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穀雨 【4月長編】
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「んんー!」
「おおー!」
修行を始めて数日後、ついに海鈴が大きくなった。
大きくなったとは言っても、豆柴が柴犬になったくらいだが。これは大きな成果だ。
「ししょー! どっすか、大きいっすか!」
「おっきくなったー! かいちゃ、すごいー!」
「ふふーん!」
今日も食いしん坊師弟は川の中で楽しそうに修行に励んでいる。昨日は尻尾だけ大きくなっていたけれど、無事に体全体が大きくなってくれてよかった。しかし、これじゃあまだまだおいちさんを乗せるには小さすぎる。頑張っておみくらいだろう。
海鈴の上に乗っているおみ。ううん、かわいいな。
「あーでもだめっす、限界っす」
「あらー」
その言葉の後、真っ白の柴犬が元の豆柴に戻ってしまった。とりあえずコツは掴んだようだし、今日はこれくらいでいいかな。へふへふ舌を出して腹這いになった海鈴と、元の姿に戻ったおみが川辺で寝転んでいる。頼むからここで寝ないでくれ。
流石に二人を抱っこするのは難しいんだ。
「うーん、どうしたらいいんすかね……」
「んむー……おみも、わかんない」
分かっていたら今頃巨大な龍になっているはずだ。俺も何かアドバイスできたらいいが、上手に伝えることができない。困ったな。坂口さんや織田さんに聞けばわかるだろうか。でも、これは室生の霊力によるものだから本家の方がいいのかもしれない。
もしくは宗像の、三女神とか。
いくらなんでも不敬すぎるが。
「さ、とりあえず帰ってご飯にしよう」
「うぃー」
「っすー」
だらだら、気怠そうに起き上がった二人を引き連れて家に向かおうとすると。
ポケットに入れていたスマホがぶるぶると震え始めた。これは珍しい。俺のスマホに連絡してくるなんて母親くらいだというのに。液晶に表示されていたのは、ここから遠いところにいる、多忙なはずの女神様からだった。
『室生殿。今いいか』
「お、おいちさん! おひさしぶりです」
『久しいな』
電話の主は福岡は宗像、三女神の一柱である「おいちさん」こと市杵嶋姫からだった。
『うちの海鈴が世話になっているな』
「いや、それは大丈夫ですけど……今日はどうしたんですか?」
『いや、そろそろ聖水を替え時だと思ってな。リマインダーだ』
以前、宗像大社を訪れた時にお土産と言われてもらった聖水がある。それを部屋に置いておくと、霊力が弱い存在でもおみの近くにいたり、触れることができるようになる優れものだ。おかげでおみと一緒に眠ったり、ちびすけがおみと一緒に遊ぶことができている。
二ヶ月に一度新しいものにしろと言われており、先々月の頭に替えた。そろそろ次の聖水に替える時期だったか。これは助かるな。
「海鈴は頑張っていますよ。豆柴から柴犬になりました」
『ほう、それはすごいな』
「おいちさんを背中に乗せるのはまだ先かもしれませんが」
『気長に待つさ。あの子が自分で言い出した。満足いくまでは戻ってこないだろう』
それもそうだろうな。言い出したら頑固だし、どうしたら成功するかいつも考えている。きっとコツを掴んだらすぐに大きくなれるだろう。
そう伝えると、おいちさんは嬉しそうに笑った。声だけだからどんな表情をしているかわからないが、きっと優しくて穏やかな顔だろうとわかる声色だった。
「おおー!」
修行を始めて数日後、ついに海鈴が大きくなった。
大きくなったとは言っても、豆柴が柴犬になったくらいだが。これは大きな成果だ。
「ししょー! どっすか、大きいっすか!」
「おっきくなったー! かいちゃ、すごいー!」
「ふふーん!」
今日も食いしん坊師弟は川の中で楽しそうに修行に励んでいる。昨日は尻尾だけ大きくなっていたけれど、無事に体全体が大きくなってくれてよかった。しかし、これじゃあまだまだおいちさんを乗せるには小さすぎる。頑張っておみくらいだろう。
海鈴の上に乗っているおみ。ううん、かわいいな。
「あーでもだめっす、限界っす」
「あらー」
その言葉の後、真っ白の柴犬が元の豆柴に戻ってしまった。とりあえずコツは掴んだようだし、今日はこれくらいでいいかな。へふへふ舌を出して腹這いになった海鈴と、元の姿に戻ったおみが川辺で寝転んでいる。頼むからここで寝ないでくれ。
流石に二人を抱っこするのは難しいんだ。
「うーん、どうしたらいいんすかね……」
「んむー……おみも、わかんない」
分かっていたら今頃巨大な龍になっているはずだ。俺も何かアドバイスできたらいいが、上手に伝えることができない。困ったな。坂口さんや織田さんに聞けばわかるだろうか。でも、これは室生の霊力によるものだから本家の方がいいのかもしれない。
もしくは宗像の、三女神とか。
いくらなんでも不敬すぎるが。
「さ、とりあえず帰ってご飯にしよう」
「うぃー」
「っすー」
だらだら、気怠そうに起き上がった二人を引き連れて家に向かおうとすると。
ポケットに入れていたスマホがぶるぶると震え始めた。これは珍しい。俺のスマホに連絡してくるなんて母親くらいだというのに。液晶に表示されていたのは、ここから遠いところにいる、多忙なはずの女神様からだった。
『室生殿。今いいか』
「お、おいちさん! おひさしぶりです」
『久しいな』
電話の主は福岡は宗像、三女神の一柱である「おいちさん」こと市杵嶋姫からだった。
『うちの海鈴が世話になっているな』
「いや、それは大丈夫ですけど……今日はどうしたんですか?」
『いや、そろそろ聖水を替え時だと思ってな。リマインダーだ』
以前、宗像大社を訪れた時にお土産と言われてもらった聖水がある。それを部屋に置いておくと、霊力が弱い存在でもおみの近くにいたり、触れることができるようになる優れものだ。おかげでおみと一緒に眠ったり、ちびすけがおみと一緒に遊ぶことができている。
二ヶ月に一度新しいものにしろと言われており、先々月の頭に替えた。そろそろ次の聖水に替える時期だったか。これは助かるな。
「海鈴は頑張っていますよ。豆柴から柴犬になりました」
『ほう、それはすごいな』
「おいちさんを背中に乗せるのはまだ先かもしれませんが」
『気長に待つさ。あの子が自分で言い出した。満足いくまでは戻ってこないだろう』
それもそうだろうな。言い出したら頑固だし、どうしたら成功するかいつも考えている。きっとコツを掴んだらすぐに大きくなれるだろう。
そう伝えると、おいちさんは嬉しそうに笑った。声だけだからどんな表情をしているかわからないが、きっと優しくて穏やかな顔だろうとわかる声色だった。
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