とろとろに甘くて柔らかいマシュマロは、口の中でふわりと溶けていった。
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