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藤の雨【5月短編】
【柏餅を食べましょう】
しおりを挟む「さかぐち、いらしゃーい!」
「おお、いかしてんなぁ、おみ坊」
「えへー」
今年の端午の節句は、山のみんなで祝うことにしていた。去年のこの時期は俺もおみも忙しくしていて、お祝いどころじゃなかったのだ。
さっそく手作りの兜をかぶって坂口さんたちをお出迎え。今日は賑やかになりそうだ。
「わーおみちゃんかっこいいー!」
「りょーたがつくってくれたのー」
「僕も欲しい!」
イネとマイは、さっそくおみの兜に夢中だ。マジックペンで色塗りをしたお手製の兜におみもご機嫌である。
今日はおみとイネ、マイが主役だ。さっそく居間に案内して、用意していたものを並べていく。
「ごめんねぇ、りょうちゃん! 柏餅たくさん任せちゃって」
「大丈夫ですよ。お店は大変ですか?」
「衣替えの時期だから注文が多いのよ。有難い話なんだけどね」
そういう織田さんの顔は少し疲れが滲んでいた。今日はのんびり過ごしてもらおう。玄米茶を差し出して、手作りの柏餅もお皿に乗せる。
疲れた時は甘いものと、昔から相場は決まっているのだ。
「りょーたー、たべていいのー?」
「いいよ。慌てなくてもたくさんあるから」
「いただきまーす!」
仲良く四人で柏餅を食べ始めた。俺はその様子を見ながら、この賑やかさが心地よいと感じている自分に驚いていた。
昔は一人が好きだった。他人と居る時は気持ちが落ち着かなくて、早く一人になりたくてしょうがなかった。
なのに今は。
「みええぇ……! このはっぱにがい!」
「柏の葉は食べちゃダメ!」
「みええぇ……りょーたぁ……!」
やれやれ。今日も賑やかだ。しかし平和な日常でもある。外で作業をしていた坂口さんも様子を見に戻って来た。
「相変わらずだなぁ、泣き虫さん」
「みぇっ……みえっ……」
みんなでワイワイしながら、楽しいおやつの時間は過ぎていった。
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